氷華を買ったあと、私とリーファは世界樹まで飛んでいくために、スイルベーンで一番高い塔の入り口に来ていた。長距離移動をする際は高度を稼ぐためにできるだけ高い場所から飛んでいくのだ。その方がより遠くまで飛べる。
「そう言えば、リーファ。パーティーメンバーの人達はよかったの?」
リーファが私についてきてくれるのはとても心強いが、リーファにはリーファの人間関係があるはずだ。
「大丈夫よ。もともと、お互いが空いた時間にパーティーを組むって関係だったし。後でメッセージを送っておくよ。」
だが、リーファがメッセージを送る必要はなくなった。
塔に入ると一人のプレイヤーが声をかけてきたのだ。
「おい。リーファ。」
「…こんにちは。シグルド」
リーファがシグルドと呼んだプレイヤーは鎧で身を包み、両手剣を腰に装備していた。その装備は見るからにステータスが高そうだ。
シグルドの他にも二人のプレイヤーがシグルドの左右に立っている。
「俺たちのパーティーを抜ける気なのか?」
「うん。しばらくのんびりしようと思ってね。」
「随分と自分勝手だな、リーファ。」
「…自分勝手って何よ。もともとお互いが空いたときだけパーティーを組むっていう約束だったでしょう?」
「お前は俺たちのパーティーメンバーとして既に顔が売れている。それなのに理由もなくパーティーを抜けられては、俺たちの顔に泥を塗ることになる。」
二人の雰囲気が険悪なものになってきた。
それにしてもシグルドの言い分は呆れるものだ。当初の約束を完全に無視している。それに、この話を多くのプレイヤーがいる塔のなかでしていることが、自分自身の顔に泥を塗りたくっていることに気づかないのかなぁ。
「パーティーメンバーはアイテムじゃないよ。」
「…なんだと。」
私が二人の会話に割ってはいると、シグルドは私を睨み付けてきた
。
「パーティーメンバーはあなたの装備みたいに、あなたの自由に扱っていいものじゃないよ。」
私の言葉を聞き、シグルドの眉がつり上がる。
「き、貴様。屑漁りのスプリガン風情がつけあがるな!!」
そう言ってシグルドは腰に装備してある剣の柄に手をかける。
「シグルドさん!それはまずいですよ。こんな人目のある場所で無抵抗のプレイヤーを斬っちゃうのは。」
シグルドの脇にいたプレイヤーが、剣を抜こうとしたシグルドをなだめる。
「…これは俺たちとリーファの問題だ。部外者は黙っててもらおう。」
「彼女は部外者じゃないわ。私の新しいパートナーよ。」
「なんだとっ!リーファ、お前まさか、レネゲイドになるつもりなのか!?」
「…ええ、そうよ。私ここを出ることにするわ。」
リーファがそう言うと、シグルドがまた私を睨み付けてくる。
「…外ではせいぜい逃げ回ることだな。俺のパーティーを抜けたことを後悔するなよ。」
そう言うと、シグルド達は私たちの横を通り出口へと歩いていく。
私たちも塔の最上階へいくためエレベーターに乗り込んだ。
「ごめんねユカ。面倒なことに巻き込んじゃって。」
リーファはエレベーターの中で、大きなため息をつき、私に謝った。
「いや、リーファは悪くないよ。さっきの人の言い分の方がおかしいって。それより、いいの?領地を捨てることになって。」
「あー・・・。うん、いいよ。もともと領地とか気にせずにこの世界を飛びたかったし。いいきっかけになったよ。」
話をしているうちに最上階に着いた。
「うわぁ・・・綺麗。」
最上階からの景色はとても綺麗だった。私は現実ではこんな景色を見たことがない。
私が改めてVR世界のすばらしさに感動していると、エレベーターが止まる音がした。私たちのほかにも最上階に来た人がいるみたいだ。・・・まさかさっきの人?
もし、最上階に来たのがシグルドだった場合、すぐに飛び出して、それでも追いかけてくるようなら、シルフ領を出た瞬間切り捨ててしまおうと思ったが、どうやら最上階に来たのはシグルドではなかったらしい。
「リーファちゃーん!」
「あ、レコン。」
最上階に来たのは、私がスイルベーンに着いたときに一度会ったレコンだった。
「ひどいよリーファちゃん。出発するなら一言声かけてくれてもいいじゃないか。」
「ごめーん、忘れてた。」
「リーファちゃんパーティー抜けたんだって?」
「ん、そうそう。あんたはどうするの?」
「決まってるじゃないか。この剣はリーファちゃんにだけ捧げてるんだから。」
そういうと、レコンは短剣を抜き空に掲げた。それに対してリーファの反応は
「えー、べつにいらない。」
「ぐ、ま、まあ、そういうわけだから僕もついていくと言いたいんだけど、ちょっと気になることがあってね。」
「ふーん。・・・なに?」
「確証はないんだけど、ちょっと調べたいから僕は残ることにするよ。・・・ユカさん。」
「え?あ、なに?」
「リーファちゃん、トラブルに飛び込んでいく癖があるんで、気を付けてください。」
「う、うんわかった。」
「あんたに言われたくないわよ。」
レコンはリーファに後頭部を殴られていた。殴られたレコンの表情はどこか嬉しそうだ。
「じゃあ、ユカ。もう行こう。」
「う、うん。」
そういうと、リーファは飛び立ったので、私もリーファについていく。
「リーファちゃーん。気を付けてねぇー。」
レコンは最上階からブンブンと手を振っていた。
・・・レコン、強く生きて。