ひとつは、エリア11のアッシュフォード学園に通う高校生と、黒の騎士団のリーダー“ゼロ”との表裏の顔を持つ自分本来の体。
ひとつは、8年前の日本の糸森町に住む女子高生、宮水三葉の体。
この2つを使い分け、ルルーシュは動き出す。妹ナナリーが、幸せに過ごせる場所を作るために……
その行動が、いかなる結果をもたらすのか?今はまだ、誰も知らない……
「何をやっていた?ちゃんと監視していろと言っただろう!」
「無理を言うな!お前の代わりに、扇達に指示も出していたんだ。四六時中、あの娘に構ってはいられない!」
C.C.から、昨日の俺(三葉)の様子を聞き、愕然とした!俺が、ゼロだということを、あの女に知られてしまった。まずい……まずいぞ!何とかしなければ……
「協力したいと言ってきたぞ、余程、ブリタニアが許せんらしい。」
「あんな田舎娘に、何ができる?余計な混乱を増やすだけだ!」
「あんな嘘を言わせるからだ。ブリタニアの攻撃で滅ぼされたなどと……あの娘の町は、彗星落下で滅んだんだろ?」
「本当の事を言ってどうなる?彗星落下から生き延びても、その先はブリタニアの支配下の生き地獄だ!もしかしたら、本当にブリタニアの攻撃で命を落とすかもしれん!彗星落下で、ひと思いに逝けた方が幸せだろう!」
どうする?知られてしまった以上、大人しくしていろと言っても、まず聞かないだろう……彗星落下まで、まだ半月以上ある。その間は、何回も入れ替わりは起こってしまう……だが、あの女に“ゼロ”をやらせるのは危険すぎる……
「別にいいだろう。影武者とでも、考えればいい。」
「影武者だと?」
「私が、代理をやっているのと変わらない。シナリオはお前が書いて、その通り演じさせればいい。」
そうか……そういう考えもあるか?それならば、俺が糸森に行っている間も、作戦の進行は可能になる……だが……
「突発的なイレギュラーが発生したら、どうするんだ?」
「そんなことは知らん。そもそも、入れ替わり自体がイレギュラーだろ?」
腹をくくるしかないのか?もう俺の体は、半分あの女に握られているのも同然なのだから……
「ほんと?私にも、協力させてくれるん?」
「ああ、但し……」
そう言って、C.C.さんは折り畳んだメモを私に差し出す。
「ここに書かれた、制約を守ればという条件だそうだ。」
私は、渡されたメモを開いて、内容を確認する。箇条書きで、十数項目の制約が書かれている。
・俺のシナリオ通りに行動しろ!余計な事はするな!
・黒の騎士団の団員とは、私的会話は一切するな!
・ゼロの時は、常にC.C.と行動を共にしろ!単独行動は禁止!
・生徒会の仕事は、仮病を使ってでも避けろ!
・会話の時に訛るな!
・スザクとは話すな!
・ナナリーには、余計な事は一切言うな!
・ナナリーと話す時は、常に笑っていろ、暗い態度は見せるな!
・ナナリーとの食事の時は……
・ナナリーが寝る時は……
・ナナリーが……
な……
「何よ、これ?後半は、殆どナナリーの事ばっかりやない!」
「仕方が無いだろう……あいつは、極度のシスコンだからな。」
し……シスコン?た……確かに、ナナリーちゃんは可愛いけど、だからって……ま……まさかあいつ、四葉に変なことしないでしょうね?
「はっくしょん!」
「どうしたん?かぜ?」
「い……いや、そんなこと……無いわよ。」
妹と家を出たところで、急にくしゃみが出る……C.C.め、まさか、変な事でもあの女に吹き込んでいないだろうな?今日からは、髪の毛もちゃんと結って、組紐で纏めている。やり方は、あの女に書き出させておいた。これで、変に怪しまれることも無いだろう。
「ねえ、お姉ちゃん?」
「ん?」
「もしかして……彼氏でもできたん?」
「え?ど……どうして?」
「だって、このところ変やよ!朝は、きっちり早く起きる日が多いし、妙に時間に正確やし、言葉使いも……」
「はあ~~?」
こ……この三葉という女は、どれだけルーズなんだ?妹にまで、こんな心配をされているとは……な……ナナリーは大丈夫か?もし、ナナリーに何かあったら、ただでは済まさんぞ!
学校に来ても、俺は授業等は聞いていなかった。これからは、あの女の行動シナリオも立てねばならん!時間は、いくらあっても足りない。ここで記録はできないが、自分の体に戻って直ぐに書き出せるよう、頭の中でまとめておかねば。
「じゃあ、ここを……宮水さん!」
「……は、はい!」
急に指されたが、こんな田舎の授業内容なら、聞いていなくても答えは導ける。俺は難無く答え、再び構想に没頭する。
「なんか、最近すごくない?三葉……」
「ん?何が?」
学校の帰り道、名取が尋ねて来る。
「だって、全然授業聞いとらんみたいやのに、指されたら、びっくりするほどの即答やし……」
「そんな事ないよ、ちゃんと聞いてるって。」
そんな会話をしつつ、バス停横の、勅使河原がカフェと呼ぶベンチの前まで来た時、勅使河原が驚嘆の声をあげる。
「な……なんや、これは?……」
「ん?カフェでしょ?テッシーが設計してたじゃないの?」
俺は、自動販売機でレモンティーを買い、そこの真新しい椅子に腰かける。
「せ……せやけど……これ、俺が設計したものよりも豪華すぎるで……」
それはそうだろう、お前の設計では、ただの丸太テーブルに丸太椅子、それにビーチパラソルを添えただけだ。そんなものでは、カフェとは言えん!俺の手に掛かれば、こんなものだ。極上の檜を使った洒落たテーブルに、ちゃんと背もたれや肘掛も付いた頑丈な椅子、雨露も凌げるように、しっかりと木造の屋根も付けた。加えて、周りには小さな花壇も用意した。敷地が狭いので、1m弱の幅しか無いが。
「たった一晩で、誰がやったんや?こんなん?」
「ああ、私が頼んどいたのよ。」
「だ……誰に?」
「親切な業者に……快く、引き受けてくれたわ!」
もちろん、ギアスでな。
「わあ~すてき~!」
「う……う~っ……」
名取の方は、気に入ってくれたようだ……勅使河原は、どうも納得がいかないようだが……
せっかく協力できると思ったのに、今日は“ゼロ”の出番は無かった。普通に学校に行って帰ってきて、自室でC.C.さんと寛いでる時に、ふと、あることが気に掛かる。
「ねえ、そういえば……」
「何だ?」
「ルルーシュって、ブリタニア人やのに、何でブリタニアをぶっ潰そうとしているん?」
「……それは……私の口から言うのは、問題があるな。本人に聞け。」
「え?だって、入れ替わっちゃうから、話せへんけど?」
「携帯のメモにでも書いて、聞けばいいだろう!」
「あ……そっか、そやね!」
その日から、携帯メモでの、ルルーシュとの会話も始まった。
“ねえ、ルル?ルルは、何でブリタニア人なのに、ブリタニアを恨んでるの?”
▼
“誰がルルだ!シャーリーの真似をするんじゃない!そんな事は、お前には関係ない!余計な詮索はするな!”
▼
“いいじゃん!教えてよ!私達、もう運命共同体でしょ?あなたの事を、もっと知りたいの!”
▼
“好きでなった訳じゃない!俺の過去等、お前には関係無い事だ!”
▼
“いいわよ!それなら、みんなにルルがゼロだって、ばらしちゃうから!”
▼
“貴様!そんな事をしたら、お前の体もただでは済まなくなるぞ!”
▼
“いいわよ!どうせブリタニアが攻めてきたら、私死んじゃうんでしょ!”
▼
“分かった!C.C.に伝えておくから、あいつから聞け!”
「……という訳で、ルルの許可貰ったから、教えて!」
C.C.さんは、呆れたような顔をして、ようやく答えてくれる。
「あいつは……ルルーシュとナナリーは、ブリタニア皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアの子供……元は、ブリタニアの皇位継承者だ。」
「え?……る……ルルが、ブリタニアの王子?……じゃあ、何で自分の国を?」
「あいつらは、日本との外交の道具として、日本に送られた……あいつは、捨てられたとしか思っていないがな。そしてその後、ブリタニアは日本に宣戦布告し、容赦無く攻撃した。記録上あの2人は、その戦争で死んだ事になっている。」
「そんな……ひ……ひどい……」
「だが、その事で、変な同情をする必要は無い。そんな事は、あいつも望まん。」
そんなのって……ひどすぎる……血の繋がった親に、異国に捨てられて、その上、生死も問わずに攻撃なんて……ナナリーは、脚も悪くて、目だって見えないのに……
「ただ、あいつがブリタニアを潰したいのは、復讐のためだけでは無い。ブリタニアの思想は弱肉強食だ、強い者だけが生き残り、弱者は滅びるしかない。あいつの妹、ナナリーは弱者だ。あいつは、ブリタニアを倒して、ナナリーが幸せに過ごせる世界を創ろうとしている……」
そ……そうだったの……ルルは、ナナリーのために……
私は、また泣いていた。
「あ……お兄様!」
リビングに入ると、ナナリーが折り紙を折っていた。テーブルの上に、ナナリーの折った鶴が、数羽並んでいる。
「咲世子さんに、折り紙を教えて頂いたんです!日本人って本当に器用ですよね?」
「そう……あ……わたし……おれも、少し知ってるよ。」
「わあ~、本当ですか?」
「う……うん、ちょっと待ってて……」
そう言って、私は折り紙で、小鳥やうさぎ、カエル、手裏剣などを折ってあげる。
「うわ~っ!すごい!ありがとうございます!お兄様!」
ナナリーの喜ぶ姿を見て、私は、また涙が出て来てしまう。
こんないい子が、弱者というだけで虐げられる世の中なんて、やっぱり間違っている!絶対に間違っている!
私もやる!ルルと一緒に……ブリタニアを、倒す!
う~む……難しいです。どうにも、三葉のキャラがシャーリーのようになってしまいます。
ルルーシュの方が個性がありすぎるんで、どうしてもそっちに引っ張られます。
まあ、三葉は、どこにでもいそうな普通の女の子。ルルーシュは、どこにもいそうもない特殊な男なので、仕方が無いかもしれませんが……
感想書いて頂いた方、本当にありがとうございます。自分の書いた物に、共感を頂けると本当に嬉しいですし、やり甲斐も出ます。
今後も、宜しくお願いします。