幻想怪獣記   作:大栗蟲太郎

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「チッ…。防衛軍から逃げていたら、こんな訳の分からないところまで来てしまった…。仕方ない、現地の調査でもするか…」


侵略者は影に嗤う

ある夜の事、人里で男たち二人が他愛もないことで盛り上がっていた。

 

「でさー。うちの嫁が怖くて怖くて」

 

と愚痴る男、達也は長い付き合いである孝に嫁の悩みを語っていた。

尤も、孝は他人事のように聞いていたが。

 

「そりゃ大変だな~」

 

「少しどこかに離れても文句は言われないと思うんだ」

 

「ハハハ。確かにな」

 

「何笑ってんだよ。こっちは本気なんだぜ?」

 

「ああ、すまねえすまねえ」

 

「全く」

 

「まあ、なんか奢ってやるよ」

 

孝の言葉に達也は目の色を変える。

 

「おお、ありがてえ」

 

「そんじゃ、付いてこいよ」

 

そう、孝が振り向いた時だった。

空から発射された光線が達也に命中し、その姿を跡形もなく消し去ってしまった。

 

「おい、達也どうした?急に喋らなくなって」

何も喋らなくなった達也を不審に思い、孝は振り返ると、さっきまでいたはずの達也が忽然と姿を消していた。

 

「お、おい、達也…。う、ウワアアアアアア!」

 

さっきまで近くにいた親友がいなくなった恐怖からか、孝は家に逃げ帰った。

翌朝、昨夜に友人が消えた孝は博麗神社に来ていた。

 

「き、昨日、俺と話していた達也が消えちまったんだ!嘘じゃない!」

 

と、取り乱して訴える孝の話を聞いていたのは、この神社の巫女、博麗霊夢だ。

だが、霊夢は困惑半分で冷静に答える。

 

「と、言われましてもね…。幾ら夜でも人間の里では妖

怪達は人間を襲ってはいけない決まりがありますし、

それを守れないような妖怪が人間を一瞬で跡形も無く消せるとは思えません」

 

「そんな…。失礼しました…」

 

そう言って、孝は博霊神社から立ち去った。

同時刻、幻想郷のどこかで、ここには似つかわしくない近未来的な円盤の一室で、ここの主がモニターを見ながら呟いた。

 

「防衛隊から逃げて、何かの手違いからかこんな田舎に迷い込んだが、ここも中々興味深いな。人間採集をしていて気付いたが、この郷の人間は力作業をしている為か元いた世界の人間たちよりも頑強だ。だが、それ以上に興味深いのが…」

 

円盤の主はモニターの映像を切り換える。

すると、空中に浮く金髪の少女が映った。

 

「人ならざる者の存在だ。この郷にはこういった見た目は人間に近いが本質は決定的に違う生物がいる。この郷の調査の結果、こいつらは人間よりも身体能力が高く、寿命も圧倒的に長い。労働力にするには打って付けだ。問題はこいつらをどう抵抗できないようにさせるかだが…まあ、これから考えるとしよう。フッフッフッフッフ…」

 

その日、一人の妖怪が地上から消えた。

 

それから数日後、孝は息を切らして霊夢に涙声ですがり付いた。

 

「た、助けてくれぇっ!仲間が、変な光線で!」

 

「とりあえず落ち着いて下さい」

 

霊夢は孝の後ろを見て、落ち着かせるように言う。

 

「何も貴方の後ろにはいませんよ」

 

落ち着かせるつもりで言ったのだが、孝はますます慌てて言った。

 

「ち、違う!後ろじゃない!上空から…」

 

霊夢はそう言われて上を見る。

 

「上…には何もありませんが?」

 

そう言って視線を戻そうとしたとき、孝に向かって光線が放たれ、孝を文字通り"消して"しまった。

目の前で人が消えた霊夢は少しの間驚いていたが、やがて気を取り直し、呟いた。

 

「私の目の前で人間を襲おうなんて良い度胸ね。これは幻想郷への挑戦状と言った所かしら?姿を消して人を消す、姿なき挑戦者からの…」

 

霊夢が呟いた後、次は魔理沙が慌てて神社に来た。

 

「魔理沙…。何の用かしら?今大変な事が…」

 

「こっちも大変なんだ!」

 

魔理沙は霊夢の話を遮って続ける。

 

「チルノが…。そして妖精達…それとルーミアが消えたんだ!」

 

霊夢は驚いて言った。

 

「ど、どういう事かしら?」

 

「ああ、チルノとルーミアは一緒に遊んでた仲間がソイツらが見付からない。と言ってきたんだ。そして、妖精達は目の前で自分の仲間が消えたと言って…」

 

「消えた時の状況はなんて?」

 

あくまで冷静を保ちながら、魔理沙に尋ねる。

 

「ああ…。空から放たれた光線に打たれて消えてしまったそうだ」

 

「えっ…」

 

心当たりがあるかのように、立ち尽くす。

当然だろう、自分も見た光景なのだから。

 

「おい、どうした?」

 

「今さっき、人が全く同じ様に消えたのよ…」

 

「えっ…」

 

霊夢と魔理沙は目を見合わせた後、同時に空を見上げた。

 

「同一犯と見た方がいいのかもね…」

 

「ああ」

 

「今日も一人、誰かが消える気がする」

 

「だな…」

 

「魔理沙、紫を呼んでおいて」

 

「了解だぜ」

 

円盤の操縦室の中で、主が満足そうに呟く。

 

「ふふふ…。やはり強いな。ここの人間や人ならざる者…。妖怪とやらは。元いた世界の者たちよりも労働に適している。だが、元いた世界よりも文明度が低く、昆虫のようなヤツらだ」

 

「出せー!アタイは最強なんだぞー!お前なんか簡単に…」

 

扉を叩き、騒ぐチルノを話の途中で遮って、窓のシャッターを閉めるボタンを押した。

 

「うるさいヤツめ。本当に昆虫のようだ。だが、もう充分だろう。今日、人間標本5・6体集めたら、円盤を捕まえたヤツらごと収縮して、人間に変身して、元の世界に戻ろう。この世界から出るには、博麗の巫女の力が必要らしいからな。フッフッフ…」

 

円盤の主はステルス機能で姿を消して、浮かび上がり、人里に向かって飛んで行った。

霊夢と魔理沙は人里で闇に紛れる敵を捕らえるために立っていた。

 

人里は、沈黙に包まれていた。相次ぐ人間の消失により、外出禁止令が出されていたからだ。

だが、そんな努力を嘲笑うかのように人間を消す光線が放たれる。

 

しかし、霊夢はそれを見逃さなかった。

 

「紫!あそこの可視と不可視の境界を操って!」

 

霊夢が叫ぶと、大きな赤い円盤が姿を現した。

 

「げ、なんだありゃ!」

 

魔理沙は声を上げる。

 

「あれが事件の黒幕ってことよ!」

 

霊夢は飛んで退魔の札を投げ当てるが、効き目がない。

 

「効かない!?」

 

霊夢も驚いてしまう。

 

魔理沙も追い付くが、円盤は霊夢達に気付く。

そして、蒸発光線を霊夢に放つが、霊夢は回避する。

当たらないと見た円盤は小型円盤を幾つか出し、攻勢に出る。

 

小型円盤は2人を囲むように動き、光線を放つが、2人は光線を回避し、円盤群を撃墜していく。

この光景に危機感を覚えたのか、円盤は逃げていくが、魔理沙が逃さないとばかりに弾幕を発射する。

 

すると、装甲が剥離し、円盤が落下していく。

霊夢が残りの円盤群を撃墜した後、2人は大きな円盤を追い掛ける。

円盤が墜落した後、霊夢達は円盤を見つけて中に入っていく。

 

すると、中は黒い通路のようになっていた。

そして、通路の奥にあった扉を開けると、そこはコクピットのようになっていた。

 

霊夢たちが見ていると、横の扉から声がする。

そこにはチルノの声やルーミア、そして孝の声が聞こえる為、消えた人たちだと確信した。

そしてその人たちを助けるため、魔理沙がドアノブに手をかけようとする。

 

だが扉に触れる直前、魔理沙と扉の間に光線が放たれ、魔理沙は驚いて飛び退く。

 

「う、うわっ!?」

 

飛び退いた後、光線を打った本人が椅子から浮かんで姿を現した。

 

「いただけないね。勝手に入っただけじゃなく、労働力を奪おうとするなんて」

 

魔理沙に言い放つのは、虫のような宇宙狩人、クール星人レクトだ。

 

「うげ…」

 

魔理沙は気持ち悪いものでも見たかのように声を出す。

 

「アンタが人間や妖怪を連れさらってた犯人かしら?」

 

「如何にも。私がこの郷に来て人間たちを収容した。我々クール星人の未来のための2020年の挑戦と言うプロジェクトの為に!」

 

「2020年の挑戦?」

 

魔理沙がレクトの計画の名前を疑問の様に問うと、レクトは自信満々に答えた。

 

「ああ。我がクール星では現在さらった異星人が減っていてな。そこで多くの星からその星の者をさらって奴隷にし、兵力増強を図る。もしくはさらった者を人質に物資を確保する計画だ」

 

その言葉を聞いた霊夢たちは、怒りに震えていた。

 

「何だよそれ!侵略と変わらないじゃないか!」

 

「質の悪い妖怪ね。早く退治しないと」

 

「妖怪なんかと同じにしてほしくないね。キミ達の理解できる言葉で言うなら「宇宙人」かな?」

 

「うるさい!ゴタゴタとご託並べて偉そうにするな!」

 

「さっさと倒しましょう。こんなヤツ」

 

「口だけは達者だな」

 

レクトが皮肉り、魔理沙が切り返す。

 

「その言葉、そっくりお前に返すぜ」

 

「行くぞ!」

 

霊夢と魔理沙は、地に降りたレクトと交戦する。

霊夢はレクトに掴みかかり、蹴りを加えようとするが、残りの腕でクロスチョップを食らわされ、前足の光線を浴びせられる。

魔理沙がその後に弾幕を放つが避けられ、逆に回し蹴りを入れられる。

 

「クソッ…」

 

「フフフ。この程度かな?」

 

「まだまだよ!」

 

霊夢はそう言った後、スペルカードを取り出し、スペル宣言をする。

 

「宝具「陰陽飛鳥井」!」

 

そう宣言した後に、巨大な陰陽玉がレクトを襲う。

 

「しまった、避けきれない!…うわぁっ!」

 

レクトは吹き飛ばされ、地に伏す。

 

「チクショウ…キサマァァァ!」

 

レクトは怒りに我を忘れ飛び掛かるが、霊夢は慌てず冷静に次のスペル宣言をする。

 

「神技「八方龍殺陣」!」

 

霊夢を中心に結界を作り上げ、飛び掛かってきたレクトを返り討ちにする。

 

「魔理沙!」

 

霊夢が魔理沙を呼ぶと、魔理沙は箒に乗り、光を纏って突進する。

 

「おう!彗星「ブレイジングスター」!」

 

「ギャァアアァア!」

 

追撃を食らって更に吹き飛ばされるレクト。

そのレクトを見下ろした魔理沙達は、止めのスペル宣言をする。

 

「霊符「夢想封印」!」

 

「恋符「マスタースパーク」!」

 

レクトに向かって、追尾弾と直射レーザーが放たれ、レクト

に直撃し、断末魔を上げてレクトは爆死した。

 

「ふぅ…」

 

「おっと、人を救助しなきゃだったぜ」

 

魔理沙は扉を開けて、閉じ込められていた人間や妖怪が出て

きた。

 

「さあ、最後はこの円盤を破壊するだけね」

 

「ああ。じゃ、最後にでかいヤツかますぜ」

 

霊夢達は円盤から出て、魔理沙が八卦炉を構え、エネルギーを貯めた後に先程とは比べ物にならない威力のレーザーを発射する。

 

「魔砲「ファイナルスパーク」!」

 

円盤に直撃した後、大爆発して原型をなくした。

 

その数日後、人里からは脅威が去って、活気が戻ったそうだ。

そこには、妻子と笑う、達也の姿があったとか




~次回予告~
幻想郷の人間の記憶が消えて行く。
それは宇宙怪獣の仕業だった。
幻想郷の危機に、妖怪たちが立ち上がる。
次回幻想怪獣記、「幻想郷、危機一髪!」

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