マイクラの世界で   作:闇谷 紅

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・十日目

「さて、海辺でで日光大嫌い体操をしてる腐乱死体はスルーして、船出しよう」

 

 ボートは荷物から引っ張り出してきた。

 

 匠はこの木の側から離れているので、チャンスだった。

 

「いっくぞー!」

 

 まずは海にダイブ。

 

「ぷはっ」

 

 顔を出すと、近くの蓮の葉に登り船を浮かべて乗り込む。濡れてしまったが陸地に魔物が残っているのだから贅沢は言っていられない。

 

「よし、出航ーっ!」

 

 船に乗って漕ぐと景色が飛ぶように流れ出す。

 

「あー、これって半分以上が地図の外だなぁ……と、蓮の葉には注意しないと」

 

 地図を片手に明らかな脇見運転をしつつ、先に。

 

「地図に載る範囲にも水辺はあるけど、これってどう見ても入り江だよね……まぁ、いいか」

 

 付近の陸地の偵察にもなる僕はまず推定入り江に船首を向けると、点在する蓮の葉に気をつけながら船を進めた。

 

「すっごい、案の定……ん? けど、これって」

 

 入り江と言うより繋がった複数の島で海が切り取られているのに近いように見えた僕は、陸地を回り込んでみる。

 

「あ、キノコの生えた牛が居る……って言うか、あったなぁ、こういうキノコ地形」

 

 見えてきたのは割と珍しい地形と、その先に自身の推測の答え。

 

「ふぅん、やっぱ予想通りか……んー、ダイブ埋まってきたけど中央に未踏破残っちゃったなー」

 

 山の上から見る限り収穫のなさそうな森林地帯に見えたのだが、少し迷い。

 

「うん、スルーしよう。船を出したりしまったりとか面倒だし」

 

 まだ東南方面も残っている。

 

「船に乗ってるんだから、今の内に地図内の海は制覇しておくべきだよね」

 

 自分を納得させつつ、僕は南下し。

 

「えーっと、今見えてるのがこの南東にある雪に覆われた大陸……えっ?」

 

 当たり前なのにデジャヴを感じて地図をよく見る。そして。

 

「これは、ひょっとして、ひょっとする?」

 

 僕は顔をしかめながら地図を頼りに船を進めた。

 

「うあーっ、しまったぁぁぁ」

 

 やがて明るみに出た僕のミス。

 

「ここ、ギリギリ通れるじゃん! あー、やっぱ、湖じゃなくて繋がってたんだ」

 

 夜だから雪の積もった地面か何かとと見間違えたんだろう。半分以上を半月刀のような形の氷が塞ぐ形になっていたが、最初に船旅をした場所と繋がる場所を今更発見して僕は頭を抱えた。

 

「予定が大幅にずれた……」

 

 まぁ、東側へ赴くのに船で時間短縮出来ると考えれば吉報でもあるのだろうが。

 

「帰ろう」

 

 まだ今なら飛ばせば、日没までにギリギリ間に合う。目的地は、中腹のあの拠点。

 

「サトウキビも途中で確保したし、レッドストーンは鉱脈が手つかずで残ってる」

 

 二枚目の地図を作れば、東の海を更に先へ進んでも戻ってこられる。

 

「徹夜は拙いけど、地図の範囲に村はなさそうだもんな」

 

 だったら、二枚目の地図に突入するより他、ない。

 

「ゲームだと主人公の周囲一定範囲より遠くの世界は時間凍結されてるらしいけど」

 

 そこまでこの世界がゲームに忠実かどうかはわからない。それでも、危険な環境に置かれてるのなら、何とかしたいと思う。

 

(まぁ、一番は僕が人恋しいから何だけどさ)

 

 たかが一枚の地図に書ききれる範囲の冒険が空振りだったことぐらい何だ。

 

「諦めるには早すぎるよね」

 

 小さなスライムがぷかぷか浮く海を往きながらいつの間にか見えだした石柱とカボチャランタンの灯台に呟く。徐々に暗くなって行く景色の中、僕のボートは灯台の横を抜けて、入り江へと。

 

「あ、まだ毛が生えてないんだ」

 

 水辺を泳ぐ毛なしの羊を見て水に落ちたら仕方ないかと思ってから、気づく。

 

「……そんな、長い時間泳いでたら普通溺れるよなぁ。って、ことは……」

 

 やはり僕が離れたことで時間が止まっていたのか。

 

「少しだけ、気が楽になったかも」

 

 推測が事実なら、少なくとも僕が村を見つけられないからという理由で命を落とす村人はいないと言うことになる。

 

「だったら、後は資材を揃えて村を探すだけだよね」

 湧き潰し用のたいまつと、危険地帯を塞いだり塀を作る為の素材。木の柵なんかも揃えておくと良いかもしれない。

 

「よーし、やるぞ」

 

 考えつつも上陸し、足を動かしていたら拠点のドアは目と鼻の先で。

 

「ただいまーっ」

 

 僕はドアを開けると、そのまま屋内農園に向かう。

 

「あ、カボチャがなってる。麦も色づいてるし、サトウキビも伸びてる」

 

 嬉々として収穫し、作業箱で加工。増えるランタンと紙。

 

「次は……レッドストーンかな。鉄のつるはしは……あった。んー、エメラルドとかはどうしよう? エンチャント付きのつるはしで採掘した方がお得なんだけど、特殊効果付与するツテも品も無いんだよね」

 

 戻ってくるなら残しておいた方が良い気もする。

 

「けど、村が見つかったら、おそらくは――」

 

 少し考えて、僕は決断を下す。

 

「掘っちゃおう。帰って来ればいいやじゃ甘えになる」

 

 むしろ次の冒険で村を見つけてやるくらいの気概が無くて、どうして村を発見出来るというのか。

 

「今までありがとう」

 

 階段を、梯子を下りて採掘用の地下に赴き、感謝の気持ちを込めてつるはしを振るった。レッドストーンは思ったより多かった。

 

「ふぅ、出来た新しい地図だ……それと、本と……んー、三冊作るには紙が足りないし、レッドストーン、こんなに持ってても荷物になるかな」

 

 鉄と合わせてコンパスに圧縮するべきかもしれない。それなら旅先で紙を手に入れるだけで追加の地図も作れる。

 

「そうだよね、帰るつもりはないけど……ここにあったモノだから」

 

 余った分は置いて行こう。寝室に戻って作業台と格闘しつつ僕は物作りを始め

 

「道具も各一つあればいいや。こわれかけのモノはチェストにしまって新しいものを作り直して……あ」

 

 一通り準備を終えると、隣の部屋からカボチャがこっちを覗いていた。

「餞別、かな」

 

 収穫し、ありがとうと口にすると、ランタンを作りベッドに向かい。

 

「あれ?」

 

 途中でドアが視界に入り、気づく。既に外は明るくなっていた。

 

 




さようなら、最初の拠点

次回、十一日目

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