マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・二十日目

「おっはよー」

 

 誰に向かってるのか不明な挨拶もそこそこに僕は外に出た。

 

「羊、羊……って、羊増えてる?!」

 

 繁殖でもしたのか、最初二頭だったピンク羊は三頭に増え。

 

「うわぁい、せかいってふしぎがいっぱいだなぁ」

 

 もう日が昇ってるのに森の入り口をうろつく黒い長身の人(エンダーマン)。羊の向こうで草の影からチラチラ見える(クリーパー)。馬鹿でかい蜘蛛は中立化してるから良いとして。

 

「ピンクの羊、段差の側にいるし」

 

 柵で囲おうにも高低差が有ればそこから抜け出されてしまう。

 

「となると、まずは整地だよね」

 

 スコップを取り出し隆起した部分を削る。ついでに麦の種が手に張るかも知れないので二度美味しいという訳だ。

 

「ふぅ、完了。さってと、まずは近いピンク羊から……逃げるなよ~逃げるなよ~」

 

 この語りかけがフラグだったのか。

 

「よし、一頭目確保完りょ……って、あぁ?!」

 

 安堵の息をついたところで残りを探せば、別々に川の方へと去って行く後ろ姿が二つ。

 

「待ってぇぇぇ?!」

 

 慌てて追いかけるも、一頭は見失い。

 

「はぁはぁ、はぁ、セーフ」

 

 二頭目は川辺に降りる斜面で何とか確保。代償に斜面を一部削ってしまったがやむを得なかった。

 

「段差は柵の大敵だからなぁ」

 

 何にせよ、囲ったことで逃亡は防ぐことに成功し。

 

「問題はここから。柵越しにでも攻撃は届くから――」

 

 羊を襲う狼から守るには柵を二重にする必要がある。

 

「ただ、今回の柵は応急的な処置だから、二重の柵は本格的に飼う段階で、かな」

 

 小麦と繁殖に必要な頭数が揃えば一気に羊を増やすのは難しくない。

 

「小麦はそのうち畑で収穫出来るし」

 

 必要なのは木材か。

 

「よーし、伐採だーっ!」

 

 土のブロックが空に浮く世界だ。木を切ったから土壌がやわになって土砂崩れなんて現象は起きないだろう。

 

「羊の捕獲に時間を使っちゃったし、遠くに行けばまず間違いなく日没までに戻って来られないしなぁ。もうエンダーマンも居ないし……」

 

 最初に赴いたのは、草原の北にある森、の筈だった。

 

「あっ」

 

 目にしたのは手前の草原で羊に襲いかかる狼。

 

「くっ」

 

 距離からして、助けるのは、間に合わない。まぁ、襲われたのは囲いの外の白羊だったが、だからといって放置は出来なかった。

 

「羊の仇ッ」

 

「ギャン」

 

 肉を食って満足したのか、直前までの凶暴さを失った狼の背中に斧を振り下ろし。

 

「ガルル……」

 

 僕を敵と認識した狼が牙を剥きだして唸る。思えば、これが初めてのまともな戦闘かも知れない。

 

「あ、スライムと湿地で戦ったこともあったっ」

 

 それが動いたのは、僕が間違いに気づいた直後。

 

「ガアッ」

 

「痛ぅ」

 

 いつか匠の自爆に巻き込まれた時に比べれば大したことはなかったが、それでも痛いモノは痛い。

 

「よくもやったな!」

 

「ギャウッ」

 

 噛まれた場所を押さえてもう一度斧を叩き付けると、狼は動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ、やっぱり、まだ戦いは慣れないな」

 

「メェ~」

 

 遠くで気の抜ける様な鳴き声がした。

 

「何にせよこれで暫くは大丈夫、かな」

 

 森の方にももう一匹狼が居るのが目に入ったが、距離がある上、側に牛や豚がうろついていた。空腹になったなら、食べるモノが側にあるのにこちらに来るとは思えず、僕は二匹目の狼には構わず、森の入り口にさしかかり、木を切り始める。

 

「ふぅ、こんなものかな。お次は川岸っと」

 

 魔物も居らず、楽な作業だった。集めた木材を荷物に纏めると、念のために羊たちの柵を経由する形で河原に向かう。

 

「とりあえず、羊たちはかわりなさそうだし、木材を回収したら一端帰宅かな?」

 

 柵を作る必要があるし、羊たちを誘導するにも好物の小麦を手に入れておく必要があった。

 

「いつの間にか日も傾いてきてるし、無理は禁物だよね」

 

「メェ」

 

「っ」

 

 別に相づちをうった訳ではないと思う。それでも絶妙のタイミングで羊が鳴いてくれたのが嬉しくて。

 

「またね」

 

 柵の羊に声をかけると、僕は斜面を削って作った階段を上り始める。

 

「はぁ、アニメや漫画みたいに羊が人間なったらなぁ」

 

 オレンジ色に包まれながらの帰路。つい、ぼやいてしまう。

 

「明日で三週間。やばいな、こんなに孤独がきついなんて」

 

 人の形をした動くモノを見かけるには見かけたが、全てがこちらを襲ってくる魔物だけなのだ。今更だが、僕は話し相手に飢えていた。

 

「ただいま」

 

 帰宅を告げてもおかえりの言葉はなく。

 

「はぁ……まずは木材の加工をして――」

 

 地下に降りるのはそのあとだ。

 

「出来た。じゃあ、いよいよ畑か」

 

 ドキドキしつつ梯子を下り、うっかり階を間違えてカボチャ畑に行ってしまったが、それはさておき。

 

「あ、奥の所だけ小麦が収穫出来る」

 

 繁殖に使える程の量は無かったものの、誘引用の餌が用意出来たのは大きかった。

 

「せっかくだから畑も拡張しておこうかな」

 

 丁度羊の捕獲の時に草原で削った土と同時に手に入れた麦の種がある。僕は一列分畑を横に広げると、梯子を登って寝室に戻り。

 

「さてと、日も落ちたし、続きは明日で」

 

 お休みなさいとベッドに潜り込んだのだった。

 




着々と進む第二拠点の整備?

次回、二十一話

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