幻想怪獣記   作:大栗蟲太郎

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「ヤプール様、地底には鬼という力の強い種族がいるようです」

ヤプール人の円盤の中で幻想郷の鬼について解説していくギロン人。

「なるほど、その鬼を超獣の材料にか…」

「はい。成功すれば必ずや我々の戦力になりましょう」

解説や持論を伝えるギロン人。

「なら、行ってくるがよい!」

「ハッ!」


地底侵略計画

ここは旧地獄。

その名前の通りに元々は地獄だったのだが、閻魔の指示の元に地獄のスリム化の為に切り離された場所で、今は嫌われ者の妖怪たちや卑劣な人間達に地上から追いやられた鬼達に元から地底に住む動物が住む場所となっている。

 

鬼達が住む旧都、古明地さとりとその妹、そして彼女のペット達が棲む地霊殿等がある。

 

さて、そんな鬱々しい所はどれ程陰気かと思われるが、そんなことはなく、皆が地底生活を楽しんでいる。

 

だが、そんな地底生活も突然現れた怪物によって終わりを告げることになってしまうのだった…。

 

巨大な蟻のような怪物によって旧都は破壊され、鬼の力を持ってしてもその怪物の頑丈な甲殻に致命傷すら与えられず、殆どの鬼が捕らえられてしまった。

 

その上、ハサミを持った白い怪物に地霊殿を占拠されて、動物達もその手中に収められてしまったのだ。

 

そして、時は現在に戻る。

 

「成程な……」

 

と、魔理沙は呟く。

 

「……はい、こちらも全勢力で迎え撃ったのですが、相手に通用しなくて……」

 

そう、相談した主であるさとりは悔しそうに告げる。

 

「そこで、怪物を何体も倒した私達に助けを求めたわけね?」

 

と、霊夢はさとりの言葉を繋ぐ。

 

「……」

さとりは無言で頷いた後、頭を下げた。

 

「お願いします、あの怪物を退治してください!お礼なら弾みますから!」

 

「……頭を上げなさい」

霊夢はさとりに告げる。

 

「……幻想郷を侵略する拠点にしようってんなら、黙っておけないわ」

 

霊夢はお祓い棒を握り締める。

そして、今にも飛び出そうと神社の床を蹴る。

 

そこを、魔理沙に止められる。

 

「まあ、待て霊夢」

 

「な、何よいきなり!」

 

逸る霊夢を魔理沙が諭す。

 

「鬼や妖怪達でも手に余る様なヤツだぜ?私達二人では力不足だ」

 

「じ、じゃあどうすんのよ!」

 

気が高ぶる霊夢に魔理沙は提案をする。

 

「だから、他のヤツ等にも助けを借りるんだよ。良いな?」

 

「……分かったわ」

冷静さを取り戻した霊夢はその提案に賛同して、さとりに神社に残るように告げて、魔理沙と二人で外に出た。

それを見ていた誰かが、魔理沙達についていった…。

 

彼女たちが真っ先に向かった場所は守矢神社だった。

 

「……と、言う状況なんだ」

 

魔理沙は目の前の少女、早苗に巨大な蟻のような怪物に地底を荒らされたこと、白い怪人に地霊殿を占拠されたことを話した。

 

すると早苗は考えるような仕草をして、遂にこの世界にも来ましたか…。と呟いた。

 

「遂に、ってどう言うこと?」

 

その言葉を聞き逃さなかった霊夢が尋ねる。

 

「私の元いた世界にも、怪獣…。それだけでなく、超獣や宇宙人達による侵略があったのです」

 

と、早苗は外の世界での体験談を話していく。

 

ヤプール人が攻めてきたこと、その配下の超獣や宇宙人、そしてヤプール人と関係ない怪獣や宇宙人が攻めてきたことを。

 

「混沌たる状況でした…。ゴミ怪獣や高速宇宙人も攻めてきましたからね……」

 

早苗は困り顔で語る。

 

「……なるほどな」

 

魔理沙は頷く。

 

「……ってことは、そのヤプールとやらがこの幻想郷に目を付けたってことかしら?」

 

「その可能性は十分にあり得ますね。ヤツは様々な次元に行くことも出来ますから、この幻想郷を侵略のターゲットに選んでも不思議ではありません」

 

と早苗は自説を展開すると、一同は黙り込む。

 

「……なら、早く止めなければ!」

開口一番、魔理沙が叫ぶ。

 

「ええ、そうね!早く地霊殿に行きましょ!」

 

霊夢も賛同し、早苗も頷く。

 

「そうと決まれば、行くぞ!地底に!」

 

「オー!」

 

と、盛り上がっている所に、「待ってよ」と言う声が響いた。

 

「おい、誰だ?今喋ったの」

 

魔理沙は周りを見回す。

 

「私じゃないわよ」

 

霊夢は首を振る。

 

「私でもないですよ」

 

早苗も否定する。

 

「じゃあ、誰だ?……いや、気配が感じられないヤツが一人いたな」

 

魔理沙が言い終わるのが早いか、魔理沙達の目の前に一人の少女が現れた。

 

「うっ、うわあ!?こいし!」

 

魔理沙は腰を抜かしながらも、目の前の少女の名を言う。

彼女こそ、さとりの妹である古明地こいしだ。

 

「魔理沙、霊夢、そして早苗。その地底の怪物を倒すのに、私も連れていってくれないかな?」

 

こいしは霊夢達に頼む。

その目は燃えていた。

 

「良いわ。ついてきなさい」

 

霊夢はその頼みを承諾する。

 

「一緒にアイツ等をぶっ飛ばそうぜ!」

 

魔理沙もこいしを鼓舞して、早苗もお辞儀をする。

 

こうして、こいしも含めた四人組は地底に向かうことになったのだ。

 

さて、地底についた霊夢達一向は地霊殿を目指す。

その怪人とやらに宣戦布告をするために。

 

さて、地底についた一行だが、周りには人っ子一人の気配すらなく、建物も所々壊れてしまっている。

 

「コイツはひでぇな……」

 

苦々しく魔理沙が溢す。

 

「アイツ等のせいでお燐もお空も、他の皆も捕まえられちゃった……」

 

悲しそうにこいしが呟く。

その眼は申し訳なさそうにしている印象を二人に与えた。

 

「まあ、過ぎたことを気にしても仕方ないわ。…でも、これから皆を助ければいい。でしょう?」

 

霊夢が励ますようにこいしに言う。

だが、こいしは俯いたまま。

そんな彼女に魔理沙も付け加える。

 

「そうだそうだ。お前が悪い訳じゃ無いんだし、その侵略者を倒せば解決だろ?」

 

「……そうだね。私も頑張るよ!」

 

こいしは顔を上げて、地霊殿へと進んでいく。

地霊殿に辿り着くと、こいしの言っていた巨大な蟻の様な怪物と、白い怪人がそこにいた。

 

「…こいし、アイツか?お前の仲間を襲ったヤツは」

 

魔理沙が尋ねると、こいしはすぐに頷く。

 

「…でも、どうするの?一筋縄では行かない様な相手だけれど」

 

霊夢も流石に真っ向勝負では勝ち目がないと思ったのか、魔理沙に策を聞く。

 

「そうだなぁ…。こいし、アイツの…蟻みたいなヤツについて教えてくれるか?」

 

魔理沙はアリブンタについて情報を求める。

 

「……。あっ!とても頑丈な奴で勇儀さんのパンチでも効果的なダメージは与えられてなかったよ!」

 

アリブンタについての情報を話していくこいし。

それを聞いていた霊夢たちは難色を示す。

 

「……一筋縄では行かないようね」

 

「流石はあの侵略者の連れて来た怪獣…と言ったところか」

 

「……魔理沙、何か策はあるの?」

 

こいしが不安そうに尋ねる。

 

「……ああ、一応な」

 

苦し紛れ、と言った感じで答える。

魔理沙は、流石に頑丈らしいアリブンタでも頭はさほど強くはないだろうと推測した。

 

だから、そこを狙おう…と言う作戦を立てた。

 

「勿論、上手くいく確証はない。だが、私にはこれ以外思いつかなかった……」

 

「……よし、それで行きましょう」

 

霊夢が頷きながら答える。

 

「…私も、協力するよ。どうすればいいの?」

 

「お前が作戦の要だ。お前の能力を活用することが勝利への道なんだ」

 

そう言って、こいしに耳打ちする。

 

聞き終えたこいしは承諾し、頷く。

そして、大蟻超獣アリブンタを向き直る。

 

「私はここだ!さあ、撃ってこい!」

 

開口一番、魔理沙はアリブンタの頭部目掛けて飛んでいく。

 

「キュキュ!?」

 

アリブンタは驚愕の悲鳴を上げる。

 

「貴様、霧雨魔理沙か!」

 

ギロン人は魔理沙を指差し名指しする。

 

「おっ?私の名前って宇宙人にも知られてる?やっぱり有名なんだなぁ」

 

得意げに言いながらも、アリブンタの爪から放たれる火炎を回避していく。

 

「プレゼントだ!」

 

回避しきった後、大型の星形弾幕を放ち自身は急上昇してアリブンタを翻弄する。

 

「キュィィィィ!」

 

獲物を相手に手痛いしっぺがえしを食らったアリブンタは激怒し、暴れる。

 

「落ち着け、アリブンタ!」

 

大蟻超獣の元へ駆け寄ろうとするギロン人の足元に、大小さまざま且つ色とりどりの弾幕が飛んでいく。

 

「ぬおおっ!?」

 

巻き起こる土煙に驚き歩みを止め、弾幕の射手を目で探そうとする。

だが、見つけるより早くその射手、霊夢が啖呵を切る。

 

「その弾幕を撃ったのは私。博麗の巫女、博麗霊夢よ!」

 

ギロン人は激昂して、霊夢まで走っていく

 

 

「食らえ!」

 

矢のような光線を霊夢に放つ……が、回避されてしまう。

 

「おのれぇ!」

 

ギロン人は唸り、突撃していく。

 

さて、魔理沙はアリブンタを相手にドッグファイトを続けていた。

魔理沙の方が一枚上手の様で、上手くかわしながら体力を削っていた。

 

「キュキュキュ…キュイエエ!」

 

そんな相手に痺れを切らしたのか、アリブンタは爪を振り回し出鱈目に暴れ始める。

 

「オワッ!?ヤベエ!」

 

何とか避けようとするが、箒に攻撃が当たり墜落してしまう魔理沙。

 

旧都の家屋の二階に逃げ込むが、それをアリブンタ、そしてギロン人は見逃さない。

 

「今だアリブンタ、その家屋に火を放ち魔理沙共々焼き討ちにしてしまえ!」

 

アリブンタはギロン人の指示通り、家屋に近づいて行く。

 

「魔理沙!」

 

霊夢は慌ててアリブンタ向けて弾幕を放つが間に合いそうになかった。

 

ギロン人が勝利を確信する中、ふと声が響いた。

 

「私メリーさん。今あなたの肩の上に居るの」

 

程なくして、アリブンタの首が飛んだ。

 

「…何っ!?何がどうなった!?」

呆気にとられたギロン人は只々狼狽えるばかり。

倒れ行くアリブンタの肩に乗っていたのは古明地こいしだった。

 

「間に合ったようだな…。流石に私でもダメかと思ったがな。さあ、降参して鬼たちを解放しな」

 

「小娘が…!…ハッ!?」

 

二の句を継ごうとしたギロン人はこいしが消えたことに驚く。

 

「私メリーさん。今あなたの後ろにいるの」

 

おそれおののき振り返るも何も見えず。

 

「私メリーさん、今あなたの肩の上にいるの」

 

「…ッ!わ、分かった!降参する、鬼も開放する!」

両手を上げて、円盤から鬼や八咫烏を出していく。

 

「これで全てだからな。…見逃させてもらうぞ」

 

と言い残して円盤に戻って地底から出て行った。

 

〜〜〜

 

「お空ー!」

 

お空に駆け寄り抱き着くこいし。

 

「ただいま帰りました!こいし様!」

 

笑顔で抱き返す空。

 

その後ろでさとりは霊夢と魔理沙にお礼を言っていた。

 

「この度はなんとお礼を申し上げて良いものか…」

 

と言ったさとりに霊夢は

 

「お礼はこいしに言った方がいいわよ」

 

「アイツがいなければこの作戦は成り立たなかったからな」

 

魔理沙も同調する。

 

そんな二人を見て、再度頭を下げて

 

「誠にありがとうございました」

 

と笑みを浮かべて感謝するのだった。

 

所変わって、ヤプールの円盤では

 

「申し訳ありませんヤプール様。鬼を超獣に改造する計画は頓挫してしまいました」

 

膝をつき謝罪と失敗の報告をするギロン人。

そんなギロン人に、霊体のヤプールは

 

「まあよい。次に侵攻するときの情報になっただろう」

 

と許し、次の為に対策を練るように言った。

 

「承知しました」

 

とギロン人。

 

「ステルス…とは違うな。視認さえ出来なかった…」

 

アンチラ星人はぶつぶつと呟いていた…




次回予告
霊夢に危機が迫る!
操られてキングジョーを操作する彼女を魔理沙たちは救えるか!?
次回幻想怪獣記「未知なる敵」お楽しみに

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