私とリーファはスイルベーンに到着した。白と翠を基調とした建物が並ぶ。中には、現代建築にケンカを売ってるとしか思えない、物理的にあり得ない建物もあった。とても綺麗で幻想的だ。
「リーファちゃーん!」
スイルベーンについて少しすると一人のプレイヤーが走りながらやって来きた。
「あ、レコン!」
「無事だったんだね、流石リーファちゃん!」
レコンと呼ばれたプレイヤーは私を認識すると、腰のダガーに手をかけ身構える。
「な、なんでスプリガンがここに!?」
「この人は大丈夫よ。私を助けてくれたの。」
「どうもー。ユカといいます。」
「あ、これはご丁寧にどうもどうも…じゃない。」
まだ警戒されてるみたいだ。
その後リーファの説得で気を許してもらえた。
「リーファちゃん。シグルド達が水仙館で席をとってるから、そこでアイテムの分配をしようって。」
「んー。今日はパス。欲しいアイテムもなかったし。それに、ユカに一杯おごる約束だから、私抜きでしておいて。」
そういうと、リーファはレコンに手をふって歩いていく。私もそれに続く。
「リーファちゃん…」
レコンはその場に立ち尽くしている。
「リーファはさっきのレコンとよくパーティー組んでるの?」
「まあねー。リアルでも知り合いだし。」
「そうなんだ~。…彼氏とか?」
「あ、そういうのじゃないんで。」
地雷だったかな。
…頑張れレコン。
私とリーファは少しあるいて、すずらん亭という店に入った。
「ここは私がもつから自由に頼んでね。」
「ありがとー!」
「ただ、ここで食べ過ぎるとリアルに戻ってからがきついわよ。」
リーファの言うとおり、仮想世界で食べ過ぎるとリアルに戻ったとき、満腹中枢が刺激されてるため、空腹にも関わらず食べ物が喉を通らないのだ。私も一度経験したことがある。あれはたしかに辛かった。
「じゃあ、このモンブランとココアで。」
「オッケー!私はこのエクレアとコーヒーで。」
注文するとすぐにNPCが運んできてくれた。
「改めて、助けてくれてありがとう。」
「どういたしまして。それにしても、ああいうPKってよくあるの?」
「よくあるよ。もともとこのゲームがPK推奨だし、それにシルフとサラマンダーは領地が近いこともあって仲が悪いからね。それに、サラマンダーはこの頃戦力強化に力をいれてるから。多分世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな。」
「そうそれ!私が教えて欲しいのは世界樹についてなんだ。」
「世界樹かぁ~。世界樹を上るのがこのゲームのグランドクエストってことは知ってる?」
「うん。たしか世界樹の上に初めて到達した種族が滞空制限のないアルフっていう種族になれるんだよね。」
「そのとおり。でも、そのグランドクエストがあり得ないほどの難易度なのよ。クリアさせる気がないんじゃないかっていうくらい。」
「…それは何かキークエストを見逃してる可能性はないの?」
「それを懸念して多くのプレイヤーが探し回ってるけど、それらしいものは見つかってないんだ。」
「…単一の種族じゃクリアできないとか。」
「それだとクリアは不可能ね。アルフになれるのは一種族だけだから、協力できないし。」
「…どうしてもクリアは無理?」
「うーん…サラマンダーが大規模攻略をするかもだから、傭兵として雇ってもらえれば2,3カ月後にはグランドクエストに挑戦するかも。」
「それじゃあ遅すぎる!」
ユカは大声で立ち上がった。周りのプレイヤー達が何事かとこちらを見る。
「…ごめん。大声だして」
ユカはそう言って椅子に腰を下ろす。
「えっと…なにかあったの?」
「…ごめん。簡単には説明できないんだ。」
リーファから見たユカは今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。その時の顔がリアルでの未だに眠っている兄を見つめる姉を思い起こさせる。
「教えてくれてありがとう。私はもう行くね。」
そういうとユカは立ち上がる。
「待って!」
リーファも立ち上がり、ユカを止める。
「私も行く。」
「え!?でも…」
「世界樹までの道も分からないでしょ?それにもう決めたの!」
「…ありがとう。」
「じゃあ、明日の午後3時にここに集合ね。あと、ログアウトには上の宿を使ってね。」
そういうと、リーファはログアウトした。
ユカも上の宿を一室借りてログアウトした。
目の前の画面越しに天井が見える。天井にはALOでの自分が空を飛んでいるポスターが貼ってある。もう見慣れた自分の部屋の天井だ。
ベットから体を起こし、アミュスヒィアを外す。
「ユカ…何があったんだろう。」
今日初めてあったプレイヤーのことを思い出す。世界樹の上に行きたいと言う、これだけならいたって普通のプレイヤーだ。しかし、何か鬼気迫るような雰囲気があった。軽い気持ちで踏み込んではいけないと思える何かが。
「やっば!」
時計を見ると午前2時を回っていた。明日も朝から部活の方に行く予定だ。
私は再度ベットの上で横になった。