マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・二十五日目「『そいや』と言う単語に何故か悪魔城を思い出す」

「おっはよー」

 

 窓の外の明るさを見ると、外に出てみたくなる今日この頃。スケルトンやゾンビが焼かれていれば尚のことだ。

 

「ちょっとだけ」

 

 アイテム狙いの浅ましい気持ちで窓越しにスケルトンが倒れるのを見届け、外に出る。

 

「骨と矢ゲットー。弓はないけど」

 

 骨は狼を手名付けられるアイテムである他、加工することで植物の肥料にもなる。

 

「あ、狼が」

 

 他にも何かないかと見回せば、飼育所の外で柵に向かってジャンプを繰り返す害獣の姿。

 

「ガルル」

 

「セイヤーッ」

 

 僕は容赦なく斧を振り下ろし。

 

「ギャンッ」

 

「もいっちょ」

 

 更に追撃。羊に気をとられていたので始末は簡単だった。

 

「ふっ、正義は――って、危なっ」

 

 調子に乗っていたら飼育所の近くにジャンプで中へ飛び込めそうな場所があったので、スコップで急いで土を削る。

 

「はぁ、あの狼がアホで良かったぁ」

 

 同時にここを使って中に飛び込まれていたらと思うと寒気がする。

 

「まぁ、もう終わったことなんだけど……さてと、後は……あ、この辺りの地図、まだこれだけしか埋まってなかったんだ」

 

 何気なく持ってきていた地図を覗いてしまったのは、失敗だったかも知れない。

 

「うう、埋めたい……」

 

 火がつく僕の探求心。と言うか、不完全すぎる地図が放っておけなくて。

 

「行ってみよう」

 

 気が付けば僕は走り出していた。山の麓、にあった森の脇を抜け、北へ。川か湖か、広い水辺へ出会い、近くの木を切り倒し、作業台を作ると、砂に埋め込み、目印のたいまつを立てて、ボートを作成。

 

「久しぶりの船旅だ」

 

 北へ。うっかり蓮の葉に接触しつつも北へ。

 

「って、行き止まり……引き返そう」

 

 湖の北岸にたどり着き、Uターン。

 

「あ」

 

 北東に川の入り口を見つけ、そちらに。

 

「ちょ、狭い。しかも久々の操船だし、ちょっ」

 

 イカとぶつかり、船が壊れ水底に。

 

「ぷはっ、何でこんな狭い川にイカ二匹も居るのーっ?!」

 

 イカの数え方はハイだったか。

 

「って、そうじゃなくて、ここからどうしよう……船旅じゃないと移動距離はたかが知れてるし‥…んー」

 

 僕はまた迷った。だが、短い間のこと。

 

「とりあえず、最初の予定通り北に行ってみよう」

 

 出来れば高い山から周囲を眺めても見たいが、それは時間が許せば。

 

「……なんて思ってた時期が僕にもありました」

 

 地図で見えてなかった前方を見るとそこには山があり。

 

「登った! そして、絶望したッ!」

 

 人工物なんてありやしない。下の方を見たら一箇所渓谷が口を開けてましたが、何か。

 

「ま、まだだ。落ち着け。これだけでっかい山なんだ。太陽は真上だし、地図埋めがてら360度順に見て行けば新たな発見が――」

 

 ありませんでした。

 

「ちくしょーっ! 時間を無駄にしたっ」

 

 傾く太陽、ここからどっちに行くのか定まらない心。

 

「引き返しても、拠点に戻る前に日が暮れるだろうし……祭壇こしらえるにはまだ太陽は高いし。うー、あーっ」

 

 迷う、ハンパすぎて迷った。山が高いこともある。登ってきたところは石とかで足場を作ったり土を削らないと登れない急勾配だったし、山頂近くに洞窟がぽっかりと口を開けていたりもしたのだ。

 

「下手な所から降りて洞窟とか渓谷にシュゥゥゥゥッ! されたらなぁ」

 

 バケツの水はある。滑り降りること自体は難しくはないのだ。

 

「くっ」

 

 そして、こうしてる間にも時間は流れて行く。

 

「北西には海が見えた様な気がするけど」

 

 今から目指して船を作る時間はあるのか。たどり着けるのか。

 

「たどり着けても洋上徹夜コースだろうけれど……。それでも――」

 

 高所から発見が出来ないなら、海に出て足で稼いだ方が可能性はある。

 

「んー……」

 

 悩みに悩んだ、結果。

 

「祭壇だ」

 

 僕はいつもの祭壇を山頂に押っ立てる事に決めた。

 

「更に高くなった上、夜なら、遠くの明かりでも拾えるかも知れない」

 

 博打ではある。が、やや東に逸れたものの、半分以上直進してるので、夜が明けてから帰るという選択肢もここなら選べる。

 

「あれが良い」

 

 近づいたのは山頂に一本だけ生えた針葉樹。

 

「ブロックにして数個分とは言え節約出来そうだからね」

 

 土台は、それに決めた。

 

「君には悪いが、丁度良い場所に生えていたのが悪いのだよ」

 

 踏み台にさせて貰うと語りかけ、土や石を足場にして枝を更に上へ。やがて天辺に登り詰めてからが本番だ。

 

「はっ、そいやっ、ほっ、そいや」

 

 視界がどんどん高くなって行く。そして、太陽はどんどん落ちて行く。

 

「はっ、そいやっ、ほっ、そいや」

 

 そいや、そいや、そいや、そいや、そいや。

 

「はっ、そいやっ、ほっ、そいや」

 

 どっこい、そいや、そいや、そいや。

 

「ふっ、はっ、ふっ、そいやっ!」

 

 もう、勢いだった。夕暮れの中石柱を高く、更に高くする男、僕です。

 

「さーて、もう良いかな。そろそろ寝床を作ろう」

 

 手を止め、ポツリと呟くと、柱を高くする作業は足場を作る作業に。僕は見てしまったのだ、第二の絶望を。

 

「ふふ、ははは。また明かりがないんですけど」

 

 唯一確認出来た南西の端っこのモノは船を作った場所に立てた目印だろう。ちなみにもう一箇所明るい場所があったが、そちらは溶岩の滝であると明るい時に確認している。

 

「おまけに羊毛全部仕舞って来ちゃってるし、僕」

 

 ベッドの置ける広さをこしらえ、作業台を作ってから発覚する衝撃の事実ゥ。

 

「二つ目の拠点よりずっと高い」

 

 焼き羊肉を囓りながら、謎のテンションで巫山戯ないと、やっていけない僕がそこにいた。

 

「せめて、ここで船だけ作っちゃおう」

 

 明日は船旅だ。密かに心に誓い、僕は星を眺めた。

 

「ふーん、見込みがありそうなのは……あ」

 

 次に地図へ視線を落とし、よく確認して気づく。

 

「海だと思ってたのって、僕が船で通ってきた湖だ」

 

 まさかの大ポカだった。

 

「もう船作っちゃったのに……一応北東にも広そうな川はあるけど」

 

 これは帰れと言うことなのか。

 

「ふぅ、そう言えば北東ってあの溶岩の滝があった方角でもあるよなぁ……あ、川の側にカボチャもあるや。あれは回収した方が良いかなぁ?」

 

 時は流れて行く。時間を持て余し、眼下を見てブツブツ呟きながら僕は首を傾げ。

 

「あ」

 

 気づけば赤く染まる東の空、夜が明けようとしていた。

 




次回、二十六日目。

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