今日は、いよいよ“ゼロ”の影武者としての最初の務め・・・・C.C.さんに案内され、黒の騎士団のアジトに到着する。
「わあ~~っ!おっきな車!」
「ばか!素っ頓狂な声を出すな!・・・・お前は今、ゼロなんだぞ。」
「あ・・・ご・・ごめんなさい・・・・」
幸い、まだ団員達は集まって来ていなかったから、助かった・・・見張りが数名居るが、何とか聞かれなかったようだ。
車の中に入ると、中も凄い。会議ができる広いスペースや、簡易宿泊スペース、ハイテク機器も装備されている。更に、2階まであるようで、そこは、ゼロの個室のようだ。私は、その中に案内された。
「特に用事の無い時は、この中に籠っていろ。」
「は・・・はい!」
私は中央のシートに腰を降ろし、マスクを外す。緊張で、汗がびっしょりだ・・・・
「今の内に、シナリオに良く目を通しておけ。」
「は・・・はいっ!」
休む間も無く、C.C.さんからの指示が飛ぶ。私は、朝渡された、本日の作戦指示の内容に目を通す。何度も、何度も・・・・せっかく、協力を認められたんだ!ちゃんと、影武者を演じなくっちゃっ!
しばらく、そうしていると・・・・
『ゼロ!カレンです!ちょっといいですか?』
「へ?・・・・・」
不意の呼び掛けに、また奇声をあげそうになり、慌てて手で口を塞ぐ。CCさんは、目で私に合図を送る。私は急いでマスクを被り、その声に答える。
「いいぞ!入れ!」
『失礼します!』
そう返事があった後、ドアが開き、ひとりの女が入ってくる。その姿を見た私は ―――
「か・・カレン?ど・・どうしてここに?」
「は?・・入って良いとの、許可を頂いたので・・・・」
困惑するカレン・・・・でも、こっちはもっと困惑している・・・・何で?学校の同級生のカレンがここに居るの?な・・・なんか、学校の時よりも活発そうで・・・か・・髪型まで変わっちゃってる・・・・カレンは、ブリタニア人じゃないの?何で黒の騎士団に・・・・
「ゼロ・・・実は、紅蓮弐式のことなんですが・・・・」
クレンニンシキ?・・・・何じゃそりゃ?
「やはり、リーダーのあなたが乗るべきです。私では・・・・」
な・・・ど・・どうすればいいの?こ・・・こんな展開、シナリオに載って無いよ・・・
私は、C.C.さんの方を向き、助けを求める。しかし、黙ってこちらを見つめているだけで、何も言ってくれない・・・どうして?・・・ま・・・まさか?私を試しているの?・・・だったら、ここは、なんとかしなくっちゃ!で・・・でも、何て言えばいいのよっ!
「ぜ・・・ゼロ?」
ええい!もうやけくそだっ!
「心配するな!カレン!私の指示に従っていれば!何も問題は無い!」
「ゼロ・・・」
「クレンはお前の物だ!期待しているぞ!」
「は・・・はいっ!」
カレンは、満足したように笑顔になって、出て行った。こっちは、一気に疲れ果て、デスクの上に突っ伏している。
「ふふふ・・・なかなかだったぞ。」
「わ・・・笑い事じゃないわよ!なんで、カレンがここにおんの?」
「あいつは、元々レジスタンスのメンバーだ。学校の方が仮の姿・・・あいつは、ブリタニア人と日本人のハーフだ。ここでは、紅月カレンと名乗っている。」
「そういう事は、お願いだから、ちゃんと先に教えてっ!」
また、朝が来る。今日は、自分の体のようだ。まずは、前日の三葉の言動をC.C.に確認する。
「何か問題は無いか?」
「黒の騎士団の方はな、お前のシナリオ通りに、命令しているだけだからな・・・もっとも、学校の方はかなりドタバタしている・・・・お前のキャラも、大分変わってきているぞ・・・・」
そう言って、C.C.は笑いを押しころす。
「ちっ!・・・まあ、その程度は仕方が無い・・・・もう少しの辛抱だ、彗星が落下すれば、この異常な状態も終わるだろう・・・・・」
「あの娘達を、助けないのか?」
「何故助ける?・・・・そんな義理は無いだろう!何かに利用できないかとも考えたが、あんな僻地に利用価値も無い!それに、前にも言ったが、それでひと思いに逝けた方が、あいつらには幸せだろう。」
「それはどうかな?・・・・ところで、田舎での生活は楽しいか?」
「皮肉のつもりか?とんだ災難だ!あんな戦略的に全く利用価値が無いところで、1日無駄な時間を過ごさねばならんなど・・・・おかげで、計画の進行が大幅に遅れた・・・・」
「・・・・そういえば、その当時、お前は枢木の家に居候していたんだろう?そんなにやる事が無いなら、昔の自分にでも会って来たらどうだ?」
「会ってどうする?自分にギアスでも掛けてくるのか?それならば、枢木ゲンブにでも何か仕込んでおく方が・・・・いや、下手に歴史を変える方が問題だ!今の体制に影響が出るやもしれん!」
「では、愛しのナナリーに会ってくるとか・・・・」
「昔の俺が、黙っていないだろうな・・・見ず知らずの他人を、ナナリーに近づけるなどと、あの地震の時も・・・・・ん?」
そういえば・・・あの地震があったのは・・・・・・・
翌日は、また三葉の体と入れ替わる。その昼休み、いつものように俺は、勅使河原と名取と一緒に、校庭の隅で過ごしていた。
あの後記録を調べたが、やはりあの地震が起こるのは今日だ・・・・ここは震源地に近いから、かなりの揺れが予想される。時間は正午過ぎ・・・丁度、午後の授業が始まる直前くらいだ。ただ、それ程大きな被害が出た記録も残っていないから、特に警戒する必要もないだろうが・・・・まあ、ここに居れば問題は無い。ちょっと授業に遅れて行けばいいだけだ・・・・・
「あ・・・いかん!俺、次の授業当番やった!」
勅使河原が、慌てて立ち上がり、校舎に戻ろうとする。
馬鹿!今戻ったら・・・・
「ま・・待って、テッシー!」
「ん?・・・なんや?」
「も・・もうちょっと、ここに居た方がいいよ!」
「何でや?俺、当番や言うたやろ!急がんと、先生に怒られてまうで!」
ええい!今行くと、危ないと言ってるんだ!わざわざ、危険の中に飛び込むことはないだろう!
しかし、勅使河原は俺の言葉は聞かず、校舎に向かって走り出そうとする。そればかりか、名取もそれに付いて行こうとしている。
仕方が無い、ギアスを使うか?・・・いや、待てよ・・・こいつら、俺が前にギアスを使ったの時の事を、“狐憑き”とか言って恐れていたな?ならば・・・・
「行くな!お前達!」
「?!」
突然、俺が大きな声を上げたので、2人は足を止め、怪訝な顔で振り返る。
「私に、お告げがあった!この場より、動いてはならん!」
「な・・・み・・・三葉?」
「ま・・また・・狐憑き?」
その時、地面が大きく揺れ始めた。
「う・・・うわああっ!」
「きゃ・・きゃああああっ!」
2人は、悲鳴を上げてその場に蹲る。俺も、立っていられなくなり、膝と両手を地面に付く。かなりの揺れだ。校舎内でも、生徒達から悲鳴が上がっている。
だが、揺れは数十秒程度で収まった。一部、校舎のガラスが割れた所もあるようだが、この程度なら大した被害は出ていないだろう。
俺は立ち上がって、校庭の更に端、町全体が見渡せる位置まで行く。思った通り、町にも大きな被害は出ていないようだ。校庭側に向き直ると、勅使河原と名取は、まだ蹲ったままだ。
「はあ~っ・・・び・・びっくりした・・・・」
「じ・・・地震が来んの・・・分かっとったんか?三葉?」
「え?・・・な・・何?私・・・何かした?」
俺は、さり気なく“狐憑き”が去った演技を付け足した・・・・・
ルルーシュと入れ替わった三葉は、遂に現場での指揮も担当する事となった。
その夜、ゼロ(三葉)達は、武器の横流しの闇業者を一掃する為、港の倉庫街に集結していた。
ゼロとC.C.が乗る無頼は、倉庫街を見渡せる位置に待機し、指示を送っていた。そこに、先発隊で突入した、扇から通信が入る。
『変だ!ゼロ!倉庫の中はもぬけの空だ!』
「なんだと?」
突如、轟音と共に前方の倉庫から爆煙が上がる。同時に扇の声が・・・・
『ゼロ!はめられたっ!これは軍のワナだ!』
「え?・・・わ・・ワナって?」
うろたえるゼロ。即座に、C.C.がプライベート通信で指示を出す。
「落ち着け!パターンDだ!」
「・・は・・はいっ!」
ルルーシュは、緊急事態を想定して、その際の回避パターンを幾つか、三葉とC.C.に伝えていた。選択するのはC.C.の役目、それを団員に伝えるのは、ゼロである三葉の役目になっていた。
「各位!迎撃しつつ撤退だ!カレン、お前が敵を引き付けて、退路を作れ!」
『了解!』
「私達も撤退するぞ!」
「は・・はい!」
C.C.に誘導されて、倉庫街を後にする。が、その時、突然横のコンテナが弾け飛び、白いナイトメアが姿を現す。
「な・・・何?」
「ま・・まずい!白兜か?」
「ゼロ!今日こそは捕らえる!」
ランスロットの右腕から、スラッシュハーケンが放たれる。
「いかん!逃げろ!」
C.C.の無頼が、とっさにゼロの機体を庇う。ハーケンにより、C.C.の無頼の片腕が弾け飛ぶ!
「C.C.さん!こ・・・このっ!」
ゼロは、無頼の機銃でランスロットを撃つが、ランスロットは、素早く後退して銃撃を難無く交わす。
「な・・は・・・早い!なんて動き・・・」
「ばか!相手をするな!早く逃げろっ!」
しかし、ランスロットはそんな隙も与えない。間髪を入れずに、再度スラッシュハーケンを放つ!
「きゃああああああっ!」
ゼロの無頼の機銃が弾かれる。そして、もう片方の腕からもハーケンが繰り出され、ゼロの無頼に迫る。
や・・・・やられる!
その瞬間、三葉の中で何かが弾けた・・・殆ど無意識に、操縦桿をきる。ゼロの無頼は素早く横にスライドし、ハーケンを交わす。
『な・・・何?』
スザクとC.C.、2人同時に驚嘆の声をあげる。
ゼロの無頼は素早く機銃を拾い上げ、ランスロットに向けて乱射する。
「くっ!」
ランスロットは、ブレイズルミナスでこれを防ぐ。
「な・・ずるいわよ!バリヤーなんてっ!」
ランスロットは、今度はソードを抜いて、ゼロの無頼に迫る。
「今度こそ!」
メーザーバイブレーションソードの一撃!
「?!」
ゼロの無頼はこれも紙一重で交わし、ランスロットの横をすり抜けて逃れる。
「ば・・・ばかな?」
「あ・・あの白兜の攻撃に・・・反応している・・・だと?」
「うわあああああああっ!」
ゼロの無頼は、再び機銃を連射!しかし、これもブレイズルミナスに阻まれてしまう。健闘する三葉だが、機体性能に差がありすぎる。
「ゼロっ!」
その時、コンテナの山を突き破って、紅蓮がランスロットに飛び掛かる。紅蓮の右手がソードを掴み、輻射波動が炸裂する。
「くそっ!」
ランスロットは、即座にソードを離す。ソードは赤く膨れ上がり、破裂する。
「大丈夫ですか?ゼロっ!」
「今だ!」
C.C.は、煙幕弾を発射する。
「三葉!この隙に退却だ!」
「・・・え?・・・は・・はいっ!」
三葉は正気に戻り、カレン、C.C.と共に何とかその場を逃れるのだった・・・・
「何?あの白兜と、対等に渡り合っただと?」
朝起きて直ぐに、昨日の状況をC.C.から聞き、俺は驚く。
「殆ど、無意識に反応していたようだがな・・・・正直、驚いたぞ・・・シミュレーションは随分こなしていたとはいえ、実戦は昨日が初めてだ。あんな奴は、私ですら今迄見たことが無い・・・・・」
「カレンと同等・・・いや、それ以上か?・・・」
あの三葉という女、思わぬ掘り出し物かも・・・・いや、だが、俺の影武者として指揮官を務めてもらわねばならん以上、いくら戦闘能力が高くても宝の持ち腐れか・・・・・今、この場に自分の体で居るのであれば・・・・まてよ?・・・・・
ルル-シュの中で、ひとつのプランがまとまりつつあった・・・・・
三葉が、ただルルーシュと入れ替わって翻弄されるだけだと、この話の中での三葉の存在価値が低くなってしいます。また、ルルーシュにとって、三葉が無視できない重要な存在になる必要もあるので、実は隠れたナイトメア乗りの才能がある事にしました。
果たして、それを知ったルルーシュは、どう動くのか?・・・・・・・