真実を知り、ルルーシュとC.C.に裏切られたと思い、失意のどん底の三葉・・・・
それに対して、ルルーシュの意味ありげな行動の意図は・・・・・
全てが、ここに集約します・・・・・・
10月3日朝、自分の体で目覚めた俺は、C.C.からの定期連絡を聞き答える。
「そうか?三葉は、真実を知ったか・・・・・」
「いいのか?あの様子だと、今度入れ替わった時に、何をするか分からんぞ?」
「問題無い!もう手は打っておいた!」
「ほう?・・・・何をして来た?」
「計画変更だ!あの町の者達は助ける!」
「意外だな?もっと非情な男だと思っていたが・・・・・」
「別に、情に流された訳では無い!あの女の戦闘能力、彗星落下で失くすには惜しいと思っただけだ!」
「だが、彗星落下で生き延びても、ブリタニアの侵略はどうする?」
「それも心配無い!潜伏先も手配済みだ!」
朝起きると、涙を流していた。昨夜は、泣きながら眠ってしまった・・・・ずっと、信じていた事・・・私たちが、ブリタニアに滅ぼされたというのは嘘だった・・・・でも、その事より、ルルーシュとC.C.さんに、ずっと騙されていたのが、ショックだった・・・・ブリタニアを憎む同志として、同じ体を共有して・・・心も、繋がっていると思いかけていたのに・・・・
起き上がり、姿見の前まで行き、自分の顔を見る・・・・酷い顔だ・・・これが、裏切られ、捨てられた女の顔なのだろうか?
明日には、彗星が再接近する・・・でも、もう何も、やる気が起こらない・・・・夢遊病者のように部屋を徘徊し、自分の机の前に来た時、机の上に一枚の封筒が置いてあるのに気付く。
『宮水三葉 様』
封筒には、そう書いてあった。
私は、恐る恐るそれを手に取る。中には、折り畳んだ手紙が入っている。ゆっくりとそれを取り出し、開く・・・・・・・
『三葉、まず、今迄君を騙していた事を許して欲しい。下手に真実を知るよりも、何も知らずに逝けた方が幸せと思い、今迄言えなかった・・・・・・・』
こ・・これは・・・ルルーシュからの・・・・・・
『君の故郷糸守は、ブリタニアの攻撃で滅んだのでは無い。10月4日、ティアマト彗星の、破片の落下により滅ぶのだ。しかし、慌てる事は無い。既に、手は打ってある。君は、この手紙に書いてある通りに行動すればいい。そうすれば、必ず、みんな助かる・・・・』
「る・・・ルル・・・・・」
また、涙が溢れてきた。でも、今度は、悲しみの涙では無い・・・・ルルは、やっぱり私を裏切らなかった!私達は、心で通じていたんだ・・・・・・・
10月4日の、朝が明ける・・・・俺は、俺のままだ。彗星落下の当日に、入れ替わりは起こらなかった。だが、それならばそれでいい!もう打つべき手は打ってある。あと、もうひとつ・・・・・
ナナリーとの朝食を終え、俺は身支度を始める。私服に着替える俺を見て、C.C.が問いかけてくる。
「・・・何処に行く?学校に行く格好では無いな・・・・」
「ふっ・・・ちょっと、里帰りをしてくるだけだ・・・・」
「里帰り?・・・・・」
彗星落下の当日、自分の体で目覚めた私は、ルルの手紙の指示通りに行動を始める。
「なんやて?今夜、彗星が落ちて来て、みんな死ぬ?」
「ちょっと三葉!何言っとるの?」
テッシーとサヤちんは、まともに取り合ってくれない。まあ、これが普通の反応なんだろう・・・そこで、私はルルの書いたシナリオ通りに話す。
「よ・・よく聞け!勅使河原!名取!これは本当に起こる事実だ!私に、お告げがあったのだ!」
「ええ~~っ!」
「な・・・いきなり、狐憑きモードや!」
え?狐憑きモード?なんじゃそりゃ?・・・・
それ以降、テッシー達は急に私の言うことを聞くようになり、すんなり指示に従っていく・・・・ど・・どうなってんの?ルルったら、私の体で、テッシーとサヤちんにいったい何をしたの?
テッシー達と、部室棟で作戦会議。私は、ルルからの手紙の指示に従って、テッシーには変電所で疑似爆発を演出してもらい、山火事が起こったように見せかけてもらう。
「ほんまに、ハッパ使わんでもええんか?家にあるのを、こっそり拝借できるんやけど・・・」
「うん!そこまでは必要無い・・・爆竹と発煙筒で十分!それを合図に、変電所の人が疑似停電を起こす手筈やから・・・・」
本当に、変電所の人が、そんなことやってくれるの?手紙には、そう書いてあったけど・・・ううん、もうルルを疑っちゃダメ!信じなくっちゃ!
「あと、サヤちんは放送をお願い!学校の放送室から、防災無線をジャックできるから!」
「う・・・うん・・・」
サヤちんは、相当不安そうだ・・・でも、“お狐様のお告げだから”と渋々承諾した。
そして私は、お父さんを説得する係。作戦会議の後、直ぐに町役場に向かう。お父さんの所に行き、今夜彗星の破片が、糸守に墜落することを説明する。
正直、半信半疑だった。いくら実の娘の話だからって、こんな突拍子も無い話、すんなり信じて貰えるとは思えなかった・・・・ルルの手紙には、絶対大丈夫って書いてあったけど・・・・・
「そうか・・・分かった?」
狐に摘まれた気分だった・・・・何と、お父さんは何の疑問も感じないように、あっさりと信じてくれた。
「し・・・信じてくれるの?こ・・・こんな話?」
「あたりまえじゃないか!」
「あ・・・ありがとう・・・お父さん!」
な・・涙が出てきた・・・ルルの言った通りだ・・・・お父さん・・・い・・今迄、冷たくあたって、ごめんなさいっ!
お父さんに、嘘の山火事と防災無線の事を告げ、それに合わせて消防を動かし、糸守高校にみんなを避難させて貰うように頼んだ。これで、全てルルの計画通り・・・・あとは・・・・
「三葉~!」
町役場を出て走って来た所で、自転車でこちらに向かって来た、テッシーと合流する。
「どうや、首尾は?」
「ばっちり!お父さんに頼んできた!」
「そうか!」
ふと、空を見る。もう陽がかなり低くなっている。
「て・・テッシー!自転車貸してっ!」
「え?なんや?どうするんや?」
「もうひとつ、用事があんの!お願いっ!」
「ああ・・・わ・・わかった・・・」
私は自転車に跨り、全速力で漕ぎ始める。
「み・・・三葉!け・・・計画は?」
「準備しといて!か・・必ず戻るから!」
私は、山の頂上に向かって、必死に自転車を漕ぐ。それが、ルルの最後の指示だから・・・・
『 ―――― 全ての準備が整ったら、カタワレ時に御神体の山の頂上に来てくれ。それが、最後の仕上げだ。』
その日の夕方、俺は、糸守の御神体の山に来ていた。
頂上に立ち、糸守を見渡す。彗星の落下により、湖は瓢箪のような2つの円が交わった形に変わっている。町は、瓦礫の山で、8年前の被害から何も手がつけられていない。それはそうだろう、住民の1/3が犠牲になり、生き残った者も、他へ移住した。そして、その1年後にはブリタニアに占領された・・・・サクラダイトも取れないこのような土地に、ブリタニアは用は無い・・・・
窪地の中に降り、御神体の巨木に向かう・・・・かつての小川は、幅も深さも大きくなって、まるで侵入者を拒むかのように巨木を囲んでいた。小川を渡り、巨木と一体化した岩の裂け目から中に入る。数日前(実際には8年前)に訪れた、祠の前まで来る。
祠には、その時のままに、2つの瓶子が供えられている。左が俺(三葉)が供えた物、右が四葉の物だ。8年の歳月が過ぎ、瓶子の周りには苔のような物がこびり付いている。
俺は、三葉の瓶子を取り、蓋を開け、その蓋に中の液体を注ぐ・・・・・・
「・・・これが、三葉の半分・・・・・」
俺の読みが正しければ、これを飲めば・・・・・
俺は、蓋に注いだ口噛み酒を、一気に飲み干した。味は・・・・決して爽快なものではなかったが・・・・・
口噛み酒を飲んだ後、再び山の頂上に登る。もう陽は、雲の後ろに隠れ掛けている・・・・そして・・・・・陽が、雲の後ろに隠れ、辺りが薄暗くなる・・・カタワレ時だ・・・・
「る・・ルルっ!」
声のする方を向くと、そこには、息を切らした三葉が立っていた。
「ど・・・どうして?ルルがここに?・・・8年後に居る筈やのに・・・・」
「これは、賭けだったが・・・どうやら、うまくいったようだ・・・お前の、口噛み酒を飲んだんだ!」
「え~っ!あ・・・あれを?」
私は真っ赤になり、思わず“変態!”と叫びそうになったけど、必死にこらえた。
「カタワレ時・・・・人ならざるもの、魔物や、死者に出くわす時間・・・俺は、魔王だからな・・・」
「る・・・ルル・・・・」
三葉は、涙目になりながら、俺の目の前まで歩み寄る。
「あ・・ありがとう!ルル・・・町を、みんなを助けてくれて・・・あと・・・あなたを疑って、ご・・・ごめんなさい!」
「その事だが、謝る必要は無い!最初は、本当に見捨てるつもりだった!」
「え?・・・・」
「騙したままでいるのは、フェアでは無いと思ってね・・・・俺は、単にお前の戦闘能力をかっただけだ!このまま死なせるには惜しいと・・・・・」
また、裏切られたと泣き叫ぶかと思ったが、以外にも、三葉はにっこりと微笑んだ。
「そ・・・それでも・・ええよ・・・私を、必要としてくれたんやろ!」
「い・・いや、まあ・・・結果的にはそうなるが・・・・」
意外な反応に俺がたじろいでいると、三葉は、更に俺に近づいて言う。
「ルル・・・ごめん・・・私・・・あなたの事が・・・・」
真っ赤になりながら、三葉は続ける。
「わ・・分かってる・・・あなたには、C.C.さんという婚約者がおるってこと・・・でも・・・片思いだっていい!」
そう言って、三葉は、いきなり俺にキスをした。
「?!」
この反応は想定外で、俺は茫然と立ち竦むだけだった・・・・
「ふふ・・・ルルって、意外と純情やね・・・・あ・・・もうひとつ、ありがとう・・・お父さんを、説得してくれて・・・・でも、あの頑固なお父さんを、どうやって?・・・」
「あ・・ああ、あれは・・・俺には、ちょっとした力がある。強力な暗示のようなもので、相手を意のままに操れる・・・・お前の父も、その力で・・・・・」
―――― 2日前の夜、糸守町役場の町長室・・・・三葉が、ディスクワークをしながら顔だけ上げた、宮水トシキに話しかける。
「ごめんなさい、お父さん・・・実は、折り入って頼みがあって・・・・・」
三葉の左目に、赤い紋章が浮かぶ!
「・・・今から、私が言う事に従え!」
それは、鶴のように羽ばたき、宮水トシキの目の中に吸い込まれていく!
「・・・ああ・・・分かった・・・」
「明後日、10月4日に、お前の娘が再びお前に会いに来る!その時に、お前の娘の話す事は、全て事実だから信じろ!そして、娘の指示に従え!」
「・・・ああ・・・・」
「それから、その後の事だが・・・・お前は、娘達を連れて、京都の桐原泰三の所に行け!奴の所に匿ってもらえ!既に話はつけてある!」
「・・・・分かった・・・・・」
――――
「る・・ルルに、そんな力が?・・・・じゃあ、もしかしてテッシー達も?・・・・」
「ああ・・・彼らは違う!その力を使った時の事を、狐憑きのように誤解していたから、それを利用しただけだ・・・・・」
辺りが、かなり暗くなって来た。もう、カタワレ時が終わる。急いで、最後の仕上げをしなければ・・・
「三葉!」
「な・・なに?」
「例の手紙は、持って来てくれたか?」
「う・・うん!ここに・・・」
三葉は、避難計画を書いた俺の手紙を、入っていた封筒に入れて差し出す。俺は、それを受け取って言う。
「三葉・・・俺の事は・・・忘れるんだ!今迄の、入れ替わりで体験した事も・・・・」
「え?・・・ど・・・どうして?・・・そんなの・・・無理や!ルルの事を忘れるなんて・・・できへん!絶対にできへん!」
「大丈夫!俺が、忘れさせてやる!」
俺の左目の紋章が輝き、鶴のように羽ばたいて、三葉の目の中に吸い込まれていく・・・・
「い・・・いやああっ!・・・・」
気が付くと、私はひとり、御神体のある山の頂上に立っていた。
今迄、何をしていたんだろう?どうして、ここに来たんだろう?・・・だめ、思い出せない・・・・・・
空を見ると、彗星が尾を引いて空に綺麗な模様を描いている。
いけない、もうすぐ落下が始まる!テッシーのところに行かなくっちゃ!
私は、大急ぎで山を駆け下りる・・・・・・
カタワレ時が終わり、辺りは完全に暗くなった。俺はひとり、山の頂上に立ち糸守湖を眺めている。すると、右の暗がりから、ひとりの魔女が姿を現す。
「・・・・とんだ茶番劇だったな・・・・・」
「・・・・盗み見していたのか?趣味が悪いな・・・・」
「いいのか?記憶を奪ってしまって?また、入れ替わりが起こった時に面倒だぞ!」
「いや、もう入れ替わりは起こらない!」
「何故だ?あの娘達は、生き延びるのだろう?それなら・・・・」
「この後ろの窪地を見ろ!ここは火山では無いから、隕石の落下でも無ければこんなカルデラは残らない!そして、目の前の糸守湖・・・・元々は、1200年前の、ティアマト彗星の破片の落下によってできた湖だ!・・・・お前なら、知ってるんじゃないのか?永遠の時を生きる、魔女ならば・・・・・」
「覚えが無いな・・・・それに、私は世界を転々としていた・・・・こんな、ちっぽけな島国のことまで、いちいち見ていない!」
「・・・・そうか・・・とにかく、この地には、1200年周期で彗星の破片が落下している・・・そのためか、彗星の被害から身を護るため、あのような入れ替わりの能力が身に付いたのだろう、巫女の血筋の女達にな・・・・・・だが、目的は達成された!住民は皆、無事避難して助かるだろう・・・だから、入れ替わりはもう発生しない!」
「なるほどな・・・・・」
「帰るぞ!明日からは、忙しくなる・・・・今迄の遅れを取り戻さねば!」
「あ・・・おい!待て・・・・大切な婚約者を放って、ひとりで先に行ってしまうのか?」
「誰が婚約者だ?三葉のやつ、そこだけは、最後まで誤解したままだったな・・・・・・」
「だけ・・・・か?」
「何が言いたい?」
「いや・・・・何でもない・・・・」
こうして、俺達は糸守を後にした・・・・・・
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。
最後は、ルルーシュと三葉は入れ替わりません。既に8年の時差を認識しているので、彗星落下をそのまま見逃しては、どうしても話がおかしくなる。最初から、彗星落下の日にルルーシュと三葉が入れ替わるようにすると、カタワレ時の、頂上での出逢いができなくなる。そんな訳で、このような展開になりました。
カタワレ時の頂上での出逢いにこだわったのは、どうせ三葉が記憶を無くすのなら、それこそルルーシュのギアスの力でって思ったからです。
でもそのせいで、ますます三葉がシャーリーみたいになってしまいました・・・・・