「おはよー、掘るぞーっ!」
今日は出かけず内装工事。
「さて、壁を……あ」
最初にしたのは、邪魔になるたいまつの撤去と、計算ミスへの修正。
「このままじゃチェストの横が地下への入り口になっちゃうもんね」
床も一段堀り、梯子を付けようとしてチェストを開けてしまうと言う謎動作をやらかした僕は外側に壁を張り出させ、窓を設ける。
「ついでにあっちの窓も大窓に拡張して……ん、こんなものかな?」
建物が出来て行くのは、楽しい。
「まぁ、すぐに第二の設計ミスに気づいた訳だけど」
張り出させた場所から下に掘るとなると自分の足下を掘ることになる。これは下に洞窟が有れば落下、渓谷なら落下死もしくは溶岩にドポンという自殺行為である。
「梯子の横も掘って両方を交互に掘って行くしかないかな。落下防止に横の方は一定間隔で足場を設けて」
足場にはたいまつの明かりを設置した上で家の真下への通路も掘る。採石用でもあるし、場合によっては室内プチ農園を作るためでもある。
「まだ麦の種少ないもんなぁ。家の下なら上で作業したりしてる時でも麦が育つし」
時間の有効利用という訳だ。
「掘って、埋めて、水注いで……よーし、原型完成」
小部屋を作り、床を掘って水をほぼ中央に配す形で土を敷き、土を耕した簡素な作りだが目的は種の採取なのだから問題はない。
「強いて言うなら土が足りないことぐらいかな」
今ならまだ採土に外へ出られる。
「土だーっ、土を確……ほ?」
急いで飛び出した家の外、草原に見たこともない数の羊が作る群れを見て僕は固まった。
「は?」
羊の群れはわかる。養殖ならこれより多くの数を飼育したこともあるが、これは野生だ。
「しかも、ピンクとか……」
大きな豚かと思った。
「こんな毛色の羊なんて居たんだ」
驚き、土をとるのも忘れて僕は立ちつくした。
「レア、なんだろうなぁ……二頭いるし、飼って繁殖させたいところだけど……」
衝動的に毛を刈ってしまって、もはやどれがピンクの羊かわからず。
「引き連れるにも、羊が好む麦は今種を植えたばっか……そうだ、土」
目的を思い出した僕はシャベルで草原の土をいくらか失敬すると、そのまま引き返した。
「はぁ」
太陽がだいぶ低いところまで降りてきてしまっていたのだ。とても毛が再び生えるまで待っては居られなかった。保護用の柵を設置する時間もあったかどうか。
「もし、明日になってもあの草原に居たなら――」
その時は、柵で保護して飼おう。
「いくら珍しいからって、拠点の整備を疎かにして良い理由にはならないし」
まだやることも残っている。僕は家の戸口をくぐり。
「地下二階は麦、地下一階のカボチャ畑予定地が未着手だからなぁ」
名残惜しむ様に窓の外、夕暮れに照らされた羊たちを一度だけ見てから、地下へと降りた。
「麦の方は床の穴に土をはめ込んで耕して種をまくだけ、簡単だよね」
ブツブツ言いつつ手を動かせば、あっという間だった。
「問題は地下一階、かな」
こちらは畑にする予定の部屋すら作っていない。まずつるはしで部屋を作るところから始める必要があった。
「あとスコップも居るよね。土混じってるし」
言いつつ持ち替えたスコップは、先日の砂堀りで疲弊していたのか、あっさり折れた。
「ありがとう」
いつものように壊れた道具に感謝の言葉を言ってから、作業に戻る。
「んー、急にカボチャがなって壁や天井にめり込まないように広めに作っておくべき、かな?」
つるはしを振るいながら、広さを確認、たいまつを付け手を繰り返し。
「うーん、まだ狭く感じる。もう少し、広」
石壁を粉砕した瞬間、夜空が見えた。
「……埋め戻そう」
土で塞いで無かったことにするが、やはり充分な広さは望めないらしい。
「まぁ、カボチャの種も八つしかないし、4×2で種がまける部屋があればいっか」
この畑はあくまで、一時的な種取り用のモノ。本格的な畑を作るのは屋外にだし、まだ先だ。
「ふぅ、今日はこれぐらいにしておこう」
こうしてカボチャ畑も作り終えた僕は、作りたての地下プチ農園から出ると梯子を登り。
「あ、ピンクの羊、まだ居るや」
窓の外を見て、呟く。どうやら毛が生えたらしく、ピンクの毛並みは月明かりに照らされ、群れの他の羊と共にそこにいた。
「明日だ、明日こそは……」
保護してみせると決意を胸に、僕はベッドに潜り込むのだった。
いやー、1/600の確率で出現するらしいですね。
初見なのでびっくりしました。
次回、二十日目