俺がアスナに告白されてから二週間が経過した。俺は相変わらずソロで攻略を続けている。あれからアスナは攻略には参加していない。やはりラフコフとの一件はアスナの心に大きな傷として残っている。
先日ボス部屋が発見され、そして今日第60層攻略会議が開かれる。
「今日は集まってくれてありがとう。今回の作戦指揮は私、ヒースクリフがとらせていただく。」
普段ならば作戦指揮は血盟騎士団副団長であるアスナがとっている。ヒースクリフは指揮官というよりは最前線で戦うタイプのプレイヤーだ。しかし攻略組の面々もラフコフの一件は知っているようでヒースクリフが指揮をとることに異を唱える者はいなかった。
また、集まった攻略組の中にユカの姿はなかった。
「今回は参加していないトッププレイヤーもいるが、新たなユニークスキル、二刀流がある。活躍を期待しているよ、キリト君。」
ヒースクリフが俺に露骨にプレッシャーをかけてきた。確かに他のプレイヤーを安心させるにはいいかもしれないが俺にはプレッシャーにしかならない。しかも一部のプレイヤーからは殺気の混じった嫉妬の視線も感じられる。間違いない、絶対いやがらせだ。
攻略会議は何事もなく終わった。ボスは大きな狼型のモンスター一体で目立った特殊攻撃もなし、素早いがたいした攻撃力はない。ヒースクリフ率いるタンク隊がボスのヘイトを稼ぎ、ほかのプレイヤーが攻撃するオーソドックスな作戦だ。
「キリト君。このあと少し時間あるかね?」
攻略会議が終わり家に帰ろうとしていたところでヒースクリフに話しかけられた。
「何か用ですか、ヒースクリフ団長。」
「そんな邪険にしないでくれたまえ。会議で君に注目を集めたことは謝罪しよう。」
「・・・それで、どうしたんだ。」
「少し聞きたいことがある。場所を変えようか。」
俺とヒースクリフが話していると自然と周りには血盟騎士団のメンバーが集まってくる。そのため俺たちは場所を変えることにした。
俺たちはNPCの店に入った。ヒースクリフのおすすめの店らしい。店内は居酒屋のような店で一人の客もいない。
「ここは私が持とう。好きなものを頼むといい。」
「じゃあ、遠慮なく。」
俺はメニュー表を開き、注文しようとした。
「・・・何でこんなとこにs級食材の名前が並んでるんだよ。」
メニュー表には七色鶏の焼き鳥、ラグーラビットの角煮、聖塩の枝豆・・・・・手に入れようと思ってもとてもじゃないが手に入らないような食材の名前しか載っていなかった。しかも普通の店の値段より0が3つほど多い。中には0が4つ、5つ多いものも存在した。
「この店は情報屋のリストにも載っていない。まあ、載っていたとしてもほとんど客は来ないだろうがね。」
「じゃ、じゃあ、とりあえず、この焼き鳥を一人前。」
「私も同じものを頼む。あと日本酒ももらおうか。」
NPCのおっさんが俺たちの前で焼き鳥を焼き始める。俺がその匂いに感動していたところでヒースクリフが口を開いた。
「アスナ君の調子はどうだい?」
「・・・今のところ大丈夫だと思う。でも、攻略組に戻ってこれるかはわからない。この2週間圏内の街には出たりしているがフィールドには出ていないからな。剣も握っていないし。」
「そうか。まあ、そうなってしまうのも無理はない。いくらしっかりしていても見た感じ、まだ中高生くらいだろう。むしろふさぎ込んでないだけ立派というものだ。
アスナ君のことは君に任せるとしよう。」
「ああ、わかった。」
「次にユカ君のことだ。」
「ユカに関してはわからない。あの日からユカとは会ってないし、メッセージも届かないんだ。アルゴも探してくれてはいるんだが、捕まえられないみたいだ。一度見つけたそうだが逃げられたらしい。」
「彼女に本気で逃げられたらいくらアルゴ君といえど捕まえられないだろう。それほどあのスキルは強力だ。」
ヒースクリフは日本酒を煽り、続ける。
「アスナ君のことで君も大変かもしれないが、ユカ君のことも気にかけてやってほしい。彼女を捕まえることができるのはおそらく君かアスナ君くらいだろう。そして、ユカ君はこのSAOに必要な人材だ。」
「確かにあいつの強さは攻略組に必要だな。」
「ふふっ。・・・その通りだ。報酬は前払いでここは私が持つんだ。だからそんなに遠慮せずに頼むといい。」
「そういうことかよ・・・後悔するなよ。」
この店の料理はめちゃくちゃうまかった。