Sword Art Online ~断片ノ背教者達~   作:ᏃᎬᎡᎾ

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どうも、ゼロです。
遅くなってごめんなさい!!
前回はプロローグだったので投稿下限の文字数で投稿したのですが、今回は4000文字と割と多めかな...と思ってます。
まだ物語的に導入なのでライトに書いてます。





神話級ノ試練

アインクラッド第37層はフィールド全体が森に覆われた緑の国だ。フィールド中央に設置された巨大な湖からは放射状に川が広がり、その一つ一つがダンジョンや街へと通じている。

 

いつもは一面緑に覆われているこのフィールドも、今は赤や黄色の紅葉に彩られている。

 

現実世界も9月の半ばに差し掛かり、季節は秋に差し掛かっているが、年々温暖化が進んでいるため、まだ紅葉は東北近辺でしか見られないので、中部地方に住んでいる僕が紅葉を楽しめるようになるのはまだまだ先になりそうだ。

 

しかし温暖化の波もゲーム内には及ばず、一面紅葉に覆われているこの時期のフィールドではモンスターがほとんど出現しないため、紅葉目当ての観光者もしばしば見受けられる。

 

そんな紅葉色づく森林を抜けた先にある小高い丘、そこにギルド「フラグメンツ」はギルド本部を構えている。

 

小規模ギルドが本部とするには少し大きめの、中世スイスの民家を思わせる家で、100平米を大きく上回る土地に木造5階建てとなかなかの豪邸である。

 

実は、フラグメンツがこの地にギルド本部を構えたのはつい先日の事で、それまでは世界最大の都市、王都アルンの中心街にある石造りの豪邸に本部をかまえていた。

 

しかしこの層に観光に来た時にこの家から見える美しい景色と家の外観に一目惚れして即座に購入ウィンドウのOKボタンを押してしまった。

 

・・・そして後から会計のシャドーに怒られたことは記憶に新しい。

 

 

 

「おいゼロ、これ見てみろよ」

 

机の隣で熱心にブラウザ窓から何かを見ていた小柄な男が話しかけてきた。

 

所々にピンと跳ねた癖っ毛がある黒のショートヘアー、その上から生えた三角形の大きな耳は、猫妖精族(ケットシー)の証である。少し黒みがかった肌に髪と同じ色をした艶のある黒目を光らせている。

 

彼の名前はダン。

 

彼も、と言うべきかフラグメンツに所属するメンバーの殆どはSAO時代からの付き合いになる。当然、ダンもSAO時代から加入しているメンバーの1人だ。

 

彼はウィンドウをこちらに向けながら好奇心旺盛そうな猫妖精族特有の大きな目でこちらをじっと見てくる。

 

僕は開いていたタブを保存してから一括消去し、ダンが差し出してきたウィンドウをのぞき込む。

 

予想していた通り、表示されているのは国内最大級のVRMMO(仮想大規模オンライン)RPG情報サイト、「MMOトゥモロー」のニュース記事だった。ページカテゴリはALO、つまりこの世界の情報だ。

 

記事内にはアルヴヘイムの下層にあるフィールド、ヨツンヘイムと思われる緑に覆われた遺跡の廃墟が映し出されたスクリーンショットが載せられていた。

 

ヨツンヘイムは元々、薄闇に覆われた恐るべき巨大な人型の邪神級(じゃしんきゅう)モンスターが支配する闇と氷の世界であった。

 

しかし、2025年の末にカーディナル・システムに搭載されていた「クエスト自動生成機能」の暴走によって起こったとある大事件により、一面緑に覆われたフィールドに包まれてしまったのだ。

 

そのヨツンヘイムが映し出されたスクリーンショットが掲載されているということは、大方また新しい遺跡が見つかったと言ったような新規クエスト発見のニュースであろう。

 

僕はそのまま記事のリード文に目を落とす。

 

そして、僕は驚愕に見舞われた。

 

【カグツチの()全滅!!?高難易度神話級(レジェンダリィ)クエスト「ギンヌンガガプの門」発見される!】

 

「おいおい、マジかよ・・・」

 

「カグツチの環」と言えば、最近になって発足された炎妖精族(サラマンダー)のユージーン将軍率いる48人構成の精鋭部隊である。

 

邪神級モンスターすらほぼ無傷で葬り去る程の強さを持つ、現在ALO内最強と言っても過言ではないレイドパーティが全滅したというのならそのダンジョンの難易度は現行の最難関ダンジョンを大きく上回ることになる。

 

「カグツチの環ですら数分で全滅か・・・

う──ん・・・これは僕達には無理じゃないか?」

 

僕は低く唸った。

一方ダンは、期待に目を光らせながら言った。

 

「誰もクリア出来ないと思われているダンジョンを小規模精鋭が攻略する・・・燃えないか?」

 

僕はこめかみを抑えた。こうなったダンはもう誰にも止められない。

 

「シャドーちゃんはどう思う?」

 

仕方が無いので奥で何やら熱心にユルドの計算をしている風妖精族(シルフ)の少女に話を振る。

 

「ボクは行ってもいいと思うよ~?」

 

艶のある銀髪を頭の両側で結わえて垂らし、透明感のある白い肌に深い海を思わせるぱっちりとした青い目。

 

どことなくふわふわした雰囲気を纏うこの少女の名前はシャドー。ギルド内では主にユルドの管理やアイテムの分配などの取り仕切りをしている。

 

シャドーも一応は賛成派のようだ。

多数決を取ろうかと思ったがリアルでは今は明朝にあたる時間帯だ。よって殆どのメンバーはログインしておらず、今この場にいるのはダンとシャドーとこの僕だけだ。

 

「仕方ないなぁ・・・」

 

僕は渋々スケジューラーから予定を引き出す。

 

「今週の日曜日ならみんなの都合が合いそうかな・・・?」

 

「ボクは大丈夫だよー。」

「俺も日曜日なら24時間いつでもおっけーだ。」

 

2人は口々に言うが、この2人は基本的に常時ログインしていて、いつでも暇そうなので放っておく。

 

僕は左手を横に振って先程まで開いていたウィンドウを開き、そこから外部メッセージタブを引き出して素早くメッセージを打ち込んでから送信した。

 

新ダンジョンに乗り込む時はいつも誰かがトラブルを起こすのであまり乗り気では無いのだ。

 

まぁ最近は素材収集系のクエストばかりやっていて、いい加減飽きていたところだったので気分転換には丁度いいのだろう。

 

そんな言い訳じみた事を思いながら、ふと視界右端に表示されている時計を一瞥した。時刻は午前5時を少し回ったところだった。

 

「もうこんな時間か、ごめん、もう落ちるね。」

 

僕はウィンドウを出し、ログアウトボタンに人差し指を乗せた。そのままOKボタンに触れる。

 

「おつかれ~」

「またな~、ゼロ!!」

 

2人の呑気な声が次第に遠ざかる。周囲の風景も徐々に虹色に包まれてゆき、そしてブラックアウトした。

 

そして闇妖精族(インプ)、ゼロとしての肉体感覚が薄れてゆき、最後に一瞬の浮遊感が訪れ、消えた。

 

 

※※※

 

 

僕はゆっくりと、瞼を開けた。見慣れた自室の天井。続いて壁に貼った来期アニメの大きなビジュアルポスターが目に入る。

 

ゆっくりと息を吐き出しながら僕は両手を頭に回してゆっくりと円冠状の機械「アミュスフィア」を外した。

 

数ヶ月前に出たばかりのこの「アミュスフィア2」は、前世代の安全機構を受け継ぎつつ初代機、「ナーヴギア」の様なクリアーな接続感を追い求めた、レクトプログレス発売の新型のフルダイブ型VR(仮想現実)機械である。

 

僕はそれを壁にかかったラックに乗せ、ベットから上体を起こし、ベットからのそのそと這い出た。

 

ふと目をやった部屋の隅に立てかけてある大きな姿見に自分の姿が映る。

 

仮想世界の中でのゼロより幾ばくか細めの体。身長は170を少し過ぎたくらいで、少しウェーブがかった黒髪に一重瞼の目。

 

これが現実世界の僕、戸崎零桜の容姿だ。

 

仮想世界のアバターは旧SAOサーバーに残っていたものをALOにコンバートしたものなので容姿はほぼ同じなのだが、2年半運動をしていなかった分こちらの方が痩せている。

 

まぁ知能派の闇妖精族と言うのならこっちの姿の方がイメージ的にピッタリなのだが...

 

そんな事を思いながら寝巻きからジャージに着替え、昨日の夕食の残りで簡単に朝食を済ます。

 

SAO帰還後、勉強だけは人1倍出来た僕は市外の進学校へ苦もなく編入することが出来た。

 

その際に今後の進路のことも考えて両親に一人暮らしをしたいと申し出た。始めは反対していた両親も、最後には成績の定期的な報告などを条件に了承してくれた。

 

そんなこんなで一人暮らしを始めて約2年半が立つが、父親が大手企業の上層部に勤めているため、月20万以上の仕送りを受けて高校生としてはかなり裕福な生活をしている。

 

────まぁ流石に今のように勉強もバイトもせずにALOに長時間ログインし続けるのはやりすぎたと思っているが。

 

すっかり空になった皿を暫し見つめたあと、それを片付けてから昨晩からずっと開きっぱなしだったデスクトップのパソコンの前に腰を下ろす。

 

そこからブラウザを起動させ、お気に入りタブからとあるサイトを呼び出した。

 

「ぶいそく」の愛称で知られるそのサイトは正式名称を「VRMMO情報まとめ速報」といい、広がり続けるVRMMO世界の様々な情報を掲示板やSNSから抜き出し、まとめられたものが掲載されている。

 

右手の指先で3Dマウスを操り、新着ニュースから目当ての情報「ギンヌンガガプの門」についての記事を探す。そして数秒後、容易に見つかったそれはやはりトップニュースを飾っていた。

 

記事を1通り読み終えたあと、ページ下部のコメント欄へ目を移す。

 

コメント欄では突然発見された神話級クエスト──神話の固有名詞を冠するクエストのことだが──、の出現でかなり荒れていた。僕はそれを上から流し読みした。

 

 

 

────ギンヌンガガプって神話上では世界の創造の前に存在していた巨大で空虚な裂け目ってやつだろ?

 

────そうそう、でもそんな大仰なダンジョンの割にはたったの4層構成らしいな

 

────4層だけだが記事ちゃんと読んだか?相当のクソ難易度。旧運営体の世界樹並だぞ

 

────それってクリア出来ないってことだろ。キークエも無しか?

 

────だから記事読めってwその名の通りグランドクエスト挑戦のための鍵が貰えるクエストだけ

 

────やっぱ誰かが攻略すんの待つしかねーなこれ、カグツチさん再挑戦オナシャス!!

 

────結局サラマンダーかよw

 

────・・・・・・・・・

 

 

 

他のサイトにも飛んでみたが、ユーザー達は突然の神話級クエストの追加で混乱しているらしい。

 

それもそうだ。運営のアナウンス無しに神話級クエストが追加された例はシステムの予期せぬ暴走によって出来たエクスキャリバー獲得クエスト、ただ1回のみなのだから。

 

ふと時計を見ると、6時半を回っていた。

 

僕は少々急ぎ気味で制服に着替えて、用意してあった荷物を掴んで家を出た。

 

外に出ると、この時代では珍しい旧式の電子錠で深緑色のドアに鍵を掛け、僕は慌ただしく学校へと向かった。

 

 




【Memo】
■Dann (ダン)
ギルド「フラグメンツ」所属。何かと不器用な性格だが、根は優しい

■Shadow (シャドー)
ギルド「フラグメンツ」所属。おっとりした性格だが、戦闘時になるとたまに性格が変わる。

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