咲ちゃんが悲しむ世界なんてなかった   作:くずのは@

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4局目

宮永家

 

学校から帰り夕食の下準備も終わり咲は居間にある少し埃が積もった麻雀卓を見つめていた。

暫く使われていない麻雀卓に指をなぞらせると埃が絡まる。咲はため息をつき麻雀卓の掃除を始めた。

 

洗牌しながら咲はこの数日間を思い出していた。高校に入学してからと言うもののやけに1日が濃い。

新しい環境にまだ馴染めていないと言う事もあるだろうが…

 

今日も中々に濃い1日だった。少し変な打ち方が目立ったのだろう入部試験に受かっており、麻雀部の部長に取り消しを求めに言ったら昨日知り合った少女、大星淡から勝負を挑まれ、最後には入部して欲しいと言われた。

 

別に入部する事に対して嫌悪感があるとかではないが、とりあえず少し考えたかったので保留と言う事にしてもらった。

咲にとって麻雀は家族麻雀で完結している。しかし、最近は中々機会がない。

 

照は高校を卒業したらほぼ間違いなくプロの世界に行くだろう。そうなると今以上に機会がないのは明白だ。

どの団体に所属するのかでは家を出ることにもなるだろう。そう考えると家族麻雀どころか照と過ごせる時間は今年で最後になるのかもしれない。

それにあの少女がちらりと頭をよぎる…

 

 

「………」

 

 

洗牌も終わり外を見ると夜の帳が下りて来ていた。そろそろ照が帰宅する頃だろうと咲は夕食の支度を始める。

 

夕食も終えお風呂に入り何時ものように咲と照は居間で本を読み始める。

随分時間がたちお互い読むのを終え咲は本に栞を挟む。照が栞を挟んだのを見て咲は照に話し掛ける。

 

 

「お姉ちゃん」

 

 

「ん?どうしたの咲」

 

 

「お姉ちゃんは高校を卒業したらプロになるの?」

 

 

「…まだ決めてはないけど実業団からスカウトが来たら行くと思う」

 

 

「そっか」

 

 

この瞬間、咲の考えはまとまり照の夢は一歩前進した。

 

 

「今日ね麻雀部の試験に受かってたんだ。でもとりあえず保留にして貰ったんだけど…私、麻雀部に入るよ」

 

 

「……!?」

 

 

「お姉ちゃんと一緒に麻雀が出来るチャンスを逃したくないから。だから…」

 

 

咲は照に微笑み

 

 

「いっぱい麻雀しようね」

 

 

「…うん。いっぱい楽しもう」

 

 

照も応えるように微笑んだ

 

 

 

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一年生教室

 

昼休み咲は入部届けの用紙にペンを走らせていた。それを見ていたクラスメートが咲に声を掛ける。

 

 

「あっ、宮永さん麻雀部の入部決めたんだ」

 

 

「うん」

 

 

「そっかー。じゃあこれからは部活でもよろしくだね」

 

 

「ふふ、よろしくね」

 

 

このやり取りを聞いていた他のクラスメートも咲の元に集まりだしてきた。同じように挨拶を交わし話題は部活の話になった。

 

 

「なんと言いますかうちの麻雀部って予想以上にレベル高いよね。2軍の先輩と打って実感したわ」

 

 

「それな」

 

 

「インターミドルで結構実績残したし2軍スタートかなぁ何て思っていた時期もありました」

 

 

流石、王者白糸台と言う事か。一年生は選手層の厚さを実感したようだ。それにどうやら各々に思うところがあるようだ。

 

 

「そう言えばさ噂で聞いたんだけど今年の一年生に凄い強い人が居るんだって」

 

 

「あーそれって去年の2軍と3軍の生徒を倒したって話でしょ。デマでしょデマ」

 

 

「その話って本当らしいよ。去年から練習に参加しててその時に先輩たちを倒したらしいよ」

 

 

「なにそれこわい」

 

 

「名前は確か……大星さん…だったかな?」

 

 

「あ!私入部試験でその大星さんと当たったかも。やたら強くて他の子と一緒に飛ばされたよ」

 

 

(淡ちゃんの事だろうなぁ。少ししか対局してないけど納得だよ)

 

 

咲は心中で淡の事を考えていた。淡の力は絶大だ。今はまだ荒く±0を攻略することは困難であろう。

しかし、そう遠くない未来に±0を阻止する力を見せてくれるだろう。咲は確信していた。

照と打つときとは少し違う楽しさを持つ淡に咲は少しだけ惹かれていた。

 

昼休みが終わるまで淡の話題が尽きることはなかった。

 

三年生教室

 

時は同じく昼休み、今日の照は非常に機嫌が良い。普段は無表情で黙々と本を読んでいるのに今日は嬉しそうにしている。

普段が普段だけに気味悪がられ誰も寄り付かない。そんな照にいま、近付こうとする者が現れた。菫だ。

 

 

「なんだ?今日はやけに機嫌が良いじゃないか」

 

 

「うん。夢が叶いそうだからね」

 

 

「へぇ、どんな夢なんだ?」

 

 

「咲と一緒にインターハイに出場すること」

 

 

「!?そうか、妹さん入部を決めてくれたんだな。大星も喜ぶだろうな」

 

 

淡にとって咲は良き仲間で良きライバルになるだろう。菫は心から喜んだ。

 

 

「ところで妹さんはどのチームになるんだろうな。やはり防御特化か?」

 

 

「いや…」

 

 

照は間を置いて告げる

 

 

「咲の本質は攻撃特化だよ」

 

 

数時間後、菫はその本質を知ることになる。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

放課後、咲は入部届けを鞄に入れて麻雀部の部室前にいた。一度深呼吸をしてその扉に手を掛けた。

部室に入り目的の人物、菫を見つけるため室内を見回し…見つけた。咲は菫のもとへ向かう。菫は咲を見るや笑みを浮かべた。

 

 

「こんにちは、弘世さん」

 

 

「こんにちは、宮永さん。照から話は聞いたよ」

 

 

菫の言葉にもう答えを知っているならと咲は鞄から入部届けを取り出した。

 

 

「では今日からよろしくお願いします。弘世先輩」

 

 

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

 

 

それから咲は部の説明を受けた。今日から部内の昇格リーグがあるらしく参加するように言われた。その間に宮永が2人いるから紛らわしいと言う事で菫から咲ちゃんと呼ばれるようになった。

 

説明も終わり部活に参加しようとした矢先、咲の背後から抱きついてきた人物が現れた。淡だった。

 

 

「サキー!」

 

 

「わっ、こんにちは。淡ちゃん」

 

 

「ねえ、サキーがここにいるって事は…」

 

 

「…うん」

 

 

抱きついている淡に力が入る。なにがなんでも離さないと言わんばかりだ。そんな淡に咲は笑顔で告げる。

 

 

「今日からよろしくね。淡ちゃん」

 

 

「…!?うん、よろしくサキー!」

 

 

その日、咲は3軍の生徒を相手に猛威を振るった。その姿は去年の淡を思い出すかの様な立ち振舞いだった。そして咲は2軍に昇格する事が決まった。

尚、淡に関しては去年の実績を考慮して既に1軍に昇格していた。

 

1軍の別室で照、菫、淡の3人は昇格リーグの対局データの内容を見ていた。攻撃特化のチームは変動が激しく後2枠空いている。今回である程度の目処を立てなければならなかった。

しかし、開始10分で照と淡は離脱。照は本を読み始め淡はソファーでだらけ始めた。

 

 

「ふむ、前回同様に渋谷と亦野が力をつけているな。おい、お前たちも少しはデータを見ろ!」

 

 

「適材適所。私はお菓子の準備。淡は紅茶の準備」

 

 

「ラジャー」

 

 

そう言うと2人は準備を始めた。菫はため息をつきソファーに移動した。

そのまま談笑が始まりある程度休憩も終わったところで菫は思い出したかのように言う。

 

 

「そう言えば咲ちゃんも攻撃特化と言っていたな。データもあるだろうし見てみるか」

 

 

「ちょっと待ったー!」

 

 

淡は大声をあげて立ち上がった。

 

 

「うるさいぞ大星。あと座れ」

 

 

「え?なんで咲ちゃん呼び?私は大星なのに!」

 

 

「宮永が2人も居るから紛らわしいだろ。お前がもう少し先輩に対して敬意を持てば下の名前で呼ぼう」

 

 

「ぶーぶー」

 

 

淡は頬を膨らませて拗ねてしまった。

 

 

「ふん、それとサキーが攻撃特化って?」

 

 

「そう拗ねるな。ほら私のお菓子をやろう。私も照から聞いただけだからな」

 

 

淡は嬉しそうにお菓子を食べる。餌付けは成功したようだ。菫の言葉で淡は照を見る。照はそれに気づきお菓子が詰まった口を開く。

 

 

「ひゃひはひょん」

 

 

「ごめんテルー。なにいってるか分かんないや」

 

 

照が喋っている最中に淡はバッサリ切り捨てる。照はもぐもぐお菓子を食べ終えて再び口を開く。

 

 

「咲は今日±0を使わない筈だからデータを見たら分かる」

 

 

そう言うと照は再びお菓子を食べ始めた。2人は照の言う通りデータを見ることにした。そしてそのデータに度肝を抜かした。

 

 

「これは…同一人物なのか?」

 

 

「うわーすっごいねー」

 

 

誰かを飛ばすのは当たり前。ちょいちょい全員飛ばしているそのデータに照が言っていた本質を菫は理解した。

 

 

「明日の昇格リーグは荒れるな」

 

 

菫はポツリと呟いた。

 

 

 

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翌日、菫の言った通り昇格リーグは荒れた。対局したら飛ばされる。まるで災害だと誰かが呟いた。

そんな災害も連戦で少し疲れたので休憩をとることにした。屈伸していると見覚えのある人物を見かけ声を掛けた。

 

 

「渋谷先輩…ですよね」

 

 

「あっ、宮永さん」

 

 

その人物とは以前に対局をしたことがある渋谷尭深である。お互い休憩中と言う事で少しお喋りを始める。

 

 

「そう言えば宮永さん、2軍昇格おめでとう」

 

 

「あっ、知ってたんですね。ありがとうございます」

 

 

「うん。一年生で2軍に昇格する人って滅多に居ないらしいから」

 

 

そう言えばクラスメートが2軍は1つの壁で~みたいな事を言っていた様な気がする。

 

 

「宮永さんならこのまま1軍に昇格出来そうだね」

 

 

「一緒に昇格出来るようにこの後の対局も頑張りましょう」

 

 

2人はその場で別れ残りの対局を消化させていく。そして今日最後の対局を向かえる。

 

最後の対局は注目の組み合わせが何組かある。

その中でも一番の注目度があるのは2軍でも上位に位置し最近メキメキと頭角を表し始めた二年生の尭深と誠子。

そして一年生ながら2軍に昇格し今回の昇格リーグで一番の注目株になった咲の組み合わせだ。

 

この中から確実に1軍に昇格する生徒が出る。誰もがそう思いギャラリーも沸く。

その中には照、菫、淡の3人もいる。去年解散して以降再結成していない選抜メンバー最有力候補の攻撃特化チーム。

しかし、今回チームに入るかもしれないメンバーが一堂に会した。

 

攻守ともに安定してオーラスに高火力の武器を持つ渋谷尭深。

 

守りは弱いが鳴く事で速度と安定した火力を武器に持つ亦野誠子。

 

高い力量差を見せているが未だ未知数の宮永咲。

 

1軍昇格のチケットは2枚。戦いの火蓋は切られた。




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とりあえずです。お気に入り登録ありがとうございます。こそこそ描いてくつもりでしたがこんなに大勢の皆様に読んでもらえるとは思いもしませんでした

そうそう、嬉しいことに誤字の指摘をしてくれた方がいました。この場を借りて感謝のお礼を。どうもありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

出来るだけ誤字を無くせるよう善処します

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