「んーっ、朝だー」
スケルトンが燃え始め、ゾンビが木下で日光宿りするさわやかな朝。
「さてと、早速船旅再開! ……と言いたいところだけど」
眼下に広がる湖の中、島の端にサトウキビを見つけたのだ。
「革一枚余らせておいても仕方ないし」
刈り取って紙を作れば、コンパスと合わせて三枚目の地図を作ることも出来るかも知れない。
「近くをスライムが跳ねてるのが気がかりだけど……とりあえず、泳いであの島まで行こう」
船旅はその後でいい。
「たーっ!」
飛び降り、着水。どんな高さから落ちても下に水が有れば大丈夫というのはこの世界の不思議だが、それはそれ。
「ぷは、んー、泳ぐのは、体力、使うなぁ。と、スケルトンが生き残ってる。あっちの岸は迂回して……っと」
そこそこの距離を泳ぎ切り。
「ふぅ、この島のサトウキビはこれで全部かな。やー、スライムはいつの間にか消えてるし、運が良いなぁ……あ」
サトウキビを回収すると川の先岸辺にもサトウキビが生えており。ついでに羊も居た。
「ま、あそこまでなら泳ぐか」
なんて方針を変えたのが拙かったんだと思う。
「気が付いたら草原まで泳いで辿り着いちゃいましたよ?」
だって、サトウキビ点在してるんですもの。川に二分された草原の南側にもサトウキビが岸に生えた小さな池があるし。
「とりあえず、作業台作って工作しておくべきかな。革が本になれば纏められるし」
急に視界が開けて、どっちに行こうと迷っていたこともあり、進む以外の選択肢は考えを纏めるという意味でも良い機会だった。
「本できたっと。あー、これなら地図もいけそうかな。よし、二枚作っちゃおう!」
手は動かし作業を進め、チラッと見上げたのは東にある高山。
「ふーむ、これが終わったら、あれに登るか、もしくは船、はたまた陸路……」
唸りつつ悩んだ結果、僕が選んだのは船旅の継続。
「荷物一つ分とるボートをここまで携帯してきてるしなぁ」
壊れるまでは船旅で良いと思った。
「うわぁ……東側は陸に遮られちゃってるし、もう一方しかないかな」
だから、進んだ先で一方の川が途切れて一端船から下りるという選択肢もあったが、僕は敢えて船旅の継続を選び。
「って、こっちはこれか……」
船が引っかかって進めない程川幅が狭くなり、やむを得ず上陸。
「さてと、東に行くつもりが中央に向かう形になっちゃってるけど、それよりも……ね」
今晩の宿をどうするかをそろそろ決めておかないと拙い。
「引き返そう」
このままでは南からぐるっと回る計画が崩れると見た僕は岸を走り、先程上陸を断念した川の途切れ目を乗り越えて東に。
「うわぁ。ひっろい草原だぁ」
中央にはさっき途切れた川の続きが流れ、山岳へと続く丘に見えるのは狼に羊が襲われる光景。
「自然って、厳しいね」
出来たら助けたいと思ったが、距離が有りすぎる。羊が襲われていた場所に辿り着いた僕が見つけたのは、羊毛と一握りの肉だけだった。
「荷物を減らして良かったって思うべきか……」
そっと肉と毛を回収し、近くの池でバケツに水を汲む。
「太陽は西の空、45度ってとこかな。悩ましい」
広く、視界が開けているから進みたくもなる。だが、自分を過信すれば薄暗くなった世界の中で慌てて石柱を立てるハメになるだろう。
「眺めの良さと目印としての意味も欲しくて、台座けっこう高い場所に作ってるからなぁ」
丸石の消費も激しくなる。
「うーむ」
進むか、寝床を準備し始めるか。
「進もう。ここは血なまぐさすぎる」
羊を牙にかけた狼がこちらを襲ってくることはないだろうが、何かの死んだばかりの場所で寝るのは嫌だった。
「川があるし進むなら船だな。進路は、北に……ん?」
川が常に真っ直ぐなはずはない。船旅を再開させた僕は結果的に北東に進むことになり、その先に待っていたのは、海。
「もしくは広い湖だけど、たぶん海だ」
これで、最悪海上で夜を明かすという選択肢も出てくる。
「進路は北、かな。地図出ちゃうには北の方手つかずだし」
船は進む。広いから自然と速度は出て、地図はどんどん埋まって行く。
「あー、やっぱり湖って言うよりは海かな。この調子で――」
北の端までいけたら良かったのに。北に進むとどんどん狭くなり、やがて見えてきたのは細い川の入り口が幾つか。
「またこのパターンかぁぁぁぁ!」
もう、日も沈もうとしているのに細い川を遡ろうとすれば、まず岸の魔物に襲われる。
「しかも、ちまい島が幾つかあって、海の上も割と安全じゃなさそうなんですが?」
蜘蛛の居る島、水辺でゾンビが跳ねる島。今のところ現れたモンスターはどっちもこちらには気づいていない。
「や、気づいてないからずっとセーフなんて訳でもないよね?」
脳内ナレーションにツッコミを入れてみる。
「はぁ」
孤独だ。動くものなら魔物が居るが、あれはフレンドリーに会話とかをしてくれる存在ではない。
「こうして冒険してると、定住の良さが身に染みるなぁ」
夜に、時間切れに怯えることなく過ごせるのだから。
「あの拠点を拡張して――」
農業で自給自足出来るようになれば、生活には困らなかったと思う。
「だけど、それじゃ駄目だ」
カボチャは話しかけても答えてくれない。スノーゴーレムだったら資材でつくれたかもしれないけど。
「さよならなのだ……じゃなくて、場所によっては熱や雨で自壊しちゃうしなぁ」
唯一の話し相手が出来ても数日待たず居なくなってしまったら。
「あ、エンダーマンだ」
岸辺に黒い長身を見つけ、興味本位で何げに目を合わせてみる。
「あー」
こちらを敵と認識したか近寄ろうとしたそれは表記不可能な悲鳴をあげてテレポートする。
「まぁ、そうなるよなぁ」
エンダーマンは水を苦手とし、触れることでダメージを負う。自分から水に飛び込む形になったなら、悲鳴をあげダメージを受けてテレポートというのもまぁ無理はない。
「そして、また水に落ちるとか」
シュールだった。だが、敵対したのはあちらなので謝らない。こっちはちょっと見ただけなのだ。
「と、岸に近寄りすぎてる、離れよう」
スケルトンに射られることを危惧して僕は慌てて船を操り。
「あ」
その岸へ狼にスケルトンが追い立てられてきたのを目にする。
「うーん」
警戒しておいて良かったのだろうか。
「あれって絶対こっちのこと気にしてる余裕無かったよなぁ」
若干モヤモヤしつつも夜の明けぬ船上の僕には岸辺ウオッチングと地図の確認ぐらいしか出来なくて。
「あ」
そのうちに夜は明ける。僕にこの世界の過酷さを幾つか見せつけて。
エンダーマン、海の上から視線合わせると自分から海に突っ込んでくるんですね、初めて知りました。
視線合わせず近寄ってバケツの水ぶっかけたことならありますが。
次回、十三日目。
あ、サブタイの追加部分は備忘録的なモノです。他の意味はありません。