農民(NOUMIN)が三国乱世を行く(ただし恋姫)   作:ぱっくまん

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感想、評価、お気に入りありがとうございます。
嬉しさでにやけながら見させてもらっているのですが、感想返すのとかこう、なんていうか苦手なので代わりに脚舐めます。舐めさせてください。お願いします。先っちょ、先っちょだけでいいんで!お願いします!!



農民エンプロイメント

 秘剣燕返し。

 

 宝具を持たぬサーヴァント、佐々木小次郎が持つ剣技であり、かの騎士王すら認めた絶技である。

 三つの刀剣が文字通り()()()襲いかかるという非常識で、魔法のようなその技は、事実として回避不可能な魔剣である。

 驚くべきはそれがただの人間が辿り着いた剣技であるということだろうか。ゆえに、魔力供給のない今の小次郎でも問題なく放てたのである。

 燕、いやTU BA MEを斬るために生涯を捧げ、完成したものの、ついぞ生きている間に振るわれることがなかったソレは、速度もさることながら、一人の人間に対し放つには過ぎた威力を放つ。

 如何に呂布奉先という傑物だろうと、まともに受ければただでは済まない、どころか、絶命は確実だろう。

 

 そう。

 まともに受ければ、の話だが。

 

「────ッ!!」

 

 一筋の傷を負い、血が流れる腕を押さえながら呂布は荒れる息を吐く。

 

 ───嫌な気配を感じ、ただがむしゃらに動いた。

 

 呂布がした事と言えば、言葉にすればこれだけだ。

 

 しかしその行動を、目の前の男が放った技に対して行うことのできる人間がどれほどいるかという話だ。

 

 そこまで必死になったのは、受けたら死ぬというのがありありと感じられた剣技であったからである。

 

 事実、これ迄にないほどの速度で動いた自覚が呂布にはあった。

 それは常人であれば、視覚はおろか、初動を知ることすら困難であろう速度だ。

 

 しかし、それでも避けきる事は出来なかったのだ。

 少しでも遅ければ命までは最悪拾えたかもしれないが、腕の一本は無くなっていただろう。

 それだけの事を思わせる程の剣技であった。そもそも、誰も思わないだろう。

 ()()()()()、同時に襲いくるなど。

 

「────ふむ、避けられてしまったか」

 

 残心を解いた小次郎がゆらり、と柳を思わせる動作で呂布の方へ振り向く。

 

「いや、確かに前例がある状況ではあったが。同じ事を繰り返す私も、まだまだという事だな────だが、我が秘剣、よくぞ躱した」

 

 呂布が知りうる事ではないが、本来燕返しとは三つの斬撃である。

 

 頭上から股下までを断つ縦軸の「一の太刀」。

 一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡である「二の太刀」。

 左右への離脱を阻む払い「三の太刀」。

 

 しかしそれは、路地裏という足場の狭さから二本までしか打てず、呂布の持ち合わせる天性の直感とその状況が合わさった事により、結果彼女は今存命している。

 

「いやはや、まさか()()()()とは。なんともまぁ、楽しませてくれる」

 

 そう。

 呂布は、唯一の逃げ場として壁を選んだのだ。

 退路を塞がれ、横には壁。ならば、それを逃げ場にすればいい。

 そんな考えを一瞬で思いつき、そしてそれを実行できるのが呂布奉先であった。

 

 しかし、相手の自慢であろう技を避けたからと言って、気が緩むことはない。逆に、呂布の目から余裕が消えた。

 無理な駆動を行ったことで痛む身体を気力で誤魔化し、目の前の男への戦意を高める。

 今迄も別段手を抜いていた訳ではない。しかし一層気を引き締め、目の前の男に対する事を決めたのだ。

 

 肌を焦がすような緊張感が走る。

 

 二人が同時に動こうと足を動かし────

 

「そこまでや!」

 

 別の声が路地裏に響き渡った。

 極限まで張り詰めた空気を針で突いたような声量に、二人は動きを止める。

 

「なんや、ねねのやつが慌てて呼びに来た思うたら、なにしてんねん恋」

 

 はぁ、とため息をつく乱入者。

 癖のある喋り方、サラシを巻き上に羽織を着ただけの女性に、呂布は声を掛けた。

 

(しあ)……」

「はいはいそうや賢い可愛いオマケに強い霞さんですよーって、自分で言うのもなんや恥ずいもんやな」

 

 そう言って口角をあげ不敵に笑う張遼。

 その口調は軽く、しかし目線は小次郎から動く事は無かった。

 

「────ほんで、そこの色男さんは恋の知り合いか? 随分とお熱いやりとりしとったようやけど」

「…………知らない人」

 

 首を振り、言葉少なに答える呂布。

 その様子に小次郎は薄っすらと笑いを浮かべ、

 

「おや、そうつれない事を言ってくれるな。私は一目見た時から、お前に首ったけだというのに」

 

 その歯の浮くような言葉にも聞こえる台詞に、恋はぴくりと肩を揺らし、霞は「あっは、」と声を漏らし、張遼を呼びにいき遅れて帰ってきた陳宮が、丁度それを聞いて顔を般若に変えた。

 

「────!!!! ────!!!!!!!!」

「どうどう」

 

 般若と化した陳宮が放送できない用語を連発し、張遼がそれを抑える。

 なんともまぁ、気の抜けた空気になってしまったものだと、小次郎は小さく独りごち、刀をしまった。

 

 状況を眺めていた呂布もそれを見て武器をしまう、とはいかないものの構えを解いた。

 張遼は気の抜けたような、驚いたような顔をしながら、

 

「──なんや、突然襲い掛かってきた言うから叩きのめさんとあかんかと思ったら、随分大人しいやんか」

「そんな空気でも無かろう。なに、それなりに楽しませてもらい、満足した」

「そうかい、そうかい。────そんなら、大人しく縄についてもらおか?」

 

 張遼がそう言うと、彼女の後ろから数人の兵士が出てくる。

 手には縄や捕具を持ち、油断なく小次郎を見据えている。

 

「────は、せっかくの自由を得たというのに捕まれ、と? それを拙者が受け入れるとでも?」

「受け入れん、っていうならそれでもうちはかめへんで。嫌でも大人しくさせたるわ」

 

 一触即発の空気であった。

 兵士達は腰が引けそうになるのを懸命に堪え、目の前のやりとりを見守った。

 張遼と小次郎はお互いに視線を合わせ、睨み合う。

 

 しかし、それも長く続かなかった。

 

「────ふ、冗談だ」

 

 小次郎は軽く笑うと、身に纏っていた空気を四散させた。

 

「なんやねん。わかりづらいっちゅうねん……」

「言っただろう? 満足した、と。しかし気が昂っているのが尾を引いているのだ。許せ」

「もうええわ、ほら、はよ捕まええや」

 

 二転三転する状況に呆然としていた兵士達は慌てて小次郎を縄にかけ、連行する。

 その際、その見慣れぬ武器を奪うのも忘れない。

 

「言えた口ではないが、大切に扱ってもらえぬか。それでも愛着があるのだ」

「ほんま余裕やな……安心せえ。そんな手荒には扱わんわ」

 

 自分の心配より武器の心配をする小次郎に若干呆れながら、集団の先導をする張遼。

 後ろに呂布と陳宮が続き、これで逃れる事は厳しくなった。

 董卓軍の精鋭も精鋭たる将軍二人に連行され、これからの事を考えれば、並の者であれば恐怖に震えて歩くのも覚束ないだろう。

 

 しかし当の本人はそんな状況を何処吹く風か、鼻歌混じりに歩いていく。

 とりあえず詠の判断を仰ぐか、と頭を悩ませる張遼であった。

 

 

 

 

「それで? そこの馬鹿は何をやらかしてくれたの?」

「え、詠ちゃん……」

 

 洛陽の宮にて、賈駆の開口一番がこれである。

 口調からは苛立ちが隠しきれておらず、顔には疲労の色も見える。

 慌てて諌める董卓も、何処か疲労を感じさせていた。

 

 謁見の間にいるのは賈駆、董卓。

 そして先程の状況を知る呂布、張遼、陳宮がいた。

 華雄は話がややこしくなる可能性を危惧した軍師二人により呼ばれていない。反論はなかったことだけ記述しておく。

 

 とにもかくにも、途中からといえ状況を理解し、取りまとめた張遼が賈駆に答えるべく口を開いた。

 

「いやな? ねねの奴が慌てて走っていくやん? 事情を聞いたったら恋の奴が襲われてるっちゅーから、天下無双様に喧嘩売った身の程知らずが、地べた這いずってんの指差して笑いながら酒飲んだろと思ってな?」

「……兵士がこっそり街に出るアンタを見たって報告は本当だったのね。言いたいことはいくつかあるけど、とりあえず聞き流してあげるわ。それで?」

「は、ははは。堪忍してーや……。し、したら叩きのめされてるどころか、恋が傷負っとるやんか。これはあかんと思って慌てて止めて」

「止めて?」

「その相手を連れてきた」

「これが? 嘘つきなさいよ」

 

 ぴしゃりと。

 

 即答だった。

 

 賈駆はため息をひとつつきながら、やれやれと首を振り、

 

「こんななよなよした軽薄そうな男が、恋に傷を? つくならもう少し手を込んだ嘘をついてよね。ボクも暇じゃないんだから」

「随分な言われようでござるなぁ」

「発言を許可した覚えはないわよ。首切られたいの?」

 

 そう低い声で言い睨みつける賈駆に、肩をすくめる小次郎。

 機嫌は最低値のようだ。

 

「まったく、本当に暇じゃないんだからね。宦官の奴らは相変わらず気が抜けないし、袁紹の奴がキナ臭い動きをしてるっていうし、全部まとめて畑に撒き散らす肥料にしたいわ」

「たはは……詠ちゃん。抑えて抑えて…」

 

 愚痴を零す心労の絶えない少女を、苦笑を発しながらまぁ、まぁ、と董卓が諌める。

 落ち着くためにも深いため息をつき、しかし首を切る、とこの状況で言われたのにも関わらず、動揺一つ見せない男への警戒を密かに高める程度には冷静であった。

 着ている物は上等。押収した武器は、比較的珍しい形状であった。

 

 天の御使だとかいう噂話が流れているこの時期に、こんな怪しい奴が現れたという事は。

 

 と、そこまで考えてから、その考えを追い払うように頭を振った。

 いや、流石にないだろう。そうだとしても、張遼の話を信じるなら、こんなに血の気の多い人間が世を正すとか、無い。無いで欲しい。違っててください。

 半ば祈るようになってしまったが、結論としては怪しい奴である。

 相手が恋である、という点ではまだまだ信じられないが、出入り口を塞いでる当の本人の腕に治療の跡がある。

 もしそれほどの武人であるならば、このキナくさい現状においては雇いたいものだ。

 

 だが、それには幾つかはっきりとさせておかないといけない事がある。

 

「幾つか質問をするわ。噓偽りなく答えなさい」

「ふむ。見目麗しい少女に訊ねられたのなら、何なりと答える所存よ。ちなみにお付き合いしている女人は募集中だ。そちらの藤の花のように可愛らしい其方も歓迎だぞ」

「死ね。もう死ね」

「これは手厳しい」

 

 くくっ、と不敵に含み笑いをする男を睨みながら、この状況下でよくもまぁここまで軽口を叩けるものだと半ば賞賛した。

 董卓は「へぅぅ」と顔を真っ赤にして俯いている。

 さらに苛立ちが増した。

 

「まず、そうね。何処から来たのアンタ。洛陽の者には見えないけれど」

「此処から三日程の場所だ」

「そうじゃ無いわよ。普通何処の村の生まれとかあるじゃない」

「生憎、山暮らしでな。地名も学がない故わからん」

 

 なるほど、と。

 山で修行でもしていた武芸者か。

 そう考えれば、常識外れな行動も納得はしないが、理解は出来た。

 

「まぁいいわ。恋に斬りかかったのはなんで?」

「目の前に馳走があったら、我慢できぬ性質でな。つい、味わってしまった」

「ああ、華雄とかと同じ奴か……」

 

 つまるところ戦闘狂。身近なところでいうなら先ほど名前が口から漏れてしまった華雄。他に挙げるなら、最近名を聞くようになった曹操とかいう官僚の部下にいた筈だ。

 こういう奴らは、道理より気合いで何事も押し通すから理解が及ばない。

 だが、話してみると山暮らしと言うものの基本的な受け答えはできるし、あの恋と戦って五体満足なのだ。

 怪しさこそ多分なものの、やはりこの強さ、ただ首を落とすのには惜しい。

 他の軍の間諜の可能性? それはないだろう。

 そうだとして将の一人に斬りかかるなど目立ち過ぎだし、この()を抱えたとして、そんな事をするよりかは戦場で使うだろう。

 もっとも、諜報もできそうな雰囲気ではあるが。

 しかし、こういう性質の奴らはやはり読みずらい。元々自分が軍師なこともあり、考え方が根本から違う事もある。

 判断材料がいまいちだ。ならば、

 

「恋、直接戦ったっていうアンタに聞くわ。感じた事を教えてちょうだい」

「…………」

「恋?」

 

 反応しない事を不審に思い、もう一度声を掛ける。

 すると、

 

「くぅ」

「なんで寝てんのよ!!」

「恋殿はお疲れなのですぞ! 静かにするのです!」

「黙りなさい恋限定無限甘やかし機」

 

 信じられない。

 自分に手傷を負わせるような男が、同じ空間にいるのにこの気の抜きよう。

 大物なのか天然なのか、両方だった、とほのかに感じる頭痛を抑えながらため息をついた。

 

「霞、あんたから見てどう?」

「うぇえ!? ウチかいな!? ちゅうか本人の前で言えっちゅーんか……」

 

 いきなりの方向転換に、張遼は乾いた笑いを一つ零した後、うーん、と悩み始める。

 

「そやなぁ、馬鹿やけど、悪いやつじゃない、って感じやな」

「その心は?」

「そりゃあ街中でいきなり喧嘩ふっかけたりとかするような奴やけども、捕まる時は口でなんやかんや言いながら結局潔かったし、()()()がどう見ても武人なんやもん。それだけわかれば、ウチとしては言う事はないわ」

 

 ついでに、と続ける。

 

()()()()()()が、あの有様や。害意が少しでもあるっちゅうなら、気は抜いても流石に寝る事はないやろ」

 

 そうして張遼は、言うだけ言ったとばかりに、壁に背を預け目を瞑った。

 

 なるほど、と思うと同時に、やはり完全に理解は出来そうになかった。

 だが、まぁしかし、そういう考え方よりの人間から見れば其れなりに信用できる人間らしい。

 何より、彼女らの勘ともいうべき感覚は時に侮れない。賈駆はあまりそういう考えを好まないが、自分達の将のものとなれば多少は認めることもできる。

 やはり、ものは試しだ。

 

「一応、聞いてみるわね。アンタ、この軍に仕えてみる気はない?」

 

 その言葉を聞いて、広間にいた将達は其々違った反応を示した。

 一番わかりやすかったのは陳宮だ。

 般若の顔が一瞬で浮かび、呪詛の言葉を放ち始めた。見なかったことにした。

 次に張遼。

 何かを考え付いたと言わんばかりの顔で此方を見てくる。嫌な予感しかしない。目を逸らしてやった。

 呂布。

 起きる気配はない。後で説教。

 

 董卓はほんわかと、

 

「ああ、強い人が入ってくれるなら嬉しいですねぇ」

 

 と言っていた。可愛かった。

 

 

 

 

 小次郎は、状況が二転三転とする流れに流されていた。

 そもそも、街中で我慢できずに道行く少女に死合いをふっかけた時点で相当やってしまった感が溢れているので、もう後は野となれ山となれ精神で状況を静かに見守っていた。

 途中で自身の内面を多少とはいえ見抜かれた時は、素直に感心し、同時に嬉しくも思ったものだ。

 

 なんてことはない。自分など、武人らしさに未だ憧れを抱く、そこらの童と何も変わらないのだ。

 

 そんな折にかけられた誘いに、さて、どうするかと思考を重ねた。

 とは思うものの、断る理由もない。

 何せこちとら一文無しの根無し草だ。

 むしろ、このような怪しい者を引き入れるこの娘と、それに賛同するような空気がおかしいと思うのでござる。もちろん禍々しい呪詛の声のする人物からは目を逸らす。

 

 というか、おかしいのは此処に女人、しかも少女と呼べる外見の人間しかいないということもそうである。

 仮にも国、しかも城にいるのだから相応の身分なのだろうが、はて。とんと見当がつかない。

 しかし、少女だからといって侮ることだけはしない。

 何せ、目の前の緑髪の少女と、薄く蒼みがかかった髪の少女の二人は武人ではないだろうが、出入り口に佇む赤髪の少女は燕返しを避けた実力から言うことはなく、青髪の童は状況を読み、助けを呼ぶ判断を下した。紫髪の彼女も、ふざけたような雰囲気を纏いながらも、先ほどの眼力、油断ならない存在だろう。

 彼女らが三国志を代表する武人であると聞かされても驚かないだろう。いや、実際そうなのかもしれない。

 伝承というのはあれであやふやなものだ。

 佐々木小次郎(架空の存在)という私がいるからには、武将が実は全員女であった、などということもあるだろう。あるだろうか。いや、騎士王も女であった。ありえるだろう。うむ。いややっぱないか流石に。

 

 そう無理やり自分を納得させようとして失敗したところで、ちょうど良く緑髪の少女が口を開いた。

 

「黙り、ってことはあんまり乗り気じゃないわけ?」

「ん、ああ、いや。このような怪しい者を受け入れるその度量に感服していたまでよ。いやあ、とても真似できん」

「……喧嘩売ってるわけ? まぁでも、それくらい此処も切羽詰まってると思ってくれていいわ」

「詠ちゃん……?」

 

 随分と弱みを曝け出す友人を不審に思ったのか、隣の少女は困惑した声を出した。

 

 ふむ。此処まで内情を話すということは、断った場合の処遇は想像に難くないだろう。

 

 良くて牢の中。それより多少悪いだけで斬首だろう。

 彼方はもう腹を決めたようだ。ならば私も決めなければならない。

 とはいうものの、答えなど決まっている。無意味に引き延ばすのも時間の無駄だろう。

 

「あいわかった。三食寝床つきならば、其方らの軍門に降ろう」

 

 こちらがそういうと、緑髪の少女は鼻を鳴らし、

 

「そう。賢明な判断ね。安心していいわ。この董卓軍、そんなみみっちいことはしないわよ。きちんと賃金も払うわ。働く奴になら、ね」

「はっはっは。ならば、私もそれに応えよう。なあに、取り扱いにさえ気をつけてもらえれば裏切りはせんよ。門番をさせる、とかな」

「……なんで門番? ああいや、何があったのかは、まぁ聞かないでおいてあげるわ」

 

 その雰囲気に、ふう、と。武将の其々が安堵のため息を吐いた。

 小次郎は特に考えず了承したが、他の者からすれば此処で断られていたら、この男を処罰せねばならず、その場合も暴れないという保証はなかった。もっとも、無手の者に負けるなどとは思わないが、其れでも面倒ごとにならずにすんだことによる安堵である。

 だが、既に霊体でなく、受肉している小次郎にとって、これからは食事や睡眠も必要になるだろう。それを確保できるのは重畳であった。

 

「宜しく……?」

「ああ、宜しく頼む……ああ、そうか。名は小次郎と呼んでくれればよい」

「……いいの?」

「なに、構わぬ。拙者の地域とこの大陸では、その名の扱いが少々違うものでな」

「……なら、こじろー、宜しく」

「うむ。宜しくで御座る」

 

 真っ先に声をかけてきたのはいつの間に起きたのか赤髪の少女。そういえば、此方が名乗ったのはこの時代の風習であろう真名に当たるものしか名乗ってなかった。

 しかし聖杯戦争などと欠片も関わりもなく、加えて別の風習が根付いてるところに、自分のは真名とは違う真名(しんめい)である、などという説明をするのも面倒だ。何より、馴染み深いものと似ておりながら決して違うものは受け入れがたいものだろう。故に少しばかり話を合わせておくことにした。

 加えて、相手の名前すら聞いていない。

 恋と呼ばれているのを何度か聞いているが、それは真名だろう。大切だというからには、取り扱いには気を使おうと思う。相手が此方を呼ぶのは構わないが、自分からそのような無粋な真似はしたくはないものだ。

 

「恋は、呂布。呂布、奉先」

「………うん?」

「いやあよろしゅうな! ええと、まぁいいって言うんなら呼ばせてもらうで、こじろー! うちは張遼! よろしうなー!」

 

 なんや変わった名前やなあと笑いかけて縄を外してくる張遼に、小次郎は、うん? と傾げた首の角度を深くした。

 

「音々音は、陳宮ですぞ。ねねは、認めたわけじゃないですぞ……」

 

 そう言いながら、呂布の後ろで唸る少女。

 

 知っている名前の陳列、ただし性別が想像と違う、という事態に首がそろそろ九十度を超えそうである。

 

 あっれ、本当に全員女子になってるのだろうかと、飲み込むのに数秒。

 

 

 その後に続いた自己紹介で、白髪の少女が董卓だというのを聞き、苦虫を噛み潰したような声で「ええー? ほんとにござるかぁ?」と発してしまうまで数秒であった。

 

 

 

 




11/30 感想にて指摘のあった部分を修正させていただきました。

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