今回は、そんな、三葉の心情を語る話です……
目が覚めると……いつもの俺の部屋だ。体も、元の俺に戻っている。
あれは、夢だったのか?いや、そんなことは無い!確かに現実だった……
俺は携帯を取り出し、日付を見る……1日過ぎている。どうやら、8年の時を超えていても、時間は同様に経過していたようだな。
「どうした?その様子では、今日はまともなようだな?」
横から、魔女が話し掛けてくる。あれは、1日だけの異変だったのか?それならば、まず確認しておかなければならない事が……
「C.C.、昨日の俺の言動を、詳しく話せ!」
「何だ?その若さで、痴呆症か?昨日の事も覚えてないのか?」
「いいから、話せ!お前の知っている範囲で構わん!」
C.C.から、昨日の俺の、奇怪な言動の詳細を聞く。
「……そうか……思っていたより、混乱は少なかったようだな。」
「いったいどうした?何かの暗示にでも、掛かっていたのか?」
「簡単に言うぞ!昨日の俺は、俺じゃない!別の人間の心が、入れ替わっていたんだ!」
俺は、昨日入れ替わっていた時に確認した内容を、簡潔にC.C.に話した。
「……なるほど、そういう事だったのか。」
「随分、あっさり納得するんだな?普通なら、“医者に行け”とか言うところだぞ……もっとも、お前は普通ではないか?魔女だからな。」
「昨日の、お前の様子を見ればな……別人にしか見えん。それに、心を他者に移すギアスだって存在する。ありえ無い話ではない。」
「では、入れ替わりは、あの女のギアスの力か?」
「それは違うな。」
「何故だ?」
「ギアスには、有効範囲がある。ここから、飛騨の山奥まで、どれだけ離れていると思っている?それに、8年の時差もある……ギアスの次元を超えている。」
「では?この現象はいったい何だ?」
「さあな?」
「魔女でも分からないのか?」
「私は神ではない。」
……とにかく、これで怪現象は終わったのか?それとも、続きがあるのか?……念のために、対策は打っておいた方が良さそうだな……
「ええ~っ?何、それ?」
「ほんとやよ!いきなり、あの3人のところまで歩み寄って、“私を愚弄するな!”って!」
「完全に、俺様キャラやったな。俺には、“違うぞ!勅使河原!”って……」
「ほ……ほんとに、私がそんなこと言ったん?」
校庭の隅で、昼食を食べながら、昨日の私の言動をサヤちんとテッシーから聞く。
「全然、覚えとらんのか?」
「なんか、ずっと夢を見てたような……違う国の、別の人の人生を……」
うまく、昨日の事が思い出せない……なんか、外国の貴族になった夢は、覚えてるんだけど……
「あれは、絶対狐憑きや!」
「また言っとる!そんなことあらへんよ!」
「その証拠に、あの3人や!呪いに掛かったように、急に大人しくなったで!」
「それはそやね。三葉に睨まれてから、人が変わったようになってもうた。」
「ええ~っ?何よ、それ?」
全く奇々怪々だわ!誰かが、私に乗り移って、好き勝手に暴れてるっての?
翌朝、目が覚めると……ま……またこの部屋だ。この間と、同じ夢を見てるのかな?
「おはよう。」
目の前に、例の緑色の髪のコスプレ女が座っている。
「今朝はルルーシュか?それとも?……宮水三葉さんかな?」
「え?……ど……どうして私の名前を?」
「ほう?やはり、また入れ替わりは起こったか……あいつの読み通りだな。」
入れ替わり?じ……じゃあ、これって、夢じゃ無いの?私……本当に、この男の子と……
「まず、落ち着いて聞け。ここは、お前が暮らしている時代の、8年後の東京だ。」
「え?」
な……何言ってるの?この人……は……8年後?わ……私、未来に居るっていうの?
「それから、ここはもう日本では無い。お前が暮らしていた時代の約1年後に、ブリタニアによって占領された、ブリタニアの植民地“エリア11”だ!」
「な……何?それ?」
せ……占領?……ブリタニアって、友好国じゃなかったの?
「で……でたらめ言わないで!植民地って何よ?ここが、8年後って?」
コスプレ女は、面倒くさそうな顔をして、溜息をつきながら立ち上がる。
「どうやら、言葉だけでは理解は難しそうだな……いいだろう、見せてやるから、付いて来い。」
コスプレ女に連れられ、町に出る。学生服では目立つので、服装は地味な私服を着せられた。コスプレ女は、この男の子の服を勝手に着て、後ろ髪は纏めて帽子で隠している。まるで、変装しているような格好だ。
町は、ビルが立ち並び、華やかな都会ではあるが、私がテレビで見知っている東京とは、全然違っていた。道行く人も、外国人……ブリタニア人ばかり……ほ……本当に、ブリタニアの領土になっているの?
公園に差し掛かったところで、騒いでいる声が耳に入る。
「何とか言ってみろよ!この、イレブインが!」
数人のブリタニア人が、出店の店主を足蹴に罵倒していた……て、あの足蹴にされている人って、日本人じゃ?
「イレブンは、謝るのが得意なんだろ?」
罵倒する、男達の言葉が気に掛かる
「い……イレブンって?」
「今の、日本人の呼び名だ。敗戦国日本は国だけで無く、名前も奪われた……“エリア11”がこの領土の名前、その原住民は“イレブン”。」
「そ……そんな……」
続いて、電車に乗せられる。都心を抜けたところで、女が窓の外を見るように促す。
「え?」
そこには、戦闘によって破壊され、瓦礫の山と化している新宿があった。
「これが、新宿ゲットー……かつての日本人の町。今の、イレブンの居住区だ。」
「そんな……そ・ん・な……」
目から涙が溢れ、次第に視界がぼやけていく……
勅使河原、名取と共に学校に向かいながら、正直、俺は頭を抱えていた。
この状況を利用するといっても、どう利用できるというんだ?こんな僻地に、前線基地を築いても意味は無い。そもそも、彗星落下までもうひと月を切っている。そんな短期間で基地は造れないし、造れても彗星に破壊されてしまう。
彗星の軌道を変えて、帝都ペンドラゴンに……そんな神懸りなことができる訳も無い!
開戦を早めて、主力部隊をこの糸森におびき寄せる……どうやって?
駄目だ!全くいい考えが浮かばん!……
俯きながら歩いていると、不意に、空き地で演説をしていた男から叱咤を受けた。
「三葉!胸を張って歩かんか!」
俺は立ち止まり、その男を睨みながら名取に問う。
「……何だ?あの男は?」
「ちょ……ちょっと三葉!いくら喧嘩中やからって、お父さんに向かってそれは……」
「?……お父さん?」
この女の父親か?……そういえば、宮水トシキと横断幕に書いてあるな……何故、一緒に暮らしていない?どこかの皇帝のように、政治の道具に使われた訳でも無いだろう……
まてよ、父親が町長?これは使え……いや!
俺は、その男を無視して、再び歩を進める。
たかが田舎町の町長に、何ができる?せいぜい、住民を先導して彗星落下から避難させるくらいだろう。例え、ここで避難して助かっても、1年後にはブリタニアが攻めて来る!どの道助からん!
「ちょ……ちょっと三葉~!」
周囲の状況に目もくれず、さっさと歩き去る俺を、情けない声を出しながら名取と勅使河原が追う。
「ルルーシュ!また手が止まってるわよ!何考え込んでんの?」
「は……はい、す……すみません。」
生徒会長のミレイさんの、激が入る。
あの女(名はC.C.というらしいけど……これ、ほんとに名前?)との疎開ツアーの後、私は遅れて学校に来た。ルルーシュは生徒会の副会長らしく、放課後は、生徒会室で事務仕事がある。しかし、私はルルーシュじゃ無いし、こっちの世界の事情を全く知らないので、こんな書類を渡されてもチンプンカンプン。
それに、もう日本が無くなっているという事実がショックで、仕事どころでは無い……
結局、何も捗らなかった上、様子がおかしいのを心配されて、早めに返された。C.C.さんからは“ボロが出ないように、極力しゃべるな”と言われていたから、正直助かった。
「ルルーシュ!」
廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。振り返ると、茶髪で精悍な目をした、日本人の男の子が立っていた。
C.C.さんから聞いている、枢木スザク。枢木ゲンブ元日本国首相の息子、ルルーシュとは幼馴染らしい……日本人でありながら、ブリタニアに忠誠を誓い、名誉ブリタニア人となった男。今は、ブリタニア軍に所属している。
「な……何だい?スザク……」
C.C.さんからは、この男との接触が一番危険だから、極力避けろと言われている。でも、そう言われなくても、こんな男とは、できれば話をしたくない。日本の首相の息子でありながら、侵略者にしっぽを振るような、卑劣な男とは……
「今日、君の家に行ってもいいかな?ナナリーに、お土産があるんだけど……」
「い……いや、今日はちょっと……」
「そうか……残念だけど、またの機会にするよ!」
そう言って、スザクは去って行った。
ひとり、家路に就きながら、今日見た事、C.C.さんから聞いた事を思い出す。
私たちの故郷糸森も、ブリタニアの攻撃で全滅したらしい。当然、私も……そんな侵略者達と、一緒に生活なんてできるの?
でも、ここに居る人達がやったことじゃ無い……悪いのは皇族、軍隊……許せない!
何とか、みんなの仇を……だけど、無理!……私ひとりで、いったい何ができるの?日本の軍隊が、全く適わなかった相手に……
「……ぶ?!」
その時、風に舞って来た新聞が、私の顔を塞ぐ。
「な……何よ!もう!」
顔を覆う新聞を剥ぎ取って、投げ捨てようとした時に、新聞の活字に目が留まる。
「く……黒の騎士団?」
そこには、ブリタニアに反抗してテロ活動を続ける、“黒の騎士団”の記事が書かれていた。そして、大見出しの下に黒の騎士団のリーダーの、仮面の人物の写真が大きく載っていた。その人物の名は ――――
「……ゼロ?……」
ど……どこかで聞いた事があるような……
?!そうだ、この間入れ替わった時の、黒い携帯電話に掛かってきた声……
“ゼロか?扇だ!”
私は、走り出していた。大急ぎで家に戻り、自分の部屋に飛び込む。C.C.さんは居ない……チャンスだ!
私は、例の黒い携帯電話を探す。C.C.さんから取り上げられて、今日は持っていないが、もしかしたらこの部屋の中にあるかも……
散々部屋を掻き回したが、黒い携帯電話は何処にも無かった。C.C.さんが持って行ったのだろうか?諦めかけた時、クローゼットの奥に奇妙な黒い鞄を見つけた。
……何かしら?……
取り出して、開けようとあちこちを弄ってみる。どうせロックされていて駄目かと思ったけど、以外にも簡単に開いた。その中にあったのは……
「や……やっぱり……」
新聞の写真に載っていた人物が被っていた、黒い仮面がそこにあった。
「る……ルルーシュが、ゼロ?」
前回、ルルーシュサイドの心理描写が主だったんで、今回は三葉側。
自分で気付くというより、一方的に教えられる展開に……まあ、その方が話は早いので。C.C.君の存在が役に立ちます。下手な携帯履歴のやりとりより、直に話す方がずっと分かり易い。
ルルーシュの正体を知った三葉の、次の行動は?……