キリトに双子の妹がいたとしたら   作:たらスパの巨匠

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兄は身の危険を感じます

 

 

 総督府に着いた私たち三人は、無事BOBへのエントリーを行うことができた。初エントリーだったので大会で好成績を残した人の家に景品を送付するための住所入力画面とかが出てきたが、時間もないし、セキュリティの問題もあるため今回は住所等の個人情報の入力画面はスキップした。

 

 「ふう。なんとか無事にエントリーできたわね。あなたたちのおかげよ。ありがとう。」

 

 「お礼を言うのはこっちの方だよ。シノンがいなければ大会へのエントリーどころか武器の購入もできてたか怪しかったし。」

 

 「その通りだな。サンキューシノン。」

 

 「じゃあ、とりあえず地下に向かいましょうか。」

 

 

 私たちは地下に向かった。総督府の地下には多くのプレイヤーが武器や防具をフル装備で大会が始まるのを待っていた。

 BOBは総督府の地下から大会参加者をフィールドに転移させ、そこで戦闘を行うらしい。また、戦闘の様子は地下にある大きなスクリーンに中継されるようだ。今から始まるのは予選だが本選も基本的に同じらしい。また中継は地下のスクリーン画面からじゃなくても、普通のパソコンやスマートフォン、他のVRMMOからも見ることができるのだとか。

 私たちは装備を変更するために更衣室に向かった。キリトとは別れ、シノンとともに女子更衣室に入る。

 

 「全く、バカばっか。」

 

 更衣室に入るとシノンは不機嫌そうにソファーに腰かける。

 

 「ど、どうしたのシノン?」

 

 「予選が始まる前に装備を見せびらかして。対策してくださいって言ってるようなもんじゃない。」

 

 どうやらシノンは先ほど地下にいた人たちの行いが気に入らなったようだ。道案内や武器の購入など手伝ってくれてとてもやさしいけど、シノンはガチ勢の中でも過激派なのかもしれない。

 

 「きゃああああーーーー!!!」

 「ち、痴女だ!痴女がでた!!」

 「えちょ、まっ、俺は男だっ!!」

 

 そんな時更衣室の外から野太く、聞く者に不快感を抱かせるような悲鳴があがった。

 

 「・・・彼、大丈夫かしらね。」

 

 どうやら男子更衣室に入ったキリトは女に間違えられたらしい。仕方ないよね。どっからどう見ても男には見えないよね。ていうか私の目から見ても、現実世界の私とほぼ区別つかないし。これで今のキリトを男に見えるとかいう奴がいたら私はそいつに斬りかかるかもしれない。

 

 

 

 

 

 私とシノンは着替えを済ませ、総督府の地下にある会場に戻った。今は防具だけを身に付けている。シノン曰く、今いる会場から待機空間のようなところに転移した後、フィールドに転移するらしい。そのため、武器等はその待機空間で装備するのが良いとのことだ。

 着替える前に決めていた集合場所に向かうと、キリトがソファーの上で震えながら座っていた。

 

 「・・・えっと、だ、大丈夫?」

 

 シノンがキリトに声をかける。するとキリトは目に涙を浮かべながらシノンを見た。

 

 「おれ、このげーむこわい。」

 

 「・・・キリト。何があったの?」

 

 「・・・更衣室に入ったんだ。すると男子更衣室に入ってきた痴女と間違えられた。これはまだいい。なんせこのアバターだ。間違えるのも無理はない。それは俺にもわかる。

 そのあと何とか誤解を解いて、着替え始めたんだが周囲から視線を感じたんだ。それもただの好奇心からくるような視線じゃないんだ。身の危険を感じるような視線なんだ。俺が着替えるのを見て息を荒げてるんだ。しかもそいつは俺が男と分かったうえで、そうなってたんだ。俺はその空間がたまらなく怖かったんだ。本当に、怖かったんだ・・・」

 

そう言ってキリトはソファーの上で体育すわりをしながら顔を膝にうずめていた。本当に怖かったのだろう、今もまだ震えている。

 

 「だ、大丈夫よキリト。変な人はいてもさすがに手を出したりなんてしてこないから。それにそんなことしたらアカウントも停止されてしまうし、育てたアカウントを捨てるような真似する人なんていないって。」

 

 「そ、そうだよキリト。シノンの言うとおりだって。大丈夫だから元気出して。」

 

 「二人とも・・・ありがとう。」

 

 

 だが、この時の三人はまだ知らない。今回の大会で、きわどい格好をしたクールビューティー・シノンに撃ち抜かれたい派とイケメンなユカちゃんにぶった斬られたい派と周りを警戒しながらビクビクしている男の娘キリトちゃんこそ至上派が生まれ、裏で骨肉の争いを繰り広げることになるということを。

 

 

 

 そのあとシノンは大会についていろいろと教えてくれた。ほんとにシノンには頭が上がらないよ。もう少しで予選が始まるという時間になって一人のプレイヤーが私たちの席に近づいてきた。

 

 「シノン!」

 

 「シュピーゲル。あなたもここに来たのね。」

 

 「シノンの勇士を少しでも近くで見たいと思ってね。えっと、そちらのお二人はシノンのお友達かな?」

 

 「ええ、そうよ。と言っても今日会ったばかりなんだけどね。」

 

 「初めまして。ユカと言います。」

 

 「あ、初めまして。僕はシュピーゲルと言います。・・・えっと、そちらのもう一人の彼女は?」

 

 「あ・・・えーーっと。あんなアバターなんだけど、一応男なんだ。ただ、今はちょっと精神的にショックなことがあって。そっとしてあげてほしいかな。名前はキリトっていうんだけど。」

 

 「そ、そうなんだ。詳しいことはあまり聞かないでおくよ。」

 

 「そうしてくれるとありがたいかな。」

 

 シュピーゲルと自己紹介をしていると予選が始まる時間となった。

 

 「ほら!キリト!もうすぐ始まるよ!そんなんじゃ予選突破なんてできないよ。元気出して!」

 

 「・・・ああ。そうだな。」

 

 キリトも少しは回復した。不安は残るけど、まあ大丈夫だろう。

 私は光に包まれて転移した。

 

 

 待機空間に転移して、私は武器を装備した。あとはフィールドに転移するのを待つのみだ。フォトンソードとコルトパイソン357マグナムの感触を確かめ、カウントがゼロになるとまた光に包まれ転移した。

 転移したフィールドは廃墟のような場所だった。当たり前だがフィールドが広い。銃撃戦を行うのだから、二人しかいないフィールドもかなり広く設定されている。

 しかし、これだけ広いと敵プレイヤーがどこにいるか分からないな。ある程度近くになればわかると思うんだけど。

 SAOの最前線で命を懸けて戦っていたプレイヤーは危機察知能力が高い。その中でもソロで活動していたキリトやユカはフィールドのどのあたりにどんなものがいるかなんとなく察知できるくらいだった。

 しかし、フィールドに何がいるかわかると言っても、それは遠距離攻撃が基本的に無いSAOでの話である。流石にFPSの広いフィールドで何の手掛かりもなく敵の位置を把握するのは無理があった。

 

 (せめてどっちの方向にいるかとか分かればいいんだけどなぁ)

 

 ユカは廃墟のビルの中に入った。そのビルの二階、階段の近くにある部屋に身を隠した。敵プレイヤーがどこにいるかまだ分からない。部屋にある窓から外を見るが敵の姿はない。

 

 その場所で一分くらいとどまっていると、外で何か物音がしたような気がした。窓から外を確認しようと少し顔を出したとき、ユカの目には向かいのビルの四階からこちらに銃口を向けているプレイヤーの姿が目に入った。

 ユカはそれを確認すると同時に窓際から飛びのいた。飛びのいた直後、窓から銃弾の雨が部屋に飛び込んできた。銃声がしなくなり、部屋から出ようとしたとき、グレネードが投げ込まれた。ユカは急いで部屋から飛び出し、そのまま階段を駆け上がり屋上に出た。

 足音からして相手はまだ向かいのビルの中にいる。ユカは助走をつけ向かいのビルにジャンプした。ビルは六階建て。落ちれば即死である。敵プレイヤーは四階でまだこちらをうかがっていたようで、ジャンプしたユカに向かって銃口を向けトリガーを引いた。

 ユカはフォトンソードと右手に持ち、向かってくる銃弾を空中で斬った。そして向かいのビルの屋上に着地し、敵プレイヤーがいるであろう場所に向かって走った。階段を下りていくと、敵プレイヤーはビルの二階にいた。相手はサブマシンガンを連射してくる。こちらも壁に隠れながらコルトパイソン357マグナムで応戦するが、なかなか当たらない。このままではジリ貧なのでユカは敵プレイヤーがマガジンを交換するタイミングで勝負に出ることにした。敵プレイヤーが弾を撃ち尽くし、移動し始めた後を全速力で追う。敵プレイヤーは曲がり角を曲がったところでマガジンの交換を終え、こちらを向いたところでユカは曲がり角から二メートルくらいの所にいた。

 ユカはそこから壁を蹴り、立体機動で一気に曲がった。GGOではなかなか見ることのない動きに敵プレイヤーがユカを一瞬見失ったところで、ユカはフォトンソードを振り抜き、敵プレイヤーを両断した。

 

 

 

 勝利したユカは総督府の地下に転移した。シノンとキリトはまだ戦闘中のようだ。

 後ろから気配を感じ、振り向いた。

 そこにはフードを被り、目を赤く光らせた骸骨のようなマスクを装備したプレイヤーがいた。ユカはその異様さに思わず後ろに下がった。

 

 「お前の、戦いを見た。」

 

 そのプレイヤーはユカに向かって続ける。

 

 「あの動き、あの剣技、お前、本物か?」

 

 「・・・何のこと?」

 

 そういうとそのプレイヤーは腕にある刺青を見せてきた。

 

 そこにあった刺青はSAOのレッドギルド、ラフィンコフィンのものだった。

 

 

 

 


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