キリトに双子の妹がいたとしたら   作:たらスパの巨匠

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兄と妹と親友は

 「戦闘開始。」

 

 ヒースクリフの号令とともに、ボス部屋の中に攻略組がなだれ込む。全員が部屋の中に入る扉が閉まった。

 数秒の沈黙。しかしボスは現れない。嫌な静けさが攻略組を緊張させる。

 

 「上よ。」

 

 突然アスナが叫んだ。アスナの声に反応して上を見る。天井にボスが張り付いていた。

 ボスの名はスカルリーパー。肉がなく骨だけのモンスターだ。ムカデの体にカマキリの鎌を持ったような姿をしている。

 スカルリーパーは天井から突っ込んでくる。

 

 「全員散開!」

 

 アスナが叫ぶが何人か逃げ遅れた。スカルリーパーが二人のプレイヤーに向かって鎌を振り下ろす。二人のプレイヤーはその攻撃を避けきれず飛ばされ、空中で消えた。

 

 「そんな無茶苦茶な・・・」

 

 ここにいるのはトッププレイヤー達だ。それなのに一撃でやられてしまった。

 まだ逃げ遅れたプレイヤーがいた。スカルリーパーはそのプレイヤーに狙いを定めたらしく、右の鎌を振った。

 その時ヒースクリフがスカルリーパーの攻撃を盾で止めた。スカルリーパーはすかさず左の鎌で逃げ遅れたプレイヤーを狙う。

 私は白雪を黒く輝かせ、さらに鬼舞も発動させ、その攻撃をパリィした。だが重すぎる。とてつもない攻撃力だ。それにスカルリーパーにとって今のはたいした攻撃ではないだろう。鬼舞の倍率を上げなければ、この先攻撃を防ぐことはできない。

 

 「私とユカ君が攻撃を引き受ける。アスナ君は指揮を頼む。」

 

 「はい。全員一旦距離をとって、タゲをとりすぎないように攻撃していきます。」

 

 

 

 

 

 戦いが始まってから、どれくらい時間がたっただろうか。ついにスカルリーパーはその姿をポリゴンに変えた。その瞬間その場にいたプレイヤーは歓喜の声を上げることなくその場に崩れ落ちた。

 

 「何人死んだ・・・」

 

 もちろん、極度の緊張の中で戦い続けた疲労もあるが、喜ぶには犠牲が多すぎた。私はキリトとアスナの姿を探す。二人とも無事なようだ。

 しかし、一人だけ立っているプレイヤーがいた。ヒースクリフだ。彼は剣を両手で地面にさし、その場に立っていた。

 それにしても、よくあの攻撃を受け続けて涼しい顔して立っていられるものだ。

 私が感心しているとき、一人のプレイヤーがヒースクリフに斬りかかった。斬りかかったプレイヤーはキリトだ。いったい何を・・・

 その場にいたプレイヤーは全員二人を見ていた。正確には二人の間に現れた紫のシステムメッセージを

 

 Immortal Object

 

 不死存在。デスゲームであるSAOではプレイヤーに表示されるはずがないシステムメッセージだ。

 

 「・・・団長。これは、どういうことですか。」

 

 アスナがヒースクリフに問いかけるが、ヒースクリフは答えない。ヒースクリフはキリトのことをじっと見据えている。

 

 「これが、伝説の正体だ。こいつのHPはイエローまで落ちないようにシステム的に保護されている。そして、そんなプレイヤーはシステム管理者以外にあり得ない。そうだろう、茅場晶彦。」

 

 「・・・なぜ気づいたのか、参考までに教えてもらえるかな。」

 

 「最初に気づいたのは、デュエルの時だ。最後の一瞬、あんた速すぎたよ。」

 

 「やはりあのときか。」

 

私もあの時何か違和感があった。遠くから見ていただけだったからさほど気にしていなかったけど、あの時デュエルしたキリトは気づいたんだ。

茅場は少し残念そうな顔を見せ続けた。

 

 「まさか、四分の三地点で正体を見破られるとは・・・。君はこの世界で最大の不確定因子だと思ってはいたがここまでとは。」

 

 茅場は薄く笑みを浮かべる。

 

 「最終的に私の前に立つのは君だと予想していた。二刀流スキルはすべてのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王を倒す勇者の役割を担うはずだった。」

 

 その時、血盟騎士団の一人のプレイヤーが動いた。茅場に斬りかかるが、茅場は左手でウインドウを操作した。すると、そのプレイヤーはその場に崩れた。麻痺だ。茅場はそのまま左手を動かし、キリト以外のプレイヤーを麻痺させた。

 

 「・・・どういうつもりだ。」

 

 「こうなってしまっては仕方がない。まだゲームを続けていたかったが、私は最上層の紅玉宮に行くとしよう。」

 

 茅場は剣を地面に突き立てた。

 

 「キリト君。君には私の正体を見抜いた報酬として、チャンスをあげよう。この場で1対1で戦うチャンスを。むろん不死属性は解除する。君が勝てばゲームはクリアされ、プレイヤーはログアウトできる。どうかな?」

 

 それは、だめだ。やめさせないと。

 

 「キリト君・・・キリト君を排除するつもりよ。今は・・・引きましょう。」

 

 「そうだよ、キリト。今はやめて。」

 

 でも、キリトは止まらなかった。

 

 「いいだろう決着をつけよう。」

 

 キリトは戦うつもりだ。無茶だ。茅場はこのゲームの製作者。ユニークスキルのソードスキルだって熟知しているはず。何の策もなく戦いを挑むのは無謀すぎる。

 

 「キリト君・・・」

 

 「ごめん。ここで逃げるわけにはいかないんだ。」

 

 アスナは少し考えて、涙を流しながら言った。

 

 「死ぬつもりじゃないんだよね。」

 

 「ああ。必ず勝ってこの世界を終わらせる。」

 

 「・・・わかった。信じてる。」

 

 アスナだって本当は止めたいはずだ。

 

 「待って。キリト。」

 

 「ユカ。」

 

 「待ってよ、キリト。無茶だよ。一度冷静になって。」

 

 「・・・ごめんなユカ。いつも心配かけて。でも、逃げるわけにはいかない。」

 

 キリトはそういうと茅場と戦うため、前に進みだした。

 

 「いやだ・・・まってよ・・・。謝るくらいなら、まってよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 キリトは茅場と対峙する。一歩踏み込めば剣が届く距離だ。

 

 「・・・悪いが一つだけ頼みがある。」

 

 「なにかな?」

 

 「もし、俺が死んだら、アスナとユカが自殺できないようにしてくれ。」

 

 「・・・いいだろう。」

 

 茅場はキリトの願いを聞き入れると、左手を動かし、不死属性を解除、二人のHPをちょうど半分でそろえた。

 

 二人は武器をかまえ、あたりは静寂に包まれる。

 キリトが最初に仕掛けた。ソードスキルは使わず、斬りかかる。茅場はそれを盾で防ぐ。キリトは息もつかせぬ連撃で攻め続ける。

 キリトとしては簡単にソードスキルは使えない。使えば盾でガードされ大きな隙ができるからだ。

 茅場もキリトに攻撃を仕掛ける。茅場の攻撃がキリトの頬を掠めた。この時キリトの中に焦りが生まれ、ソードスキルを発動させてしまった。二刀流ソードスキル、ジ・イクリプス。27連撃の二刀流最上位ソードスキルだ。そして最後の一撃、ダークリパルサーが茅場の盾に火花を散らしながら、ポリゴンへと姿を変えた。

 茅場はキリトの攻撃をすべて防ぎ、ソードスキルを発動させ、キリトを斬りつけた。キリトは後方に飛ばされる。キリトのHPはレッドゾーンだ。

 茅場はさらにソードスキルを発動させ、キリトに突っ込む。

 

 「さらばだ、キリト君。」

 

 茅場が剣を振り下ろした瞬間、二人の間に一人のプレイヤーが割り込んだ。アスナだ。アスナはキリトをかばい、茅場に斬られた。

 

 キリトはアスナを抱きかかえた。アスナはキリトに何かをつぶやき、ポリゴンとなり消えた。

 

 「これは驚いた。麻痺から回復する手段はなかったはずだが、こんなことも起きるのかな。」

 

 キリトはアスナのランベントライトをつかみ、茅場に斬りかかる。だが、動きにキレがない。ただ、剣を振っているだけだ。

 そんなキリトを見て茅場は、キリトの腹に剣を刺した。キリトのHPが0になる。キリトはポリゴンとなるわずかの間にランベントライトを茅場に突き刺した。

 そして、キリトはポリゴンとなり消えた。

 茅場は自分の腹からランベントライトを引き抜いた。

 

 

 

 

 うそだ・・・こんなの・・・

 

 

 

 

 私は白雪を抜き茅場に斬りかかった。茅場はギリギリのところで盾で攻撃を防ぐ。

 

 「・・・驚いた。まさか二人も麻痺から回復するとは。人間の意志はシステムの力を超えるということか。このゲームを制作した側としては複雑な気持ちだがね。」

 

 「ふざけるなっ!よくもカズとアスナを・・・私の家族と親友を・・・」

 

 私は鬼舞を発動させ、茅場に斬りかかる。白雪を黒く手足を白く輝かせ、何度も斬りかかる。だが、全て盾で防がれる。茅場も剣で斬りかかる。私はそれをパリィし、一度距離をとる。

 

 「ユカ君。君のユニークスキル・剣舞では私には勝てない。」

 

 「うるさいっ。」

 

 「二刀流は魔王を倒す勇者に与えられるスキルだ。それに対し、剣舞は勇者を守る者に与えられるスキル。時に勇者をも超える力を発揮するが、魔王には勝てないのだよ。二刀流と違い、武器を一つずつしか扱えない剣舞では神聖剣に勝つことはできない。」

 

 剣舞は勇者を守るためにスキル・・・。そっか、だから、あんなスキルがあるんだ。

 

 「茅場。あなただけは絶対に許さない。」

 

 私は全身に黒のライトエフェクトを発生させた。鬼舞を発動させているため目は紅く、白雪と目以外の体は黒に包まれる。

 剣舞のスキルの熟練度を最大まで上げたときに発現した2つのスキルのうちの1つ。

 終舞<オワリノマイ>

 終舞の効果は、終舞を発動した状態で敵本体に一撃でもあてれば、相手と自分のHPをゼロにする。発動条件は鬼舞を最大倍率で発動させた状態で全身に黒のライトエフェクトを発生させること。

 デスゲームであるSAOにおいて、使えるはずのないスキル。でも今の私には、これ以上にないと言えるスキル。

 たしかに、剣舞では茅場には勝てないだろう。でも、引き分けることならできる。

 

 「・・・なるほど。君はそのスキルが使える人間なのか。まあ、そうでなければ君にそのスキルは与えられなかっただろう。」

 

 私は茅場に斬りかかった。茅場は盾でユカの攻撃を防ぐ。しかし、SAOの盾での防御は相手の攻撃を完全に消せるわけではない。攻撃の強さによって、HPを削られる。加えて、今のユカは鬼舞を最大倍率で発動させ、攻撃力の一番高い黒のライトエフェクトを発生させている。このまま盾で防ぐだけでは茅場はやられてしまう。そのため、茅場も剣でユカに斬りかかる。

 ユカはこれを狙っていた。相手の攻撃を盾で受け、剣の突きを放つ茅場の攻撃パターンを。

 ユカは茅場が突き出した剣に左手を突き刺させ、茅場の腕を白雪で斬った。

 二人のHPはどんどん減り、やがてゼロになった。

 

 

 

 「カズ、アスナ、私もそっちに行くよ・・・」

 

 

 


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