幻想怪獣記   作:大栗蟲太郎

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円盤の中で、二人の宇宙人が話し合っていた。
一人はハサミを持った宇宙人、もう一人は鮮やかな色の宇宙人である。

「あの計画を成功させられれば、晴れて自由の身なんだな?」

「ああ。だからその為に、あのお方はこれを取り寄せたんだ。なるべくしくじるなよ?」

ハサミの宇宙人は、鮮やかな宇宙人に何かを手渡す。

「ほう、これか…。任せておけ、これの扱いならどの星の奴等にも負けはしないさ」

そう言いながら、鮮やかな宇宙人は大きな円盤から自分の円盤に乗って、出ていった……


その侵略を越えていけ

ここは幻想郷の人里。

人間達にとって、幻想郷の数少ない彼等の安住の地である。

そこの寺子屋で今日も上白沢慧音は教鞭を振るっていた。

そんなある日の事だった…。

 

「うおあー!」

 

里に住む住人が、寺子屋の近くで突然暴れだしたのだ。

慧音は慌てて外に出るが、里の自警団が取り抑えたので事なきを得たのだった。

 

「ああ、慧音先生」

自警団の団長が慧音に気付いて声を掛ける。

 

「あ、団長さん、お疲れ様です」

 

「いえ、暴れる人間なら手慣れてますから」

 

「あの、暴れてた人は……」

 

「その人なら、気を失ってますよ。しかし、最近多いんですよね。人がいきなり狂ったように暴れだして」

 

「…一体、誰がこんな」

 

慧音は怒りを込めた口調で言う。

 

「分かりません…。ですが、妖怪の仕業ではないかと」

 

団長は人差し指を立てて回答する。

 

「えっ、何故です?」

 

「以前、聞いたことがあるのです。怨霊がなぜ、妖怪にとって危険なのか」

 

そう言って、推理を続ける

 

「怨霊は、人間同士を争わせて、恐怖などの関係が人間で完結してしまいます。妖怪はそれを好まない」

 

「なら誰が…。……ハッ!」

 

「そう、侵略者達ですよ。彼等なら、人間同士で争う方が好都合。仲間の線もあるでしょう」

 

「ですが、そんなヤツは何処にも…」

 

「もし、その侵略者が人間に変身できる能力があったとしたら」

 

「侵略作戦に活用するでしょうね…」

 

「これからは、人里の警戒を更に強めることにしますよ」

 

「ありがとうございます。では私はこれで」

 

と礼を言って、慧音は授業に戻っていった。

 

――――――

子供達も送り、宿題の採点をしていた慧音は考え事をしていた。

 

一体誰が住人たちを狂暴化させているのか?

それは人里の住人を装っているとしたら…。

 

慧音は誰も信じられなくなりそうだった。

 

「ダメだな…。私。仮にも人里を守っている身なのに」

 

そう自分を奮い立たせ、宿題の採点を終わらせた。

 

慧音は無言で空を見る。

 

「明日は満月…か。…決着を着けるなら、明日だな」

 

そう言って、寝床へと移っていった。

 

翌日、慧音は寺子屋に休暇届を出して人里を歩いていた。

無論、侵略者の被害に遭うものがいないかを見張るためである。

 

「ま、都合よく出ないか…」

彼女は近くにあった茶屋に行き、団子を頼むことにした。

 

「はい、お団子とお茶です」

 

「ありがとう」

 

慧音は団子を食べてリラックスをしていた、その時だった。

 

「う、う…。うがあああああ!」

 

突然、新聞を読みながらお茶を飲んでいた客が暴れ始めたのだった。

 

「…!?お客様!?」

 

店員が叫ぶ。

 

「誰かが水に毒を!」

 

「助けて!」

 

「お客様、こちらです!」

 

店内にいる客と店員が混乱しながら叫ぶ。

 

慧音は暴れる客を取り押さえ、気絶させる。

そして、客たちの逃げ帰った後、客の一人が言った不自然なことを訝しんでいた…。

 

そして時は流れて夜になる。

慧音は一人の男を寺子屋に呼んでいた。

 

「あの…何でしょうか?外に侵略者がいるかもしれないので、あまり出歩きたくないのですが…」

 

オドオドしたように答える男に慧音は若干冷たそうに、「貴方は侵略者から襲われないのですからいいでしょう?」と返した。

 

「はあ?何を言っているんですか!」

 

少し興奮気味に返す男に、慧音は椅子から立ち上がって回答を言い渡す。

 

「それは、貴方が侵略者だから。ですよ」

 

「な、何をふざけた事を…。証拠はあるんですか!?」

 

「ありますよ、勿論」

 

「何だっていうんですか?」

 

彼女は人差し指を立てて持論を展開する。

 

「では、何で貴方はお水に毒が入っていると分かったのですか?」

 

「そ、それは…」慧音は間髪を入れずに質問する。

 

「毒を入れるなら、お茶でも良かったはずです…。なのになぜ、犯人しか知りえない情報を知っているのか…」

 

男を真っ直ぐに見詰める。

男は目を泳がせていた。

 

「…それは、貴方が犯人であることに他ならない!」

 

「…ぐっ!」

 

「ああ、見たという反論も効きませんよ?暴れる直前にはあの男の人の周りには誰にもおらず、毒なんか入れられませんと、店員さんも言ってましたから」

 

「…!」

 

男は観念したようにふらふらと椅子に座る。

 

「ああ、そうだよ…。俺があの男に毒を盛ってやった…」

 

「…なぜ、こんな事をした?」

 

「実験だよ…。サンプルを集めて里の人間達を狂わせて、博麗神社に向かわせるためにな…」

 

「そしたら大成功!本当に、コロリと狂ってくれたよ、ハッハッハ!」

 

人間の皮を被った侵略者は開き直り、大笑いして見せた。

だが、笑顔から一転、侵略者は慧音を睨んで慧音がいたこと、そのせいで計画が狂ったことを告げた。

 

「お前…」

 

慧音は拳を震わせる。

 

「だが、正体を知られたからには生かしてはおけないなぁ!」

 

侵略者は慧音に飛び掛かり、慧音は構えた。

その時だった。

一発の銃弾が侵略者の腹を捕らえたのは。

 

「ぐっ…。ぐああ……」

 

侵略者はのたうち回る。

そして、銃弾を撃ったものが部屋に駆け込んだ。

 

「大丈夫ですか、慧音さん!」

 

そう、自警団の隊長だった。

慧音は万が一の時のことも考えて、自警団の隊長に自分に何かあったら男を撃つように頼んでいたのだ。

 

「お前ら……」

侵略者は苦しそうに正体を現す。

オレンジ色の頭に青い体、その袖にヒラヒラが付いたメトロン星人Jr.だ。

 

「…!」

 

隊長はメトロン星人Jr.に銃口を向ける。

 

途端に、メトロン星人Jr.は隊長に腕を向け、光線を放つ。

 

隊長は避けきれずに倒れてしまい、その隙を見計らって寺子屋から逃走した。

 

「隊長さん!」

慧音が駆け寄る。

 

「私は大丈夫です…。急所には外させましたから…。それよりアイツを…」

 

「……はい!」

 

慧音はメトロン星人Jr.を追う。

 

「ここら辺に救急箱があったはずだ…。責めて包帯を巻いて…っと」

 

隊長は、応急処置を終わらせて目を閉じた

 

その頃、慧音はメトロン星人Jr.を追っていた。

 

メトロン星人Jr.は隊長に撃たれた傷が響いたのか、龍神像の広場で止まった。

 

「さあ、もう観念しろ、侵略者!」

 

「…」

 

メトロン星人Jr.は突然慧音の方を向き直り、光線を放った。

 

「おわあっ!」

 

慧音は不意打ちを食らい、回避しきれずに肩に当たってしまった。

 

侵略者は特に声を上げることもないのだが、どこか笑ったような仕草をする。

そして、目の前の障害を排除するために、構えた。

 

慧音は立ち上がり、侵略者をキッと睨む。

それも構わず、狙いを定めるべくにじり寄る侵略者。

 

一気に慧音が詰め寄り、膝蹴りを見舞う。

メトロン星人Jr.は体勢を崩し、腹を抱えた。

 

「産霊『ファーストピラミッド』!」

 

その隙を見逃さず、スペカ宣言を行う。

魔方陣が三角形に敷かれ、メトロン星人Jr.に向けて弾幕を放つ。

メトロン星人Jr.はその攻撃を食らわないように、弾幕に当たりつつも回避する。

そこへ、慧音自信がメトロン星人Jr.に向けた大型の弾幕を放ち、ぶつける。

魔方陣からの弾幕に完全に気を取られていた為、気付いたときには避けるまもなく当たって、吹き飛ばされた。

満身創痍になりながらも、立ち上がるメトロン星人Jr.。

慧音はそんな侵略者を見据えて言い放つ。

 

「里の人間たちを狂わせたお前は絶対に許さない!この一撃に怒りを込めて、お前を吹き飛ばす!『無何有浄化』!」

 

小さい弾幕を自身に収束させる慧音。

メトロン星人Jr.は光線を放ちながらそれを掻き消す。

が、メトロン星人Jr.の背中に弾幕が当たる。

振り向くと、三角形に配置された弾幕を慧音が放っていて、メトロン星人Jr.が気付いたときにはもう手遅れであった。

本命の大型弾幕に為す術なく当たるメトロン星人Jr.。

 

スペルが終わったときにはもはや意識はなく、糸の切れたように地面に倒れ伏した。

そして、まもなくして爆発四散した。

 

「はあ、はぁ…」

 

慧音は座り込み、息を切らす。

そして、寺子屋に戻っていった。

 

「どう、でしたか…。慧音さん」

 

寺子屋で待っていた隊長が慧音に話し掛ける。

 

「無事、侵略者は倒しましたよ」

 

その質問に、慧音は笑顔で答える。

 

「良かった……」

 

そして隊長は、肩の荷が下りたかのように眠りに付いた。

 

また、人里に静かな夜が取り戻されたのであった…。

 

「くそうっ、またダメだったか!」

大型円盤の中で、メトロン星人Jr.と慧音の戦いを見ていた、人と掛け離れた姿をした男がが毒づいた。

 

「まさか、獣に変身できる人間がいたとはな…。これは盲点だった」

階級が一番下と思しき宇宙人が呟く。

 

「如何なさいますか…。ヤプール様」

参謀であり、一番の側近である宇宙人…。

アンチラ星人が、霊体のリーダー格であるヤプール人に尋ねる。

 

「情報収集をするに越したことはない…。奴等の動向を見つつも侵略の超獣を送り込め…」

 

「はっ、承知致しました…」

 

アンチラ星人は礼をして立ち去る。

それを確認したヤプールはモニターを見て、一人呟いた。

 

「レクトのヤツも、素晴らしい仕事をしてくれた…。こんなに私に相応しい新天地を見付けてくれるとはな…。特にこの郷に理不尽に飛ばされてきた人間の恐怖、恨みは実に使い道がある…。まだまだ焦る必要は無い、じっくりと策を練ることにしよう…。フハハハハハハ……」

ヤプールはモニターから目を離し、高笑いをした。




囮怪獣プルーマ出現。
暴れるプルーマの後ろに、何か不穏な影が見え隠れ…。
次回幻想怪獣記、『囮怪獣の進撃』お楽しみに!

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