キリトに双子の妹がいたとしたら   作:たらスパの巨匠

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 今回からフェアリィ・ダンス編になります。


アルヴヘイム
兄と親友はまだ目覚めません


 

 私は家の縁側に座っている。私たちが育った家だ。

 二か月前、私は目を覚ました。二年間続いたデスゲームから解放されたのだ。

 今は目の前で竹刀を振っている妹を見ている。桐ケ谷直葉。血縁上は私たちのいとこにあたる。でも、小さい頃から一緒に暮らしているから、いとこというより本当の妹みたいなものだ。私とカズがこの家の本当の子どもじゃないと知ってしまってからは、周りに壁を作ってしまっていたが。

 それにしても大きくなったなぁ。SAOを始める前まではもっと小さかったのに。竹刀を振る動作がとても様になっている。

 ビュン、ビュンという音が心地いい・・・

 タユンッ、タユンッ。・・・あれ?おかしいな?音なんてなるはずがないのに。なぜか聞こえてくるよ。ホントニオオキクナッタナァ・・・。え?何にも音が聞こえないって?うるさいバカ。

 

 「あ!おはよう。お姉ちゃん。」

 

 私がこの世の不条理に嘆いているとこちらに気づいた。

 

 「おはよう、スグ。」

 

 「見てたなら声かけてくれればいいのに。」

 

 「邪魔したら悪いかなと思って。」

 

 そういうとスグは私の横に腰かけて、タオルで汗をぬぐい、水を一口飲んだ。

 

 「体はもう大丈夫なの?」

 

 「うん。もうリハビリも終わったし、軽く筋トレしてるくらいだからね。」

 

 「そっか。」

 

 近くのジムでリハビリ兼筋トレをしていると、偶然エギルと再会したんだよね。いやー、実物もすごかった。SAOの時と比べると少し細くなってる気がしたけど、ジムで見ると威圧感ハンパなかった。

 ジムの後、エギルは自分の店を持っているらしく、そこで昼ご飯おごってもらった。あと、エギルの奥さんめちゃくちゃ綺麗だった。

 

 「ねえ、スグ。一回勝負してみない?」

 

 「え?勝負って剣道の?」

 

 「そうそう。見てたら久しぶりにやりたくなって。」

 

 「いいけど、大丈夫?」

 

 「大丈夫、大丈夫!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんとに大丈夫かなあ。お姉ちゃんは大丈夫って言ってたけど。私とお姉ちゃんは道場に移動して防具を付けている。

 

 「よし、準備オッケー!スグ!本気でかかってこい!」

 

 「ほ、本気でって。一応私全国ベスト8なんだけど・・・」

 

 「いいからいいから、始めるよ。」

 

 とりあえず、私は構えた。お姉ちゃんの方を見ると、竹刀を片手に持ち、足を肩幅より少し広く開き、腕を脱力したように構えた。一見竹刀を持って立っているだけのようだ。試合では見たことないけど、無形の位みたいだ。何より、構えが様になっている。

 まず、お姉ちゃんは小手を狙ってきた。私はそれを竹刀で防ぐ。お姉ちゃんはその状態から手首を返し、突きを放ってくる。私はそれをギリギリでかわした。一度後ろに下がり距離をとる。

 強い。今の突きをかわせたのはほとんどまぐれだ。そういえば、昔死んだおじいちゃんが言ってたっけ。お姉ちゃんには才能があったって。剣道をやめたお姉ちゃんのことをもったいないって愚痴をよくこぼしてたな。

 今度は私から攻める。前に出ながら竹刀を振り下ろすが、お姉ちゃんはそれを竹刀で受け、そのままつばぜり合いとなる。私は後ろに引きながら面を打つが、お姉ちゃんはそれを読んでいたらしく、面を防ぎ、体制を低くし、一歩踏み出しながら胴をう・・・とうとしたところで、自分の体重を支えることができず。床に顔面から突っ込んだ。

 

 「お、お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 「・・・すごい痛い。」

 

 「と、とりあえず、終わろっか。」

 

 勝負はつかなかったけど、あのまま胴を打たれていたら私の負けだった。お姉ちゃんはまだ体が本調子とは言えない。もし、お姉ちゃんが真剣に剣道を始めたらどうなるんだろう。

 

 

 

 防具を片付け、着替えて、朝食をとる。

 

 「スグは今日も部活?」

 

 「うん。この後ご飯食べたら、行くよ。」

 

 「そっか。じゃあ、私も一緒に出よっかな。」

 

 「・・・うん。わかった。」

 

 お姉ちゃんは目を覚ましてから普通に話してくれる。あの事件がある前は距離ができたように思えたけど、今はそんなことはない。でも、一緒に暮らしていて、時々ものすごく暗い表情になることがある。まだ、あの事件は終わっていないから。

 

 

 

 

 

 私は部活に行くスグと一緒に家を出た。私の目的地は病院だ。自転車で30分くらいの場所に大きな病院がある。この地域のSAOプレイヤーはほとんどあの病院にお世話になっていた。

 私は病院につくと、自転車を停め、病室に向かった。そこにはカズが眠っている。病室は違うがアスナもこの病院で眠っている。

 二人を含むSAOプレイヤー300人はまだ目を覚ましていない。最後に茅場が言っていたように、どこかに捕らわれているみたいだ。まさか、その300人にカズとアスナが入っているとは思わなかった。

 私はSAOの重要人物としていろいろと事情聴取された。目を覚まさないプレイヤーたちについて思い当たることがないか聞かれたが、話さなかった。茅場が私にわざわざ頼んだっていうことは、他の人では見つけるのが難しいか、犯人に勘付かれるとプレイヤーの命が危ないのかもしれない。なにより、仮想現実の世界に一番詳しいであろう、稀代の天才がこの方法を選んだのだ。それに従った方がいいだろう。言われた通りいろいろなゲームにログインしてステータスが引き継げるか試したところ、3つほど見つかったが、どれかまだ絞れない。

 私はカズの病室を出るとアスナの病室に向かった。アスナもカズと変わらず眠っている。

 病室の扉が開いた。そこには初老の男性と眼鏡をかけた男性が立っていた。

 

 「ああ、来てくれていたのか桐ケ谷さん。いつもすまんね。」

 

 「こんにちは。お邪魔しています、結城さん。」

 

 「いやいや、いつでも来てくれ、この子も喜ぶ。」

 

 初老の男性はアスナのお父さんだ。彼は総合電子機器メーカー、レクトのCEOだ。もう一人の男性は見たことがない。

 

 「ああ、紹介しよう。うちの研究所主任の須郷君だ。」

 

 「須郷伸之です。君があのユカ君か。」

 

 「桐ケ谷優香です。」

 

 眼鏡をかけた男性はレクトの社員のようだ。しかし、なぜレクトの社員がここに?

 

 「社長。例のお話ですが、正式にお受けしようと思います。」

 

 「おぉ、そうか。しかし、本当にいいのかね?」

 

 「ええ。私もそれを望んでいます。」

 

 この後アスナのお父さんは病室を出ていった。私がさっきの会話の内容が理解できないでいると、須郷伸之が話しかけてきた。

 

 「さっきの話、気になるかい?」

 

 「え?ええまあ・・・」

 

 「さっきの話はねぇ、僕がアスナと結婚するっていう話だよ。」

 

 「そ、そんなのできるはずない。それにアスナには」

 

 「確かに、意思確認が取れない以上法的には入籍できないが、書類上は僕が結城家に養子に入ることになる。・・・実のところこの娘は昔から僕のことを嫌っていてね。それに、アスナは君のお兄さんとSAOの中で結婚していたんだろう?キリト君と。」

 

 「・・・何でそれを知ってるの?」

 

 「僕はレクトの社員の中でもある程度の地位にいるのだよ。だからね、僕としてはアスナ君には眠ってくれていた方が都合いいんだよねぇ。」

 

 「・・・あなたはアスナの昏睡状態を利用する気なの?」

 

 「利用?いいや、正当な権利だよ。君はSAOを開発したアーガスがどうなったか知っているかい?」

 

 「・・・たしか、解散したはず。」

 

 「その通り。そしてSAOサーバーの維持を任されたのがレクト。レクトの中でも僕の部署だ。つまり、アスナの命は僕が維持しているといってもいい。なら、僅かばかりの対価を要求したっていいじゃないか。」

 

 須郷は気味の悪い薄笑いを浮かべながらそう言った。

 

 「式は来月この病室で行う。君にも招待状を送るよ。ぜひ参加してくれたまえ。君のお兄さんのためにも、写真でも撮っておいてくれ。」

 

 「そんなことさせない!」

 

 「そんなことさせない?ハハッ。なら君に何ができるっていうんだ?何もできないだろう。」

 

 そう言うと須郷は病室から出ていった。絶対にあんな男とアスナを結婚なんかさせない。

 

 その時、ケータイにメールが届く音がした。

 


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