アンチラ星人が歓喜の声をあげる。
等身大の試験管を破って現れたこの全身銀色の奇怪な男こそが、銀星人宇宙仮面である。
その体は合成樹脂と特殊金属で出来ており、触れた物を発火させる特殊能力を持った恐ろしい侵略兵器なのだ!
「さあ行け、宇宙仮面!先ずは超獣の素材となる動物を集めて来い!」
指示すれば、彼は宇宙船の出口から幻想郷へと向かうのだった……
人里にそう遠くない茂みの中、そこに少女はいた。
蛍の妖怪で蟲を操る能力を持つリグル・ナイトバグである。
いつもの様に虫を操っていると見慣れない影が彼女の後ろを横切る。
振り返ると確かに何かいた。人間と同じくらいの大きさで全身銀色の男が走っていった。
「何の用で……蛍を見に来たのかな……?」
そっと後をつけるリグル、湖の近くで光線銃を構える男に対して慌てて腹に蹴りを加える。
ぐおおっ……と叫びながら転がる男、立ち上がると月明かりが彼を照らした。
「貴様……何の真似だ」
怒りに身を震わせながらリグルに問い掛けるもこちらのセリフだと言わんばかりに指をさす。
「この蛍たちの湖で何をするつもり!?ここで銃なんて物騒なものを出して!」
大事な仲間が傷付けられそうになったのだ、目の前の怒りを向けるリグル。
容赦をするつもりはない、と蟲達を呼び出して臨戦態勢になる。
「チッ……分が悪いな……ここは退散させて貰おう」
数での不利を感じたのか、そう言った瞬間に消える宇宙仮面。
リグルは消えた虫がいないか確認しながらも、異常なしである事に安堵したのだった。
その頃、ヤプール人の宇宙船にて宇宙仮面がアンチラ星人に対して膝をつき報告をしていた。
「申し訳ありません、アンチラ星人様。ホタルンガの材料となる蛍の捕獲が現地の妖怪の抵抗に遭い、失敗してしまいました」
その報告を聞いたアンチラ星人は別段怒鳴りつける事もせず、宇宙仮面に一枚のカードを手渡した。
「この怪獣を使うといい。戦力としては不十分だが……時間稼ぎにはなるだろうからな。しっかりと任務を果たす様に」
「……仰せのままに」
アンチラ星人はそのまま立ち去って行った。
翌日、リグルは博麗神社で霊夢と話していた。
「変な男があの湖で蛍を撃ち殺そうとしてたんだ……!もしかしたら、最近噂になってる侵略者なのかも……」
その話を聞いていた霊夢は考えたそぶりを見せてから口を開く。
「その可能性は高いと思うわね……」
霊夢の脳裏に浮かんだのは先日の寺子屋の生徒誘拐事件。
その犯人は侵略者であり、誘拐された子供は超獣に改造されていた、今回の事ももしかしたら超獣の材料にする予定なのかもしれない……そう考えていたのだ。
「リグル、あの湖を張るわよ。まだその侵略者は諦めてないと思うから、きっとまた姿を現す筈よ」
そう言って、湖に向かうリグルと霊夢。
しかし、その侵略者の宇宙仮面は秘策を抱えていた……
その夜に宇宙仮面は湖へと向かいながら、モンスリングと怪獣カードをそれぞれ両手に持ち、呟き出す。
「あの巫女が相手では、流石に俺でも命が危ないだろう。しかし、これなら……このデコイで戦力を二分させてやれば……!」
掲げた怪獣カードはサドラ、鋭いハサミを持ち、霧を出す怪獣だ。
早速それを召喚して近くの山へと呼び出されるサドラに、霊夢はとっさに相対しに向かう。
それを見届けた宇宙仮面はゆっくりと、リグルの前に姿を現す。
「おや、残念だったな?増援はお前を見捨てて怪獣と戦いに行ってしまったぞ?」
揺さぶりをかけようとする宇宙仮面の言葉も、リグルの心に響かない。
「別にいいのよ。貴方くらいなら、私1人でも十分だったし」
前回、1人で十分追い払えたために余裕の態度で宇宙仮面を煽り返す。
しかし宇宙仮面はその煽りに耐えられずに激昂、襲撃を仕掛けたのだ!
「貴様ーっ!」
飛びかかる宇宙仮面を相手に、リグルは特に動じずに横に回避する。
そしてカウンターに顔に対して蹴りを加えたのだ!
たまらずに転がり木にぶつかる宇宙仮面。
顔を抑えながら立ち上がるとリグルを睨み付けて宣言する。
「ほう、中々の強さだな……貴様を超獣の材料にすれば、さぞや強いホタルンガが出来上がるに違いない……喰らえ!」
宇宙仮面が放った、瞬間移動銃による光線をかがんで回避したリグル。
近距離では勝ち目がないと思った彼女は一枚のスペルカードを取り出した。
「灯符【ファイアーフライフェノメノン】!」
スペルカード宣言をすれば、彼女の周囲には虫の使い魔が現れて弾幕を放って行く。
主人への攻撃を妨害する様に動く使い魔と弾幕に、宇宙仮面は避けながら苛立ちを募らせる。
「クソッ……攻撃が全く届かない……!」
自身の放つ銃弾ですら、数の暴力の弾幕に弾かれていく。
そして、彼の動きが止まった瞬間にリグルの使い魔の弾幕によって足元をすくわれ、連鎖的に胴体に、腕に、そして頭に当たってしまう。
うめき声をあげて倒れる宇宙仮面に、リグルが叫んだ。
「さあ、これで思い知った!?これが貴方の利用しようとした者達による、姿なき復讐……昆虫の叫びよ!」
彼女自身の放った弾幕を立ち上がるも避けきれない宇宙仮面。
その弾幕を全て受けてしまい、ノックダウンするがまだ死んでいない。
そんな死に体のトドメを刺すべく近付くと、宇宙船から高みを見物を決め込んでいた者が横槍を入れた。
「やれやれ、私が試作した生命体の宇宙仮面でも、あんな少女の妖怪1人になら勝てるとは思ったが……見当違いか。まあ、何か有事の際の為に回収してやるとするか」
そう言ってボタンを押すと、宇宙船に瞬間移動させる光線を放って宇宙仮面を戻す。
一方その頃、サドラを倒す為に飛び立った霊夢は特段飛び道具もないサドラを圧倒していた。
ハサミで霊夢を切断しようとする攻撃も、スピードで勝る霊夢には通じない。
それどころか的になる大きな体に、有りっ丈の弾幕を叩き込まれて瀕死の状態であった。
「さあ、これで終わってしまいなさい!神霊『夢想封印・瞬』」
腹、ハサミ、顔……それぞれに間髪を容れずに高速で札を投げ続けていく。
死に掛けの体に封印の札が降り注いで大きな蓄積ダメージとなり、力尽きたサドラが最期に見た物。それは……
月夜に自分の眼前で浮かび立つ紅白の巫女の姿だった。
侵略者も撃退し、怪獣も倒した日の翌朝。
リグルが霊夢の神社に行き、お礼をと会いに行っていた。
「あ、ありがとう霊夢。アイツの送り込んできた怪獣をやっつけてくれて。でも……あの宇宙人、逃しちゃった……」
申し訳なさそうに落ち込むリグルに霊夢は彼女の頭を撫でながら励ます。
「いいのよ、私の仕事は幻想郷を守る事なんだから。まあ、虫を守れただけでも良しとしましょう?」
その言葉に、リグルは少し表情を明るくして、頷いた。
「う、うん!」
幻想郷に、束の間の平和が訪れたのであった……
「チッ……捨て駒とはいえ、サドラを無駄に使わせおって……」
宇宙船にて、宇宙仮面を再生させる培養液に入れたアンチラ星人は目の前の宇宙仮面に対して忌々しげに吐き捨てた。
当分使えないだろうと思いつつも、回復すれば使いっ走りにはなるだろうと期待しながら今回の侵略作戦の失敗を報告に向かうのだった……
次回予告!
幻想郷に、負傷した1人の異星人が現れた。
その異星人は、以前侵略活動をしていたメトロン星人.jrの同族であり……
次回怪獣幻想記「侵略者、現る」お楽しみに