GATE モリアーティ教授(犬) 彼の地にて 頑張って戦えり   作:BroBro

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『待たせたな!』

どうも皆さん、お久しぶりです。約半年ぶりにぬけぬけと帰ってまいりました。こんなにも長く、時間がかかってしまった…
しかも再開1発目で文字が多いという状態。何か前のページと雰囲気が違うかも知れませんが、ご了承下さい。


教授の計画ミス

イタリカと言う街がある。

 

人口約五千人、街を囲う様に砦が設けられ、東西南北の4箇所に大型の門が存在するこの大きな街では、ある噂が流れていた。

 

『緑の人』と呼ばれる存在。それは災害とさえ言われる炎龍を凌ぎ、更にはその腕を吹き飛ばしたとされる者達である。異世界の軍隊だと言う話もあるが、それでも盗賊団による攻撃で危機に瀕しているイタリカにとって、戦力になって欲しいと願ってしまう人々が多い。人口が多いからといっても、イタリカの戦力はお世辞にも強いとは言いがたく、民兵が半数を占める程だ。遠い土地の話だとしても、突拍子の無い噂に希望を持ってしまうのも仕方ないと言える。

 

そんな全体的に非常に状態の悪いイタリカだが、この街を中心にも一つの噂が周囲の街や村に響いていた。その噂はアルヌスと呼ばれる場所にも届き、アルヌスに駐屯地を築いている自衛隊の一人がその噂を呟いた。

 

 

「イタリカの街が強力な『桃色の翼竜』で盗賊団を幾度と無く退けている」

 

 

その噂が広がるのは以外にも早く、第三偵察隊がその噂の正体を色々な理由のついでに調べて来る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撤退!撤退だ!」

 

 

鉄兜を被った男が叫ぶ。それと同時に様々な武器を手に持った男達がイタリカの砦から引いて行った。

 

一声からの反応は速く、一斉に引いていく。盗賊団と言えども元軍隊が多数。統率力はそれなりにあると言う事か。

 

 

「やっと引いたよ…」

 

 

そううんざりしたように呟いたのは、プテラノドンに乗るモリアーティ教授だ。戦場と化した砦前で旋回を繰り返し、時に急降下して拾って来た100kg近い石の数々を落として嫌がらせしたりしていた教授は、今日は妙に時間かかったなと砦を見た。砦にはハシゴがかけられており、砦が攻め込まれるギリギリまで迫っていたことが伺える。

 

 

「今回は危なかったぁ…」

 

 

冷や汗を流しながら、教授はプテラノドンの両翼を見る。右翼には2〜3本の矢が突き刺さっている。よく墜落しなかったものだと我ながら感心するが、そろそろプテラノドンの飛行も厳しくなってきた。

 

プテラノドンの両翼には所々に補修跡が見え、今回の戦闘の前に何戦も戦いが起きたことが見て取れる。大体が紙で出来ているおかげで、補修はとても楽であった。しかし紙は紙でもちょっと特殊な紙で、実は少し水に強かったり、画用紙よりは固い紙を使ってたりとそれなりにいい物を素材としている。イタリカで売っている紙は画用紙より出来の悪いレベルの紙があるが、それでは心許ない。しかし使うしかないため、仕方なく補修に使っている。

 

きちんとした工具も使わない応急処置だったためムラが多い。それが原因か揚力の低下によって高度が落ちてしまい、矢の射程圏外まで飛ぶことが出来ず、この有様である。数発の命中弾で済んだのは、ひとえに教授の操縦テクニックのお陰だろう。

 

被害状況を上空から確認し、北門に向かってプテラノドンを飛ばす。ゆっくりと速度と高度を落とし、少し広い道に着陸する。数十メートルの距離を進んだ後に少しづつ減速していき、危なげなく停止した。プロペラを止め、プテラノドンから降りる。そして右翼に突き刺さった矢を中心から折り、丁寧に抜いて行った。

 

全て取り終え、一息つく。そしてプテラノドンのコックピットに腰を下ろし、ゲンナリした表情で大きく溜め息を吐いた。

 

 

「いつまでこんな事してるんだろうなぁ…」

 

 

教授が初めてイタリカに来てから数日が経った。既に教授とプテラノドンの存在はイタリカ全体に認知されており、所によっては『救世主』だとか言われている。教授の本業とは真逆とも言える名にうんざりしていた。

 

別に悪く思っているわけじゃない。教授の目的はただイタリカに手早く居住する事であり、防衛戦に長期に渡って参加するとは思ってなかった。まさかこんなに盗賊団が多く、粘ると考えていなかったのだ。まるで何処かの警部の様なしつこさである。まあお陰で住民の信頼を勝ち取る事は出来たが、プテラノドンを犠牲にするかもしれないこの状況では、これで良かったのかと疑問に思う。

 

こんな時にトッドとスマイリーがいれば、何か美味い話でも探させるのだが…

 

 

「アイツらの話してもしょうがないか…」

 

 

もう一息大きく息を吐いて教授は、重い腰を上げて街の中心にある宮殿の方へと向かって行った。

 

北門側の住宅街には大通りが幾つかある。その中の一つを滑走路として使用する許可を出してくれたのが、現在街に駐留して軍を率いているピニャ・コ・ラーダと言う女性だった。戦闘後に教授はピニャの元へ行くのが決まりになっている。

 

移動中に何人もの人々に挨拶を交わし、その度に礼を言われたり等してもみくちゃにされ、何とかピニャの元へ辿り着いた時にはもうヘトヘトになっていた。ピニャを発見したのは宮殿の入り口であったため、立ち話をする事になった。

 

 

「此度の戦もご苦労だった。また助けられたぞ」

 

「いえいえ、部屋を貸して頂いた恩を報いてるためにしたまでの事。当然の事をした迄でございます」

 

 

そう言って「にひひ」と笑う。腹の中に何か隠している様な笑い方だと毎回ピニャは思う。

 

ピニャは翼竜を操る獣人であるモリアーティ教授を信用している訳では無い。最初はただの善意でイタリカ防衛戦に加わったと言っていたが、そんな生き物がいるわけが無い事は良く分かっている。何か裏があると思って手元に置いて探っているのだが、なかなか尻尾を出さず、防衛戦には必ず参戦して来る。お陰で民衆は教授に心を許し、何の証拠も根拠も無く怪しいからと言う理由だけで追い出す事も難しくなった。

 

怪しい動きをしたら即対応出来る様にここのメイド達に殺害も許可している。それ程ピニャは教授を警戒しているのだ。

 

一先ず建前だけでも信用している様に見せなければならない。警戒している素振りを見せれば、相手も更に警戒する。ピニャには長期戦をしている時間はない。

 

 

「それで、今日は翼竜は無事なのか?」

 

「いえ、数発の矢を受けてしまいましてな。出来れば、今回も同じように手配をお願いしたい」

 

「分かっている。にしても紙であの翼竜の傷が治るものなのか?」

 

「御存知の通り、わしの翼竜は特殊でしてな。傷の治療も、普通じゃない訳です」

 

 

確かに弓矢に貫かれる翼竜なんて聴いたことがない。普通じゃないと言える事は多々ある。装甲の貧弱さ。そして恐るべきはその速度だろう。帝国の翼竜の倍以上の速さで飛び、旋回速度も速く、対空兵器からの攻撃も楽々躱す事が出来る。

 

教授のプテラノドンのエンジンは教授お手製の直列エンジンと呼ばれるものである。高性能にする為に軽量化をする必要があるプテラノドンだが、少なくとも3人プラス財宝を載せて運ぶ運用を前提とした設計思想だった。その為、モリアーティ脅威の技術で馬力はそのままに直列エンジンを小型化、冷却用の液体とガソリン用のタンクを全て胴体に押し込め、骨組みは木製、外膜は紙と徹底した軽量化を実現している。そのため、装甲は文字通り紙、長距離飛行は厳しいながらも燃費が良く、未だにガソリンも半分近く残っている。しかしエンジンの部品が細かく、メンテナンスに資金が多くかかるため、教授の万年金欠の原因の多くはこのプテラノドンにあるとされる。

 

そんな事がわかる訳もなく、未だにプテラノドンが生物であると思っているイタリカの人々とピニャは、「紙の成分かなにかを食べてるんだろうな」と補修用の紙を教授に提供している。

 

 

「それじゃあ、わしはコレで部屋の方に戻らせてもらいますよ」

 

「あぁ、ゆっくり休んでくれ。紙の方はいつも通り部屋に送るように手配する」

 

「お願いしますぞ。それでは」

 

 

白生地のマントを翻し、廊下の向こうへと歩いて行く教授。白いマントに白いシルクハットと全身的にホワイトな後ろ姿は、薄暗い廊下の中でも非常によく目立つ。

 

廊下の奥へと消えていく教授を鋭い眼差しで見送ったピニャは、ふぅっと息を吐いて緊張の糸を緩めた。

 

 

「全く…表にも敵裏にも敵とは、妾の安眠できる所は何処なのだろうな」

 

「モリアーティ様が敵とは限らないのではないですかな?」

 

 

いつの間にかそこに居たのか、ピニャの独り言に初老の男性が応えた。

 

 

「敵と決めつけるには早いか?だが奴の目は何か隠しているぞ」

 

「確かに、何か我々に話していない事があるのでしょう。しかし他者に聞かれたくない話というのは、誰しも一つや二つ持っているものでしょう。人種も獣人も、そう変わらないと思いますが」

 

「確かに…胸に秘めている事が、こちらに害を成す事とも限らないな。だが警戒しておいて損は無いはずだ。奴の監視は続ける」

 

「かしこまりました」

 

 

丁寧に礼を一つし、男性は本来の目的である街の被害状況や兵の消耗等の話を始めた。

 

 

 

 

勿論、教授は見張られている事に気付いている。しかし気づいていない振りをしている訳では無く、ただ別に行動に移られる行動をしていないため、コソコソと動く必要はないと判断していただけだ。

 

様々な種族のメイドがここにはいる。ウサミミだったりネコミミだったり、髪の毛が蛇だったりと様々な娘達がいる。個別で得手不得手があるのだろう。聴力に優れていたりとか運動力に優れていたりとか。それぞれの能力を駆使して教授に張り付いている。

 

何故そんな事が分かるのか。何故かなんて、部屋を出ればすぐに分かる。

 

ガチャっと自室から出て、街に行こうとすると必ずやってくるイベントが一つ。

 

 

「今日も復旧のお手伝い、ですか?」

 

 

扉を開けた直後、目の前に現れたのは廊下に佇む女性である。頭に兎の様な大きな耳。この娘はウォールバニーと呼ばれる兎類の獣人で、名をマミーナと言う。見た目の通り、聴力が発達しており、音に敏感である。教授の部屋の中での作業の音は全てマミーナには筒抜けだ。

 

予想通り、マミーナは教授が扉に向かう音を敏感に察知した。まあ予想通りと言うより、殆ど毎日の日課と化している。

 

紳士っぽく礼をし、教授は内心面倒くさがりながらもマミーナと向かい合った。

 

 

「これはこれはマミーナさん。最近"偶然"にも良く顔を合わせますな」

 

「そうですね。お客様であるモリアーティ様と"偶然"にも出会えるなんて、嬉しい限りです」

 

「こうも毎日同じ場所で"偶然"会うのも、なにかの縁ですかな?」

 

「そうかも知れません」

 

 

二人して偶然を妙に強調し合っているが、両者とも分かっている。教授がマミーナの尾行に気付いている事に。マミーナが教授を尾行している事に。二人共今日漸く確信したと言ってもいい。

 

お互い腹の中が読めている。ならば、態々遠回りに隠す必要も無い。マミーナは笑みを作った。しかし眼は笑っていない。

 

 

「気付いているにも関わらずに対策をしないと言う事は、隠すような事は無いと言うことですか?」

 

「そう捉えていい。元々わしは隠すものなどコレっぽっちも屋敷に持ち込んではおらんわい」

 

「屋敷に、ですか」

 

「全く、疑り深い娘だねぇ」

 

「疑う事が今の私の務めですから」

 

「はぁ…仕事熱心な事で」

 

 

やっぱり面倒な奴だと溜め息を一つ付いて、教授は移動を開始した。

 

 

「わしはいつも通り街の復旧作業に向かう」

 

「なら私もいつも通り、同行させて頂きます」

 

「なんで?」

 

「見張りです」

 

「なんもしない事は分かってるでしょうが」

 

「今日は分からないですから」

 

「あぁそう…」

 

 

もう正直かなり面倒臭い。隣で女が、しかも別の種族の女が街を歩いている時もずっと隣で付いて歩いてくる。クジラ等にひっついてくる魚みたいな存在だと最初は気にしてなかったが、日が経つにつれて流石に気になってくる。

 

教授の隣は常に両サイドに二人。それも男と来ている。教授は女性経験が無に等しい。つまり色々な面で素人だ。あたふたするのは仕方ないと言える。

 

再度言おう、かなり面倒臭い。やはりこう、良く調べもしてない女性が近くにいると戸惑うというか。コチラが不利な気がする。常に優位な位置にいたいのがモリアーティ教授だ。

 

勘弁してくれと心の中で呟く。しかし言っても聞かないメイドだと言うことは、ここのメイド全体に言えることだ。付いてくることを拒む事は出来ても、それに応える事はしない。しょうがないと腹を決めるしか無いのだ。

 

 

「…わかったよ、それじゃあ行くぞ」

 

「話が早くて私も助かります」

 

「わしは助からん…」

 

 

ズレたモノクルを直そうともせず、ダルそうに肩を落としながら歩く教授と、その3歩程後ろを歩く薄く笑みを浮かべたマミーナ。教授の格好とマミーナのメイド姿によって、主人と従者の様な関係に見える。実際はそんな事は全く無いのだが、街の住人はその二人の様子に妙に納得した。

 

教授のイメージ作りも、なかなか前途多難である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草原に響く高機動車のエンジン音。

 

舗装されていない道を走るグリーンのその車は、黒煙が立ち上る街へと向かう。

 

商人に竜の鱗を売るためにイタリカへと向かう訳だが、保護した原住民の精霊エルフの強い希望で、噂の正体を探る事になった。

 

桃色の翼竜。最初は聞いた時は色んな色の竜がいるんだなと第三偵察隊隊長の『伊丹 耀司』は思った。危険でない所まで行って、精霊エルフのテュカに見せて帰ろうと軽く考えていた。

 

 

「たいちょー、俺達が桃色の翼竜の噂の正体なんて暴く必要あるんですか?」

 

「テュカが気になるって言ってるんだ。しょうがないでしょーよ」

 

「けど、危険じゃないですか?噂によれば、相当強い奴なんでしょ?敵対して来ないとも限りませんし」

 

「俺もそこら辺は考えてるさ。一先ず現場を見て、翼竜を飼ってる人に話してからだな。イタリカの中さえ入れば、向こうもこっちに手出しはして来ないと思うんだよ」

 

「…分かりました。じゃあ、早々に終わらせて帰りましょうか」

 

「そうだな。速く戻ってアプリのダウンロードとアップデートしなきゃだし…」

 

 

他愛ない話を倉田と伊丹が操縦席と助手席で繰り広げる中、高機動車の後方、つまり人員輸送用のスペースに座る金髪ロングのエルフであるテュカが、空を眺めていた。

 

約60キロで走る高機動車からは景色が猛スピードで後方に流れるが、何処までも広がる青空だけはそれほど変化を感じない。

 

 

「………」

 

 

無言。周囲の人間が会話する中、テュカはずっと空に魅入られていた。

 

 

 

 

『ンナアァァァァ!!』

 

『フハハハハハハ!!』

 

 

 

 

空を仰ぎ見る度に、あの声を思い出す。当時の記憶が少し曖昧だが、あの姿と声だけは鮮明に覚えている。あの人ともドラゴンとも取れない声が耳の中から離れない。

 

桃色の竜というのは今まで見たことない。十中八九あの翼竜だろうと思った。そう思ったらいてもたってもいられなくなり、伊丹達に頼んでみた。予想以上に呆気なく許可されてビックリしたが。

 

どちらにしても、丁度いい機会を得た。是が非でも桃色の翼竜を見つけたい。

 

決意を胸に、テュカは黒煙が上がっているイタリカへとめを移す。まだまだ街は小さい。しかしこの高機動車なら、数十分で到着するだろう。

 

 

「会ってなに言うか考えなきゃ…」

 

 

例え言葉を解さないとしても、何か一言言いたかった。

 

 

「テュカは桃色の翼竜の事を何処で知った?」

 

 

突如としてテュカに声がかかった。ローブに身を包んだレレイが、テュカの方を向いていた。

 

質問してきたのはレレイだ。聞かれたからには返さなくてはならない。

 

 

「自衛隊の所でよ。なんで?」

 

「違う。本当はもっと前に知っていたはず」

 

「なんでそう思うのよ?」

 

「桃色の翼竜の噂を聞いた時、明らかに動揺していた。恐怖や高揚感から来るものではない。なにか別の理由があったと思う」

 

「…流石ね」

 

 

別に隠すつもりは無かったのだが、記憶を探ろうとすると頭痛が起こるので、あまり少し前の事を話すのは好きではなかった。

 

それを感じ取ったレレイは、地雷を踏みかけていることを直感的に理解した。

 

 

「話したくない事なら話さなくてもいい」

 

「ううん、話したくないとかじゃないの。ただちょっと頭が痛くて…」

 

 

そう言ってテュカは右手で頭を軽く押さえる。

 

 

「クロカワを呼んだ方がいい?」

 

「いえ、大丈夫よ。大丈夫…」

 

 

自分に言い聞かせる様にそう呟く。レレイは頭痛が収まるまでそれを見守った。

 

 

イタリカは、もう数キロメートルまで迫っていた。

 

 




恐らくこの小説にシリアスな教授は欠片ぐらいしか出ないと思います。
逆に言えば欠片が出しゃばってくる様にしたいと思います

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