私はALOの中の宿で目を覚ました。
「こんにちは。ユカお姉ちゃん。」
ベッドのそばにある机の上にユイちゃんが座っていた。
「ユイちゃんはずっとここにいたの?」
「はい。私は今パパのアイテム扱いです。私に設定されているHPが0になるとパパのアイテムストレージに転送されますが、今のところそれ以外でパパの下に行くにはグランドクエストをクリアする以外に方法がありません。なのでずっとここにいました。」
「そっか。じゃあ一緒に行こう。」
「はい!」
ユイちゃんは私の胸ポケットに入った。
私は外に出た。そこにはリーファがいた。
「行こう。お姉ちゃん。」
私はリーファと一緒に世界樹の根元に向かった。そしてグランドクエストを受けるために世界樹の中に入るための扉の前に立つ。
「やっと会えるね。カズ。アスナ。」
そうして私は扉の中に入っていった。
世界樹の中は円柱状の部屋になっていた。壁には装飾が施され穴のようなものもある。おそらくあそこから騎士のようなエネミーがポップするのだろう。
部屋の中央に近づくと上空に騎士のようなエネミーが現れる。ざっと見たところ百体ほどだろうか。リーファに聞いた話だと上空に進めば進むほど数は増えるらしい。
「リーファ。援護よろしくね。」
「・・・わかった。頑張ってねお姉ちゃん。」
私は翼を出現させ飛びあがった。
しかし、結果は惨敗。ユカはHPが0になり、リメインライトとなった。リメインライトとは魂のようなもので、このリメインライトをほかのプレイヤーが一定時間内に回収すれば蘇生が可能となる。
ユカのリメインライトをリーファが何とか回収し、世界樹の扉から出たところでユカを蘇生した。
「・・・ありがとう。リーファ。」
「・・・うん。」
グランドクエストは想定していた以上の難易度だった。
リーファはユカならもしかしたらクリアできるかもしれないと思っていた。サラマンダーの軍とも支援があったとはいえ、一人で壊滅させたユカならグランドクエストでも切り抜けられるんじゃないかと。
ユカもクリアのチャンスはあると思っていた。SAOの最前線でソロで活動していたし、ボスを一人で倒すこともあった。二年間デスゲームで戦い続けてきたという自信もあった。一般に発売されているゲームであれば、仮想環境に長い事触れた自分ならクリアできるのではないかと。
しかし、このグランドクエストはまるでクリアさせる気がないと思えるほどの難易度だった。勝てるビジョンが全く見えない。
しかし、あきらめるわけにはいかない。今この瞬間もキリトが拷問を受け続けているのかもしれないのだ。
ユカはもう一度扉の前に立つ。
「お姉ちゃん!・・・今のままじゃ無理だよ。難易度がめちゃくちゃすぎる。」
「・・・それでも、行かないと。」
そんな時世界樹に向かってくる足音があった。
「リ――ファちゃーーーん!」
「あ、レコン。」
レコンは息を切らしながら私たちのもとまで走ってきた。
「探したよリーファちゃん。メッセーッジ飛ばしても連絡つかないし。」
「・・・そういえばメッセージ来てたけど見てなかったわ。」
「サクヤさんも連絡つかないって言ってたよ。まあ、サクヤさんからリーファちゃんに連絡つかないから何か知らないかと聞かれたんだけど。」
「サクヤが?」
「うん。なんでも臨時収入があったらしくて装備が整ったからグランドクエストに挑戦するんだって。今ここに向かってるみたい。」
レコンの言葉はユカとリーファにとって何よりもうれしいものだった。
しばらくしてサクヤとアリシャ率いるシルフとケットシー同盟の軍が到着した。
「サクヤ!」
「リーファ!アルンにいたんだな、ちょうどよかった。」
「ユカちゃんもこんにちは~。君のおかげでグランドクエストに挑戦できるヨ。まさかこんなに早くなるとは思わなかったけどナァ~。」
ユカが渡した資金でグランドクエスト攻略のための資金が集まったのでこうして世界樹までやってきたらしい。
「二人はグランドクエストには挑戦したのかい?」
「はい。一度挑戦しました。けど・・・」
「正直クリアさせる気があるのかという数だったわ」
「・・・なるほどぁ。ユカちゃんがいても駄目だったのか。」
「はい・・・一体一体はものすごく弱くて一撃で倒せるくらいなんですけど、ポップ率が異常です。」
(・・・あの敵そんなに弱かったか?)
サクヤは疑問に思ったが口には出さなかった。
「やはり、グランドクエストは物量戦になるな。」
シルフ・ケットシー同盟の作戦は、シルフ軍が魔法で、ケットシー軍がドラゴンによるブレスで押し切るというものだった。もちろん魔法には詠唱寺間があり、ドラゴンによるブレスにはクールタイムがあるため白兵戦もある。
ユカとリーファは白兵戦の遊撃部隊としてクエストに挑むことになった。
世界樹の扉から全軍が世界樹の中に入ると、さっそく騎士のようなエネミーが大量に現れた。先ほど二人で挑んだときユカはエネミーのあまりの多さに攻撃をかわすことができずに死んでしまった。だが、今回は違う。魔法とブレスで大量のエネミーを撃ち落とし、近づいてきたエネミーを切り捨てながら、徐々に高度を上げていく。
しかし、天井まで半分を超えたあたりでさらに数が増えた。天井が覆いつくされ見えないほどに。
「なんだこの数は?本当にクリアできるのか!?」
サクヤは予想以上の数に撤退を考えた。しかし、大軍を動かしているため、そう何度も挑戦できるわけではない
せめて一人でも天井までたどり着くことができれば・・・
「ユカ君!」
「なんですか!?サクヤさん!」
ユカはエネミーを斬りながらサクヤのもとに向かった。
「君に頼みたいことがある。」
「なんでしょう?」
「今から魔法とブレスの一斉射撃で天井までの道を作る。その後軍は後退する。君にはそこを通って天井まで行ってもらいたい。ただ、天井まで行くのも危険なうえ、天井までたどり着けなかったら確実に死ぬだろう。」
「わかりました。やります!!」
「頼む。」
サクヤは天井までたどり着けばクリアできると考えた。しかしあの数に軍で突撃すればこちらがやられるだろう。しかし、天井を覆うエネミーに穴をあけそこを通り抜けることができるのではないかと考えた。軍の全滅は許容できない。かといって何もしないまま撤退しても意味がない。なら、失敗すれば確実に犠牲者は出るがクリアの可能性がある方法を選択した。
「全軍!一斉掃射用意・・・撃て!!」
魔法とブレスは天井を覆うエネミーを撃ち落とし大穴を開けた。そこにユカは全速力で突っ込む。SAOで舞姫と呼ばれたユカは向かってくるエネミーをすれ違いざまに斬り、いなしながら進む。天井までつながる穴がふさがる前に天井に到達することができた。
しかし、天井は開かないし、エネミーも消えない。
「な、なんで?」
「お姉ちゃん!この天井の扉はシステム的にブロックされています。プレイヤーにはこの扉を開くことはできません!それに扉の解放条件も設定されていないのでグランドクエストのクリア条件もわかりませんが、クリアしても開かないものと思われます。」
胸ポケットに入っていたユイちゃんが頭を出し答えた。
「そ、そんな・・・」
カズとアスナがこの上にいることは分かっている。みんなの協力を得てここまでたどり着いたのに・・・
その時、ユカは思い出した。
「システムログイン。ID・ヒースクリフ」