白糸台とある一室
今日はWeekly麻雀todayの記者、カメラマンが今年の高校生特集の記事を掲載させる為に白糸台の生徒を訪ねている。
この雑誌、中学生からプロまで扱っているため年齢層が幅広く老若男女に超人気な雑誌である。
そんな雑誌に載せて貰える白糸台の生徒は赤髪、肩に掛かるくらいなセミロング、角っぽい癖毛、深紅の瞳をしている。
少女の名前は宮永照。最強の高校生である。
「お久しぶりね宮永さん。今日の取材よろしくね」
「お久しぶりです。こちらこそお願いします」
「じゃあ早速始めましょうか。先ずはーーーー」
それから雑談を交えながら話しを進め取材時間も残りわずかになっていた。
「では今年の白糸台の意気込みをどうぞ!」
「3連覇は、私達の一大目標です!そのためにも絶対に負けられません!一生懸命頑張ります!応援、よろしくお願いします!」
「チョーイイネー!スペシャルサイコー!!」
こうして取材も終わり後は解散するだけだったのだが記者が思い出したかのように足を止めた。
「そうそう、いま宮永さんが一番戦いたい、もしくは気になっている選手って居る?今度注目の高校生ベスト20って特集があってね。ピックアップしてる選手は居るんだけどチャンピオン目線からの情報も欲しくてね」
「……」
気になっている選手と言えば全国個人2位の荒川憩、同じく全国個人3位辻垣内智葉。
全国2位北大阪千里山女子高校の愛宕洋榎、九州最強福岡新道寺高校ダブルエースの白水哩、鶴田姫子。同じく九州の鹿児島永水女子高校の神代小蒔。
そして去年彗星の如く現れ最多得点記録を更新した長野龍門渕高校の天江衣。
しかし、一番戦いたいとなるとこの豪勢な顔ぶれの中にも居ない。照の強さの根本と言ってもいい少女の顔はない。
「名前は…言えませんが私が一番戦いたい人はいます。その子が居なかったら今の私は居ませんでしたから」
記者はその言葉に目を見開く。下手なプロでは相手にもならないと言われたこの高校生チャンピオンにそこまで言わせる存在が居たのかと!
記者として知りたい。しかし、これ以上は野暮だとも思った。だから記者としてではなくファンとして言葉をかける。
「そう、その子と戦えるといいわね」
「はい」
この時、照は営業スマイルではない笑顔で応えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
麻雀部部室
入部試験も終わり部員総出で試験の結果を纏めていた。
麻雀と言う競技はたった5回で強弱が分かる競技ではない。しかしその5回で結果を出せないようならこの白糸台では陽の目を見る事はない。
菫は慣れた手つきで試験の結果を捌いていく。その姿はまさにできる女である。
淡はお菓子を食べながらソファーで転がっている。その姿はまさに寛いでいる。菫はキレていい。
「おい大星、少しは手伝え」
「えーさっき少しやってたからいいでしょ」
当然、嘘である。菫はキレていい。
「む、そうなのか?ならいいだろう」
「と言うかさ、そろそろすみれも休憩したら?私が紅茶いれてあげる」
そう言って淡は紅茶とお菓子の準備をするため立ち上がった。菫は思う生意気な後輩だが気遣いの出来る優しい後輩だと。
普段から休憩を余り取らずに部長としての雑務をこなしている時にこうやって無理矢理休憩を取らせようとする淡に心から感謝していた。
しかし、実際は淡のその日食べていいお菓子が無くなったから菫のお菓子を食べるために動いているだけである。菫の勘違いは加速する。
「はい紅茶。お菓子はケーキにしたよ」
「ああ。ありがとう大星」
休憩中の話題は今日の試験内容についてだ。先ほど目に入った淡の試験結果を思い出す。
「たまたま大星の試験内容を見たが全て+収支で終わっていたな。それに4試合は相手を飛ばして終わらせていた。流石と言いたい所だが最後に手を抜いているのは感心しないぞ。手を抜く癖が治ったと思ったんだがな」
淡の実力を知っているからこそ言える。まだ正式な発表はないが淡は確実にこの白糸台の1軍レベル。つまりレギュラーの1人と言う事。
「あー別に手を抜いたつもりはないんだけど」
うーんと唸る淡。淡自身何が起こったのかさっぱりな様でなんて説明すれば良いのか分からないらしい。
しばらく唸っていると何かを思い出したかのように声を上げた。
「そうだ!サキーは?」
「サキー?なんだそれ?」
「今日試験に来てて最後私と戦った人。試験受かってると思うんだけど結果見せて」
「ちょっと待ってろ。…宮永咲。この子か?」
「そうそう。ハリー!ハリー!」
「そう急かすな。どれ…な!なんだこの成績は!?」
「なに……これ………」
菫と淡は言葉を失った。無理もない、そこにある結果内容を理解することが出来ずにいた。
全ての試合が±0なんて不可能だ。だからこそ理解することが出来ない。
こんなの人の領域ではない。それこそ神か悪魔か。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どれくらい時間がたっただろう。2人して呆けていたら部室のドアが開いた。
「ただいま。2人ともどうしたの?変な顔して」
照は何時もの2人らしからぬ態度に心配そうに見つめる。菫はいち早く復活し答える。
「ああ、すまん。余りにも衝撃的な事があってな。今日入部試験があっただろ。そこにとんでもない人材が現れたんだよ!」
菫は未だ興奮が治まらないまま手にした結果内容を照に差し渡す。
「あ、咲。今日来てたんだ」
「お、お前この子と知り合いなのか!?」
「知り合いもなにも咲は私の妹」
ーーーーーーーーーーーーーーは?
「ちちちちちちちょっと待て!おおおお前妹が居たのか!?」
「うん。言ったことなかったっけ?」
菫はキャパオーバーを起こした。菫は考えることを止めた。それと同時に淡が復活した。
「ええーーーーー!!テルーの妹ってサキーだったの!?」
「うん。淡は咲と対局したんだね」
「あーうん。なんかもやもやしたまま終わっちゃった。ねぇテルー咲の±0って能力だよね?凄いけどなんかしょっぱい能力だね」
「咲の±0は能力じゃないよ」
「へっ?能力じゃない…?」
「咲の±0はただの技術。能力は別にある。咲の力は極端だから勘違いされるけど±0は破るのが至難な守りの打ち方」
淡は戦慄した。つまり、つまりだ。咲は技術だけで『点数調整』が出来ると言う事。
自分が優位に場を支配していると思っていたらそれは点数調整の為にコントロールされていた偽りの支配。咲の掌で踊らされていただけ。
淡のもやもやした感情はすっとなくなった。
そして新たな感情が生まれる。怒り、苛立ち、とんでもない。淡は歓喜した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
淡は圧倒的強者である。自分に勝てる奴なんて居ないと傲慢が服を着けて歩いている存在だった。もちろん淡が負ける時もあるが数回戦えば相手は淡に勝つことが出来なくなる。そして淡の周りに勝てる相手は居なくなった。
ある日、白糸台の監督が現れ淡をスカウトするため訪れた。ぶっちゃけ興味がなかった。
そんな淡に先ずは見学に来ないかと提案した。特にやることもなかったしその提案に了承した。
見学初日。監督から白糸台高校について説明された。白糸台の歴史は浅く数年前まで麻雀部の成績は県大会決勝戦が最高だったらしい。
しかし去年、彗星の如く現れた生徒を筆頭に県大会を優勝。その後、破竹の勢いは止まらず全国大会で優勝を納めた。
そこから一気に名を広め白糸台は強豪校の一角となった。
今年は前年度の実績、この生徒の闘牌に憧れインターミドルで名を馳せた選手がこの白糸台麻雀部に入る。
去年よりも選手層が厚くなった白糸台は圧倒的な強さを見せつけ今年のインターハイを優勝し2連覇を達成した。
この2連覇達成の立役者は今年の個人戦で優勝。名実ともに最強の称号を得た。その生徒の名前は宮永照。
説明を全て聞いた淡は見学に来て良かったと思った。そんな相手を今からぶちのめせるんだからと。
淡は圧倒的強者である。だからこそ知らない。淡と同じ圧倒的強者を蹴散らしてきた絶対的な強者の存在を。
見学2日目。昨日は説明と学校の案内で終わった。餌を前に待てをされた犬の気持ちが分かった。
今日は白糸台3軍の部員と対局しても良いと言われたので昨日の鬱憤を晴らすべく全員を蹂躙した。スッキリした。
見学3日目。今日も対局しても良いと言われた。昨日の蹂躙劇を見ていた白糸台の2軍が立ちはだかる。
3軍とは違う一線を越えた強さに多少は驚いたがそれでもその牙は届かない。
部活が終わる頃には淡の前に立ちはだかる人は誰1人居なかった。
見学4日目。今日は新しい話を聞いた。白糸台はレギュラーを決める方法が少し特殊らしい。
白糸台の1軍は幾つかのチームが存在するようで速攻特化型、防御特化型、バランス型、そして攻撃特化型で分けられこの4チームがトーナメント形式で激突して勝ったチームが代表として大会に出場出来るみたいだ。
本来なら均衡するのだが攻撃特化型のチームには白糸台の絶対的なエースに部内ランキング2位と過剰戦力が集まり1強状態になっているとの事。
淡は手始めにバランス型に挑む。
見学5日目。昨日は散々な目に遭った。結局勝ち越せないまま終わった。
これが白糸台1軍。しかし、勝ち越せないのは今日で終わりだ。
「今日は最初から本気でいくよ」
淡はまだ、全力を出していない。
見学8日目。あれからバランス、速攻、防御のチームを下し後はレギュラーである攻撃特化型チームのみとなった。
敵将の首は目の前だ。いざ、たのもー!
部屋に入ると部員が2人しか居なかった。麻雀出来ないじゃんと落胆していると話しかけられた。
今までの部員とは違いフレンドリーだし紅茶とお菓子くれるし楽しかった。
部活の時間も終わり照と菫3人で下校した。照に明日も紅茶とお菓子食べながらお喋りしようねと言われルンルン気分で帰っていった。
見学9日目。淡は爆走していた。部室にたどり着きそして勢いよく扉を開けて一言。
「テルー!すみれ!麻雀で勝負よ!!」
「あ、淡おはよう」
「大星、昨日も言ったが先輩をつけろ」
昨日同様に紅茶とお菓子を出されたのでとりあえずソファーに座る。
このまったりムードも悪くないが今日は勝負を挑みに来た事を伝える。
「でも私たちは3人しか居ない」
「そうだな。今はチームも一時的に解散して私と照の2人しか居ないしな」
そう言われ淡がギーっと奇声を上げたその時、部室に監督が訪れた。淡は歓喜した。そして待ちわびた白糸台の絶対的なエースに挑む。
「様子見なんてしない。最初から全力だ!」
見学10日目。淡は紅茶とお菓子食べながら寛いでいた。そして昨日の事を思い出す。
菫は強かった。今の淡では勝てないほどに。照はもっともっと強かった。
あれだけ派手に負けるとなんかスッキリした。淡はこの日、白糸台のスカウトを正式に受けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くふふ…」
「嬉しそうだね」
「うん。だってこれから毎日テルーとすみれとサキーと一緒に麻雀で遊べるんだから」
淡は相当嬉しいのか小躍りしている。しかし、照は咲が入部するとは思わなかった。
咲の麻雀は家族麻雀と言う枠で完結している。以前部活の麻雀に興味はないか聞いた事があったがないと言っていた。
気が引けるが淡にその事を伝える。
「淡、言いにくいんだけど多分咲は入部しないと思う」
「へっ?…なっ、何で!入部試験に来てたよ!?」
「おそらく試験が自由参加型だからクラスメート達との付き合いで来てる」
「でっでも!白糸台に入学してきてるんだから麻雀部に興味が出てきたとか!」
「咲は部活の麻雀に興味がない。本来は家の近くの松庵女学院に通うつもりだったけど私がお願いして白糸台に変更してもらったから」
「ギーーー!?」
淡の奇声が悲しく響いた
4000文字を目標に書いてますが
2回目の投稿で早くも挫折しそうです