鉄血の魔法少女オルフェンズ育成計画   作:露湖ろこ

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今回は前回の予告通りの内容となっています。
そうそうついこの前人生で初のカラオケボックスに行ってきました。けっこう面白いものですね。
それと今回から場面の切替時に誰の視点か書くことにしました。
さらに今回はだいぶ長くなっています。過去最多となっています。
恋愛経験の無い人間が眠気と格闘しながら書いた恋愛パートがあります。注意してください。



普段ないこともたまにある-後編-

 

◆ゲイレール

 

 ここは名深市のはとある工事の倉庫。倉庫の中は薄暗く静まり返っている。そんな倉庫の中でただ一つだけ例外的に光のある場所があった。そこは倉庫の中の一番東側に面した角で

木箱の上に置かれたオイルランプが光を灯している。その光に当てられているのは魔法少女ゲイレール。

オイルランプの隣に置いたマジカルフォンから現れたファブの立体映像とゲイレールは会話をしていた。

「ファブ、ターゲットの魔法少女達の情報をありがとう」

「いえいえ、どういたしましてだぽん」

「ムーンライトバルバトスが最も驚異となるかと思ったが、奴は仲間を大切にしているらしいな。その中から裏切られた時はどうなるのやら」

「発想はいいと思うけどたまはちょっとどうかと思うぽん」

「いや、あいつが一番だ。犬は手なずけやすいのが最も良い。そして魔法、あいつの魔法は面白いな」

「たまの魔法のどこが面白いぽん?」

「あいつの魔法、かすり傷でも穴と認識できて広げられるそうじゃないか」

「そうぽん」

「ならあいつを充分殺せる魔法だ」

「なるほどぽん。ムーンライトバルバトスを倒した後はどうするぽん?」

「ムーンライトバルバトスを殺した後に一番の驚異になるのはカラミティ・メアリか。考えておくよ」

「わかったぽん。それじゃあシーユーぽん」

そう言ってすぐにファブの立体映像は消えた。

倉庫にはゲイレール一人が残された。

「ファブから聞いた話によれば今はムーンライトバルバトスとルーラが王結寺に向かっているらしいな」

と言ってからゲイレールはマジカルフォンを掴みたまへメッセージを送った。

━━━頼みたいことがある。すぐに指定の場所まで来てくれ。

 

◆たま

 

ゲイレールから連絡があった。たまは今彼女に指定された場所へ向かっている。

そこは王結寺のすぐ近くの民家の壁の内側だ。

「あ、あのここって」

「気にするな。それより作戦を説明する」

「は、はい」

「私が入手した情報によればムーンライトバルバトスは高確率でこの道を通る。だから私が合図したらここから攻撃してくれ」

「もし当たらなかったら?」

「かするだけでもいい、君の魔法ならかすり傷でも穴を広げて一瞬で奴を倒すことができる。攻撃が当たったらすぐに反対側の壁に移動するんだ。私は反対側にいる」

「わかりました」

「ではよろしく頼むぞ」と言ってゲイレールは反対側の壁の内側へと移った。たまは合図があるまでじっと見をひそめることにした。

 どれくらいの時間が経ったのだろう。そろそろ待っているだけも疲れはじめた頃、道路で煙幕が発生した。多分これがゲイレールの言っていた合図だろう。たまは壁から飛び出し煙の中に見える人影に飛びつこうとした。

「バルバトス危ない!」

ルーラの声だった気がする。そしてたまの視界からムーンライトバルバトスの影と思われる物が消えて代わりに別の人影が現れた。たまの一撃は運悪く直撃した。悲鳴が聞こえる。たまはわけがわからなくなって急いで反対側の壁に移る。

「わ、私今誰に当てたの?」

たまの声はとても震えている。それもそのはずだ。煙でよくは見えなかったが影のシルエットや声、それは間違いなくルーラのものだったからだ。ルーラを守りたいと思ってたまはゲイレールに協力しているのだ。しかしその一撃はルーラに当たった。

「たま、すぐここから離れるぞ!」

ゲイレールはそう言ってたまを掴んで跳躍しその場を離れた。

 たまを掴んでゲイレールはとある倉庫にたどり着き、倉庫の扉の前にたまを座らせた。たまは溢れんばかりの涙を流している。ルーラを傷つけてしまったことと無事に目的を果たすことができなかった二つのことにたいして泣いているのだ。

「泣くなたま。お前はよくやってくれた。全てはムーンライトバルバトスか悪いのだ」

「でも私・・・」

「ルーラがあいつに関わらなければあんな傷を負うことにはならなかった。あいつと関わり続ければまたあんな傷を負うかもしれない」

たまは「はい」と言って頷く。ゲイレールはそれを見て満足したような表情を一瞬した。

「それを防ぐためにも早くあいつを倒さなければいけない。たま、やってくれるな?」

さっきよりも大きな声でたまは「はい」言う。たまの目には強い決意が宿っていた。

 

◆アストン

 

 今は調度昼休みで教室では何人もの生徒が自分達の仲良しグループの友達と話をしている。そしてその一つである男子のグループでは思春期真っ盛りのアストン、昌弘、ビトー、デルマ、ペドロの5人が恋愛について話をしている。始めはそれぞれの好みのタイプの女子やこの学年で誰が可愛いかだったが、その話は次第にそれぞれの好きな人は誰かという話になった。

「なぁアストンお前は誰が好きなんだ?」

「は?いねぇよ」

「いやいや、言えよ。俺もペドロもデルマも言ってんだからさ」

「じゃあ先昌弘言えよ。俺後で言うから」

「俺?考えたこと無かったわ」

「お前もかよぉ。んじゃ昌弘言ったからアストンな」

「俺もちょっとアストンが誰好きなのか気になるかも」

「デルマもかよ・・・ったく面倒だな」

アストンは頭を掻く。他のやつらみんながアストンに言え言えコールをしてくる。アストンはヤケクソ気味に言った。

「犬吠埼だよ。犬吠埼珠」

アストンは顔を赤面させ「ああぁぁぁあ!!」と頭を抱えて叫ぶ。賑やかな教室でアストンの咆哮を気にする者はいない。

「お前マジで言ってんの?あの犬吠埼か?」

「そうだよ」と言ってアストンは左頬の絆創膏を指差す。

「お前がこの前の体育のサッカーで顔面から派手にズッコケた時のだっけ?」

「そうそう。それで犬吠埼がこれくれたんだよ」

「あいつにしては珍しいよな。ああゆう時はいっつもオロオロしてんのにな」

「んでアストンは犬吠埼のこと好きになったのか」

「青春してんだなアストン」

犬吠埼珠は今自分の席でぼうっとしている。ビトー、デルマ、ペドロ、昌弘の全員がコクれコクれとアストンに言う。

前から告白はしてみようと思っていた。だが恋愛経験の無いアストンは余計なことを考えてそれを躊躇っていた。友人全員に言われてアストンは何だか吹っ切れたような気がする。よし告白してやろうと決意してアストンは席を立つ。昼休みの時間はまだ充分ある。

犬吠埼珠の席の前まで行き彼女の名前を呼ぶ。が、反応はない。アストンはもう何度か名前を呼んだらやっとこちらに気付いた。

「あ、あの犬吠埼ちょっといいか?」

「え、あぁうん。えっと」

珠は自分の状況を理解できずしどろもどろに応えた。

その後少し沈黙があった。話がなかなか進まない。

「と、とりあえず来てくれ」

「あぇ、うんいいよ」

珠の声はとても小さかったがそれを聞き取った彼が「付いてきて」と言って廊下へ向かって歩き出し、珠も遅れて彼の後ろに付いていく。

クラスの視線が自分に向けられる。ビトー達は何やら笑っている。

教室を出て廊下を歩き、あまり使われていない教室の前を曲がり人のいない階段の前で止まった。

アストンは告白しようとするがなかなか言い出せない。珠はぽかんとアストンをを見つめていて、何度か目が合うがすぐに恥ずかしくなり目をそらす。

駄目だ。恥ずかしがって黙っていても自分の思いを伝えることはできない。アストンはついに決心し口を開く。

「えっと、犬吠埼。俺は、あぁ俺は・・・」

駄目だ。肝心な部分が言えない。これでは何も話をしていないのと同じだ。アストンは手を握りしめ目をぎゅっと瞑って思いきって喉の奥で留まっている言葉を言い放つ。

「お前のことが好きだ!」

とてもシンプルで、だけど一番伝えたいことを自分の目の前の珠に言うことができた。好きだと自分の思いを伝えてからはだいぶ楽になり、色々な言葉が頭に浮かぶ。アストンは思いつく限りの言葉全て使って珠にアタックした。珠は「えぇ」とか「あぁ」とか「うん」としか言わなかった。失敗したかもしれない。

最後に「ま、まぁよく考えといてくれ」と言ってアストンは教室へ戻る。これにも珠は「あぁうん」と曖昧な返事でアストンは今度こそ失敗したと確信した。

 それから数日後、この日は珍しく部活が休みで暇をしていたアストン達は公園に行ってサッカーをすることにした。

公園でサッカーをしているとアストン達はサッカーを通じて知り合った友人、岸辺颯太をみつけた。岸辺颯太の隣には何やらもう一人少女がいて、アストン達が二人のことを見ていると颯太はアストン達に気付いたようでこちらへ向かってきた。

「やぁ5人とも」

「やぁ颯太、こんなところで何してんだ?」

「ちょっと用事があったんだよ」

「隣の子は?彼女?」

「ちっ違ぇよ!ただの友達だよ」

「颯太君の彼女は小雪ちゃんだもんね」

「ばっ馬鹿、違うっていつも言ってるだろ」

颯太が恥ずかしそうに言うと隣の少女が自己紹介をした。名前はアトラ・ミクスタというらしい。共通の趣味で仲良くなったそうだ。だが、アストン達には颯太とアトラの共通の趣味というものがわからなかった。

「へぇ小雪ちゃんね。颯太も彼女とかできたんだな」

「デルマからかわないでよ」

「そういやアストンも今日告白したんだぜ」

「マジ?」

「これマジだよ。ホントホント」

「あぁビトーやめてくれよ」

「で、アストンどうだったの?」

「颯太まで・・・」とアストンは頭を抱えて「多分駄目だと思う」と言った。

「まぁいきなり言っても駄目だろうな共通の趣味がないと」

昌弘の一言にアストン以外の全員が「それだ!」と言う。こういうのは何か共通の話題とか何かがあればいいと思う。

早速全員で珠の好きなことは何か考えることにした。話し合いの中では様々な意見が上がった。穴掘りや読書、ゲームに洋服などだ。その中で最も珠が好きなこととして有力だったのは穴掘りとゲームだった。

「なぁあいつがしてそうなゲームって何がある?」

「まほいくだろ?ほら最近の流行りの」

「何それ。俺知らねぇよ?」

「んじゃ俺が詳しく教えてやるよ」と言ってペドロは鞄の中からスマホを取りだしゲームのアプリを起動した。そのゲームのタイトルは魔法少女育成計画。アストンはなんでペドロはこんなことをしているんだと心の中で呆れたように言った。ペドロはなんだか熱心にゲームの解説をしている。

「まぁ犬吠埼もやってるだろ」

「な、だからお前もやってみろよ」

ペドロがいつの間にかアストンの鞄からスマホを取りだしアプリのダウンロードを始めていた。

「あ、お前勝手にダウンロードすんなって!」

 アストンがスマホを奪還した時にはアプリのダウンロードが終わっていた。もうここまで来たらやるしかないだろう。アストンはアプリを起動する。

スタート画面のスタートのボタンをタップすると読み込みが始まり、チュートリアルや豆知識的な事が書かれたテキストが表示される。そして読み込みが終わると画面にマスコットキャラクターのようなものが現れた。ファブと名乗るそのマスコットキャラクターはアストンが以前チラッと見たアニメか何かに出てきた鬼畜熊を思い出す配色に幼い時に見たハムスターのアニメの主人公のような声をしていた。多分声優が同じなんだろう。

そのマスコットキャラクターがゲームの概要を説明し終えるとキャラクターエディットの画面に移った。

「んじゃあ自分のキャラ作ってみてくれよ」と言われたがアストンはこういうものにはあまり詳しくない。キャラは可愛い系がいいのか、カッコイイ系がいいのかアストンにはさっぱりわからない。だからアストンは自分が飼っている蛙をモチーフにすることにした。

そして出来上がったキャラの見た目はというと、黒い短髪に緑色の目、幼い体形の体を包み込むようなオレンジ色の蛙の顔のような装飾が付いたフードのあるポンチョを身に纏い、大きめの長靴を履いている。一見可愛いらしい見た目だがその目つきは鋭く左頬にはワイルドな傷がある。名前は適当にパッと思いついたローディーだ。

「こんな感じでいいのか?」

アストンはスマホの画面を目の前の友人に見せた。友人達の反応は二つに別れた。昌弘、ビトー、デルマの三人は「まぁいいんじゃん?」とそっけない反応。颯太、ペドロ、アトラの三人はやや食い気味で様々な感想を言ってくる。今日この短時間でアストンは颯太とペドロの印象がガラっと変わった。

その後チュートリアルの戦闘となった。チュートリアルの戦闘では最初にゲストとして他のプレイヤーのキャラを選ぶことができた。

ズラリと並ぶリストを流し見ているとペドロが「ストップ!」と言った。

「このたまって魔法少女にしておけ」

「なんで?」

「レベルの横の魔方陣のマークあるだろ?これカンストしてるマーク」

そう言われてステータスを見ると可愛いらしいキャラの見た目に反してステータスはゴツいことになっている。

颯太は見覚えのある魔法少女だったが何も言わなかった。

アストンはたまを連れてチュートリアルの戦闘をした。たまの力はチュートリアルにしては過剰戦力な気がしたが、戦闘終了後に『フレンド申請をしますか?』というテキストが現れた。どうやらカンストしてるキャラを選べとはこういうことだったらしい。

その後すぐにOKの返事が来た。とても運が良かった。

「なぁなんかメッセージ送ってみろよ」

「何の?」

「ほら挨拶とか」

「あぁうん。わかった」と言ってアストンはたまに挨拶のメッセージを送った。

すると隣で「あ、メッセージが来た」と聞き覚えのある声が右側のベンチから聞こえた。

全員視線を右側へ向ける。

「あれ、犬吠埼?」

「アストン行ってこいよ」

「えぇなんで」

「まほいくやってるかもしれないだろ」

「わかったよ」

言われた通りにアストンは珠の下へ向かった。

珠の座っているベンチまで行き隣に座る。やり過ぎたかもしれない。

「なぁ珠、何してるんだ?」

珠に話しかけると少し驚いたような声を上げてからアストンの顔を見るもすぐに目を離しスマホの画面を見て「魔法少女育成計画だけど」と言った。

「魔法少女育成計画か。実は俺もさっき友達から進められて始めたんだ」

「えっとそうなの?」

「うん。だからさ、お前が良かったらフレンド登録してくれないか?」

「あぁうん。えっと、いいよ」

二人はスマホの画面を見せあった。その画面にはさっきフレンド登録をしたばかりのキャラクターの姿があった。

「えっとアストン君。もうフレンド登録してたね」

「あぁうん。なぁ犬吠埼はどうしてそんなステータスカンストできたんだ?」

「えっと、いっぱいやったからかな?」

「へぇ、凄いな。俺にもできると思う?」

「頑張ればできると思うよ」

「犬吠埼も手伝ってくれるか?」

「いいよ。それじゃあ私そろそろ帰るね」

「あぁ、気をつけて帰れよ」と言ってアストンは手を振って見送った。珠も笑顔で手を振ってくれた。

「で、なんでお前らは隠れてんだ?」

アストンは茂に視線をやり言った。すると茂はもぞもぞと揺れて隠れていた友人達が姿を現した。みな笑っている。

「はは、良かったじゃんかアストン」

「なんだよ、笑うなよ」

みな何か満足したかのように「んじゃ俺達もう帰るわ」や「時間ヤバいしな。俺も帰るわ」などと言って帰っていく。

アストンは一人公園に取り残された。時計を見るとかなり遅い時間となっていた。

この時期帰り道は暗く寒い、さっき公園を出た友人達も公園を出てすぐの歩道にはいない。アストンはあいつら速すぎだろと思いつつ帰宅した。

 帰宅すると家には親がおらずリビングのテーブルの上に「今日は帰らない」という書き置きがある。公園に行く前にも一度家には帰ってきているがその時この書き置きには気付かなかった。

アストンは「飯買いに行くか」と呟き、スマホと財布だけを持ってコンビニへ向かった。

すっかり日は落ちて暗い夜道を歩いているとアストンは公園の前で誰かがいるのに気がついた。

「あれって例の魔法少女か?」

アストンの視線の先にはなんだか物騒な鈍器を持っている黒いセーラー服の少女と離れた場所に大きめの黒いコートを着た女性、そして見覚えのある服装の魔法少女が一人いた。

「あれって珠か?」

多分魔法少女の容姿はプレイヤーの好みの物になると思う。だから多少は似たようなコスチュームのプレイヤーはいるはずだ。

だが、あの佇まいは間違いなく珠のものと一致している。

最近は魔法少女のコスプレをしている人も増えているらしいからきっとそんなグループなんだろう。でも珠がコスプレしてるなんて驚いたな、などと思いつつアストンは少し面白そうだからそのまましばらく3人を見ていることにした。

 

◆たま

 

「ゲイレールさんから聞いたの。あなたは危ない人だって」

「は?」

「だからみんなのために、死んでください!」

たまはムーンライトバルバトスに飛び掛かりひっかこうとするが避けられ、たまはそのまま地面をひっかき穴を空ける。

「あれに当たったら一瞬で死にそうだ」

そう言ってムーンライトバルバトスはたまに向かって走り、メイスを振りかざす。

たまは「ひぃ」と声を上げ体をそらす、するとメイスの打突部が公園の土に減り込み物凄い煙りを上げる。

たまはメイスが地面に減り込んでいるその隙に立ち上がってからおもいっきり走ってムーンライトバルバトスとの距離を開く。

するとムーンライトバルバトスは大きく舌打ちをしてメイスを地面から引き抜きたま目掛けて投擲する。

これをたまは自分の真下の地面に穴を掘り避ける。するとメイスはそのままの勢いで公園から飛び出していき駐車してはいけない路上に違反駐車ていた車を無惨な姿へと変える。

すると車は大きな音でアラートを鳴らしはじめた。

「たま人が来るぞ!今日は撤退だ!」

「嫌です!なんとかしないと」

「犬は飼い主の言うことだけを聞いとけばいいんだよ!」

ゲイレールの言葉はたまの耳には届かず、穴から這い出てムーンライトバルバトスへ向かおうとするが先程の場所にその姿は無い。

たまが上を見上げるとムーンライトバルバトスは短くなるようにへし折った電柱を振りかざしている。

間一髪ギリギリでそれを回避するとさらに続けて下から腹に向かってもう一撃。たまじゃ避けられない。

「犬吠埼!」

誰かが叫びたまの体が右へと飛ばされた。

ムーンライトバルバトスが驚きの表情を見せる。折れた電柱の打突部の先には口から血へどを吐き悶えるアストンの姿があった。

たまは何故アストンが自分を庇い、本名で名前を叫んだのかが分からなかったが少し前の公園での事を思い出す。

「私、あの時・・・」

そうだ、彼に魔法少女育成計画の画面を見せていたのだ。それで自分が魔法少女だということがバレたんだろう。

たまは恐る恐るアストンに歩み寄る。

「ねぇ・・・アストン君・・・?」

アストンは地面に仰向けに倒れているがたまの声がする方向に視線を向けている。

「ねぇ何で私を庇ったの・・・?」

アストンは苦しそうに笑いこう言った。

「この前学校で言ったじゃん。お前のことが好きだって・・・」

「でも私違う人かもしれなかったんだよ?」

たまはもう涙をボロボロと流している。

「だって見せてくれたじゃん・・・」

そこでゲイレールは舌打ちをしてその場から逃げようとした。たまはもう使えないと諦めたのだろう。

「逃がすわけないだろぉ!?」

ムーンライトバルバトスは物凄い険相でゲイレールに電柱を叩きつけようとしたが逃げられた。

「お前のこと好きにならなきゃ良かったかもな・・・それなら犬吠埼を泣かせることも無かったしこんな悲しい気持ちで死ぬことも無かったんだろうな」

「そんなことないよ、私嬉しかった。あんなこと誰にも言ってもらえないから」

涙はまるで一文字一文字声に出して言うたびに溢れ出てくるようだった。

「最後にさ、あの時の答え聞かせてくれないか?あと最期に顔を見せてほしいんだ」

たまは涙を拭うも涙はまだ零れてきそうで涙目になりながらあの時の答を言おうとした。

「今まで見たことないくらい一番綺麗な顔だ・・・」

そう言ってアストンはその目を閉じた。

たまは声にならない叫びを上げる。

ムーンライトバルバトスはそれを見て仕方ないなというように二人を持ち上げ一番近くの病院まで跳ぶ。

「ねぇたま。変身は解除しときな」

たまは何も言わず変身を解いた。

 病院に着いた。ムーンライトバルバトスは病院自動ドアが開く前に蹴破り中へ入る。

そして受付に「急患」とだけ言ってアストンを引き渡す。

医者が来たときに患者を連れて来た魔法少女に驚きながらもすぐにアストンに蘇生措置を施して素早く入院の準備をしてくれた。

珠は待合席で俯いて泣いていた。すると看護婦がやってきて言った。

「あの子彼氏でしょ?こんなことになっちゃって大変だったわね。でも大丈夫よ、絶対良くなるわ」

多分慰めてくれているんだと珠は思う。

看護婦の言った彼氏という言葉、珠はあの時ちゃんと言えなかったが後でちゃんと言えるだろうか。

その後アストンの状態は安定していると医者から告げられもう遅いから帰りなさいと促されて珠は家へ帰った。

 




これなら中編、後編に別ければよかったかもしれない。
でもまぁクリスマス(3日前)スペシャルということで許してください。
この次の話で珠が覚醒してケジメをつけに行きます。
後まほいく原作を全巻購入したんですが読んでたらもうこの話完全に設定が目茶苦茶になっててどうしようかと焦っています。

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