咲ちゃんが悲しむ世界なんてなかった   作:くずのは@

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3局目

宮永家

 

宮永家は両親が共働きの為、咲と照の2人で過ごすことが多い。昔は…長野に住んでいた頃は共働きではなかった為、家族麻雀が出来る時間もあったが東京に引っ越してからはそんな時間は余り取れない様になっていた。

 

夕食も終えお風呂に入り咲と照は居間で本を読んでいる。お互い趣味が一緒な為、共に過ごす時間も多い。

 

 

「そう言えば咲、今日部室に来てたんだね」

 

 

「うん。クラスメートの交流の場として誘われて」

 

 

ああ、やっぱりか。と照は思った。

しかし、淡が言ったようにもしかしたら考えが変わって部活の麻雀に興味をもってくれたのかもと期待もしていた。

 

照には夢がある。それは咲と一緒の高校に通い共にインターハイに出場する事。

咲が家から近いからと言う理由で松庵女学院に通いたいと言った時はかなり焦った。

あの時は咄嗟に白糸台の図書館を熱く語ったかいあって咲も白糸台に興味をもち通うことを決めてくれた。

 

照は高校3年生。今年が最初で最後の機会なのだ。このチャンスは逃したくない。照はそれとなく聞いてみる事にした。

 

 

「ねえ、咲」

 

 

「なに?お姉ちゃん」

 

 

「今日の入部試験楽しかった?」

 

 

「…うん。成り行きだったけど久しぶりの麻雀は楽しかったよ」

 

 

「そっか」

 

 

楽しかった。その言葉を聞けて良かったと照は思う。咲は優しい子だ。照がお願いすれば入部してくれるだろう。だが、強要してまで夢を叶えるつもりは照には微塵もない。

咲の高校進路の時は焦って強要した感があったがこれはこれ。それはそれだ。

 

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

 

「なに?咲」

 

 

「最近は家族麻雀してないね」

 

 

「…そうだね」

 

 

機会が減り居間の隅に置かれた麻雀卓は少し埃が積もっていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

1年生教室

 

午前中の授業も終わりいまは昼休み。咲はクラスメート達と一緒に昼食をとっていた。

当然、話題は昨日の入部試験の話し。

 

 

「ちょっと、聞いた?今日の放課後に試験結果が分かるんだってさ」

 

 

「聞いた聞いた。それと知り合いの先輩に聞いたんだけど合格者は入部希望者の半分だって」

 

 

「あーあ。私は不合格だろうなー」

 

 

「私もダメダメだったからなぁ」

 

 

どうやら大半のクラスメート達は良い結果を残せなかったみたいだ。

自信がありそうなクラスメートはインターミドルで名を馳せた人達だけだった。

 

 

「宮永さんはどうだった?」

 

 

「私は多分…不合格かな」

 

 

「そっかー。まあ私も良い結果出せなかったし無理だろうな」

 

 

それからクラスメート達との話が盛り上がり放課後に皆で結果を見に行く事になった。

そして放課後を迎える。

 

 

「やっぱ駄目だったかー!」

 

 

「私も駄目だったわ」

 

 

「わ、私受かってる!?」

 

 

「えっ、マジ!やったじゃん!」

 

 

麻雀部に着くと既に表に結果が張り出されており歓喜の声を上げた人は部室の中へ入っていった。

落胆の声を上げた人はがっくりと項垂れていた。

咲はその光景を眺めていたら後ろからクラスメートに声をかけられた。

 

 

「宮永さんはどうだった?」

 

 

「まだ見てなくて…確認してみるね」

 

 

そう言い咲は結果を確認して…自分の名前を見つけた。

 

 

「あ、受かってる」

 

 

「本当だ!宮永さんおめでとう!」

 

 

「でも、私は文芸部に入るつもりだから」

 

 

「あっ、そう言えばそうだったね。でももったいないなぁ」

 

 

「…とりあえず部長さんと話してくるね」

 

 

咲は話が長くなる気がしたのでこのままクラスメートと別れ部室の中へ入った。

部室の中は流石王者白糸台と言うべきか、設備が充実している。麻雀卓は全て埋まっており打ってない人は資料を読み漁って研究しているようだ。

部員1人1人から気迫を感じ闘志を熱く燃やし牙を剥き出しにしている。そこは弱肉強食の世界だった。

 

そんな光景を横目に咲は部長と話をする為、部員に話し掛ける。

 

 

「すみません。1年の宮永といいます。部長さんは居ますか?」

 

 

「部長ですか?彼方に居る方が部長ですよ」

 

 

指す方を見ると青髪、長髪、長身の少女が居た。咲は少女に話し掛ける。

 

 

「すみません。貴女が部長ですか?」

 

 

「ん?そうだが君は?」

 

 

「1年の宮永といいます。入部試験の事で話がしたいのですが」

 

 

菫は咲のある部分を見て確信した。この少女は昨日発覚した照の妹だと。

照から話を聞く限り試験では力の一端しか見せてないがその圧倒的力量差は間違いなくこの白糸台でも屈指の実力者と判る。勝てる人は限られているだろうと思っていた。

菫は話を聞く為、別の個室に咲を通すことにした。

 

 

「適当に座ってくれ。それで宮永さん話しと言うのは?」

 

 

「実は…」

 

 

「ちょっと待ったー!」

 

 

咲が話を切り出す前に乱入者が現れた。淡だ。

淡は咲が今から話す内容を察知している。だからこそ許容出来ない。

淡は昨日から考えていた。どうすれば咲は入部してくれるのかを。

考えて考えぬいてそして1つの結論にたどり着く。それは力ずくで押し通す。

淡は咲を逃がすつもりは、ない。

 

 

「サキー!勝負よ!」

 

 

「大星お前…すまない宮永さんうちの馬鹿が」

 

 

「いえ、お気になさらず。淡ちゃん元気そうだね」

 

 

「ふん、そんな事より勝負よ!全力でサキーの±0を崩してやる!」

 

 

「…お姉ちゃんから私の事聞いたんだね」

 

 

淡は咲の言葉に頷く。そして咲は察する。この勝負からは逃げられそうにないと。

 

 

「私は構わないけど…」

 

 

咲は菫を見る。咲は一応新入部員と言う事になる。聞くところによると新入部員は勝手に麻雀卓に着けないらしい。

菫はそれを理解して言う。

 

 

「宮永さんが構わないなら大丈夫だ。大星、渋谷を呼んできてくれ」

 

 

「おっけー」

 

 

淡はダッシュで部室から出ていった。2人はそれを見送り菫は咲に話し掛ける。

 

 

「先ずは自己紹介からしよう。はじめまして私は3年の弘世菫だ。君のお姉さんには世話になっているよ」

 

 

「はじめまして1年の宮永咲です。お姉ちゃんが何時もお世話になってます」

 

 

挨拶もそこそこに雑談を始めていたら淡が帰ってきた。横にはショートボブに眼鏡、大人しめな雰囲気の少女が居た。

この少女が渋谷と言う子なのだろう。菫は軽く説明をし咲は挨拶を交わす。

準備はできた。そして、淡は告げる。

 

 

「今日は最初から全力でいくよ!」

 

 

闘いの幕は切って落とされた。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

試合は東南戦に決まり席に着いた。

 

東1局

 

東:弘世菫 25000 親

 

南:渋谷尭深 25000

 

西:宮永咲 25000

 

北:大星淡 25000

 

対局が始まると場の雰囲気が変わる。そして相変わらず配牌が悪い。咲は思う、淡は全力で来ると言っていた。と言う事はまだ何か仕掛けてくると。

そして淡は早速仕掛けて来た。

 

 

「リーチ!」

 

 

まさかのタブルリーチに咲も目を見開く。咲はこの局を捨てて淡の力を見極める事に徹した。

安全牌を切りながら思考していると淡が動きだした。

 

 

「カンッ!」

 

 

咲はこの暗カンから嫌な予感を感じた。数巡後にその予感は確信に変わる。

 

 

「ツモ。ダブルリーチ、ドラ4」

 

 

裏ドラ表示が暗カンした牌だったのはおそらく偶然ではないだろう。

 

 

「3000、6000」

 

 

これが淡の全力。

 

東2局

 

北:弘世菫 19000

 

東:渋谷尭深 22000 親

 

南:宮永咲 22000

 

西:大星淡 37000

 

 

「まだまだいくよ!リーチ!」

 

 

どうやらこの局も淡の猛攻は止まらないようだ。咲はまだ動かない。

 

 

「カンッ!」

 

 

この瞬間、咲は淡の能力をほぼ理解する。

 

 

「ツモ!3000、6000」

 

 

そして咲は普段通り±0を目指し、場を支配する。

 

東3局

 

西:弘世菫 16000

 

北:渋谷尭深 16000

 

東:宮永咲 19000 親

 

南:大星淡 49000

 

咲は淡の能力について考えを纏めていた。

配牌が5向聴以下になる。

そしてダブリー。

ダブリーに関してはまだ確信に辿り着いてない部分もあるが…山の最後の角付近で暗カンをして裏ドラがモロノリ、数巡後に和了。

 

なんて攻撃的な能力だろうか。それが咲の第一印象だった。その蹂躙スタイルは姉の照を思い出す。

ただ両者には明確な違いがある。

照は他を寄せ付けない和了速度で相手はなにも出来ず蹂躙される。

淡は相手を妨害する5向聴に加え固定された高い火力による蹂躙。

 

長い間、照と打ってきた咲の和了速度は照には劣るものの高校生の中ではトップクラスになっておりその結果、±0もより凶悪なものになってしまった。

 

どんなに妨害しようが、どんな高い火力だろうが和了出来なければそれに意味はない。

 

南4局 オーラス

 

 

「ツモ。400、700です」

 

 

最後は咲のツモ上がりで終わった。ずっと動きのなかった渋谷から嫌な気配がしたから速攻で上がった。ともあれ、対局は終わった。

 

終局

 

弘世菫 16600(-13)

 

渋谷尭深 14600(-15)

 

宮永咲 30400(±0)

 

大星淡38400(+28)

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「くーやーしーいー!!」

 

 

「大星の本気なら止めれると思ったんだが…凄いな」

 

 

「私の±0と淡ちゃんの能力では相性が最悪だから」

 

 

「どういうこと?」

 

 

淡の疑問に咲は推測した淡の能力を説明した。その事に淡、菫、尭深は驚愕した。まさかたった1度の対局で淡の能力を丸裸にされるとは思わなかった。

 

そして±0と相性が最悪と言うが別にそうではないと言う事。

咲にとって淡の能力を使った打ち方は和了速度が遅いと弱点みたいに言うがそんな事はない。

どちらかと言えば若干速いのではないかと思うくらいだ。では何故そうなったのか。それは対象相手が姉の照だったからだ。

これには±0の性能に驚くべきか咲のポンコツさに驚くべきか。

 

淡は震えた。いまの自分では絶対に±0を崩すことが出来ない。それ以前に咲は未だその力の一端しか見せてない事に。

欲しい。欲しい欲しい欲しい!

力ずくで押し通す作戦は失敗に終わった。

ならどうする。淡に残された選択は1つしかない。

 

 

「サキーとこれからも勝負したいよ」

 

 

「淡ちゃん…」

 

 

「私と一緒に麻雀部に入ってください」

 

 

菫は自分の耳を疑った。あの淡が敬語で喋っている。しかし、そんな淡の切実な願いは…

 

 

「…数日考えさせてください。それまでに答えをだしますので」

 

 

「わかった…待ってるねサキー」

 

 

「いい返事が聞けるのを期待して待っているよ」

 

 

「では失礼します」

 

 

保留と言う形で終わる。こうして咲は麻雀部を後にした

 




お気に入り200件突破しててびっくりしました

これからもまったり投稿していきますので

よろしくお願いいたします

あ、次話投稿は年明けにまります

では、よい年をお迎えください(*- -)(*_ _)ペコリ


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