お話では、相手はブリタニア人のルルーシュ!そして、その時間軸のズレは……
朝、目が覚めて、直ぐに体の異変に気付く……何か、体が軽い……それと、胸のあたりが何か重い……
目を開け、起き上がると……何だ?この部屋は?畳敷きに布団を敷いて……ここは、日本解放戦線のアジトか?……何より、何だ?この女物のパジャマは?俺は、こんな物を着た覚えは……
「どうしたん?お姉ちゃん?」
気が付くと、右手の襖が開いていて、そこに一人の幼女が立っていた。
「お……お姉ちゃん?」
俺は、自分を指さして問う。
「他に誰がおんねん!ご・は・ん!」
そう叫んで、幼女は乱暴に襖を閉めて、下に降りて行った。
……何だ、あいつは?お姉ちゃん?男の俺に向かって……そう思って、ふと下を見ると……胸に見慣れない盛り上がりと、谷間が……
「何だ?これは?!」
思わず、立ち上がってしまう。よく部屋を見渡すと、目の前に大きな姿見がある。俺はそこまで歩み寄って、愕然とする。そこには、見たこともない女の顔があった……
とりあえず、姿見と所持品で確認する限り、今の俺は“宮水三葉”という女子高生になっているようだ。何故?俺が女になっているのかは分からないが、今は現状を確認するのが先決だ。それが分かるまでは、怪しまれないように、この女の普段の行動に合わせておかなければ……それならば、そういう恰好をしていないと逆に不自然だ。俺は、壁に掛けてある制服を着て、下に降りた。
「お姉ちゃん!はよせんと、学校に遅れるよ!」
先程の幼女が、囃し立てて来る。
ええい!誰がお姉ちゃんだ!俺はお兄ちゃんだ!そもそも、お前のような、がさつな妹を持った覚えは無い!俺の妹は、ナナリーだけだ!
食卓に着くと、多分この女の祖母と思われる老女も居た。挨拶をしてきたので、そこは普通に返した。畳直に座卓、茶碗に箸、昔の日本の食卓だ。かつて、スザクの家の蔵に居候していた頃を思い出す……
しかし、妙だ。いくら僻地とはいえ、ブリタニアの占領下でこのような平和な生活ができるはずが……その時、
『皆様、おはようございます。』
突然、鴨居に設置されたスピーカーから声が出る。な……何だ?これは?
『糸守町から、朝のお知らせです。来月20日に行われる、糸守町町長選挙について……』
と、そこで声が途切れた。祖母が、スピーカーのコンセントを抜いたのだ。祖母は、そのままテレビの電源を入れる。
「いい加減に、仲直りしないよ。」
妹が、そう言う。仲直り?何の事だ?それより、さっきの放送は?……
そう考えていた時に、テレビのニユースが耳に入る。
『いよいよ、ひと月後に迫ったティアマト彗星の最接近……』
「ティアマト彗星だと?!」
「ど……どないしたん?お姉ちゃん!」
つい、大声を出して立ち上がってしまったため、妹が驚いて声をかける。
「い……いや、な……なんでもない……」
ティアマト彗星……その彗星が、地球に最接近したのは8年前だ……ということは?
俺は、携帯を取り出し、日付を確認する……間違いない!時系列までずれている。ここは、8年前……ブリタニアに占領される前の日本だ!
ん?……さっきの放送、“糸守町”と言っていたな?……糸守……そうだ、ティアマト彗星の破片が落下して、崩壊した町の名前だ……
朝食を終え、家を出て学校に向かう。妹と途中で別れ、1人で通学路を歩く。スザクの実家と同じ、典型的な田舎町だ。最も、1ヶ月後の彗星落下で、ここは廃墟になってしまうのだが……そんなことより、何故8年前の赤の他人の……しかも、女の体に入れ替わってしまったのかを考えねば……ん……入れ替わる?……ま……まさか?入れ替わっているということは、8年後の俺の体の方にこの女が?
「三葉~!」
その時、後ろから声をかけられ、振り返る。
自転車に2人乗りした男女が、こちらに寄って来る。この女の交友関係は、部屋にあった生徒名簿と日記から、おおよそ理解している。漕いでいるガタイの良い坊主頭は“勅使河原克彦”、この女は“テッシー”と呼んでいる。女の方は“名取早耶香”、この女は“サヤちん”と呼んでいる。特に親しい友人は、この2人だけだ。友人が少ないのは助かる。余計な会話はしなくて良いので、ボロが出なくて済む。
「お……おはよう……サヤちん、テッシー。」
とりあえず、普通に挨拶を返す。これで状況はクリア……と思ったのだが……
「あれ?三葉、何なん?その頭?」
「え?」
「無造作に纏めてるだけで、いつものように、結ってないけど……」
「ほんまや!それじゃ、まるで侍やな!」
な……何だと?こ……この女は、髪を複雑に結っていたのか?そ……そんなデータは……いや、時間が無かったから、そこまで確認できなかっただけだ!この場は、何とか取り繕わねば……
「ん……んんっ……」
な……どこ?ここ……
私は、見たこともない、広い部屋のベッドで目が覚める。もしかして、これも夢?
ふと、体にも違和感を感じる。喉が妙に重い、視線を体に落としてみると……胸が……無い?……逆に下半身には……何かある?ええ~~っ?
起き上がって、鏡を探す……ようやく見つけて、覗き込む……
?!こ……これが、私?
そこには、イケメンの男の子の顔が映っている……
「ルルーシュ様!」
気付くと、入り口のドアが開いていて、メイド服を着た女性が立っていた。
る……ルルーシュ?そ……それが、今の私の名前?……ええっ?ここ、日本じゃないの?で……でも、この人は日本人に見えるけど……
「お食事のご用意ができています。既に、ナナリー様がお待ちです。お早く……」
そう言って、その女性はクローゼットから学生服を取り出し、私に差し出す。
「……は……はい……」
とりあえず、それに着替え、女性の後に付いてリビングに向かう。しかし、本当に広い家……何か、ヨーロッパの貴族のお屋敷みたい……私、東京のイケメン男子になりたいとは思ったけど、貴族になりたいなんて、考えたこともないんだけど……
リビングに通されると、ひとりの女の子が座って待っていた。
「お兄様、おはようございます!」
「あ……お……おはよう……」
こ……この子が、ナナリー?今、“お兄様”って……じゃあ、この男の子の妹?……か……かわいいっ!な……なんて可愛らしい、ま……まるで、童話の中から出て来たような……四葉とは、比べものにならない!可憐で……清楚で……あら?
良く見ると、その女の子が座っている椅子は食卓の椅子ではなく、電動式の車椅子だった。
うそ!こ……この子脚が悪いの?か……可哀そう……
2人で使うには、あまりにも大きすぎる食卓で、朝食を頂く。
「ふふ……お兄様、今日はちょっと変。」
私の言動に、ナナリーちゃんは不審を抱く。それはそうでしょう、私は、見かけはそうでも、中身はあなたのお兄様じゃないんだから……
しばらく一緒に食事をして、違和感に気付く。
も……もしかして、この子、め……目も見えないの?
私は思わず、ナナリーちゃんの手を握りしめていた。
「な……なんて、可哀そうな子なの?な……ナナリ~」
思わず、涙もこぼれてきた。
「ど……どうなさったんですか?お兄様?私は、お兄様が居てくれるだけで、十分幸せなのに……」
な……なんて健気ないい子なの?て……天使なの?女神なの?五体満足のくせに、いつも文句ばかり言っている四葉とは、月とスッポンだわ!
朝食を終え、部屋に戻ってくると……え?
「何だ?まだ、学校に行っていなかったのか……」
ええ~っ!部屋の中に、何やら怪しい趣味のコスプレをした、緑色の髪の女が、ピザを食べている……な……このイケメン男子、高校生にして同棲してるの?し……しかも、危ない趣味を持って……
「何を呆けている?早くしないと遅刻するぞ。」
そ……そうだった!
私は大急ぎで鞄を抱えて、部屋を飛び出した。
部屋を出たは良かったが……何て広いのこの家、玄関どこよ?
散々迷った挙句、ようやく玄関にたどり着き、外に出る。はあ~~~家から出るだけでこれじゃ、学校に着くまでに何時間掛かるか……何て心配は、無用だった。家を出ると、遥か前方に、巨大な校舎が聳え立っていた。
な……何て広さなのこの学校?ていうか、この家、学校の敷地内にあったの?
校舎が近づくにつれて、益々ここが日本だとは思えなくなってくる。だいたい、お手伝いさん以外、今の私を含めて、日本人居ないじゃない!
―――― で、校舎まで来たのはいいけど……どこに行けばいいの?私のクラスってどこよ?
「ルルーシュ?」
どっち行っていいか分からず、きょろきょろしているところに、後ろから声を掛けられた。
「どうしたの?もう授業始まってるけど……もしかして、サボリ?」
振り向くと、赤い髪の、大人しそうな女の子が立っていた。
「い……いえ……えっと……」
だ……誰なの?な……名前が分かんない……
その女の子に付いていって、何とか教室にはたどり着けた。その後、この男の子の同級生のリヴァル君やシャーリーちゃんに色々聞かれたが、私だって訳が分からないので、笑ってごまかすだけだった。教室に連れて行ってくれた子の名は、“カレン”だと後で知った。
午前の授業が終わって、私はひとり屋上に出て、手すりにもたれ掛かってため息をつく。
「つ……疲れる……夢なら……はよ覚めて……」
―――― その時、ポケットの中の携帯が鳴る。この男の子は、何故か携帯を2つ持っていて、鳴っていたのは黒い方だった。私は着信ボタンを押す。
『もしもし、ゼロか?扇だ!』
ゼロ?この男の子の名前って、ルルーシュじゃ?
「い……いえ、私はルル……」
と、不意に目の前を何かが過ぎる。
「?!……け……携帯は?」
見ると、一匹の子猫が、私の携帯を銜えている。
「こ……こら!か……返してっ!」
取り返そうと子猫に近づくと、物凄い勢いで駆け出して行く。
「こ……こらっ!ま……待って!」
懸命に追いかけるが、子猫は勢い良く屋上から飛び降り、辺りの雨どい等を伝ってあっという間に下まで降りてしまう。
「だめ!返して……」
つい大声で叫んでしまい、慌てて手で口を塞ぐ。今は、男の子なんだった。とにかく、携帯を取り戻さないと……
子猫(アーサー)は、しばらく携帯を銜えて校庭や校舎内を走り回っていたが、直ぐに飽きて、廊下の隅に携帯を置いて走り去ってしまう。
『おい!ゼロ!どうしたんだ?』
携帯からは、相変わらずゼロを呼ぶ扇の声が……少しして、廊下を通りかかった女が、その携帯を拾い上げる。
「……私だ。」
『C.C.か?ゼロはどうした?』
「生憎急用が入ってな、今は無理だ。また連絡させる。」
『え?おい!ちょっと……』
C.C.は容赦無く携帯を切り、窓から外を見る。眼下を、必死に子猫を探すルルーシュが駆けて行く。
「おかしいな?あいつ……まるで別人のようだ……それに、ギアスの気配が無い……」
古ぼけた、狭い校舎の教室で、目の前の花瓶の摸写をしながら俺は考える……
もし、入れ替わっているのだとしたら、今(正確には8年後だが)俺の体には、この女の意識が入っている……まずい……まずいぞ、俺がゼロだという事が、外部に漏れる危険性がある……あの女が、下手に部屋の中で余計な物を見つけたら……何より、学校でスザクやカレンに変なことを言ってしまわないか?ギアスのことも……まてよ、ギアスはどうなっている?自分の体でないと、使えないのか?それとも……
と、その時、目の前の3人組の会話が耳に入ってくる。
「だから、町政なんて助成金をどう配るかだけやで、誰がやったって同じや!」
「でも、それで生活してる子もおるしな……」
何やら、人の顔を見ながら聞こえるように呟いている。この女の悪口か?隣の名取に聞いてみたところ、どうやらそのようだ。腐っているのは、ブリタニアの貴族だけでは無いな……
「あいつら!」
堪忍袋の緒が切れたのか、勅使河原が立ち上がり、3人のところに進もうとする。俺は、腕を横に出してそれを制止する。
「止めるなや!ああいう奴らは、一度痛い目見せんと図に乗って……」
「ふっ……違うな!間違ってるぞ勅使河原!ああいう輩には、暴力は逆効果だ!」
「て?……勅使河原って、お前……」
「何事も、平和的にな。」
丁度いい、試させてもらうぞ。
俺は立ち上がり、その3人に向かって歩き出し、目の前に立つ。
「な……何よ?」
「ルル……いや、宮水三葉が命じる!お前達、二度とこの私を愚弄するな!」
俺の左目の中に、赤い紋章が輝く。それは鶴のように羽ばたき、目の前の3人の目の中に吸い込まれていく。
「わ……わかったわよ……」
そう言って、3人は黙って作業に戻る。以降、この女を中傷するような会話は、一切しなくなった。
ふふ……そうか、この女の体でもギアスは使えるようだ!それならば、この状況、存分に利用させてもらうぞ!
頭の回転の早いルルーシュなら、即座に状況を判断して行動を起こすと思うので、瀧くんと違い1日で全てを理解してしまうだろうと、こんな展開になりました。
これ書いた後によく調べたら、このネタ(三葉とルルーシュの入れ替わり)、既に他の人にやられていたんですよね。二番煎じですが、まあ話の内容が全く違いますし、今後の展開も全然違うのでご勘弁を……
ルルーシュの個性が強すぎて、今回は、ちょっと三葉が霞んでしまっています。次回は、三葉側の心理描写を中心に書きたいと思います。