幻想怪獣記   作:大栗蟲太郎

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「フフフ…。さて、作戦の準備に移ろうかな。今回は大掛かりなものだからな…」

宇宙人は笑う。
後ろの超獣製造機を眺めながら…


残酷!変身怪人アンチラ

寺子屋で、慧音は子供たちを相手に授業をしていた。

 

いつぞやの様に、事件は起こらなく、平和に授業が終わった。

 

「それでは、これで授業を終了する。また明日!」

 

慧音が授業の終わりを告げると、生徒達は家に帰って行く。

 

そして、親に今日の授業の事を話すのだ。

だが、今日は少しばかり違い、事件が起こっていた…。

 

「ふふふ…。計画の第一段階が成功した…。次は、この子供を改造するか……」

円盤の中の超獣製造機の前で、アンチラ星人はほくそ笑んでいた…。

 

翌日、寺子屋は騒然としていた。

寺子屋の生徒の一人である星野アキラが昨日から帰ってこないのだ。

 

「慧音先生!アキラが昨日の午後から帰ってこないんです!」

 

涙ながらに訴えるこの女性はアキラの母親、星野幸子だった。

 

「落ち着いてください、お母さん。自警団がただいまアキラを探しています。それまで危険ですからなるべく家で待機していてください」

 

慧音がそう説得すると、母親は涙を浮かべながら帰って行った。

 

そして、慧音は寺子屋の生徒たちに今日は授業をしないことを告げて、誘拐されないように速やかに家に帰した。

 

その騒動を聞いていた魔理沙が、博麗神社に走って行った。

 

「おい、霊夢!居るか!?」

 

息を切らせて神社に着き、霊夢を呼ぶ魔理沙。

 

すると、面倒くさそうに霊夢が出てきた。

 

「何よ、寝てた所なのに…」

 

そんな霊夢をお構いなしに話を続ける。

 

「いなくなったんだよ…。寺子屋の生徒が…」

 

「えっ…」

 

「被害者の名前は星野アキラ…。赤い靴はいてた…少年だ」

 

「…妖怪の仕業ではないわね」

 

「ああ…。何かあのレクトとやらに通じたものを感じるぜ…」

 

二人は、以前起こった侵略宇宙人による大規模誘拐を思い出した。

 

「…でも、手掛かりが少なすぎるわ…」

 

「……今はまだ、様子見か?」

 

「……仕方無いけどね」

 

そう言った二人は、そのまま解散した。

 

その夜、円盤では一人の宇宙人が歓喜により、高笑いをしていた。

 

「ハッハッハッハ!ついに完成したぞ、私の超兵器が!さて、明日はこれを親の元に返してやろう…。この円盤の中の記憶はないがな……」

 

アンチラ星人は、円盤の転送装置を作動させた。

その転送対象は、誘拐された星野アキラ少年その人だった…。

 

次の日の朝、アキラは帰ってきた。

だが、行方不明だった時の記憶はないようだった。

それでも、戻ってきたからよしと、深く詮索はせずに少年の行方不明の件は解決した。

 

だが、事件はまだ始まったばかりだった…。

 

その夜、アキラは突然目を覚まして書斎に行った。

 

そして、有用そうな本を読んだ。

まるで、誰か見ている者に見せるような動きをしながら…。

 

 

本を読んでいるアキラが見せている誰か、それは円盤の中にいた。

 

「おい、アンチラ星人。何か役に立ちそうな本はあったか?」

 

「一応、と言っておこうか。だが、やはり少ないな。もっと有用そうな資料のありそうな場所…」

 

そう言って、アンチラ星人はモニターの画像を切り替え、鈴奈庵が映る。

 

「ここの方が良い資料もあるだろうな」

 

「ほうほう…。明日行くのか?」

 

「勿論。いつ巫女にばれるか分かったもんじゃないからな」

 

「ふふ、そうか…。ま、いい結果を期待してるぜ?」

 

「ま、待っていろ…」

 

アンチラ星人はモニター室から出て行った。

 

次の日、アキラは寺子屋に行っていた。

特に問題を起こすでもなく、静かに聞いて、ノートを取っていた。

 

その様子を、侵略者たちも見ていた…。

 

 

「それでは授業を終了する。寄り道などせずに速やかに帰るように」

 

生徒たちは全員返事をする。

そして、授業は終わった。

 

さっさと帰ろうとするアキラを、慧音が止めた。

 

「アキラ、偉いな。私語を慎んでノートを取るなんて。勤勉な事だ。次も頑張るように」

 

褒められたアキラは少し嬉しそうに笑い、礼を述べるとすぐに寺子屋を出て行った。

 

その後、アキラは鈴奈庵に行った。

 

「あ、いらっしゃいませ!」

 

店員の小鈴が元気よく挨拶をする。

 

「すいません。これを貸していただけますか?」

 

アキラは幻想郷の歴史、土地にまつわる本をそれぞれ一冊ずつカウンターに出した。

 

「ああ、はい。それなら二点でこちらの金額になりますが」

 

小鈴はそろばんで計算した値段をアキラに見せる。

 

そうすると、アキラは値段ピッタリのお金を小鈴に渡して本を持ち帰った。

 

そこに、魔理沙が来店してきた。

 

「よお小鈴。今のアキラは何を借りてったんだ?」

 

「ああ、アキラくんなら歴史の本と地理の本を借りて行きましたね」

 

それを聞いた魔理沙は、その言葉を怪しんだ。

 

「…妙だな」

 

「何がです?」

 

妙だなという言葉に引っかかりを覚えた小鈴は魔理沙に尋ねた。

 

「何度か、アキラと話をしたんだが、そんな本を読むようなヤツじゃなかったこと」

 

魔理沙は右手の親指を立てて、小鈴に自論を展開する。

 

「でも魔理沙さん。そういう本を読みたくなることもあるんじゃないですか?」

 

小鈴が反論すると、魔理沙は次の意見を切り出した。

 

「確かに。だが、もう一つ。子供が借りるには高すぎる本ばかりであるという事」

 

ここで区切ると、魔理沙は歩き出して続ける。

 

「私はここの本の値段を、どの種類が高いかは大体把握している。そして、アキラが借りて行ったカテゴリの本が高い本であることは分かった」

 

魔理沙は歩みを止める。

そして再度、小鈴は反論する。

 

「でも、お父さんたちから借りたという事も…」

 

「ああ。だからこれからそれを聞きに行こうか」

 

魔理沙の眼が鋭く輝いた。

 

両親から聞いた話では、やはりアキラは黒で、父も母も本を借りるためにお金を貸した事はない。そして、知らない間にお金がなくなっていた。と言った。

 

その言葉を聞いた魔理沙は帰路につき、色々思案していた。

 

―――なぜ、アキラは家のお金をネコババしたのか?

 

―――なぜ、普段は興味のないような本を借りたのか?

 

 

だが、その答えは出ることはなかったため、明日本人に聞くことにして、家で眠りに着いた。

 

翌日、魔理沙は寺子屋に向かい、アキラの元を訪ねた。

 

その様子は模範的生徒そのものであり、黒板で書いたこと、先生の言った事を全てノートに纏めて書いている。

だが、魔理沙はアキラが時々見せた、見えない誰かに向かって見せるような行為を見逃さなかった…。

 

授業が終わり、閑散としていく教室で、魔理沙はアキラに声を掛けた。

 

「よう、アキラ」

 

「…魔理沙か」

 

「お前、立派だなぁ。勉強するために鈴奈庵から歴史と地理の本を借りたんだって?」

 

「…どうも」

 

少し、嬉しそうに眼をそらす。

 

「でも、感心しないなぁ。親に黙ってお金をネコババしていくなんて」

 

「…!」

 

僅かにアキラの目が泳ぐ。

それを魔理沙は見逃さない。

 

「何か、隠したいことがあったのかな?お母さんやお父さんに言えないことなのかな?」

 

「そ、それは……」

 

答えに詰まったアキラは黙り込む。

魔理沙は揺さぶりを掛ける。

 

「アキラ、どうした?誘拐されてから何かおかしいぞ?」

 

「……」

アキラは顔を歪める。

そして、次の瞬間にアキラは魔理沙を突き飛ばして、寺子屋から出た。

 

「ってて……」

 

魔理沙は頭を掻きながら起き上がる。

 

「アキラはどこだ…?」

魔理沙はアキラを探す。

そして、魔理沙はアキラを見付けた。が、アキラは次の瞬間にコオクスに変身していた。

 

 

グアァアアァアア!

 

超獣人間コオクスは雄叫びを上げて、魔理沙を睨む。

 

「へぇ……、そうか…。正体を見破った私を消したいわけかよ!」

 

魔理沙は被害が及ばぬよう、人里の外まで出ていく。

 

コオクスは逃げていく魔理沙を追い掛けて、同じく人里から出ていった。

 

「へへっ…。ここなら、周囲からのヤジも気にせず戦えるぜ?」

 

魔理沙はコオクスを挑発する。

コオクスは魔理沙に向かっていく。

 

 

「良いのか?魔理沙はかなりの強さだぞ?」

 

所変わって円盤の中。

男はアンチラ星人に尋ねる。

 

「構わんさ…。それに、あの大きさで暴れているのだ。紅白巫女が気付いてコオクスを処分してくれるさ」

 

「だが、コオクスの正体を魔理沙が巫女に告げ口しようとしたら?」

 

アンチラ星人は近くにあったレーザー銃に手を添えて答える。

 

「その時は…。その時さ」

 

さて、魔理沙とコオクスは一進一退の攻防を繰り返していた。

その様子を、霊夢が見ていた。

 

「アレ?アレは……魔理沙?」

 

霊夢は神社で魔理沙を視認すると、即座に立ち上がった。

 

「何か変なのと戦ってるし……!早く倒さなきゃ……!」

 

霊夢は、急いで魔理沙の元まで飛んでいった。

 

「チッ…。アキラと分かってるからやりづらい……」

 

魔理沙はコオクスの引っ掻きとミサイルをかわしながら、苦い表情で呟く。

 

そこに、霊夢が弾幕を撃ちながら駆け付けた。

 

霊夢の撃った弾幕が命中して、怯むコオクス。

怯んだ隙に、霊夢は魔理沙に声を掛ける。

 

「大丈夫!?魔理沙!」

 

「ああ、大丈夫だ…。だが……」

 

魔理沙の話を霊夢が遮る。

 

「待ってて、魔理沙。あんなヤツ、すぐに吹き飛ばしてみせるから」

 

霊夢はお祓い棒を構えてコオクスに向かう。

 

「あっ、霊夢!待ってくれ!」

 

追おうとした魔理沙を、レーザー銃の砲撃が阻む。

 

「だ、誰だ!」

 

「はじめまして、霧雨魔理沙。私はアンチラ星人、ヤプール様の一番の手先だ」

 

アンチラ星人は魔理沙に、慇懃無礼にお辞儀してみせた。

 

「ま、まさか…。アキラをあんな風にしたのもお前か!?」

 

「ご名答。流石、魔法使いだね。中々に聡明で鋭い」

 

拍手をするアンチラ星人。

そんな敵に、魔理沙は苛立つ様に訴えた。

 

「クソッ、御託並べやがって!退けよ、お前!」

 

「嫌ですよ。そんなことしたら、君は霊夢の所に行ってコオクスの正体を教えてしまうじゃないか」

 

「グッ……」

 

魔理沙は悔しそうに歯噛みする。

 

「まあまあ、そんな顔なさらずに。この度我々が霊夢が来るようにコオクスを暴れさせたのは、もう彼が用済みだからです。だからもうお返ししますよ。彼を正気に戻せるなら、ね!ヒャーッハッハッハ!」

 

アンチラ星人は残酷に高笑いしてみせた。

魔理沙は、そんなアンチラ星人の態度に痺れを切らしたのか、開口一番に激昂した。

 

「下らない演説はそこまでか!?」

 

アンチラ星人はその大きな怒声に思わずのけ反る。

 

「我ながら、お前のはらわたの煮え繰り返る様な話によく最後まで付き合えたぜ。遺言はそれでいいな?」

 

「強気ですねぇ…。ま、霊夢がコオクスを倒せるまでに止めればいいですがねぇ!」

 

アンチラ星人はレーザー銃、ウルトラレーザーを構える。

 

「先手必勝!」

 

魔理沙はアンチラ星人に突っ込んでいく。

 

「くっ、マスタースパークですか!?」

 

アンチラ星人は避けられるように身構える。

 

「儀符『オーレリーズサン』!」

 

魔理沙はスペカ宣言をする。

すると、魔理沙の周りを回る四つの球が現れた。

 

「しまった、避けられない……!」

 

アンチラ星人は球に当たり、飛ばされてしまう。

 

「さて、この弾幕はお前へのプレゼントだ。遠慮なく受け取れ」

 

魔理沙はその四つの球をアンチラ星人に向けて射出する。

避ける間もなく打ち出された弾幕に、ぶち当たって木に激突した。

 

「ははっ…。やりますねぇ……」

 

「もう、終わりにしようぜ?」

 

魔理沙は八卦炉に魔力を貯める。

 

「霧雨魔理沙…。その名前、覚えておきましょう……」

 

アンチラ星人はそう言い残し、何かリモコンの様なものを投げて円盤から放たれた光線によって消えた。

 

「恋符『マスタースパーク』!」

 

その一撃は、本命のアンチラ星人を射止めることはなかったが、リモコンを消し飛ばした。

 

「消えた…?」

 

アンチラ星人はいなくなり、巻き添えになった木もなくなっていた。

 

「ハッ……!」

 

魔理沙は急になにかを思い出したように振り向く。

 

そこには、コオクスの幻覚術によって苦しめられている霊夢がいた。

 

「霊夢!」

 

魔理沙の言葉は霊夢に届かない。

 

魔理沙はコオクスの指に弾幕を撃つ。

すると、コオクスの幻覚術は止み、霊夢は正気を取り戻した。

 

「あ、ありがとう、魔理沙……」

 

霊夢は礼を述べてコオクスに向かおうとする。

それを魔理沙が止めて、コオクスの正体を告げる。

 

「霊夢…。アレは、この前誘拐されたアキラなんだ……」

 

「えっ!?」

 

「私がこの目で変身していくのを見たんだから間違いない」

 

「じゃぁ、どうすれば……」

 

「……」

魔理沙は暫く考え込んで、顔を上げて意見を述べた。

 

「親御さんを呼ぼう」

 

「えっ、危険じゃない?」

 

「だが、こういう時に一番いいのは親だろ?」

 

「…それもそうね」

 

「それじゃ、呼んでくるから待っててくれ!」

 

魔理沙は人里に駆けだす。

霊夢はコオクスを引き付ける。

 

コオクスに攻撃しないように避け続け、魔理沙が来るのを待つ。

 

「霊夢ーーー!」

 

魔理沙がアキラの親を連れて走ってきた。

 

「ま、魔理沙…」

 

「霊夢さん…アレが本当にアキラなのですか?」

 

アキラの父親が尋ねる。

 

「はい、恐らくは」

 

「…アキラー!」

 

母親、幸子がコオクスに向かって叫んだ。

 

コオクスは幸子の方を振り向く。

 

「アキラ、もし貴方がアキラなら、まず落ち着いてほしいの。突然姿が変わって驚いているかもしれないけど、魔理沙さんからもう悪者は退治したと聞いたわ」

 

コオクスは、段々小さくなってゆく。

そして、元の星野アキラに戻っていった。

 

「おお、戻ったぜ!」

 

「ふう、良かったわ」

 

安堵して息を吐く二人。

彼女達の視線の先にはアキラと、彼を涙を流しながら抱き締める両親が映っていた…。

 

 

「いやあ、危ないところだった。ナイスプレーだったよ、ギロン人」

 

「全く、不本意だったがな」

 

「まあまあ、いいじゃないか。十分な資料は集まったんだ」

 

「それはいいが…。いいのか?あの子供はいいのか?ほっといて」

 

「大丈夫だよ。どうせあの事を思い出すわけでもなし」

 

「だといいんだがな」

 

「さて」

 

アンチラ星人は立ち上がり、ギロン人に向き直ってこう言った。

 

「ヤプール様に今回の事を報告しに行こうか」

 

「話題をすり替えやがって…。まあ、いい」

 

そう言って二人はヤプールのいる部屋に向かっていった




ヤプール人の手先、ギロン人が地底に侵略の手を伸ばした!

迫りくる脅威にどうする、地霊殿!

次回幻想怪獣記「地底侵略計画」お楽しみに

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