マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・二十七日目「ただいまの後」

 

「徹夜から始まる二十七日目でございます」

 

 何だろう、このテンション。

 

「って、ええ、ちょっ」

 

 だが、この日は出だしから微妙だった。こちらが気取られない程度に距離を置いていた人骨が泳ぎながら近づいてきたのだ。

 

「こっちくんなー!」

 

 それが正直な気持ちだったが、スケルトンは止まるまい。何故なら、後方を犬掻きで猛追する影があったから。

 

「そりゃ、人骨(スケルトン)からすれば岸にいた狼が自分に気づいて飛び込み、追いかけてきたら必然的に陸から遠ざかるコースは取るだろうけどさぁ」

 

 何もこっちに向かって泳いでこなくても良いと思う。

 

「前方の骨、後方は骨と匠……まったく」

 

 現在地が広い水辺で良かったと思う。

 

「日が昇り始めたのも助け、かな」

 

 スケルトンも狼も細かく言うなら居るのは右手前方。陸の魔物を警戒して湖の中央にいる僕には退路がある。

 

「ぶつかりませんようにっ」

 

 大きく梶を切り向かわせたのは左手の岸。ボートの機動力なら迂回しつつ加速すればすれ違うのは難しくない。

 

(岸にぶつからなきゃ、の話だけど)

 

 つまり、自分の操船技術次第。

 

「大丈夫、行けるっ」

 

 おけはざま号達の犠牲も、筋肉痛になってもおかしくないのになぁと首を傾げる程オールで漕いで腕を酷使した経験も無駄にはならない。

 

「やった、抜けた……ん、また開けた場所に……ここは湖かな? 大きな川の様にも……あ、島がある」

 

 周囲を観察する間も周囲はどんどん明るくなって行く。

 

「油断は禁物だけど、この分なら上陸も出来るかも……と言うか、ここ、川と繋がってないのか」

 

 浮く蓮の葉で動きづらくなり、上陸地点を探す内に見つけたのは河口を盛り上がった土に塞がれた形の川。

 

「この土がなかったら湖に合流出来てたのに。流れてきた土砂が堆積してダムになっちゃったとか? けど、こんな河口でってのも……むしろ地形的には崖崩れの方がありそうなんだけど」

 

 ブツブツ呟きつつ、ボートを下りると、斧を振るった。

 

「これでよーし。んー、拠点の南っ側にも川があったし、この川があの川に続いてるなら辿ってくだけだし、楽でいいよね」

 

 これで戻れる、そう思った僕を待っていたのは、川を辿りつつのマッピングの結果、辿った川が拠点の側を流れる川とは別の川という事実。

 

「さっきの、フラグでした?」

 

 問うたところで答える者はいない。湖では牛を見かけたが、川が別の川と気づいて逸れてから目にした動物はおらず。森を抜け、丘を登り。

 

「あ」

 

 開けた視界に飛び込んできたのは、カボチャランタンと一軒の家を乗っけた山の頂。

 

「我が家だ。帰ってきたんだ……」

 

 足下に流れる川は、今度こそ拠点南にある川だろう。

 

「戻ろう」

 

 戻って鉄を手に入れる。そして、再び地図を作らなくちゃ。僕は、丘を駆け下り、川を泳いで横断すると、河原を走り出す。

 

「ひゃっほーっ!」

 

 振り回すスコップで川岸に生えていたサトウキビを刈り取り。

 

「メェ~」

 

「たっだいまーっ!」

 

 柵の外にいた羊の毛をハサミで刈り取ってご挨拶。

 

「ふふ、帰ったらまず水浴びかなぁ? 何度も泳いだけど外じゃリラックスして身体を洗うなんて無理だったし」

 

 ついでに地下農園の収穫も済ませてしまおう。

 

「ただいま、ただいま、ただいまーっ!」

 

 危ない人みたいにただいまを連呼しながら階段を上るが、許して欲しい。こんな長い冒険にする予定はなかったのだ。

 

「ふぅ、魔物に襲われないこの安心感」

 

 ドアを開け、中に入って後ろ手にドアを閉めた僕は、ベッドに腰掛けると身体から力を抜いた。

 

「あー、このまま寝ちゃいたい」

 

 もちろん、本当に寝る気はない。やらなくてはいけないことが残っているのだから。

「まずはボートをチェストにシュゥゥゥッ!」

 

 サイズ差の不思議とかはもう気にしない。ついでにいらないモノもぽいぽい放り込むっぽい。

 

「さー、収穫収穫。んー、カボチャは控えめ。おおっ、麦は大豊作だ。んー、サトウキビは微妙。サトウキビだけなら川辺で辻収穫した分の方が多いなぁ……さて」

 

 とりあえず、収穫を済ませたところで僕は服を脱いだ。

 

「読者サービス……って、どの辺がサービスなんだろ」

 

 そもそも読者って何だ。ひょっとしてこの日記を読む人のことなのか。

 

「ううん、一人が寂しくての一人ボケ突っ込み、それ以上でもそれ以下でもないよね」

 

 やはり、孤独は人を狂わせる。

 

「早く村を見つけないとなぁ」

 

 お風呂にでも入る様に水路に浸かると△座りして壁を見つめる。

 

「はぁ」

 

 一人だけの生活は慣れない。だからこそ作業を進めて再び旅立つ準備をしないといけないのだけど。

 

「……そろそろ良いかな。収穫したモノをチェストに入れに行かないと」

 

 皮算用だけど、異なる種類の鉱石が出て持ち物が一杯になることだってあり得る。僕は水路を出るとしっかり水気を拭き取って、再び服に袖を通した。

 

「さー、掘るぞー」

 

 そして、作業を開始したのは、梯子を一応福士、更に地下へ降りた後のこと。まずたいまつを設置した足場から梯子を設置する場所を堀り、つるはしが届かなくなったら降りて次のたいまつを設置する足場を作るため隣の壁を掘る。

 

「そしてそのまま今居る場所より深く掘る。こうすれば最初に洞窟があってもすぐ足下を掘る訳じゃないから天井堀り抜いても落ちる事なく気づけるし」

 

 お次は足場の高さまで足下を掘ろう。そう思った僕はつるはしを振るい。

 

「えっ」

 

 たいまつを設置した高さに至る前に足下が消失する。

 

「ちょ、うぐっ、え?」

 

 足に感じる痛みのレベルに達した衝撃と暗闇。

 

(な、僕、どう……お、落ちた?)

 

 一瞬パニックに陥ったものの、幸いだったのは下がマグマで無かったことと、いきなり攻撃される程近くにモンスターが居なかったことだ。

 

「くっ」

 

 咄嗟の行動だった。掘った時にアイテム化したのであろう安山岩を足下に置き、飛ぶ。

 

「急が、ない、と」

 

 生け贄の祭壇を何度も作った経験が、生きた。

 

「っ、ふぅ……ビビッたぁ」

 

 経験は生きたが、生きた心地はしなかった。僕はこれ以上掘れなくなった石柱の天辺兼石床の上にへたり込み。

 

「けど、どうしよう。これでまた迂回するか掘る必要が出てきちゃった……うーん」

 

 少し堀り広げて小部屋を作り、近くの床を掘ってたいまつを突っ込んでみる。

 

「あ」

 

 視界に入ったのは大きな蜘蛛の足。

 

「これは迂回ルート確定だね」

 

 ランタンを置き、再び小部屋を拡張し中部屋に広げると、元の梯子の場所からはかなり離れた場所に穴を放る。

 

「……うん、瓢箪から駒、は違うな。棚からぼた餅だっけ?」

 

 少し掘って僕の手はあっさり止まることになる。掘った穴の壁から顔を出したのは、鉄鉱石。

 

「ふふ、あははまさかこんなタイミングで手にはいるなんて――」

 

 災い転じて福となす。僕は更につるはしを振るい。

 

「あっ」

 

「シュー」

 

 穴の底が抜け、闇の中からたいまつの明かりに照らし出される緑の匠。

 

「おうわぁっ」

 

 慌てて穴を塞いだ。採掘出来そうな鉄鉱石はまだあったが、そう言う問題でもない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……今日はもう休もう」

 

 少しだが鉄鉱石も手に入った。寝る前に竈に入れておけばいくらかのインゴットは手に入るだろう。

 

「なんか、最後の最後で心臓に悪い一日だったなぁ」

 

 下手すれば死んでいてもおかしくなかった。そう言う意味では運が良いのか。僕は梯子を登ると、有言実行。竈に鉱石を入れてからベッドに横になるのだった。

 

「おやすみー」

 

 鉄の使い道も明日決めよう。久々の拠点のベッドは気持ちよく、僕は気づけば眠りに落ちていた。

 




次回、二十八日目。

またストックが切れたようです。プレイしないと連続更新ががが。

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