マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・二十三日目

「おっはよー」

 

 朝がきた。たいまつもランタンもあり、大きな窓まであることで、暗さとは無縁の家の中、開けた瞼に飛び込んでくる明るさに顔をしかめつつも、いつもの誰に向かってなのかわからない挨拶をしてベッドを降りる。

 

「お、今日はゾンビが燃えてるだけかぁ」

 

 口に出して見ると凄い状況だが、この世界ではごく当たり前の光景だ。

 

「腐肉落ちてるかも知れないし、見に行くだけ言ってみようかな。あ」

 

 独り言を言いつつドアを開け外に出て気づく。小麦は持ったっけ、と。

 

「ふー、危ない危ない」

 

 荷物を確認すると小麦はなく、チェストから取り出すべく家に戻る。

 

「ふぅ、今度こそ……あ」

 

 再びドアを開けて外に出ると、草原のど真ん中にいたのは、黒い長身。

 

「何処かで水に触ってテレポートでもしてきたのかな?」

 

 面倒だなあと思っていたが、この草原には寝台から降りるために作った滝もある。

 

「あ、居なくなった。日光も駄目なんだっけ?」

 

 何にせよ勝手にテレポートして去ってくれたのだから文句はない。

 

「さーてと、おたからおたから……うあっ」

 

 日光に焼かれたモンスター達の落とし物を捜して周囲を見回すと、家のある山の麓、北側の森で木下に佇む白骨を見つけて口元が引きつった。

 

「めんどくさいのが残ってるじゃないですか、やだー」

 

 気づかれませんようにと願いつつ山を下りる。燃えてたゾンビの片割れがそのスケルトンの弓の射程内で倒れるのを見ていたのだ。

 

「腐肉は落としてたけど、大丈夫かな」

 

 草の上に転がるアイテムとスケルトンを見て数秒迷い。

 

「……走ればいける」

 

 木陰から出ればスケルトンも身を焼かれるからあそこから出られない、逃げ切れると自分を納得させ走り出す。

 

「おっけー、気づかれてもいない」

 

 ラッキーだった。

 

「見たところ匠も居ないっぽいかな?」

 

 条件は揃った。

 

「じゃ、はじめよっか」

 

 一匹だけ斜面側で確保した羊を合流させる。

 

「……の前に実験、かな」

 

 気になっていたのだ、ピンクの羊と白の羊を交配させると子供の毛色がどうなるのかが。

 

「……うん、そう言えば二重の囲いでピンクの羊は保護してたんだっけ」

 

 飼育場での交配がめんどくさいことに気づいた僕は思い直してもう一頭をこちらに連れてくることにし。

 

「あ、水も補充しておかないと」

 

 先に川でバケツに水を汲むと、斧で柵を壊す。

 

「んー、この柵はどうしようかなぁ?」

 

「メェー」

 

 全部壊している暇はない。羊が逃げてしまうのもあるが、間違って斧が羊を傷つける危険性もあるのだ。

 

「ひとまずは君を新しいお家に招待しようか?」

 

「メェ」

 

「っ」

 

 ただ鳴いてるだけだとはわかっているというのに、何だろうこの感動は。

 

(もう村人なんてどうでも良いからこの子達を脳内擬人化させて……こう見えても僕は物書き志望、妄そ……想像を働かせる事ならお手のも……って、駄目だ駄目だ)

 

 一瞬、ふわもこのピンク毛皮の羊娘が脳裏に浮かび僕は頭を振った。

 

「メェー」」

 

「危ないところだったよ。まだ世界の何処かで僕を待ってる村人が居るかも知れないというのに‥…」

 

 とんでもない過ちを犯すところだった。

 

「だいたい羊なんて手名付けた狼や山猫と違って柵とかで閉じこめておかなきゃフラフラ彷徨って何処かに行っちゃう生き物だって言うのに」

 

「メェ」

 

 自分の愚かさに恥じ入る間も羊は鳴く。目は手にした小麦を見ていた。

 

「そうだね。新しいお家に行こう、そこで――」

 

 僕はピンクい羊をそのまま飼育施設に誘導して行くと、羊が囲いの内側に入ったのを確認してからゲートを閉じた。

 

「さて、それじゃご飯だよ」

 

「「メェェェ」」

 

 小麦を差し出せば、猛る羊たち。たぶん、これがゲームで言うところの求愛モードという奴なのだろう。

 

「けど、ほんとおてがるだよなー、このせかい」

 

 羊たちが一斉に始めた愛の営みから目を逸らし、僕は呟く。

 

「どうぶつたち の こづくり が げーむどおりだったか は あえて そうぞう に おまかせしたい と おもいます」

 

 僕は誰に向かって言っているのだろう。あ、ピンクと白の羊を掛け合わせた結果産まれてきたのは、白い羊でした。

 

「はぁ、ピンクを増やすにはピンクだけ隔離してセットにしなきゃ駄目かぁ」

 

 危うく牛まで入ってくるところだったぐらい小麦の誘引は強い。小麦でおびき寄せては無理だろう。

 

「タイミングを見計らって柵で分けるしかない、かぁ」

 

 斧で柵を壊す時に羊を傷つけかねないので細心の注意が居るのだが、是非もない。

 

「ま、それはそれとして……次はここの湧き潰し、かな?」

 

 カボチャランタンを複数設置すれば、先日の祭壇の上の様に降りるに降りられない状況にはならないだろう。

 

「終わったら、地下を掘り進んで鉄を集めて……って、そんな先のことはいいや。湧き潰し湧き潰し……」

 

 完全にモンスターが出現しない程明るくする必要はない。

 

「食料はまだあるし、カボチャのランタンも無限じゃないからなぁ」

 

 柵の周囲、モンスターをよく見かけたところに設置し。

 

「あ、おけはさま号の……南の祭壇が見えるや。そっか、川側の斜面からだとあの祭壇って見える位置にあったんだ」

 

 途中、遠くに見えるコの字型の人工物に驚きを覚えつつ、作業を続ける。

 

「じゃ、次は山の斜面だね」

 

 家に戻るついでに丁度良い。

 

「たっだいまー」

 

 家に戻るとランタンは残り十個まで目減りしていた。

 

「太陽は……まだ夕暮れにはなってないけど、んー、外で作業する程余裕はない、かなぁ?」

 

 外の明るさに屋外でしか出来ない作業をしておくべきなのではも思ったが、羊は保護したし、拠点内で動く分には拡張した畑の作物で食料は事足りてしまう。

 

「じゃあ、地下だよね」

 

 僕は作業台で道具を補充し、ベッドを乗り越えるとチェストに要らないモノを放り込んで下へと降りた。

 

「まずは作物の収穫をしないと。あ、カボチャがけっこう出来てる」

 

 ランタンをかなり使っていたのでこれはありがたく、続いて収穫したのは、麦。

 

「んー、麦はまぁ、実だけ収穫するカボチャと違って本隊を収穫しちゃうもんね。こんなモノかも」

 

 最後にサトウキビだが、高さと隣に水があることを要求するややめんどくさい育成条件の為、収穫量は微妙だった。

 

「まぁ、それでもゼロじゃないし」

 

 そもそも主目的は地下へ掘り進むことだ。

 

「梯子、隣、梯子、んーもう一つ掘ったらたいまつ置」

 

 たいまつを置こうと思いつつ、振り下ろしたつるはしが砕いた石は丸石になって落下した。

 

「え?」

 

 そう、真っ暗な闇の底に。

 

「ちょっ、洞窟?」

 

 思わず早いよと叫びそうになった。

 

(うあーっ、しかもこれ洞窟の天井堀り抜いたっぽいじゃん)

 

 たいまつを手に覗き込んでみたが、床は落ちたらダメージ受けるくらいには下の方であり。

 

「参ったなぁ」

 

 ぼやきつつひとまず丸石で蓋をする。

 

「洞窟を迂回させて掘るのも手だけど」

 

 山頂から真っ直ぐ下に掘り進んでいる所を真横に移動すれば下手すると斜面を破って外に出かねない。

 

「けど、諦めないなら、迂回しか方法はない訳で……」

 

 僕は蓋にした丸石の上にたいまつを置く。

 

「とりあえず、他の階と同じように小部屋を作ってみようかな」

 

 斜面側を背中にすればいきなり外と言うこともあるまい。僕は他の部屋に倣った小部屋を作ろうとつるはしを振るい。

 

「うん、知ってた」

 

 次々ぶち破る洞窟の天井。

 

「まぁ、収穫はあったけど」

 

 最初にぶち破ったのは、向かって正面、左、右からの通路が交差する丁字路のど真ん中だったらしい。落下してたら、三方向に伸びた通路のそれぞれから現れるかも知れない魔物を警戒する必要があった訳だ。

 

「右の通路は下に下っていて、部屋と接触したのは正面の天井。んー、逆に言うなら通路同士を遮ってる壁の部分なら通路には当たらない訳だけど」

 

 一つが下に続いてるならそっちとぶち当たる可能性はある。

 

「参ったなぁ……って、掘り始めてけっこう経つよね……ちょっと戻ってみよう」

 

 ひょっとしたら上はもう夜なのではないかと思い。梯子を登り。

 

「あー、やっぱり。それと、斜面のほぼ死角、めんどくさいところに匠が湧いてる……」

 

 窓の外の暗さに声を上げた僕は、増やしたランタンのお陰で見えた緑の奴に顔をしかめた。

 

「……とりあえず今日は寝ようか」

 

 ダンジョンに挑むか、迂回して掘るかはまだ決まらないけれど起きっぱなしでは判断力も低下する。それにうろ覚えだけれどモンスターの発生は夜だった様な気がして。

 

「おやすみ」

 

 結局この日はベッドに潜り込み目を閉じたのだった。

 

 




次回、二十四日目。

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