マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・二十一日目「考える」

「さー、やるぞー!」

 

 今日は本格的な羊育成施設を作り始める日。

 

「あ、バケツに水がない」

 

 荷物を確認し、まずは水くみからと予定を変更したのは些細なこと。

 

「あ」

 

「シュー」

 

「てやーっ」

 

 うっかり山の麓にいた匠に見つかって、斧で殴り飛ばし。

 

「シュー」

 

「てやーっ」

 

 再び寄ってきたところを殴り飛ばすのを繰り返して倒し、火薬を手に入れたことも。

 

「んー柵を設置する前に草を刈ら」

 

「メ゛ェ?!」

 

「あ」

 

 草刈りの最中に寄ってきた羊を叩いちゃったのも些細なこと。

 

「うん、バケツの水除草法を使おう」

 

 事故を教訓に僕はバケツの水をひっくり返した。

 

「うわぁ、早い早い」

 

 広がる水はあっという間に草や花を押し流して行く。

 

「で、残ったのはアイテムだけ、と」

 

 回収を済ませば、次は整地だ。

 

「あ、土がない。ま、丸石でいっか」

 

 最初にピンクの羊を囲った場所を覆う様に柵を設置し、角は丸石のブロックを置いてからその上にカボチャのランタンを置く。本格的な湧き潰しはあとでするが、明るくしておけば山頂の家からでも夜中、飼育場の様子が見やすくなる。

 

「ふぅ、とりあえずほぼ一周囲めたなぁ。最後に残った場所にゲートを付けて……うん、次の工程に行こう」

 

 次は、作業台の作成。

 

「まさか伐採とかで使いすぎて斧を壊してたの間違えた所に柵を設置しちゃうまで気づかないとか……クリーパー倒した時に壊れたんだろうけど」

 

 年はとりたくないものですじゃ。

 

「はは、もうついでだし、竈とチェストも一緒に作って地面にはめ込んでおこう」

 

 わざわざ家に戻って足りない道具を作ってくる手間もこれで省ける。

 

「次は羊かな?」

 

 小麦をせっかく持っているのだ。近くの羊を囲いの中に誘い込んでおけば、家の小麦が増産された暁には繁殖させることだって出来るし、白い羊毛は数を集めればエメラルドと交換してくれる村人もいる。かなりのぼったくり物々交換だが。

 

「メェェ」

 

「ほらほらこっちこっち」

 

 そんな訳で羊の誘導を始めたが、割と大変だった。

 

「メェー」

 

「あっ、こら」

 

 一定より距離が空いてしまったのか離れて行く羊がいれば。

 

「モー」

 

「ちょっ」

 

 作ってるのは羊の飼育施設なのに寄ってくる牛が居て。

 

「はぁはぁはぁ……ようやく終わった。あとは……んー、寝るためにわざわざ家に戻ると時間のロスになるし、ここにも仮眠用の祭壇でも作ろうかな? 梯子を付けておけば上り下りも出来るだろうし」

 

 梯子なら、地下室を作るために確保していたモノがある。ベッドは地面にはめ込んだ作業台で作った。

 

「んー、場所はここで、高さはどうしよう……あ、お腹減ってきた」

 

 荷物を漁り、焼いた羊の肉を口にくわえると、僕は次に丸石を取り出し。

 

「んふぉ、ふぉひへほほー」

 

 肉をはむはむしたまま石を積み始める。ランタンを組み込むのは当然で、高さは決めずに作り始めたが雲に届く程高くする気はない。山頂に立つ家の屋上から周囲を見回しても発見は無かったのだ。

 

「とりあえず、これぐらいで良いかな。もう日も沈みそうだし」

 

 落ちたら大ダメージを受けるのは必至な高さの石柱の上、家まで戻るのも危険な程周囲は暗くなりつつある。

 

「ちょっと新鮮だなぁ」

 

 足下に広がる家の窓とは別の角度から見る草原の景色。もちろんただ眺めている訳ではなく、呟く間も手は動いて足場を作って行く。足場、そして柵とたいまつ、最後に中央へベッド。水で降りる時に使うから一面だけ柵は設けず、

 

「こうやってみるとけっこう魔物湧いてる……」

 

 大半は緑の匠だが、ゾンビの姿もチラホラあって。

 

「人は見かけないのにこうも頻繁に腐乱死体がうろついてるってのはミステリーだよね」

 

 白骨化してない人の死体だけは潤沢にあるという矛盾。

 

「致命的な伝染病で人口が激減したとかなら人が暮らした痕跡は残ってないとおかしいし」

 

 いや、確かにゲームでだが、洞窟の中なんかにはスポナーブロックの中央に置かれたモンスターハウスという魔物を召喚する罠とチェストがある部屋を見かけた。

 

「あっちは苔むしてるから、先人の遺構だったとしてもゾンビの元になった人が生前暮らしていた場所とは違うよな」

 

 だが、同様に大きな洞窟に潜ったりすると時々遭遇した廃坑は所々崩れたり蜘蛛の巣が張っているとは言え、レールやトロッコが残されていたりと先人達の生活に関わっていた施設だったとしてもおかしくない様に思える。

 

「んー、そう言えば何もない場所に井戸だけぽつーんと存在することはあるよなぁ……あ、そうか」

 

 ベッドの上で考えていた僕は丘の上をうろうろしている緑のモンスターを見てポンと手を叩く。

 

(クリーパー)が大量発生して、近辺の町や村を襲撃、建物を跡形もなく吹き飛ばし、巻き込まれた死体だけが残ったとしたら……」

 

 説明はつく。空に浮いた形の大地なんかもこの世界の特性を鑑みれば下の部分を匠に吹っ飛ばされた残りだったりするのだろう。

 

「植物とか作物はもの凄い早さで生長するし、吹っ飛ばされた場所もすぐ緑に覆われて……今の様な状態になった」

 

 これなら矛盾はない。明るいところに匠は発生出来ないという矛盾以外は。

 

「んー、科学が進んで明かりは電力で賄う様になったところに大規模停電が起きた……は、無理があるなぁ」

 

 世界各地が同時に停電というのも変だし、非常用の明かりを誰も用意してないとは思えない。

 

「理論的に原因を探すのが間違ってるのかな……まぁ、いいや今日はもう寝……あ」

 

 寝ようと思った僕が見つけたのは、柵の外に居るピンクの羊。

 

「見失った羊、戻ってきたんだ」

 

 出来れば保護したいところだが、羊の周囲にも数体のモンスターがうろついており。

 

「朝が勝負、かな」

 

 安全に降りられるかと生き残った魔物をどう処理するかが僕には求められるだろう。

 

「そうとわかれば夜更かしは禁物、明日に備えないと」

 

 僕はベッドに横になり、目を閉じた。

 




最近文字数減ってるので、ちょっとこの世界について考えさせてみたり。

次回、二十二日目

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