どうやら私は世界樹の上に転移したらしい。
茅場晶彦に教えられていた切札を使ったのだ。その結果、私とユイちゃんは世界樹の上に転移した。今は通路のようなところにいる。リーファの話だと世界樹の上には天空都市が存在しているとのことだったが、ここは天空都市の建物の中なのだろうか。
「ユイちゃん。ここがどこか分かる?」
「はい。世界樹の上であることは間違いないようですが・・・」
「ってことは天空都市の中ってこと?」
「いえ、天空都市というよりは施設という感じです。都市は存在していません。」
どうやら施設があるだけで天空都市は存在していなかったようだ。それゆえ、グランドクエストがあの難易度で。クリア条件も不明。天井の扉も開かないようになっていたのだろう。
「キリトとアスナはどこにいるかわかる?」
「はい。パパとママの居場所はプレイヤーIDをたどればわかります。こっちです!」
私はユイちゃんの後を追いかける。ユイちゃんは転移した後SAOの時の姿に戻っている。通路は同じデザインで今自分がどこにいるのか分からなくなりそうなくらい目印がなかった。
ユイちゃんは立ち止まり壁に向かって手を伸ばした。すると壁が消失し部屋が現れた。隠し扉だ。
私たちはその部屋の中に入る。
「パパ!!」
部屋の中央にベッドがあり、その上に拘束されているプレイヤーがいた。そのプレイヤーは拘束されているためこちらを見ることができない。
「ユイ!ユイなのか!?」
「はいパパ!私です!ユカお姉ちゃんと一緒です。」
私はキリトを拘束している拘束具を斬り、キリトを解放し、抱きしめた。
「ごめん、カズ。遅くなって・・・」
「俺は大丈夫だ。心配をかけたな。」
私はカズが無事だったこと。また会えたことに安堵して涙してしまっていた。カズは私を慰めてくれた。・・・本当に生きててよかった。
「ユカ、ユイ。二人ともありがとう。でもまだアスナが捕らえられているんだ。」
「そうだね。ごめん。泣くのはまだだった。全部知ってる。アスナを助けに行こう。」
「ママはあっちです!」
私とキリトはユイに案内されアスナのもとに向かう。通路のような部屋から屋外に出た。世界樹の枝に出たようだ。かなりの高度があるらしく、アルンの街がかなり小さく見える。枝の先に鳥籠のようなものがあった。鳥籠と言っても人が入るのに十分な大きさがあり、十畳くらいの広さがあった。
その鳥籠の中に一人のプレイヤーが椅子に座ってうつむいている。
「ママ!!」
ユイが叫ぶと鳥籠の中のプレイヤーは立ち上がりこちらに顔を向けた。
「ユイちゃん・・・キリト君・・・ユカ・・・」
アスナは私たちの名前を口にすると口を両手で覆い、その瞳からは涙が溢れた。
私は鳥籠にかかっていたカギを破壊した。そして、四人はお互いを強く抱きしめた。
「よかった・・・キリト君もユカもユイちゃんも生きてて、また会うことができて本当に良かった。」
「ああ。・・・本当に良かった。これもユカのおかげだ。」
「ありがとね、ユカ。・・・それとキリト君。私のせいで、本当に、ごめんな、さい。」
アスナはキリトが拷問にかけられていたことを知っているのだろう。
「俺は大丈夫だ、アスナ。」
そういってキリトはアスナを抱きしめ、慰める。ユイはキリトとアスナにくっついている。
世界が暗転した。
世界樹の枝の上に居たはずなのに、今は見渡す限りが黒い空間だ。どこまでも続く黒い空間。
「な、なんだこれは!?」
「パパっ!?ママっ!?」
「ユイ!!」
「ユイちゃん!!」
ユイちゃんはポリゴンとなり消えてしまった。ただ、今はキリトのアイテム扱いだと言っていたので消失したわけではないだろう。
ユイちゃんが消えた後床に魔法陣が浮かび上がり、キリトとアスナが床に吸い寄せられるように突っ伏した。
足音が聞こえ、どこからともなく一人のプレイヤーが現れた。
「まったく、少し目を離した隙にドブネズミが紛れ込ん・・・貴様、なぜ立っていられる!?」
「え?・・・なぜと言われても・・・」
現れたのは気味が悪いほど整った容姿をした一人のプレイヤーだった。
「・・・まあいい。まだ実装前だから何かしらのバグだろう。
改めて、僕の名前はオベイロン。君はまあ、ユカ君だろう?」
「・・・お前は須郷か。」
「現実の名前はよしてくれ。この世界では僕はオベイロンだ。妖精王オベイロお、お、お、か、か、か、か、かかかかかか・・・」
「?」
いきなり須郷の調子がおかしくなった。指をさしながら目を見開いている。
私は気になって後ろを振り返った。
振り返るとそこには茅場晶彦がいた。現実世界の姿で私の後ろに幽霊のように浮いている。いや、本人は幽霊というよりスタンドのつもりなのだろう。完璧なジョジョ立ちである。それに効果音まで聞こえてくる。
茅場晶彦、ノリノリである。
「か、茅場!!!」
「どうしたのかね、須郷君。そんな険しい顔をして。」
あ、あの茅場さん、完璧にポーズ決めたままそんな真剣な声で話されても困るのですが・・・こんなのどう考えても相手を煽っているようにしか見えないんですが。
「ふ、ふざけるなあああああ!!!!」
まあ、そうなるよね・・・
「いつもいつも僕の邪魔ばかりして!!貴様さえいなければ!!第一、死んだんじゃなかったのか!?」
「私はただの残像、茅場晶彦のコピーだ。」
「はあ!?何をわけのわからないことを!」
「何を怒っているのか分からないが、怒りを覚えているのは私も同じだ、須郷君。」
「なんのことだ!?」
「私はSAO、アインクラッドを作り出し、そこで私が敗れた場合生き残っているすべてのプレイヤーをログアウトさせアインクラッドを崩壊させることでフィナーレを迎えるはずだった。だが、そのフィナーレを汚し、プレイヤーを捕え、人の脳をいじくりまわし、思考や感情を操る研究のモルモットにした。」
・・・どうしよう。重要な話をしているはずなのに、びっくりするくらい内容が頭に入ってこない。どう考えてもジョジョ立ちのままするような話ではないことだけは確かだ。稀代の天才と言われていたが、天然なのか。それとも常人には理解できないから天才なのか・・・
いや、さっき茅場晶彦は自分のことを、ただの残像、茅場晶彦のコピーだと言っていた。ということはつまり、今の茅場晶彦は現実ではすでに死んでいるがプログラムとして生きているということだろう。もしかしたら何か重大なバグが発生しているのかもしれない。そうだと信じたい。
「君のしたことは世間的にも許されることではない。それに私のフィナーレを汚した責任と罰を受けてもらおう。」
「ククク・・・一体どうするというんだ?世間が貴様らの言うことを信じると思うのかい?そんな研究をした証拠はどうするつもりだ?何よりこの世界では僕こそが神!!誰も僕に逆らうことなどできやしない。君たちはここで終わりだよ。
システムコマンド!オブジェクトIDエクスキャリバーをジェネレイト!!」
須郷が腕を前に突き出し叫ぶが何も起きなかった。
「な、なぜだ!?」
「須郷君。君の負けだよ。」
そういうと茅場晶彦は指を鳴らした。すると床の魔法陣が消え、キリトとアスナが立ち上がった。
「ぼ、ぼ、僕より高位のIDを持っているのか!?そ、そんなことはあり得ない!!」
「あり得ないことはないだろう。この世界は私が作った世界のコピー品に過ぎないのだから。」
須郷は悔しそうにその場で地団太している。
「ユカ君、キリト君、アスナ君。君たち三人には苦労を掛けた。それにこの男に恨みがあるだろう・・・
システムコマンド、ペインアブソーバーをレベル0に。
システムコマンド、オブジェクトIDエクスキャリバーをジェネレイト。」
茅場晶彦の手に金色の一振りの剣が出現した。
「須郷君!君に最後のチャンスをあげよう。」
そういうと茅場晶彦は須郷に向かってエクスキャリバーを放り投げた。須郷はエクスキャリバーを受け取り、よろけた。
「ペインアブソーバーが0の状態でユカ君と戦いたまえ。君が勝ったら私がコピーした君の研究結果を削除しよう。」
「え?」
いきなり言われたからびっくりした。いい加減その恰好をやめてほしい。
「なに!?研究結果のコピーだと!?」
「先ほど私がコピーしたものだ。これが君のしてきたことの証拠になるだろう。」
「・・・僕が勝てば削除するんだな?」
「ああ。約束しよう。」
私と須郷が戦うこととなった。ペインアブソーバーを0にしているから危険ではあるが。この状態で須郷を倒せばおそらくログアウトするだろう。そちらの方が都合がいい。それに須郷にはアスナを監禁し、キリトを拷問された恨みもある。
須郷が私に斬りかかってくるが、初心者の動きだ。スピードもまるでない。私は須郷の腕を斬り落とした。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
須郷は絶叫しながらその場にうずくまっている。
「ま、待ってくれ!助けてくれユカ君!今ペインアブソーバーは0なんだ。これ以上やられると・・・」
・・・たすけてくれ、だと?ペインアブソーバーを下げ、カズを拷問していたお前が?
私は須郷を斬りまくった。10分割以上したところで須郷はポリゴンとなり消えた。ペインアブソーバーが0だとしても死にはしない。
「さすがの剣技だな、ユカ君。流石私を倒した剣士だ。」
「・・・あの、茅場さん。そろそろその恰好どうにかなりませんか。そろそろというかもうだいぶ手遅れ感がすごいですけど。」
「ああ、すまない。ちょっとあのポーズが気に入ってしまってね。」
茅場晶彦はやっとまともに話ができる体勢になった。どうやらバグが発生していたわけではなかったようだ。いっそのことバグであってほしかった。
「まずは謝罪をさせてくれ。ユカ君、キリト君、アスナ君、私が至らなかったために君たちには迷惑をかけた。まあ、SAOを作った私が迷惑をかけたというのはおかしいかもしれないがね。」
そういうと茅場晶彦は頭を下げた。
その後茅場晶彦は世界の種子だという「ザ・シード」を私に託し、捕らわれていたプレイヤーを開放して消えていった。
「私とキリト君もログアウトできるんだよね?」
「ああ、そのはずだ。」
「じゃあやっと現実世界で二人に会うことができるんだね。」
「うん。すぐに会えるよ。キリトとアスナ同じ病院にいるし。」
「えっ?俺たち同じ病院にいるのか!?」
「そうだよ。だからすぐに会えるよ。」
「やったね!キリト君!」
「この後ログアウトしたら私もすぐに病院に向かうよ。」
「さっきの奴が何かしてくるかもしれない。後日の方がいいんじゃないか?」
「でも・・・私も二人に会いたい・・・」
「そうか・・・じゃあ誰かと一緒に来た方がいいな。一人では危ない。」
「ユカ。無理しないでね。」
そうして二人はログアウトした。
二人がログアウトした後、私も病院に向かうためログアウトした。