「おはよー。そっか、もう朝か」
今日は地下に潜って決断を下さねばならない日。
「んー、そうだなぁ」
迷ったあげく、僕は迂回を選んだ。へたれと言われても仕方ないが、ここは安全第一だ。
「天井堀抜いちゃった場所から横に逸れて……あ」
目算を間違えもう一回天井をぶち破っちゃったのはご愛敬。
「今度こそ……うまく行きそうだ」
掘るのは例によって壁沿いとその隣。暫くは順調に掘り進んでいたのだが。
「うわぁ……砂利の層ですか」
重力に従い落下する砂利は落盤の危険もあるし、転落防止の足場に出来ないめんどくさい地形だ。
「こりゃ、足場は諦めるしかないなぁ。本命の深さでもないだろうし」
ついでに言うならさっきのダンジョンにも深さが近い。上の方の様に小部屋を作ろうとしたらろくな結果を産まないだろう。
「ふぅ、ようやく砂利の層をぬけ……あ、石炭」
ここで嬉しいサプライズ。たいまつの材料や竈の燃料で減りに減っていた石炭が補充出来るのはありがたく、僕は下に掘り進むのを一端止めて採掘することにした。
「わぁ、けっこう大きな塊だったぽいなぁ。あ、ここ砂利の上かぁ」
採掘すれば砂利が崩れてくる構造を前に僕は手にしたつるはしをスコップに持ち替える。
「崩れてくるなら先に――掘るッ!」
何も考えずに崩れた砂利の向こうに洞窟があったら上からモンスターが降ってくることだって考えられた。
「ふーっ、洞窟は取り越し苦労だったけど上は埋めておいた方が良いな」
ついでに足場も設けて、たいまつも置いておこう。
「あとは、掘ったモノがたまってきたし、一端チェストに入れに行くかなぁ?」
上に戻り、要らないモノを放り込んだついでにつるはしを作ると再び地下へ。
「けど、明るいうちから地下で作業なんて珍しいよね」
窓の外の光景を思い出しつつ、呟きながら梯子を下りる。
「あ、地図忘れた」
何故か自分の居る高さがわかる地図は地下採掘の必需品だ。
「あー、あったあった」
結局また梯子を登ることになり寝室に戻った僕は地図を手に地下へ。
「お、また石炭の層だ」
採掘、採掘、採掘。
「うん、その結果小部屋が出来ちゃうなんて些細なことだよね?」
洞窟とはあれから一度も接触していない。
「さーて、あらかた石炭はとったから作業再開だーっ!」
そんな作業にも意外な展開で結末は訪れる。
「あれ? もう梯子ないんだ……」
一段とばしで設置しても梯子は機能するという裏技的節約術を知っていても登るのは自分の身体だからときちんと横着せず梯子を設置したからだろうか。荷物の中に梯子のストックがいつの間にかなくなっており。
「仕方ない。作りに戻ろう。あと、農園の方も確認しておこうかな」
そろそろカボチャとかも実ってる頃だ。ちなみに僕はサトウキビの水路を使って収穫ついでに水浴びをしている。
「お風呂が有れば良いんだけど、この世界にそんなのないしなぁ」
温かい液体となると溶岩だが、そんなモノに浸かったらこっちが死ぬ。
「溶岩と水を掛け合わせると石か黒曜石になっちゃってお湯にはならないし」
こんな時、似て異なるビルダーズが羨ましくなる。
「……あ、水の下に竈を設置して燃料をくべればそれっぽい五右衛門風呂くらいなら出来るかも……けど、攻略的には無意味だしちゃんとしたお湯になるって保証もないんだよね」
下手をすればとても入れない熱湯になるってオチも考えられる。
「まぁ、ゲーム通りなら普通に火の入った竈の上だって乗れはする筈なんだけど。ん、こんなモンで良いかな? 人に会わない上、死ぬか生きるかのサバイバル生活とは言え、数日に一度ぐらいは身体も洗っておかないとね。さてと、サトウキビもこれで全部回収っと」
まだ試す気にはなれない。梯子を上った僕はブツブツ漏らしつつ地下サトウキビ畑で水浴びと収穫を済ませると、再び梯子に手をかけカボチャの地下農園に向かい
「あー、なってるなってる。これなら、ランタンの補充も出来るなー」
洞窟をぶち抜きはしたが、作業はけっこう順調だったと思う。
「あ」
上に戻って窓の外が真っ暗になってる事に気づくまでは、そう思っていた。
「あっちゃー、もうこんな時間なんだ……作業、台?」
外の暗さに寝てしまおうか迷うが、側にある物を見て気づいた。
「随分下に掘ったし、あっちに作業台とか用意すればもっと時間を有効活用出来るんじゃ?」
迂闊だった。寝るより先にすることが出来てしまった。
「戻ろう」
出来れば、再びこちらに来た時に朝になっていません様に。密かに祈ると、僕はとんぼ返りする。
「よーし、作業台と竈と、後チェストも作っておこう。んー、全部置ける小部屋を作ろうか」
ついでにベッドまで完備すれば上に登る必要もないんじゃないかと思ったが、時間の感覚が狂いそうなので断念。
「やっぱり時計が欲しいよなぁ。けど作るには黄金が必要だし、村人から買うにはまず村を見つけないといけないし」
現状無い物ねだりであることはわかっている。だから、為うぃきをつくと梯子を登り始め。
「んー、ついでにカボチャを確認してから上に戻ろうか。あ、二個なってる」
上に戻る途中で農園に寄ってカボチャを回収したがこれは念のため加工せずチェストに放り込む事にする。
「種が無いと困るしなぁ、これは保存用で中のカボチャと同じ場所に入れて……あ、日記」
ちなみに今更かも知れないが、日記にしてる本は荷物になるのでチェストの中だ。記載は荷物整理のついでにしたり、先日の様に祭壇の上で寝る時などは、たいてい所持している樫の板に文字を彫っておいた覚え書きなんかを元にして後日日記に書き込んでいる。
「ふぅ、こんなとこかな。けど、地下の作業ってただ掘るだけで単調なことも多いから日記に書くことなくなっちゃ足りするんだよね」
自分でもこれで良いのかと思ってしまう程文字数が少なくなることがあって、考えさせられる。
「まぁ、いいや。日記も付けたし、今日は寝よう。おやすみなさーい」
明日もきっと地下で作業だ。疲れを持ち込まないためにもと僕はベッドに横になったのだった。
次回、二十五日目