「と、言う訳で急流下りのお時間です」
水に落ちれば落下ダメージはゼロ、滝の流れに便乗することで安全に早く山を下りられると有って、僕は他の下山方法を全く考えなかった。
「やー、持つべきモノは水入りのバケツだよね」
農業にも使える他、こういう時、高所から安全に降りる為の道具にだってなる。ただし、現実では通用しないのでよい子は真似をしないように。
「んー、匠が居座ってるのが気にかかるけど、ままよ。ってうぷっ、また雲ーっ」
何故、敢行しようとすると邪魔が入るのか。視界を遮られ、急流下りの開始は遅延を余儀なくされ。
「はぁ、今度こそ。よし、水も凍らない」
今度こそ機は訪れた。生憎の雪天だが、予定にこれ以上の変更は無し。
「ひゃっほーっ!」
恐れるモノは何もない。
「あ、何処か水辺でバケツの水だけは補給しなきゃ」
一つ為すべき事を思いつきはしたが、最初の溶岩までは祭壇から見た限り一直線。
「さて、急流下りはここまで、かな」
途中、高低差で流れが右に曲がった為、僕は麓近くで流れからはずれ、地図を片手に森林地帯を突っ走る。
「池だ、水ぅ」
途中で走りながら池にバケツを突っ込み、水を補充しながら。
「とりあえず水は回収……したけど、また洞窟多数ですか」
走ってる僕からすると、地面の亀裂や穴はそれだけで危険な落とし穴だ。
「モー」
魔物が襲いかからない牛だけはのんびり天井の崩れた洞窟が作り出した大地の亀裂の底を歩いているが、僕にはとても真似出来ない。
「んー、それはさておき、そろそろの筈だよね。あっ」
僕がそれを見つけたのと目印を見つけたのは同時。
「カボチャだーっ!」
ランタン材料の補充が出来る。僕は溶岩の池などそっちのけでカボチャへと突撃する。
「凄い、かなりの量がある」
嬉々として斧でカボチャを収穫して行く。
「さてと、ここから東北東だったよね? よーし」
何となく周辺が暗くなってきた気がして、僕は少し焦りつつ道を往く。
(雪が雨に変わっただけだからなー)
太陽が見えないので正確な時間がわからず、焦りを募らせる。
「あ、ここにもカボチャ」
まぁ、物欲の誘惑にはあっさり負けるのだが。
「ふぅ、回収完了……って、あれーおっかしーなぁ」
距離的にはだいたいkの辺りだと目星を付けたところまで進んできたと思うのだが、二つ目の溶岩の池はなく。
「あ」
地図を見て気づいた。
「真東に来ちゃってる……そっか、カボチャに釣られて……」
ついでに言うなら、二つ目の溶岩溜まりは地図から北に見切れた位置になりそうで。
「はぁ、仕方ない」
カボチャの近くに池を見つけた僕は池の中に入ると池底に丸石を置いた。
「池の中央なら、落ちても死なないはず」
近くに高い山はあるが、登っている時間があるかはわからない。資材をかなり浪費することを覚悟で、僕は二つ目の祭壇を築き始めた。
「出来た……っと、まだ暗くならない、ってことは――」
暗くなったというのは僕の勘違いだったのか。
「うわー、やんなくてもいい作業をーっ」
大ポカだった。
「はぁ」
思わず、ため息も出る。
「覆水盆に返らず……降りたら登ってこられないし、今日はここで今後の方針でも考えるかなぁ」
これまでの誤算一つ目は、二つ目の溶岩溜まりが地図の外にあること。
「もう、あっちはスルーするとして、地図を見る限りだと、東に地図で表示出来るところまで行ききってから、当初の予定通りに船で帰ってくるルートが無難、か」
呟きつつ作業台を作って支柱の一番上、床と一体化してる部分をつるはしで砕いて埋め込む。
「んー、カボチャは全部ランタンにして荷物枠の圧縮……って、持ち物どうこうまでゲーム仕様なんだな、考えてみると」
そうでなければ資材の重みで今頃潰れているので、ありがたくはあるのだけれど。
「ほんとうにどうなってるんだろう、この世界」
ここはゲームの中なのか、それとも。一人だからこそ、考えてしまう。
「やっぱり、人恋しいなぁ」
ひとりは、さみしい。
「あー、たいまつも補充しないと。それから、つるはしも折れそうだから次のを作っ……て?」
紛らわす為、延々と作業をしていた僕は、いつしか身体を濡らすモノが上から落ちてこなくなっていたことに気づいた。
「雨、止んでる……けど、太陽は……あ」
空を仰ぎ、そのまま視線を西にスライドさせれば、そこに存在する茜色。
「あー、何だかんだで日没、かぁ」
決めていたことだが、今晩はここで過ごすことになりそうだ。
「雨が止んだなら、足場を広げてベッドを置こうかな?」
作るモノは作ってしまった。
「うん、そうしよう。羊毛はあるし」
願わくは寝ぼけて池に落ちませんように。
「完成、おやすみなさーい」
まだオレンジの残る西の空、ちょっと贅沢かなと思いつつ僕は目を閉じた。
短くて済みませぬ。
ポカで時間を無駄にしたのが拙かったですね。
特筆することも無かったので、中途半端な感じに。
次回、九日目。