「おっはよー! えーと、確か昨日は……あ゛」
目を覚まし、昨日を思い出して僕は顔をひきつらせた。
「洞窟に落ちたんだっけ……はぁ、よく命があったよなぁ」
モンスターが側にいてもだが、下が渓谷だったら墜落死した可能性もあった。
「前の拠点が割と順調だったから気が緩んでたのかもしれない」
反省すべき点である。ただ、そうなると作業再開は心情的にし辛くもあるのだが。
「ううん、ここで挫けて一人暮らしなんて無理だ」
孤独に耐える方が辛い。
「村を見つけて、可愛い村娘ときゃっきゃうふふな生か……げふんげふん、安全管理がなってない村人さん達を救うためにも、鉄を手に入れて新たな地図を作らないと」
うっかり言い間違えてしまったが、あくまで僕が村を探すのは世のため村人のため。
「そりゃ一人は寂しいからってのも理由の一つだけどさ……」
少しぐらいの私情は許して欲しいと思う。そう、誰に向かってかわからないながらも弁解しつつ梯子を降り始め。
「一つ目はここで終点、かぁ。んー、迂回もちょっと面倒って言えば面倒なんだよね」
足下で床になっている埋め戻した洞窟の天井に視線を落としながら次の梯子へ。
「そんなこんなでやって来ました最下層」
説明口調も洞窟と岩一つ隔ててるだけだと思えば自然と声は潜められる。
「では、どうか魔物と対面とか有りません様に」
空いた手で拝む形を作りながらもう一方の手でつるはしを持ち上げ。
「あ、鉄鉱石」
慎重に梯子の下につるはしを振り下ろした僕が掘り当てたのは洞窟ではなく、次に梯子を貼り付ける面に露出した鉄鉱石。
「匠がちょっと怖いけど子供のゾンビ以外はブロックで二マス分ないと入ってこられない筈だし、洞窟と繋がってもすぐ塞いじゃえば……」
大丈夫だと言い聞かせつつ鉄鉱石を回収すれば、ぽっかりと口を開けた空間があり。
「……なるほどなぁ、梯子の向こう側に空洞があったのかぁ」
ある意味予想通りではある、ただ。
「ん? だったら、ここ下に掘る分には問題無いんじゃ?」
鉄鉱石に釣られて梯子を設置してる壁の脇を掘ったから匠と鉢合わせしたのだ。なら、梯子を貼り付けてる壁面は洞窟から見れば壁の内側に当たる筈であり。
「試しに掘ってみよう。うまく行けば、ハンパな形でまた下に降りる場所を探さなくても良くなるし」
一応、さっき手に入れたのと竈に入れたままの鉱石を合計すれば五つくらいはインゴットが出来ると思うが、出来れば鉄は多めに持っておきたい。
「んー、地図によると高さは27、まだ下かなぁ?」
そこからは順調だった。洞窟と貫通することもなく、掘っては梯子とたいまつを付け、足場を残してしたへの繰り返し。
「やったぁ、鉄鉱石ゲットー」
ついでに鉱石まで手にはいるという運のいい流れに自然と僕のつるはしを振る手にも力が入った。
「よーし、梯子はまだ残ってるし掘……えっ?」
ただ、ちょっと夢中になりすぎたらしい。つるはしを振り下ろした先に見えたのは、鉄以外の輝き。
「ちょっ」
思わず目を疑ったが、間違いなくそれは金色をしていた。
「金鉱石? あれってかなり深い場所じゃなきゃ出ないは……あ゛」
慌てて地図を見るとたいまつの光に照らされたそれに表記されていた高さを示す数字は12。どう見ても目的としたぐらいのたかさです。
「あっぶな、気づかず岩盤まで行くとこだった……」
だが、結果オーライと言ったところか。
「いよいよ採掘開始かぁ。っと、その前に――」
採掘したモノを集積加工する小部屋が無くては手間がかかる。
「まずはこの鉱石の回収から……えーと、鉄のつるはしは……あったあった。ここまで来てつるはし無かったら泣きながら梯子を登るところだったけど……さーて掘りますか」
こう、鉄のつるはしを使うことにもったいなさを覚えてしまうのは僕がケチなんだろうか。
「ふぅ、回収完了。四つかぁ、まぁこんなものかなぁ? で、お次は作業台を作って床に埋め込んで~♪」
チェストと竈も作って埋め込み設置。
「あ、たいまつが殆どなくなってる。補充しておかないと」
ここからは目印兼湧き潰しとしてたいまつが欠かせない。たっぷり八十本ほど作り終え。
「んー、右で良っか」
少し唸った僕は梯子を正面に見て右の壁につるはしを振るう。
「ここが基点でー」
ブロックで四つ掘り進んでたいまつを置き、右手と正面を掘って、まず右に。
「次の目印……っと、の前に鉄かぁ、さい先良いなぁ」
一つ面横枝の収穫は鉄鉱石。
「正面は……って、分岐の前に鉄ですか」
何という鉄鉱石フィーバーだろう。
「少なくともこれでコンパスが一個は出来るな」
ほくほく顔で二本目の枝を掘り進めればそこそこ大きな石炭の層にぶち当たる。
「やったぁ! これで竈の燃料もゲット……あ、けど、流石にそろそろ時間が気になるかも」
夢中で作業をしたのだ。登ってみたら夜でしたってオチであってもおかしくはない。
「そして案の定夜でした、と」
梯子を登ってベッドの向こうにある窓を見れば、星空の下、たいまつやランタンに照らされた羊の飼育施設があり。
「コンパスは完成っと、これを使って地図を作って……うん、やっぱり二枚は出来た」
これで次の冒険の準備は半分終了する。
「さてと、このまま寝ても良いんだけど……その前に」
僕はくるりとベッドに背を向け、再び梯子に足をかけた。
「作物の確認をして、ついでに水も浴びてこよう」
一人ぼっちの生活だが、衛生面の問題を疎かにして、悪臭を漂わせていては村を見つけた時、どんな目で見られるか、想像に難くない。
「やっぱり、ある程度の身だしなみは整えておかないとね。あ、カボチャはけっこうなってる」
結果だけ先に言うなら、この日の収穫はそこそこだった。
「作物が一杯って事は、逆説的に畑の世話を疎かにしてたって事だから手放しでは喜べないんだけどね」
苦笑しつつ、サトウキビ用の水路で水浴びすると、服の脇に置いた収穫物に目をやる。
「加工は今晩じゃなくていいかな。そこまでやってると夜が明けちゃいそうだし」
明日、再びこの地を後にするなら睡眠はちゃんと取っておきたい。
「うん、そう思うなら言わなきゃ良かったかも」
服を着て梯子を登った僕が遠い目をしながら呟いたのは、窓の外の星空が白み始めていたからで。
「けど、まだセーフだよね?」
急いでベッドに潜り込むと、お休みなさいと言って僕は瞼を閉じた。
次回、二十九日目