マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・七日目

 

「ふぅ、懐かしの我が家だーっ」

 

 ここまで来たなら寄っていかない理由はない。僕は湿地を横切り、拠点へとたどり着いた。

 

「んー、地図の空白地帯は……うわぁ、みんな森林かぁ」

 

 森林には村があることがない上に木々が茂っている為に視界も不良。地図を埋めるという目的だけなら実入りの少ない冒険になると語る景色に少しげんなりとする。

 

「とは言っても、二枚目の地図を作るにはサトウキビが足りないし」

 

 他に出来そうなこともない。

 

「あの森の向こうに、有益な発見があると願って――」

 

 僕はりんごを囓り、再び旅に出る。

 

「太陽は真上よりまだ東側。いけるっ」

 

 山を駆け下り、出くわした羊の毛を刈り。左手に洞窟の入り口を見つけたがスルーして前へ。池を見かけバケツに水が残ってる事を確認してから、前へ。

 

「あ、助かった、丘がある」

 

 ひたすら真っ直ぐ進んでいても、視界の悪さに辟易したところで右手の方にあった丘は周辺の地形確認にはもってこいで。

 

「あ、ちっさい平原がある……けど、もの凄く無意味だ、これ」

 

 むしろ気になったのは正面と左手の山。

 

「まず正面の山に登ろう。あれだけ大きければ周囲を見渡せるはずっとぉ?!」

 

 そして、先に進もうとした僕の前方には地面がなかった。

 

「洞窟の入り口? よく見ればあちこちに」

 

「「メェ~」」

 

 虫食いのような地面の森に響くのは羊たちの声。しっかり羊毛を頂いてから僕は山の麓に辿り着き。

 

「うぐっ、勾配が急すぎる……しかも中腹に洞窟の入り口とか」

 

 魔物と鉢合わせしませんようにと願いつつ僕は右回りで迂回しつつ登り。

 

「足場がなければ継ぎ足して……うん、いける」

 

 階段状に山肌を削ってとった土のブロックを配置し、上へ上へ。

 

「やったぁ! ついに頂上だーっ!」

 

 山頂からの眺めは、格別だった。ただ。

 

「あ、やばっ」

 

 西の空は綺麗な茜色。

 

「これは、生け贄の祭壇しかないなぁ」

 

 棒状にブロックを積み上げ、その上にサラのように平たい足場を作ることで蜘蛛などの垂直の壁も登ってくる魔物からさえ身を守れるお手軽安全地帯、それが生け贄の祭壇だ。名前の由来はまるで自分が捧げモノにされてるようなビジュアルからだろう。ぶっちゃけ、正確なところは知らず、攻略サイトだったか攻略記事だったかの受け売りなのだが。

 

「トン、トン、トン、トトトト、トン、トン、トン、トト」

 

 ブロックを積む時、何故かリズムをとってしまうのは僕だけだろうか。

 

「出来たぁ! うわぁ……」

 

 祭壇が完成し、安全を確保した僕が顔を上げると、視界一杯に綺麗な夕暮れが広がり。

 

「んー、拠点じゃ味わえない贅沢だよね、こういうの」

 

 持ってきた焼き羊肉を頬ばりながら足下にたいまつを立てた。

 

「さーて、食事も終わったところでここからどうするか」

 

 道すがら羊毛を頂いてきたので、この祭壇を拡張してベッドを作れば朝までぐっすり寝ることが出来る。雪が積もるような山頂の更に上で、上半身に雲が届いたりする高さでもかまわないならば、だが。

 

「うーん、作業台作って、資材から道具を作りつつこの後どっちに進むかを決めておいた方が良いのかな」

 

 夜とは言え、足下に気をつけさえすれば、安全で眺めの良い場所なのだ。

 

「って、え?」

 

 そんな夜の世界を白いモノが横切った。

 

「あ、うわぁ……」

 

 空を仰げばキラキラとたいまつの明かりに輝く雪の結晶が僕を包む。

 

「綺麗だな……」

 

 代償として遠くは見づらくなったが、思わず見とれてしまう。

 

「んー、この状況じゃはっきり見えるのは北と更に東北東にある溶岩の池くらい、かぁ」

 

 双方を見に行くと直進から右斜め前に方向転換する必要があるが、地図の北東部分には未到達エリアがかなり広がっている。

 

「あっちを大まかに埋めて、帰りは船で戻ってくれば、この地図で描ききれる部分はだいたい見たか通った事になるし」

 

 目印に使うカボチャのランタンも個数はあまりない。ぐるっと一回りしたらあの屋内農園でカボチャを回収して作る必要だってある。

 

「じゃ、朝になったらバケツの水を使って滝を作って、流れに乗って下まで降りよっかな」

 

 台座を壊して降りるのは忍びないし、支柱にカボチャランタンを組み込んであるので、残しておけば目印くらいにはなるだろう。

 

「問題は、バケツの水が出したら凍ったってオチがつかないか、だ」

 

 以前、この手の緊急避難場所から降りようとした時、実際にあった話である。

 

「どっちにしても夜明け待ちだけどね」

 

 視界の端に緑の匠(クリーパー)がちょろちょろしてる夜の山頂に何も考えず降り立つつもりはない。

 

「雪でも投げてみるか。トゥ! へアーッ! あ、外れた」

 

 台座を作る時にシャベルで削った雪を使って作った雪玉は割と見当外れな場所に落ち。

 

「っぷ、視界が……」

 

 今度は台座の先端が灰色の雲に突っ込んで視界が更に悪くなる。

 

「だーっ! これじゃ、朝までどれぐらいかかるかもわからないじゃないか!」

 

 おまけに寒いし。

 

「……たいまつの火であたたまろう。ついでに資材の確認も。えーと、丸石があと296。樫の板が127枚、石炭が149、羊毛が26に鉄のインゴットが12個……あ」

 

 資材を数えていたら、空が白みを帯び、東の空が赤く染まり出す。

 

「もう、朝かぁ」

 

 結局徹夜をしてしまった。

 

「せめて次の日没は、ベッドのある場所で迎えたいな」

 

 羊毛はあるのだ。ささやかな願いと共に日付は翌日にうつるのだった。

 




書き貯めストック分。

やー、村は見つかりませんねー。

主人公の冒険は続きます。

次回、八日目。

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