農民(NOUMIN)が三国乱世を行く(ただし恋姫)   作:ぱっくまん

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感想、評価、指摘等々ありがとうございます。
キャラのイメージを固めるまで、口調等おかしいところがあると思いますが、生暖かい目でスルーしてくださいお願いします(予防線)
前話のござる小次郎も、どこかのタイミングでこっそり修正させていただくかもです。



農民ミスアンダーストゥド

 

 廊下にて見知らぬ男に声を掛けられた時、華雄は静かに驚愕をしていた。

 

 自分も武人の端くれである。そこらの豪傑に勝るとも劣らない程度には、武を磨いているという自負もあった。

 

 だが、()()()()()()()()()()()

 

 後ろから声を掛けられるまで、その男がそこにいたことに。

 ありえない、とまでは言わない。過ぎた自信はただの驕りと変わらないからだ。

 しかし強い者なら隠していてもわかる剣気というか、そういう雰囲気がこの男から感じられなかった。

 

 ならば弱いのか、と問われるとそんな筈はない、と断言できる。

 

 ただ立っているだけだというのに隙がない。今切り込んだら、自分が獲物を振るう前に斬られるかもしれないとすら思わせられた。

 つまりそれは、この者の間合いの寸前まで気づかなかった事に他ならない。

 そして、その事実に対して感じたのは、陰に潜むような不気味さというよりも、月明かりが雲に遮られていたような、そんなどこか静かな違和感だった。

 

 どちらにせよ怪しい者である。暗殺者、と言われてもどこか納得できるような、そんな雰囲気だ。

 その風貌を見た時、つい先ほど兵から聞いた話を思い出した。なんでも、()()呂布が手傷を負ったという。

 

 それを負わせた奴が、見慣れぬ羽織に、見慣れぬ武器の武芸者。確か、見たままこのような者ではなかっただろうか。

 捕まったと聞いたが、何故ここに? という思考は当然だった。そしてそれが、脱獄という単語に繋がるまでに余計な過程はなかった。

 

 そこからの行動は早かった。

 実力を加味し、人質などとを取れぬよう人が通りかかることのない場所まで誘導し、後は叩き伏せるだけ。

 

 その筈だった。

 

 

 

 

 木々が日の光を遮る薄暗い森の中。

 轟音を響かせ風を切り、破砕音と共に地が砕ける。

 男はそれを見て、おお、怖い怖い、と軽口を叩く。

 それはつまり、華雄の戦斧が当たっていない、という事だ。

 

「この、貴様! ちょこまかと動きおって、刃を合わせようと思わないのか!」

「いやいや、力は自慢できるほど持ち合わせていなくてな。其方と力比べなどとをしたら、すぐに弾かれてしまうだろう」

「ふん、自身の至らぬ部分をそうも恥ずかしげもなく言えるとはな。誇りがないのか?」

「はっはっは。私の剣に、力というものがあまり必要なかったというだけのことよ。安心するがいい。打ち合えはしなくても、首を落とす程度の筋力は持ち合わせているぞ」

「そういうのは、落としてから言うものだ──!」

「おっと」

 

 華雄の暴れ猪のような突進を小次郎は半歩横に躱し、身をよじり避け、反撃としてふるわれた刀は、強引に振り回された戦斧に防がれる。

 防ぐ、どころかそのまま武器を巻き込みかねない勢いに、馬鹿力め、と小次郎は心の中で悪態をついた。

 

「いやはや、まさに力技、という奴だな。荒々しさもここまでいくと恐れ入る」

「褒めても手は緩めぬぞ!」

「いや別に褒めた訳ではないのだが」

 

 話が通じづらい。やはり狂戦士の類なのだろうか。

 

 振るう武器は愚直とも言うほど真っ直ぐであり、力がこれでもかと込められている。

 それに比べ、対人経験の浅い小次郎は、逸らし、躱し、首を刈るという呂布との戦いと同様の方針で華雄と相対していた。

 

 ────流石に刈る、とまでいかなくても、峰打で意識は落とすつもりではある。

 

 ところが、現在それに及ぶ事が出来ていない。

 呂布が無駄のない破壊力だというのなら、此方は無駄のありすぎる破壊力だ。兎にも角にも力任せで、技量がない訳ではないが、それも荒々しいし粗く、大雑把だ。

 

 だが、故に近づき辛く、()り辛い事この上ない、と小次郎は思う。

 

 誇る事ではないが、自分は耐久に自信がない。

 黄金の鎧を纏ってなければ、命に予備などなく、死んで蘇る事などできはしない。故に、雑に言うなら一定以上の攻撃はどれもこれも喰らえば同じである。

 呂布の攻撃も、この華雄と名乗った少女の攻撃も等しく、喰らえばただでは済まないのだから、呂布の無駄のなく鋭い剣筋の方が避けやすく楽、というのはある。

 

 もっとも、それだけなら幾らでもどうにかなるだろう。

 しかし、少女はこれからの同僚。故に殺すのを封じている今、その鈍りを抱えたまま相手にするのは難しい者であるのは確かだ。

 

 

「だいたい貴様、変な武器を使う上に、狙うところが狡く辛いぞ! それでも武人か!」

「……ふむ。確かに大陸が違う故、ということもあるが、刀を見ることさえ初めてであろう? 私の剣筋は邪道でな、大抵の者はまず地に首を落とす。今は考えあってそうは振るっておらぬが、それでもここまで立ってる事。流石と思っておこう」

「何をごちゃごちゃと……! あまり私を舐めるなよ!」

 

 そう言って速度を上げる華雄。

 だが、それでも攻撃は当たることがない。

 

 そもそもの話、この男に速度で勝とうというのが愚かだと、そう言う人間は誰も此処には、いや、この()()にはいない。

 

 サーヴァントにはステータスというものが設定されている。

 それはその英霊が成し遂げた偉業であったり、その者に纏わる数々の伝説から決定される。

 

 善悪を問わず武を持ち、それを振るい名を轟かせた者には筋力を。

 

 戦場にて倒れず、奮起した者には耐久を。

 

 速度に長け、険しき道を駆け抜けた者には敏捷を。

 

 知恵と魔術に深い者はそれに相応しき魔力を。

 

 試練を、戦場を、待ち得る自身の運命で打ち破った者には幸運を。

 

 聖杯は、それらを加味し、サーヴァントに与える。

 そして、もちろん華雄が知る事などないが、この『佐々木小次郎たれ』とされたこの無名の農民は、前述の通り耐久は低く、設定された筋力も英霊の中で下の中、といったところ。

 

 だが、

 

 TUBAMEという幻想種────もちろん本当に幻想種かどうかなどわからないが────そう思われてもおかしくない存在を斬ろうと、その生涯を捧げた人間である。率直に言って馬鹿、と言っても過言ではないだろう。

 しかし、そんな馬鹿だからこそ、この男は人の身でありながら神速の域に足を掛け、魔法とも言える絶技を生み出したのだ。

 

 その敏捷は、とある戦争にて最速を誇る槍兵に、時として勝るほどの最高峰を誇る速度である。

 故に、攻撃が当たらないのは当然の帰結だった。

 

「くっ……! この……!」

「そら、息が上がってきているぞ?」

 

 息を荒げ、汗を垂らす華雄に対し、小次郎の表情はまるで疲れを読み取ることができない。いや、本当に疲労を感じていないのかもしれない。

 その事が、華雄を意地にさせた。

 

「っぉおおおおお!!」

「────ほう」

 

 逆境で繰り出したその戦斧の速度は倍。威力は比例し、飛竜の顎すら砕くと思われるその一撃を見て、小次郎は感嘆の声を漏らした。

 

 呂布もそうだが、今だ人の身で此処までの技を、力を振るえる彼女らに、小次郎は嬉しさを隠すことができない。

 

 聖杯戦争に呼び出された時も、当初はくだらぬ遊戯に遣わされたと悲観したものだが、蓋を開ければ胸踊る猛者に出会うことができた。

 

 そしてこの世界も、それに負けず劣らずの強者がいる事が保証され、しかも自分はつまらぬ縛りはなく、自由の身。

 嬉しくないわけがなかった。

 

 故に小次郎はこの目の前の少女に対して同僚だ、なんだ、という前に。

 

 こんなくだらぬ諍いで命を取るなど、するはずもなかった。

 

「私の勝ちだな」

「────っ」

 

 首筋に突きつけられた、妖しく輝く切っ先を前に、華雄は動く事が出来なかった。

 動けば首が斬られている、そんな自分の姿をどうしても幻視してしまい、そしてそれが目の前の男にとっては、赤子の手を捻るより簡単なことなのだと理解できてしまうからだ。

 だが、それは動くのが無駄だということを悟っただけであり、死を恐れているわけではない。

 故に、

 

「くっ……殺せ……」

「いやいや、殺さぬよ。元よりその為に尽力した。とりあえず、話を聞いてはもらえぬだろうか」

「敵の話など──」

「敗者が、勝者の言を聞く。これだけの話だが、それでも認められぬか?」

「…………」

 

 どこか武人の誇りを擽る言い方に、押し黙る華雄。

 

 ────こういう手合いには、効き目ありのようだな。

 

 その姿に小次郎は密かにやれやれ、と嘆息し、これまでの説明を始めた。

 

 

 

「それで、誤解は解けたのね?」

「うむ。いや、話せば理解は早かった。早すぎて少し不安になったところだ」

 

 夕刻。

 

 華雄に説明をし、『賈駆達が認めたというなら大丈夫だろう!』と即座に了承と誤解の謝罪をされた小次郎は、多少の呆れを含ませながらも、部屋に戻るという華雄と別れた。

 その後、人気(ひとけ)のない庭で素振りを行っていたところに、休憩を取った賈駆が通りかかり、先程の出来事を話していた、という状況だ。

 

「ややこしい事になるから、後で落ち着いてから伝えようと思ったのに、結局こうなるんだからうまくいかないものね。一応、ボクのほうからも謝っておくわ」

「なに、できれば次の機会には、なんのしがらみもなく剣を合わせたいものよ」

「これだからあんた達みたいな奴らは……」

「はっはっは、許せ。この性分は変えられそうもない」

 

 頭痛がしそうな物言いに、溜息を吐く賈駆。

 その様子に朗らかに笑いを返す。

 

「時に賈駆殿。食客の分際ではあるが、私に部屋などは与えられるのだろうか」

「ああ、そうね。城のはずれに使ってない部屋があるから、其処を使いなさい。言っておくけど、見張りは立たせてもらうわ」

「かたじけない。なに、見張りなどなくとも、裏切りなどせぬよ」

「……(ウチ)にと声をかけたのはボクだけど、それでもあんたは怪しいところ満載の奴なのよ。戦で武功の一つでも立てなきゃ、広く信用は得られないと思って頂戴」

「はは、承知、承知。武功を立てれば飯が食え、信用が得られると。いやぁ良いものだな!」

「ほんと、能天気というか、楽観的というか……」

 

 賈駆にしてみれば『武功を立てられなければ、この先どうなるかもわからない』と、言外に脅したようなものなのに、この調子だ。

 此奴の頭に不安に類した思考が浮かび上がることはあるのだろうか。

 この男はもしかしたら死ぬ間際にも、自分を斬った相手に自分の血で相手を汚す訳には、とか思ってそうだ。いや勿論ただの想像だが。

 流石にそこまでの大馬鹿はいないだろう。いたら、一周回って褒めてやるところだ。

 

「そういえば、張遼に酒に誘われたんですって?」

 

 無駄な思考をやめて、話を変えることとした。

 張遼も、この男と戦場で肩を並べる前に少しでも知っておこうということだろうか。

 

「うむ。いや、あれでなかなか初心というか、男慣れしてないのだな張遼殿は」

 

 その前に一つ情報を取られているみたいだが。

 

「……まぁ、そうね。格好と言動で背伸びしてるけど、実際はそうでもないわよ」

「まぁ、あの年頃ならそういうものだろう。なに、可愛いものではないか」

 

 此奴、山籠もりしていたとか言うくせにやけに知っている風な様子である。

 しかし話す度に思うが、何処か此方の年齢を下に見過ぎているようなそんな風に感じるのは何故だろうか。特に歳を取っている風には見えないのだが。

 どうにも、謎の多い男だ。

 

「でも、そうだとするなら夕餉を済ませておけば? どうせ酒盛りなんだから、腹を満たすものなんて出てもつまみ程度でしょう?」

「ふむ、確かに。そうさせてもらおう。よい場所は存じているか?」

「いいわよ、案内ついでに、私が一緒に行くわ。ちょうどお腹も空いてたし」

「おお、ありがたい。ありがたいついでで申し訳ないが、少し頼み事がだな」

「……何よ」

 

  そう言ってジトッと睨みつけると、小次郎は一瞬見惚れるような表情で────

 

「────金の無心をしてもよいか?」

「死ねば?」

 

 もし、他に人がいれば、周辺の温度が下がったような感覚を覚えていただろう。

 それくらい、賈駆の声は冷たかった。

 

「はっはっは。なにせ無一文でな。はっはっは」

「なんで笑えるのか、ほんと意味わかんない……」

 

 そう言って賈駆は、本日何度目かの盛大な溜息をついたのであった。

 

 




作者の知識不足のためサーヴァントのステータスについて独自設定のような、というかもはや独自設定な部分があります。申し訳ありません。それっぽい事を知っている方がいたら指摘頂けると幸いです。

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