Sword Art Online ~断片ノ背教者達~   作:ᏃᎬᎡᎾ

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どうも、ゆっくりナメクジ進行に定評のある(ねぇよ)ゼロです。
今回はそれぞれのキャラが思いを胸に始動する、そんなイメージで書きました。相変わらず話が進まないのはご愛敬として、気軽に読んで言ってくださいね(笑)





始動スル背教者達

 

 

夜の空を飛翔(ひしょう)してきたゼロがイグドラシル・シティの門を潜り抜けて広場の土を踏んだ時、空は既に白み始めていた。

 

慣れた動作で翅を仕舞ったゼロは目的地へ向け、週末の深夜ということもあってか普段より多くのプレイヤーが行き交う通りを歩き始める。

 

五、六分ほど歩くと視線の先にイグシティの中央街が見えてくる。

 

このまま進めば先日のアップデートで実装されたばかりの迷宮(クエスト)の入り口へと辿り着くのだが、そこへは向かわずに枝分かれした小路へと入っていく。

 

そのまま更に十分程度歩き続けたあと、ようやくゼロがその歩を止めたのは一軒の職人用プレイヤーホームの前だった。

 

基礎となる一階は頑丈な石造りとなっていて、簡素な白塗りの二階がそれに積み重なるように建っている。

 

目の前には《closed》の木札のぶら下がる木製の両開き扉があり、その横に申し訳程度に店名を表す小さな看板が立てかけられている。

 

アルファベットで《Solt’s Craft Studio》と書かれたその看板を一瞥すると、ゼロはロックが掛かっている筈の両開き扉に手をかける。

 

すると、ゼロがこの工房の家主であるソルトのギルドメンバーであることを認識したシステムにより一時的に扉のロックが解除された。

 

ゆっくりと中へ入ると、プレイヤーホームとしてはそこそこの広さを誇る店内に所狭しと並べられた多種多様な武器や防具が目に入ってくる。

 

目を凝らすとその武具一つ一つが仄かに朱く発光しているのが分かる。これは鍛治スキルを完全習得したマスタースミスによって作られた《定冠級武器(アーティクルウエポン)》である証だ。

 

暫しその美しくも力強い武具に魅入っていると店の奥にある簡素な木組みの扉の向こう側からキン、キン、と澄んだ金属音が聞こえてくる。

 

ゼロは音のする方へと進み、音の源───店に併設された作業用工房へと繋がる扉を開ける。そして中を覗くと、如何にも工房然とした光景が目に入ってきた。

 

正面には巨大な溶鉱炉。その隣には威圧的なまでの大きさを誇る回転砥石(かいてんといし)、鈍色のどっしりとした金床や金色に輝く(ふいご)など、一目でそれが並一通りの性能のものでは無いことが見て取れる。

 

その中に一人、こちらに背を向けて一心不乱に(つち)を打ち付けている少年を見つける。

 

「────ソルト。」

 

規則的な槌音(つちおと)が途絶えるのを待ってから声を掛けると、ソルトと呼ばれた浅黒い肌に後ろで纏めた白髪が特徴的な少年は操作していたウィンドウを消しながら、こちらを見て苦笑して言った。

 

「遅いよ、ゼロ。もうみんな二階に集まってるぞ。」

 

「ごめんごめん、OSのアプデが思ってたより容量が大きくて時間が掛かったんだよ。」

 

今日の正午にVR機器ランチャーのOSアップデートが来ていたのだが、容量をよく見ておらず夜まで放置してしまっていたのだ。

 

「まぁ悪かった。スマン。────ほい、いつも通りS-Dで調整してくれ。」

 

言いながら腰に吊るしていた愛剣をソルトに向けて放る。それを片手で受け取った鍛冶妖精族(レプラコーン)の少年は、(つか)を軸にして器用にくるくる回しながら詳細プロパティを参照していく。

 

「で、情報収集や下調べは終わってるか?」

 

自分の主武器(メインアーム)が強化されていく様子を眺めながら軽く尋ねた。

 

「ウィズが一晩でやってくれました。」

 

何処ぞのデ〇ノートで聞いたことのあるようなフレーズでソルトが返す。

 

「それじゃあ、その作業が最後だな。先に上に上がってるぞ。」

 

「正確には一番遅く来たギルマス様の武器の修繕、だけどな。」

 

「うぐっ・・・・・・。」

 

じとーっとした目線を背中に受けながら逃げるように端の階段からメンバーの集まる二階へと上がっていった。

 

 

 

「────お待たせ、全員分の武器の修繕(しゅうぜん)と強化、調整が完了したぞ。」

 

数分後、そんなことを言いながら作業を終えたソルトが二階へと上がってきた。

 

「お疲れ様!」お疲れ!」乙!」オツソルゥ・・・」

 

各々労いの言葉を掛けつつ交換ウィンドウから戻ってきたそれぞれの愛剣、愛刀、愛弓、愛杖、etc・・・を装備する。

 

全員が支度を整えた所でゼロが口を開く。

 

「さて、今年一番の大掛かりなクエストへと挑むことになるけれど・・・・・・いつも通りまずはウィズから入手した情報を教えてもらおう。────ウィズ。」

 

言うと、後ろから大きくジャンプをしてウィズと呼ばれた、フラグメンツ唯一の情報屋である小柄な猫妖精族(ケットシー)の少年が飛び出してくる。

 

「じゃあ、色んな経路を駆使(くし)してこのボクが集めた情報を簡単にまとめるよん。」

 

そう言って、愛嬌(あいきょう)のあるくりくりとした目を細めながら続ける。

 

「まず迷宮自体の情報だけど、これはみんなも知ってる通り門自体は塔型の全四層構造。内部で湧出するモンスターはほぼ全てが邪神級(じゃしんきゅう)、上層に行くほど難易度(なんいど)の上がっていく方式の迷宮みたいだね。」

 

その言い方に何か引っ掛かりを感じたのか隣で話を聞いていたジャックが口を挟む。

 

「待て、門自体はって言ったな?それじゃあまるで門に先があるみてぇじゃねぇか。」

 

「ボス、門に先があるのは当たり前だよぉ?」

 

「やっぱり噂通り門の先があるのか?それとも・・・・・・」

 

見当違いなことを言うシャドーを無視して同じことを思っていたゼロも問い詰めると、ウィズは透き通るような白い顔をこちらへずいっと近づけてきた。

 

「その通りだよん。(ちまた)では門自体の情報だけが先行してるけど、神話系統の関連NPCの繋がりを辿っていくと三つの仮定が浮かび上がってくるのさ。」

 

幼い顔立ちも相まって女の子にしか見えない目の前の少年は目の前でびっと指を三本立てる。

 

「一つ目はさっき言ったような深淵(しんえん)の門───ギンヌンガガプについての情報だから省くとして、二つ目が門のボスについての情報。確か《大地囲繞(いにょう)す毒蛇》・・・・・・だったかにゃ?北欧神話(ほくおうしんわ)で言うヨルムンガンドのことだよん。────そして三つ目。」

 

そして、そこで一呼吸置いてから最後の一つを続ける。

 

「これは与えられた情報を北欧神話に照らし合わせると分からんだけどね。この内容が正しければ神話の大系(たいけい)が・・・・・・いや、考えすぎだね。」

 

何か引っ掛かりを感じているのだろうか。少しだけ自信なさげに続きを話す。

 

「ギンヌンガガプの門は正確にはメインクエストじゃないの。真のメインクエストは門を抜けた先、闇と氷支配せし地────ニブルヘイムなんだよ。」

 

「ンなッ!ニブルヘイムだとォ!!?」

 

ジャックが素っ頓狂(とんきょう)な声を上げる。だがそれほど重大な内容なのだ。一同驚いたように目を見開き硬直する。

 

「ま、あくまでも仮説だけどねん。」

 

あくまでも軽い調子で言うウィズ。

 

「で、脱線しちゃったけどこのクエストの開始点はヨツンヘイム中央南にあるウルズの泉。だからとりあえずここに行ってみればいいんじゃないかにゃ?」

 

(しば)し放心した後、はっと我に返ったゼロは情報をまとめつつ、指示を出す。

 

「────そうだな、あまり考え込みすぎても仕方がない。まずはウィズの言う通りウルズの泉を目指そう。」

 

その後、ウィズから迷宮内の敵の弱点や耐性、その他諸々(もろもろ)の情報を受け取り、シャドーを中心にアイテムの分配まで終了した時には既に時計の針が午前一時を指していた。

 

先ほどウィズの言ったことが本当であればかなりの長丁場になりそうだが、何しろ今日はまだ土曜日の深夜。時間だけはたっぷりあるので心配は無さそうだ。

 

メンバー総勢十五名全員の準備が完了したのを見計らってゼロは再び口を開く。

 

「さぁ、旧SAO以来のフラグメンツ全員揃ってのクエストだ!軽く制覇して妖精達に僕達の力を見せつけてやろう!」

 

おー、と続く断片達の唱和は室内に響き渡り、窓を抜けてイグシティの街にまで拡散されていった。

 

 

※※※

 

 

時を少し遡り、新生アインクラッド第二十二層の端に建つログハウスにて────

 

「・・・・・・で、こんな時間に私達全員を説明も無しに呼び出しておいて、何か理由はあるんでしょうね?キリト。」

 

────キリトは水色の髪の猫妖精族に問い詰められていた。

 

たがそれも仕方が無い。キリトがとある目的の元シノンを含めた七人にメッセージを送ったのが午後十一時。週末の夜とはいえ呼び出しをするにはあまりにも遅すぎる時刻だ。

 

「キリト。まずはお前がこのような時間に詳しく理由も話さず私達を呼び出した、その理由を話してほしいのです。」

 

隣でこちらをじっと見ながら金髪の風妖精族(シルフ)────つい最近ALOにやって来たばかりの新しい仲間であるアリスも続くように問う。

 

アスナ、シリカ、リズ、リーファ、アリス、シノン、クライン。────そしてユイを含めた八人の視線を受けながらキリトは口を開いた。

 

「───みんな、落ち着いて聞いてくれ。」

 

そして、躊躇(ためら)うように続ける。

 

「・・・・・・俺は、ついさっきヒースクリフ───茅場晶彦(かやばあきひこ)に会ってきたんだ。」

 

その一言に、その場にいる全員が激しく息を吸い込んだ。キリトの口から漏れた《茅場晶彦》───四千人もの人が死んだSAO事件の犯人の名は大きな衝撃を呼んだ。

 

「・・・・・・───頼む、俺に力を貸してくれ。」

 

キリトはその場でゼロと同じく茅場に伝えられた全てを包み隠さずに話した。

 

────何者かによってALOが崩壊の危機にあること。

 

────阻止するには終末クエスト、《ギンヌンガガプの門》をクリアするしかないこと。

 

────そして・・・・・・それには大きな危険が伴うであろうことも。

 

キリトが全てを話し終えても、しばらくの間誰も言葉を発することは無かった。

 

室内に満ちた、永遠とも感じられる数分間の重い沈黙を、クラインのあくまでも明るい声が破った。

 

「キリトよぉ・・・・・・。お前ェ、ようやく俺らを頼ってくれるようになったか。」

 

「あのなぁ、クライン。俺の話を聞いていたか?真剣な話なんだが。」

 

「いいじゃねェか、俺は嬉しいぜ。いつも誰にも話さずに一人で突っ走ってくお前の成長が見れて。」

 

「だからそういうことよりもだな・・・・・・。」

 

あくまでも的外れな物言いに半分ほど呆れ、苦笑しながら言う。

 

そのやり取りに、アスナ、ユイ、シリカ、リズ、リーファ、アリス、シノンの七人は互いに顔を見交わし、揃ってプッと吹き出した。

 

ひとしきり笑ってからアスナも口を開く。

 

「キリト君、そんなに抱え込まなくても良いんだよ。」

 

「そうよ、アンタ、どうせアタシ達が止めても一人でばーっと突っ込んでっちゃうんでしょ?」

 

「パパの無鉄砲(むてっぽう)さはALOイチですから。」

 

「そうだよ、お兄ちゃん。折角の神話級(レジェンダリィ)クエストなんでしょ?みんなで楽しもうよ。」

 

リズにユイ、リーファまでもが続ける。

 

「あ、あたしはキリトさんと・・・・・・。何でもないです!みんなALOが無くなっちゃったらイヤですもんね!」

 

シリカも何かを言いかけるが途中で止める。

 

キリトの懸念(けねん)していたことなど考えもしない様なみんなの反応に若干気圧されながらも乾いた口から呟く。

 

「みんな・・・・・・ありがとう。────そうだな、折角のクエストだし楽しく行かなきゃな。」

 

そう言ってニヤッといつものように不敵な笑を浮かべながら、何時ぞやのエクスキャリバー獲得クエストの時の再現のように明るい声で告げる。

 

「みんな、今日はこんな時間にも関わらず急な呼び出しに応じてくれてありがとう!このお礼はいつか必ず、精神的に!それじゃあ、サクッとクリアしてALOを救おうぜ!」

 

今度こそ、おー!という迷いのない唱和が室内に響き渡った。

 

 

────そしてそれぞれの思いを胸に十五人の背教者達と、十人と一匹の妖精達は同じ目的の元、始動するのだった。

 

 

 




【Memo】
■Solt (ソルト)
ギルド「フラグメンツ」所属。基本何でもできる万能プレイヤー。ギルドの専属スミスでもある。

■Wiz (ウィズ)
ギルド「フラグメンツ」所属。可愛らしい見た目をしている。だが男だ。情報屋のアルゴに憧れて情報屋紛いのことをしている。


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