「さてと、朝になったし、あの細い川を遡ってみるかなぁ」
細い川と言うだけで行き止まりに出くわす予感がするが、まだ日は昇ったばかり。岸辺に匠、木下にスケルトンなんかを見てしまうと、陸路を避けたくなるのはやむを得ない心情だと思う。
「で、結局途中で川が細くなって進めなくなる……と」
予想されたオチに嘆息する未来もちょっと今更ではある。
「メェ」
「とりあえず、悲しみのあまり羊毛刈りぃっ!」
通り魔的犯行で岸にいた羊の毛を刈り取るが、深い意味はない。
「まぁ、川が細くても上陸すれば先に行ける訳だし」
ひとまずは更に上流を目指そう。
「うん、西側の陸地を登った先に海なんて見えなかった」
北に進んだら川が不自然に途切れて地面に埋まった渓谷の端っことくっついていたけれど、こっちもスルーだ。生えた木によって寸断された川の先に僕は進むと、再び船を浮かべる。
「何だか行き止まりってオチも有りそうだったけど、そんなことなかった!」
岸に船縁を擦りかけてヒヤヒヤしつつも川を踏破した僕は、湖か海か、広がる水面を前に叫んだ。
「んー、正面にも陸というか山っぽいの見えるし、湖かなぁ?」
確証はないがぶっちゃけどうでも良い。
「村、むら、ムラ……」
僕は村が見つけたいんだ。
「東側の広さからすると、ここはたぶん海」
西には幅の広い川。
「地図を埋めるなら、西かな」
旅は続く、だが、独りぼっちはやっぱりこたえるモノがある。
「ふふ、ふふふ……脳内友人とか相棒とか作っちゃおうかなぁ? 二重人格になったら寂しくないよね?」
って、いけない狂気が精神を蝕み始めている気がする。
「落ち着こう。落ち着かなきゃ」
また羊の毛でも刈ろうか、それとも。
「とりあえず、進もう」
もうちょっと行ったら村があるかも知れないのだから。
「気のせいか日も低くなってきてる気だってするし……」
進んで今晩夜を明かすところについて考えるべきだ。心の冷静な場所はそう言った。
「わぁ、中央は西にかけて海だったんだ」
だが、ボートを進めて見えてきた景色に歓声を上げつつ思ってしまった。
「広い海の方が魔物も居なくて安全だし、地図埋めだって出来るんじゃないか」
と。
「……いやー勢いって怖いよね」
地図にして左上の四分の一程。あっさり埋まってここ数日間が馬鹿馬鹿しくなる程だった。
「逆説的に何もない海原で収穫ゼロだったって事でもあるんだけど」
僕は一体誰に説明しているんだろう。
「けど、明かりなんてモノは全くないし……え?」
海だからそりゃそうだよねと思っていた僕は海の先にかなりの明るい場所があるのを見つけた。
「溶岩、はない。あんな高さに有るはずがない」
例外は山の表面から滝のように溶岩が流れ出てるケースだが、それらしき山は見えない。
「やった、とうとう村が――」
歓喜に打ち震えながらオールを漕ぐ。
「ああ、ようやく人の居る場所……に?」
どんどんと近づいてきて明らかになる詳細、はっきりと目で全貌を捉えた僕の手が止まる。木の上に石で作られた床とその上にあったランタン及びたいまつ。
「あ、あ、あ……」
紛れもない、九日目に僕が作った寝床だった。
「ちくしょーっ!」
拳が船縁を叩く。この寝床は地図の端にに来る場所にこしらえたモノだ。最初の地図と二枚目の地図の大半を踏破したと考えれば、次は三枚目。奇しくも今居る場所は、一枚目の右上の端であり、二枚目の左上の端に当たる場所でもある。ここから北に進路をとればすぐにでも地図外に出る。
「三枚目、かぁ」
どのみちまだ夜だ。一応、少々危険が伴うものの前方の寝床に登ると言う選択肢もあるが。
「行こう。明かりなら夜の方が探しやすいし」
こうして僕は北に進む決意を固め、新たな地図を広げた。
「さぁ、新天地へ」
まず船は北へ。
「あ」
初めて見る赤土の大地に彷徨うゾンビと緑ぃ匠。
「その先は森があって前方に高山、かぁ」
まだ夜は明けない以上、上陸という選択肢はない。
「砂漠、森林、さば……あの明かりは溶岩溜まりかな?」
北はやがて陸地に阻まれ、僕は東へ。
「お次は雪原地帯ですか……って、海が凍ってる! あ」
氷に遮られ引き返さざるを得ない僕の目に染みる暁の赤。
「もう、夜明けか」
十四日目がすぐそこまで来ていた。
短くて済みませぬ。
明かりが寝床だと気づいた時は本気で凹みました。
お願いだから早く、村見つかって。
主人公一人だと間がもたない。
次回、十四日目