黒鉄宮に捕らわれていた犯罪者プレイヤーが解放されるといった大事件が起きた。結果として犯罪者プレイヤーのほとんどは再度捕らえられ、黒鉄宮に戻ることになったが、逃げた犯罪者プレイヤーもいた。また、犯罪者プレイヤーを止めるために戦ったプレイヤーにも被害者が出てしまった。
この事件の原因はキバオウだった。キバオウはシンカーを騙し地下ダンジョンに閉じ込めたまでは良かったのだが、シンカーがなかなかくたばらないことに不安を抱き、レッドプレイヤーにシンカーを殺すよう依頼したのだ。シンカーを閉じ込めたのはユリエールしか知らない。また証拠もない。シンカーを殺せば軍を自分の思い通りに動かせると考えたのだ。そしてこの依頼がpohの耳に入り、この事件が起きた。
ただ、誤算だったのがキリト、アスナ、ユカがユリエールとコンタクトをとり、第一層にいたこと。そのためシンカーが殺されることはなかった。
事件後、シンカーの証言により、シンカーを地下ダンジョンに閉じ込めたキバオウ、それを幇助したディアベルの二名は軍での立場を失った。また、今回のことで軍の中にラフコフのメンバーがいる可能性が高いことと、血盟騎士団の中にもラフコフのメンバーがいたことから、主要ギルドや最前線で活動するギルドすべてに検査を行うことにした。ラフコフのメンバーは体の一部にギルドマークを刺青している。しかし、この入れ墨は簡単に消すことができるため、検査することは伝えずに各ギルドでメンバーを集め、ヒースクリフ立会いの下、検査が行われ、軍に二人、血盟騎士団に一人、その他のギルドから二人、計五人のラフコフメンバーを摘発し、黒鉄宮に送った。また軍のラフコフメンバーが摘発されたことにより、シンカーを殺すように依頼をしたキバオウも黒鉄宮に送られた。ディアベルは殺しの依頼にはかかわっていなかったため、黒鉄宮に送られることはなかったが、軍を辞めた。
事件から一週間後、第75層攻略会議が行われた。
ヒースクリフが声を上げた。
「では、今から第75層攻略会議を始める。」
攻略会議に集まったプレイヤーは静寂に包まれる。クォーターポイントのボスは強い。全員そのことをわかっている。
「まず最初に、今回のボスに関しては事前情報が何もない。情報を集めるためにパーティーが入ったが、そのパーティーがボス部屋に入った途端扉は閉まった。閉まった扉は何をしても開かなかったそうだ。しばらくすると扉は開いたそうだが、中に入ったプレイヤーは誰もいなかった。」
つまり、事前情報がない、初見での一回限りの勝負ということだ。それにおそらく、74層と同じく結晶アイテムが使えないだろう。
「今回は今までにないくらい危険な戦闘になることが予想される。また、チャンスは一度きりだ。最高戦力を持って臨む必要がある。攻略日時は五日後の13時。それまでに装備を整えておいてくれたまえ。」
攻略会議はすぐに終わった。何も情報がないのだ。そもそも会議をするのに議題がないのだ。
攻略日当日、私とキリトとアスナは血盟騎士団本部にいた。もうすぐ攻略開始の時間だ。
私はヒースクリフに呼ばれたので、ヒースクリフの部屋にいる。キリトとアスナは別の部屋にいる。
「呼び出して悪かったね、ユカ君。」
「いえいえ、全然かまいませんよ。」
「今日のボス攻略だが、君にはアタッカーではなく、タンクとして参加してもらいたい。もちろん、盾を持つ必要はない。ボスの攻撃をパリィすることに専念してもらいたい。」
「それは構いませんが、なぜですか?」
「クォーターポイントのボスは強力だ。実際、50層の時は戦線が崩壊しかけた。おそらく今回もタンクが足りないだろう。そこで剣舞のスキルを持つ君にボスの攻撃を引き受けてほしいんだ。」
「わかりました。」
「期待しているよ。」
まあ、ヒースクリフの言うことも一理あるか。50層の時は剣舞のスキルがないと危なかったのは本当だし、技後硬直がないからパリィした後も動きやすいし、確かに私は適任だろう。
ヒースクリフの部屋を出て、キリトとアスナの部屋に入ろうとしたとき、部屋の中から声が聞こえた。
扉越しに嗚咽が聞こえる。
ユカは扉の向こうから声が聞こえなくなるまで、壁にもたれかかっていた。
時間になり、75層の転移門の前に攻略組が集まった。
「コリドーオープン。」
ヒースクリフがボス部屋の前に転移するためのコリドーを開く。
攻略組は転移してボス部屋の前に集まる。
「皆準備はいいかな。基本的に血盟騎士団がボスの攻撃を防ぐので、ボスの攻撃パターンを見切り、柔軟に反撃してほしい。」
沈黙の中、全員がうなずいた。
それを確認するとヒースクリフはボス部屋の扉を開けた。
「戦闘開始。」