「もっと北に進もう」
拠点はそちらに作ると決めていた。
「さー。今日も元気に行ってみよーっ!」
バケツの水をひっくり返し、滝を作って山を下りる。下には細い谷川が流れていて、水の回収には困らない。
「よーし、着水っと。さーて、次はどっちに向か」
それ以上、言葉を発すことは出来なかった。
「がっ」
痛さなのか熱さなのか。強烈な衝撃に吹っ飛ばされるように浮いた僕の身体は川の前方の低い丘に叩き付けられ。
「うぐっ、スケルトン?」
痛みに顔をしかめつつ、敵の姿を探して振り返る。上から流れ落ちる時に敵の姿は見えなかった。だからスケルトンによる矢での攻撃を真っ先に考えたのだ。
「あ」
だが振り向いた先にあったのは、元々川だったクレーター。
「匠、ですか」
どうやら自爆の端っこに巻き込まれたらしい。
「ひょっとしたら、これがモンスターに喰らった初ダメージ?」
矢の傷とかよりはまだマシなのかも知れないが、ちょっと複雑だった。
「まぁ、とりあえず吹っ飛んだ土のブロックだけでも回収しておこう」
使い道なんて考えていないが、足場くらいにはなる。
「はぁ、油断してたな」
朝だから魔物が生き残っていても不思議はなかったのに。
「気を引き締めよう」
僕は自戒すると行軍を再開する。狼の食べ残しをちゃっかり拾い。
「あっ」
川を泳いで横断すると野生のカボチャを斧で収穫。持ち物が一杯で持ちきれないことに気づいて固まる。「「何か一時的にポイしないと……あ、さっきの土」
投げ捨てて空いた手で作業台を作って持ち、流れる様に河原に設置。
「ランタン補充っと、これで土を拾えば元通り。お次は――」
視線を転じて前方を見ると左手に広い草原、右手に山。
「登ってみよっか」
ひょっとしたら、今度こそ何か見える気がして。
「……ですよねー」
何も見えなかった僕は山頂に丸石を置いた。逃避ではない。
「んー、広さは適当でだいたいこんなモンっと」
四隅を決め、支柱を立ててからドアの場所だけ残して丸石で囲み。
「高所の作業は手持ちの石階段で横から上にのぼれるようにすればいいかな」
ゲームでだが、勝手知ったる何とやら。一番原始的な所謂トーフハウスと呼ばれる立方体の家なら僕にだって出来る。
「あ」
うん、窓ガラスが有れば。
「あはは、まぁ、窓はあとでガラスを作ってから填めればいいかな?」
苦笑しつつもランタンとたいまつでまず家の中を明るくする。まだ太陽は真上にさしかかったかどうかと言うところだが、時間の流れは油断すれば僕に牙を剥く。
「って、あーたいまつがもうないや。ここのところ作ってなかったもんなぁ」
窓のない残念拠点とはいえ完成したのだから、次は家具の作成と道具の補充だろう。まず、床を掘る。
「作業台、ベッドにチェストにたいまつに~♪」
謎の歌を歌いながら作ったモノを家の中に配置、はめ込んで行くだけの簡単な作業だ。
「かま……あ」
そう、材料が有れば。
「あー、丸石は全部家に使っちゃったんだっけ」
正確に言えば、足りなくて匠に吹っ飛ばされた土で屋根の角部分を代用してあったりするぐらいだ。
「掘りますか……」
丸石ゼロは拙い。石器の替えが聞かなくなってしまう。
「その前に、必要ないモノはチェストにシュゥッゥゥッ!」
地図は必要ないし、レッドストーンも生肉も必要ない。エメラルドと紙と本もだ。
「さて、整理が終わったところで作業開始ーッ! あ、まずは外の湧き潰ししないと」
今朝のように出発しようとしたら匠が降ってきて
「問題はこれから山肌削るからなぁ。二つくらいランタン置いておけば良いかな? ドアの左右にもたいまつは飾ってるし」
家の建築で時間は結構使ってしまっている。
「んー、あ、カボチャがある。それじゃ、これを回収して西側の山肌を削ろう。最終的には下に降りる階段設置出来る感じで」
ひとまず必要なのは、竈の材料と石のつるはしの頭に使う丸石ぐらいだ。ガッツリ64個とかなんて無くていい。
「夕方までに終われば及第点。あ、別に石炭とか出てきてくれても良いのよ」
冗談めかして呟いてみるが、声に応えてくれる人なんて居なかった。
「はぁ……」
結局日暮れまで作業は続き、丸石を回収した僕は家の中へと。
「んー、階段も設置したかったなぁ」
だが、優先度は竈が先だ。作っておけばこういう作業の間に何かを加工出来るのだから。
「はぁ……お腹減ってきた。今日のご飯はジンギスカンかな」
火の通った羊肉はラストだが、逆に言うなら肉一枚が荷物を一個分占拠していると言うことでもある。
「竈さえ完成すれば、羊生肉はけっこうあるし」
作った竈の初作業はおそらくバーベキューだろう。
「ただいまー、からの竈完成ッ!」
いくらテンションを上げても周囲に反応がないのは寂しいが、仕方ない。作った竈に羊生肉と石炭をぶち込んだあと、樫の木のドアに空いた窓から夕焼けを見る。
「今日ももう終わりかぁ」
囓る焼き羊肉を晩餐に嘆息すると部屋の壁にたいまつを一つ追加する。
「うん、とりあえず今日出来ることはこれぐらい」
床を掘り下げて地下室を作るのも良いかもしれないが、個人的にはその前にガラスの窓が欲しい。
「なんやかんやで疲れたもんなぁ……ん?」
不意に気配を感じてドアに近寄ると、ドアのすぐ前にいたのは一匹の狼。だが、すぐに回れ右をする。
「……なんだったんだ?」
こちらの視線に気づいたのか、それとも空腹になったのか。こちらに尾を向け去って行く後ろ姿を見送り、首を傾げつつ僕はベッドに横たわるのだった。
痛かった、今のは本当に痛かったぞーっ!(別のデータで弓矢を使って遠距離から匠に八つ当たりしつつ)
次回、十八日目。
あ、息抜きにクリエイティブで孤島に村を作ろうと孤島地形さがしてたら、三回目で村からスタートのシード値にぶち当たった。
こう、村探し続けてるのをあざ笑うかのようですよね。