幻想怪獣記   作:大栗蟲太郎

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「ふふ……古参妖怪共に対してはコイツを送ってやろう……見えない敵に対して怯えるがいい……!」


見えざる事、風の如し

ここは妖怪の山、カッパや天狗など幻想郷に古来から住む妖怪たちが暮らしている場所。

上下関係には厳しく、縄張り意識が強い妖怪ばかりなので人が寄り付く事はあまり無いのだが……そこに一体の侵入者が訪れたのだった。

 

所変わって天狗の里、大きな館で高位の天狗が天狗達に報告と命令をしていた。

 

「天狗達に報告する!知っての通りだが最近別の場所から現れる巨大生物による侵略行為が行われている……そしてついにこの妖怪の山でも巨大生物の痕跡が発見された!」

 

黒板いっぱいに貼られた何かが這いずるような巨大な痕、それは妖怪の山ではまず見られない様な物だった。

 

「これほどまでに大きな侵入者を野放しにするのは天狗の威信に関わる!発見し次第速やかに討伐する様に!」

 

「はっ!」

 

その場にいた部下の天狗達はそう返答して各々の持ち場へと行く。

帰路で話をしていたのは二人の鴉天狗、姫海棠はたてと射命丸文だった。

 

「しかし、面倒なことになったわね。はたて?」

 

髪を短くしてる少女が射命丸文、文々。新聞を発行している記者だ。

対するツインテールの少女が姫海棠はたて、どちらもライバル同士の間柄だ。

 

「ほんとほんと……でも、倒したらいい新聞のネタになると思わない?」

 

挑発的な視線ではたては文を見遣る。

すると売り言葉に買い言葉、文もそれに乗った。

 

「いいわ、やってあげる。倒した方が新聞の見出しのネタに使うでいいわね!」

 

そう約束した二人は家へと帰っていった。

 

「さあ、今だ……今こそその姿を見せろ!時空転移怪獣メタシサス!思い上がった天狗の鼻っぱしをへし折ってやれェ!」

 

夜の空に不気味な声が響く。

すると潜んでいた悪意が牙を向ける、時は来たと言わんばかりに魔が姿を表す。

 

 

夜目の利く白狼天狗は目にする、その異形を。

チェスの駒に例えられようその形状、所狭しと並んだ目玉に直角近くまで開いた口に伸びるは長き舌。

まさに異様としか言い様のない怪獣……その名はメタシサス、時空転移能力によって以前ウルトラマンマックスを苦しめた怪獣が夜の山に出現したのだ。

 

「ひ、怯むな!掛かれ!」

 

白狼天狗の隊長が声を上げる。

一人の白狼天狗が斬撃を加え、もう一人の白狼天狗は弾幕をぶつける……しかし、それでもこの巨躯に致命的なダメージを与える事には至らなかった。

 

そして白狼天狗達の攻撃を見ると今度は攻勢に転じたのか姿を消してしまう。

 

「くっ……!どこだ!怖気付いたのか!」

 

白狼天狗達がその目を凝らしてもメタシサスを見付けるには至らない。

そして別の場所から現れたと思えば白狼天狗達に向けて突撃をしてくる。

 

ただの体当たりと言われればそうだが不意打ちとその巨躯というのもあり出現地点付近の白狼天狗達は避けられずに吹き飛ばされてしまう。

しかし、天狗の軍団の次鋒が現れる。

 

鴉天狗の部隊だ、隊長が威勢良く指示をする。

 

「いいかお前達、怪獣への攻撃と同時に少しでもアイツから情報を得るんだ!」

 

羽団扇で竜巻を起こしてメタシサスにダメージを与えて行く。

未だ残っている白狼天狗の部隊も攻撃をしていく。

 

自分が包囲されて不利だと悟ったメタシサスは姿を消して……時空転移を行う。

包囲網から抜けたソレは不意に現れる。

 

そして舌を伸ばして鴉天狗の一人を捉える。

 

「千鶴!」

 

そう呼ばれた鴉天狗は舌の支配から抜け出そうとするが……抜け出す事はできずに逆に電流を食らってしまう。

 

「あああああ!」

 

彼女は叫ぶ、仲間意識の強い天狗はすぐに助けに向かおうとするが……何処からともなく男の声が響く。

それは先ほどメタシサス出現前に聞こえた声と同じだった。

 

「待て、天狗供ぉ……この鴉天狗の命が惜しければ攻撃を止めろ……然もなくばこの鴉天狗は超獣の材料となるぞ……」

 

千鶴を人質に取る卑劣漢相手にも、鴉天狗部隊隊長は怯まない。

毅然とした態度で相手に尋ねる。

 

「姿も見せずに手下を仕向けるだけとは感心しないな?外道め。名前くらい名乗ったらどうだ」

 

怒りを滲ませた問いをかける。

 

「はっはっは……これは失礼、私はヤプール。異次元からの侵略者で……この郷を頂く者だ!」

 

高笑いをしたヤプールに隊長は怒りを爆発させる。

 

「ふざけるな……この郷を頂くだと!?貴様の様な下郎にやる幻想郷など一つもないわ!」

 

全速力を出してメタシサスへと突っ込むが……姿を消してしまった。

そこに残っていたのは解放された千鶴だけだった。

 

その翌日、集会がまた行われた。

しかし負傷した白狼天狗達と千鶴を除いた者達での集会となったが……

 

「白狼天狗、怪獣の突進により負傷者多数……」

 

「鴉天狗は舌に捕らえられた千鶴が負傷……」

 

悲痛な空気が漂うが……それを払拭しなければならなかった。

 

「負傷して戦えないのは仕方ない……それより残った者達で怪獣への対策を練ろう」

 

迎撃部隊隊長の天狗がそう言う。

 

「あの怪獣について何かわかった事はあるか?」

 

鴉天狗達に尋ねる。

そして昨晩のメタシサスの攻撃方法を黒板に貼って行く。

 

「攻撃方法はわかった。では次はあの透明化と瞬間移動だな……あれへの対策がわかればいいのだが……」

 

他の天狗達も唸る中、一人の鴉天狗がはたてに話し掛ける。

その相手は姫海棠はたてだった。

 

「はたて、アンタ何かあったでしょ?言ってみなさいよ」

 

襲撃の最中にはたても文の付近で応戦していたのだが、何か表情が変わっていたのを見逃さなかった。

 

「え、ええ……では僭越ながら、こちらをご覧になって下さいますか」

 

はたては携帯画面を全員に回して行く。

そこに写っていたのはメタシサスが消えた後にチラチラと画面にノイズが走っているのが見えた。

 

「そして……これを」

 

次は動画だった、ノイズが走った後にメタシサスが現れたのだ。

隊長は立ち上がり大声で

 

「でかした、はたて!」

 

そうはたてを讃える。

 

「もしかしたらはたてのカメラの電波に秘密があるのかもしれないな……」

 

「えっと……?」

 

困惑したはたてに隊長はそのまま

 

「はたて、今回の怪獣討伐の指揮は貴様に任せた!」

 

「ええええ……!?」

 

気圧されてしまうが隊長ははたての手を握り締め、目を見詰めて

 

「この怪獣の出現地点を答えることができるのははたてだけなのだ、どこに現れるのかを教えて欲しい」

 

そう上司から直々に言われたのであっては断る道理もなかった。

 

「はい、やらせて下さい!」

 

表情を引き締めて頷く彼女に迷いなどなかった。

その夜、再びメタシサスが現れる。

 

今回で倒すつもりの様で、雄々しく雄叫びをあげる。

そんなメタシサスに、鴉天狗の部隊だけで駆け付けた。

 

もしもの時のためになるべく少数部隊で。

 

「行けぇメタシサス!天狗達を蹴散らすのだ!」

 

メタシサスが突進をするも天狗達は左右に回避、そのままメタシサスの後方から弾幕で攻撃していく。

 

「連写『ラピッドショット』!」

 

メタシサスの正面から携帯でロックオン、次々とフラッシュ攻撃を当てていく。

後ろから迫る文も負けじとスペルカード宣言をする。

 

「突風!『猿田彦の先導』!」

 

竜巻を横に飛ばしてダメージが入る。

怯んだメタシサスは立て直そうと空間転移を行う……しかしそのトリックは既に見破られていた。

 

「敵、後方へ下がりました!」

 

「バカな……奴の動向が知られているだと!?」

 

ヤプールの狼狽した声が響く。

すると文は見えない声の主に宣言する。

 

「見せてあげるわ侵略者さん。幻の疾走をね!」

 

言うが早いか彼女が風になり、姿を現したメタシサスに追い付く。

そして風刃を飛ばして体力を減らす。

 

うめき声を上げたメタシサス、動けない隙を突いて天狗達が取り囲む。

 

「皆さん、怪獣を竜巻で攻撃して浮かせて下さい!」

 

はたての号令に従い包囲した天狗達が竜巻でメタシサスを浮かせる。

そして身動きの取れない怪獣を前にはたては文を指名する。

 

「さあ文、一緒にあの怪獣を屠りましょう?」

 

「ええ!」

 

二人はラストスペルを宣言をする。

 

「幻想風靡!」

 

「遠視『天狗サイコロジー』!」

 

文は高速で動き回りながら弾幕を放つ。

それはまるで一筋の光の様に、姿すら認識できないスピードで弾幕を放っていき牽制する。

 

そしてメタシサスをロックオンした地点から小さい弾幕が飛んでいくはたてのスペルカードの追撃もありついにメタシサスは耐え切れなくなり空を見上げて爆発した。

それを見届けた二人はお互いハイタッチし合ったのだった。

 

後日、花果子念報と文々。新聞の号外が発行された。

そこに書かれていた見出しは『二人の鴉天狗、連携で怪獣を討伐!』であった




卑劣な異次元人ヤプールは次なる一手を送り込む!
改造されようとするホタル……戦え、リグル!
次回「ファイア・バグ」お楽しみに

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