咲ちゃんが悲しむ世界なんてなかった   作:くずのは@

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1局目

21世紀、世界の麻雀競技人口は数億人を突破しプロの麻雀プレイヤーは人々の注目を集めていた。

高校でも大規模な全国大会が毎年開催され、プロに直結する成績を残すべく高校麻雀部員達が覇を競っていた。

これはその頂点を目指す少女達の軌跡ーーー

 

まだ少し肌寒い桜の花びらが舞う季節。

茶色のブレザーにワイシャツ、青みの掛かったグレーのネクタイに下はチェック柄のスカートを着飾る生徒達。

 

新入生はこれから始まる高校生活に期待と不安を胸に抱き、新たな友を作り、苦楽を共にする仲間と切磋琢磨する。

 

上級生は新入生に対して良い見本となるよう振る舞い、尊敬される手本を心掛け、時に厳しく指導する。

 

ここは西東京地区の白糸台高等学校。麻雀の強豪校であり現在インターハイ2連覇。

名実ともに最強の高校であり部員数も優に100を越える。2軍でも県代表クラスと言われ特に1軍は超攻撃特化型で有名であり『チーム虎姫』の別称をつけられインターハイ史上最強とさえ言われておりマスコミの注目度も非常に高い。

 

そしてそんな白糸台には絶対的エースが存在している。彼女の名前は『宮永照』。

『現インターハイチャンピオン』、『高校生1万人の頂点』、『インターハイと言えばすなわち彼女のこと』と様々な肩書きを持つ。

ちなみに今年度春期大会も優勝している。

 

宮永照を擁する白糸台に死角なし。今年は史上初の3連覇に挑む。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

一年生教室

 

入学式も終わり今は自己紹介の時間になった。

今年は異常な年なのかこのクラスにたまたま纏まっただけなのか麻雀の強豪校とは言え自己紹介が終わった人の全員が経験者らしく中にはインターミドルで活躍した人も何人か居る。

このご時世麻雀と言う競技は世界的にメジャーな競技であり選手はアイドルのような扱いをされる選手も居る。

 

今年の白糸台は史上初の偉業に挑む機会もある、アイドルのような選手が数名居る、と言う理由で経験者の人数が異常なほどになっていた。

結果、今年の入部人数が100を越えると予測され入部試験が導入されるようだ。

 

自己紹介も終盤に差し掛かり1人の少女の出番になった。

特徴は茶髪、長髪、角、眼鏡で落ち着いた雰囲気を感じる。見た目は文学少女だ。

 

 

「はじめまして『宮永咲』です。趣味は読書で文芸部に所属しようと思ってます。よろしくお願いします」

 

 

至って普通の自己紹介なのだがこれまでの自己紹介では全員が趣味か部活動に麻雀を申告していたのに少女だけはそれがなく浮いてしまった感じになった。

麻雀経験者と言うのが一種のステータスなのかもしれない。

その後、クラス全員の自己紹介も終わり放課後を迎えた。

 

今日は入学式と言う事もあり授業は午前中で終わり咲は暇をもて余していたので教室で本を読んでいた。

そんな咲に何名かのクラスメートが声をかけてきた。

 

 

「宮永さん、いま少し時間いいかな?」

 

 

「別に大丈夫だけど。なにか用事?」

 

 

「あ、うん。あのね宮永さんって麻雀出来るかなーと思ってさ。このクラスほぼ全員が入部試験を受けに行くみたいだからさ。クラスの交流も兼ねてどうかと思ってさ」

 

 

咲は悩んだ。なんか面倒になりそうな気がするが麻雀が出来ないと嘘をついてもなんか遅かれ早かればれそうな気もする。

まあ、人付き合いも大事だしと結論を出す。

 

 

「麻雀は出来るよ、家族麻雀でやってるから。でも部活の用紙は文芸部って書いちゃったんだけど」

 

 

「そっかー良かったー!自己紹介の時に宮永さん言ってなかったけどこのクラスの麻雀経験者の人数を考えたらさ、もしかしたらと思ってたんだ」

 

 

「部活の用紙も大丈夫だよ。入部試験は自由参加型らしいから要らないんだってさ」

 

 

「ああ、確かにね。それなら大丈夫そうだし行こうかな」

 

 

そして少女達は麻雀部の入部試験を受けに向かった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「今日の入部試験の内容のリストはこれで良いですか?」

 

 

「ーーーーーーーーーー」

 

 

「わかりました。それでは先生失礼します」

 

 

彼女は白糸台麻雀部の部長で三年生の『弘世菫』。青髪、長髪、長身で知的な印象を受ける少女だ。

その凛とした風貌は全国一位の白糸台麻雀部の部長に相応しい佇まいだ。

去年は副将を任されておりその実力は全国屈指であり、その沈着冷静な性格で相手を確実に射抜いていた。

 

これから新入生の麻雀部入部試験の準備をしなくてはならない。聞くところによるとインターミドルで見たことがある生徒が結構居たらしい。頼もしい限りだがそんな彼女達でさえこの白糸台では3軍止まりだろう。

王者白糸台の選手層の厚さが良くわかる。

 

(今年は相当な人数が居るみたいだが…果たして大物は居るだろうか)

 

なんて考えていたがそういえば1人いた。監督自らスカウトをして、半年前から部活に参加し、その圧倒的な実力で2軍、3軍のメンバーを蹂躙していた。

1軍のメンバーには流石に最初は勝てなかったが最終的にはあいつ以外勝てなくなっていた。

 

 

「あっ、すみれじゃーん」

 

 

「先輩を付けろと何度言えば分かるんだ大星」

 

 

彼女の名前は『大星淡』。金髪、長髪、青目と日本人離れした印象を受ける少女。なお、ハーフやクォーターではない。らしい。

天真爛漫で若干天然なアホの子であるがこの少女こそ今年の大物スーパールーキーである。

 

 

「も~固いよすみれ。もっとフランクにいこうよ」

 

 

「まったくお前は…」

 

 

「今から部室に行くんでしょ?一緒にいこ」

 

 

(半年だ。こいつを矯正しようと息巻いて半年がたつ。結果はご覧のとおり。それどころか毒されてる気さえする…気のせいであってほしい)

 

 

「そうだな。そういえば大星の実力は現部員全員が分かってはいるが入部試験の対象に入っているからな。ちゃんと受けろよ」

 

 

「はーい」

 

 

「はいを伸ばすな」

 

 

「はいはい」

 

 

「はいは1回でいい」

 

 

その現場を目撃した生徒は語る。

まるで行儀の悪い妹を叱る姉のようだったと。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

麻雀部部室

 

入部試験の参加者が続々と集まり予定の時間になった。すると麻雀部の部員が参加者に声をかけてきた。

 

 

「それでは入部試験を始めます。試験の内容は東南戦を5回戦ってもらい終わったらメンバーを変えてもらいます。ルールは大会と同じです。分からない方は壁に貼ってますので確認してください」

 

 

咲は話を聞いてさっそく壁に貼ってるルールを確認しだした。

 

 

「えっと…どれどれ」

 

 

点数に関するルール

25000点開始の30000点返し(オカあり)

ウマなし

点数がマイナスで飛び終了(0点は飛ばない)

終了時の得点は1000点未満を五捨六入

終了時に同点の場合は上家優先

 

和了、役に関するルール

一発あり

後付けあり

喰いタンあり

同一巡内の選択ロン和了なし

三連刻、四連刻なし

大明積の責任払いあり

 

符、翻数に関するルール

嶺上ツモも2符加算

満貫切り上げなし(子の30符4翻は7700、親の30符4翻は11600)

七対子は25符2翻

二翻縛りなし

 

役満に関するルール

国士無双の暗積和了あり

ダブル役満なし

13翻以上は数え役満

 

リーチに関するルール

リーチ宣言牌で放銃した場合は供託料は発生しない

リーチ後の当たり牌見逃しは以降振聴

得点が1000点未満の場合にはリーチ宣言不可

振聴リーチあり

カラ聴リーチあり

 

ドラに関するルール

裏ドラあり

積ドラあり

積裏あり

積ドラは、暗積即乗り、大明積/加積は後めくり

赤ドラあり(五萬1枚、五筒2枚、五索1枚)

 

鳴きに関するルール

喰い替え無し

 

連荘に関するルール

連荘時の供託は1本番につき300点

ノーテン親流れ、聴牌連荘(東場、南場に関わらず)

ラス親時の和了り止めは任意で選択可能

形式聴牌あり

 

南入/西入に関するルール

東風戦の南入あり、以降誰かが30000点以上になった時点で終了(サドンデスルール)

 

途中流局に関するルール

四風連打、九種九牌は途中流局

 

その他

焼き鳥なし

 

ーーーーーーなどなど

 

ルールを一通り見て家族麻雀のルールと変わらない事にほっとした。

普段通り打っても問題なさそうだしさっそく空いてる卓を見つけて打つことにした。

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

「「「お願いします」」」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

あれから結構な時間がたっている。この試合も4回戦目でオーラスに突入していた。

 

 

「ツモ1000、2000です」

 

 

最後は咲がツモ上がりして終わった。

結果はこんな感じだ。

 

A子→31400点(+22)

咲→30200点(±0)

B子→20900点(-9)

C子→17500点(-13)

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「「「ありがとうございました」」」

 

 

当初の目的でもある交流も深めつつ対局を終わらせ一息つく。

何名かのクラスメートも一緒に休憩しており1人で休憩している咲に気づいて話しかけてきた。

 

 

「宮永さん、お疲れさま」

 

 

「あ、お疲れさま」

 

 

「いやー流石、白糸台だよね。皆レベル高過ぎて飛ばされないように打ってるだけで精一杯だったよ」

 

 

「だよねー。私なんて2回飛ばされちゃったよ」

 

 

と談笑を交えながら休憩していた。

今は試験中と言う事もあり休憩もそこそこに1人また1人と試験に挑む。

咲もあと1回対局を残してるので空いている卓を探し回る。

 

 

「ねーここ空いているよ」

 

 

声のした方向を振り向くとこちらを見て手を振りながら招いている。

咲は最後の卓をここに決めた。

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

「よろしくー」

 

 

「「お願いします」」

 

 

淡々と進みあっという間に東場が終わり南場に入った時に場の空気が変わった。

このピリピリした雰囲気。この局で何かが起こると肌で感じた。

配牌した時にその答えが分かった。余りの配牌の悪さに眉をひそめる。

対局者の顔を見ると3人中2人が苦虫を潰した顔をしていた。それによりこの配牌の悪さを引き起こしたであろう相手の特定も出来た。

咲をこの卓に誘った少女、大星淡だった。

 

(なるほど、配牌が悪くなるけどツモは悪くならないのか)

 

咲はこの能力を分析していた。そして結論を出す。

そこそこの場の支配力だなぁ。

ただそれだけ。

そしてオーラスを迎える。

 

 

「ロン、1000点です」

 

 

咲のロン上がりで対局が終了し点数の申告をする。

 

淡→41000点(+31)

咲→30000点(±0)

D子→17800点(-12)

E子→11200点(-19)

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「おつかれー」

 

 

「「ありがとうございました」」

 

 

対局も終わり少女2人は早々と席を立ち離れていく。

残ったのは咲とこの卓に誘ってくれた少女だけなのだが…

 

 

「うーーーん」

 

 

その少女はうなっていた。これは関わらない方がいいと察した咲はこの場から逃げるため動き出す。

 

 

「あっ!ねーねー名前教えてよ」

 

 

しかし回り込まれた!逃げられない!

 

 

「私は咲、宮永咲です。あなたは?」

 

 

「私は大星淡。淡って呼んでね。私はサキーって呼ぶから」

 

 

「よろしくね、淡ちゃん」

 

 

お互い試験が終わっていた為、談笑していた。少女達が仲良くなるのにそう時間は掛からなかった。

暫くして咲は図書館に本を借りると言う事で麻雀部から去っていった。

 

咲が去ってから淡は考えていた。あの対局に抱いた少しの違和感に。

初対面のはずなのにそんな気がしない、この気持ちも。

原因は分からない。しかしこれから何回でも顔を合わせれるし打てるんだから問題ない。

淡は確信している。当然自分は入部試験に受かる。そして咲も受かると。

 

しかし、まさかクラスの交流目的で試験を受けていたなんて思わないだろう。

入部試験に来たのに入部する気がないなんて思わないだろう。

その事を知るのは思ったよりも早かった。




ショートカットの咲ちゃん可愛い

幼少時のセミロングな咲ちゃんはもっと可愛い

じゃあもっと長くしちゃえばどうなるの?

つまりそう言う事です

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