マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・二十六日目

 

「ひゃっほー」

 

 眼下のゾンビが燃えつきるのを待って僕は飛び出した。

 

「って、ちょ」

 

 零れた水が滝となり、僕の落下速度を下げてくれるのはいい。ただ、緑の自爆魔が水の流れに寄ってきていたのだ。滝登りを始める匠、落ちて行く僕。

 

「こっちくんなー!」

 

 まさに空中戦だった。振るった斧で水中の匠を吹っ飛ばし山肌にぶつかって流れの変わった先で着地した匠はまたこちらに寄ってきて、流される僕の身体も必然的に匠の方へ。

 

「ええい、鬱陶しい!」

 

 もう一度振るった斧が全てを決めた。任務了解死ぬ程痛いぞモード(じばくシークエンスちゅう)に吹っ飛んだクリーパーは爆発四散し、僕は快哉を叫んだ。

 

「さて、お次はカボチャを……あ、ここ渓谷の入り口だったんだ」

 

 高所落下と隣り合わせな位置のカボチャを回収し、船を川に浮かべると溶岩の滝が眺められる湖を経由して更に先へ。

 

「バケツがあったら寄り道して溶岩の滝の元回収するのも良かったんだけどなぁ」

 

 流れる溶岩は触れた水を石や丸石にしてしまう事が出来る。岸の上の方から溶岩を流すことで水面を石にし、溶岩を回収出来た石の先端の上でバケツを開け、溶岩と触れた部分が石になったらバケツで溶岩を回収すると言うことを繰り返せば橋を造ることが出来る。

 

「水バケツと両方有れば無限に丸石を回収することも出来るから、後は木の苗と土、石の斧とつるはしに作業台が有れば半永久的に石器を使い回すことだって出来るし」

 

 高所から水と溶岩を流すことで足場を作って降りる何て事も出来る。

 

「後はダンジョンの入り口から中に流し込んで敵を焼き殺しても良いし、溶岩自体が発酵するから流れ込んだ先が明るくなって構造もわかったりするし」

 

 ただ、自分がひっかぶれば火がついてダメージを受けるし、溶岩のモトが水に触れてしまうと、黒に近い紫のダイヤのつるはしでしか壊せない黒曜石になってしまうため、扱いには注意が必要だが一つあれば出来ることは多い。

 

「やっぱ、バケツは最低でも二個は必要かぁ」

 

 そうなると鉄が必要になってくる訳で。

 

「洞窟の天井堀抜いちゃったのが痛いなぁ。あれがなかったら最初の拠点みたいにブランチして鉄ぐらいは回収出来てたのに。えっ、だったら何故あの家を出てきたのかって?」

 

 言われてみれば、その通りかも知れない。

 

「って、僕は誰と話してるのやら」

 

 本当に疲れてきたのだろうか。

 

「行けども行けども収穫無しだもんなぁ、はぁ……」

 

 人と話したい。美味しいモノが食べたい。柔らかなベッドとかに寝そべって惰眠を貪りたい。

 

「温泉でのんびりくつろぐってのもいいなぁ、それから……って、いけないいけない」

 

 操船中なのに何か別の意味でトリップするところだった。

 

「わかってたことではあったけどさ、色々飢えてるんだなぁ、僕」

 

 だからこそ、村を見つけたくて、僕は進む。大まかな地形は昨日高所から見てるからだいたい予想どおりであり。

 

「ただ、豪雨に遭うとか、そこで船を岸にぶつけて沈めるとかは予想外でしたけどね」

 

 けっこうな距離は稼いだと思うが、雨に悪くなる視界。岩山に船で通れるトンネルを見つけてそちらに進んだのが失敗だった。

 

「新造して間もないのに」

 

 本当にどうしてこうなった。気づけば、知らない草原に一人ぼっちである。

 

「泣きたい……けど、泣いてる場合じゃないし!」

 

 豪雨の時も夜同様に魔物が湧いた様な気がするのだけれど気のせいだったろうか。

 

「えーと、どうしよう、落ち着け、落ち着け。船はない、だから水辺には逃げられない。生け贄の祭壇は……作るのにちょっと時間帯が早すぎるし……強行突破で豪雨地帯を抜ける? けどどっちの方向に……」

 

 元々船旅で移動距離を稼ごうという行動方針だったのだから、船が沈んだ時点で当初の目的は果たせなくなった。

 

「かといって引き返そうにも船はない。いや、足を止めて作業台作って、新しく作れば良いのか? けど、水路は行き止まりっぽいしなぁ」

 

 となれば、問題は戻るか進むか。

 

「引き返そう」

 

 決断理由は、一つ。

 

「帰り道を探して地図を見たら、今居る場所がわからないとか……本当に参ったね、こりゃ」

 

 どうやら、地図の外に出てしまっていたらしい。

 

「落ち着け、落ち着け……って、さっきも言った様な……いや、それは良くて、山の上から見ておおよその地形はわかるんだ。なら、おおよその方角に真っ直ぐすすうわぁっ」

 

 そして、地図を見ながら走ったせいで湖に落ちる。

 

「っぷは、ちくしょがぼがぼがぼがぼ」

 

 僕は泳いだ。もちろん岸まで。もう自棄になってこのまま泳いでいってしまおうかとも考えかけたもののボートの方が早いのはわかりきっている。

 

「ふぅ、ようやく岸だ。で、家はあっちのほ……」

 

 ジャンプして段差を越えつつ水をまき散らし、びちゃっと着地して周囲の確認をした僕は見つけた。

 

「う……み?」

 

 海だった。

 

「あ、しかもここは地図の描写範囲内だ」

 

 かなり遠くまで続いている様に見える水辺。新たなボートを造らない理由はなかった。

 

「ひゃっほー」

 

 相変わらずの豪雨だが、ボートは滑る様に走る。モヤモヤした気分は吹き飛んでいた。

 

「けど、この東側、陸地が全くないどころか海底に妙な光の壁というか、ここから切り取ってますよみたいなの見える気がするんだよなぁ」

 

 気のせいかも知れない。ただ、ゲームでそう言うただ水しかない場所目掛けて突き進んだらボートが大破したことがあった。

 

「あれは『世界の果て』ってのだと思うんだけど、ひょっとしたらこれも……」

 

 同じモノなら接触した瞬間ボートが壊れて上陸出来るモノのない海原に投げ出されることになる。泳ぐことは可能だが、下手すれば体力を使いすぎて飢え死にと言うことも考えられるだろう。

 

「触れた瞬間元の世界になんて甘い展開は……ないよね」

 

 試すにしてはリスクが有りすぎる。やるならボートを二隻用意して、失敗を前提でもう一度来るべきだ。

 

「うん、今日の所は地図だけ埋めて戻ろう」

 

 推定世界の果てのためか、地図で言うところの東側は陸がなく、右手には島や陸地が普通に見えるものの今のところ進路を遮られることもない。

 

「時間に余裕が有れば南東の端っこも寄り道してみておきたいけど……」

 

 天気が豪雨となると残された時間を推測するのも難しい。

 

「最悪船上泊、と言うか徹夜かな?」

 

 これも無計画な冒険が原因、誰を責めるわけにもいかない。

 

「せめて収穫があります様に」

 

 祈りつつ僕はボートを海に走らせた。

 

「うん、確定だわ、これ」

 

 まるでならしたかの様に均一な海底、浅瀬も刃物で切った様に不自然に途切れ、何もかもが直線に終了している。

 

「だったら……拠点の近くに目印のランタンでも置いて、この果てを片方に見る様にしたら、ひょっとして地図なしでも迷うことなく進めたり?」

 

 突飛なアイデアかも知れないが、魅力的でもあった。地図は作るのにコンパスを必要とする。だが、コンパスは鉄がないと作れないのだ。

 

「もちろん、戻って家の地下で鉄を見つけて地図を作ってからチャレンジしても何の問題もないのだけど」

 

 ひとまずの問題があるとすれば。

 

「上陸出来るか、だよね。雨天でもわかるぐらい暗くなってきてるし」

 

 上陸して祭壇を築くか、ここまま船の上で夜を明かすか。

 

「羊毛無くてベッド作れないからなぁ。地図埋めつつ朝を待てば良いかぁ」

 

 僕は決断を下すと、来た道をボートで引き返す。世界の果てに気をとられ、地図に書いてない岸が北東の方にあったのだ。

 

「って、ここに湖があるや。んー、海にも繋がってる様に見えるし、行けるかなぁ?」

 

 空の色がオレンジ色を帯び始めた景色の中、僕はボートを減速させ、もう一度地図を確認する。

 

「あ、駄目だ。狭いから普通に入ろうとすると多分ぶつかる」

 

 だが、上陸すれば話は別だ。

 

「よいせっと」

 

 船を下りる、斧でアイテム化、岸を乗り越えボートを浮かべる、乗り込む、ただそれだけのこと。

 

「さーてと、時間的にはそろそろタイムオーバーだし、今日はこれぐらいかな?」

 

 湖は思ったより広かったが、狭くなった場所の先にまだ続いている様で、あり。

 

「このまま向かうなら危険が伴うよね。岸には普通に魔物うろついてるし、人骨とか蜘蛛とか」

 

 湖の広くなってる場所の中央に居るためか、モンスター達には気づかれていないが、近づけばおそらく話は別だ。

 

「結局北東の海岸はお預けかぁ」

 

 途中から陸路になると思うが、距離だけなら第二拠点の方がここから近い気がする。

 

「うん、確かめてみたら距離的にはだいたい同じぐらいだったなんてのは、天気が雨で地図が濡れてるのと雲に隠れて月明かりもささないからだよね?」

 

 そうだ、きっとそうに違いない。

 

「なら、朝が来れば……って、本当に雨、止まないなぁ」

 

 見上げれば顔を叩く雨は今だ止むこともなく。

 

「あれ?」

 

 言及した直後に止んだのは、僕に悪意でもあったのか。

 

「何故狙い澄ましたかのように……あ、月が」

 

 気づけば月も周囲を照らしていたが、その位置は低く。

 

「ってことは――」

 

 東の空を見れば朝焼けが始まっていた。

 

「わぁ……」

 

 この湖に入るのに乗り越えてきた岸を除けば、遮るモノの何もない水平線に暁はあった。

 

「綺麗だなぁ……匠とスケルトンがお邪魔だけど」

 

 人骨の方はすぐに燃え尽きる、と言いたいところだが飛び込んで燃焼を避ける水には事欠かない。たぶん生き残るだろう。

 

「つまり、退路も断たれてるわけで、これはほぼ一択かな」

 

 気まぐれな冒険の帰路も半分を過ぎていた。

 





次回、二十七日目。

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