GATE モリアーティ教授(犬) 彼の地にて 頑張って戦えり   作:BroBro

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遅 れ た

この時期って忙しいから困る


陸自と宿敵とあんにゃろめ

 

 

何処までも広がる青空の下。桃色の目立つ色のプテラノドンは、イタリカの少し手前で小さく旋回を繰り返していた。

 

 

「ぬうぅ……何とかなるかと思っていたけど、そう簡単にはいかないよなぁ」

 

 

グルグルと回るプテラノドンの上でイタリカから上る黒煙を見つめながら、教授は小さく溜め息を漏らした。

 

レレイから聞いたように、最近イタリカでは盗賊団の襲撃が多発しており、緊張状態にあると言う。実際、目下には数体の騎馬隊がイタリカへと向かっている。騎馬隊はイタリカを向いていて教授には気づいていないらしく、大声を上げながらイタリカへと向かっていた。

 

 

「迷惑だねぇ」

 

 

教授がイタリカに来た理由は、帝都と繋がりが深いイタリカを根城とする為である。そして準備が整い次第帝都へと向かい、犯罪家業を再開させようと言う魂胆だ。

 

何故帝都へ侵入するのに、帝都の足元であるイタリカに根を張るのかと言うと、一番狙われにくいからである。

 

"灯台下暗し"と言う様に、誰しも最初から足元を見るわけでは無い。敵が逃げたと知れば近いところから探すにしても、自分の懐の中にいるとは思わないだろう。

 

幸いな事に、この世界では悪名高いモリアーティと言う名を知るものはレレイとカトー以外にはいない。要所要所で名前さえ変えれば発見される確率を抑えられるし、情報を頼りに追ってくる捜索者を撹乱する事すら出来る。

 

そのため、帝都の懐の中であるイタリカへと向かい、盗賊に荒らされ終わった街に颯爽と駆けつけ、各所の街の復興を手伝い、印象を良くし、何とか宿を手に入れる予定を作っていた。

 

 

「しかしまぁ……」

 

 

こうもドカドカと荒らし行為が行われていると、数が多くて面倒臭い。まあ教授の計画に盗賊団の存在が不可欠なのだが、イタリカの軍が手間取る程の多さだ。

 

盗賊団と言っても、元軍人の人間が多い。一人一人の技量もそれなりにあるし、統率力も"それなりに"ある。勿論イタリカの軍の方が軍事力や連携でも勝るものの、それでも手こずるものである。

 

何よりも今のイタリカは防戦一方。イタリカの領主が所有する騎兵団が居れば戦況も覆るのだろうが、残念ながら騎兵団はまだ到着していない。上空から見ても近くにいるのは盗賊団だらけ。騎兵団らしき姿は無かった。

 

イタリカ側の負傷者も増えて来ている。作戦上、これ以上傍観している暇は無いだろう。

 

 

大きく深呼吸する。

 

吸って……

 

吐いて……

 

ネットガンの銃筒に手を掛け……

 

 

「よ〜し、行くぞぉ!!」

 

 

大きくプテラノドンの機首を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって数時間前、教授がいた村に異様な風景が広がっていた。

 

周りの家や道に合わない物体が数個、高気動車と呼ばれるソレは、小さい村にはあまりにも違和感のある見た目だった。車を見た事の無い村人達は驚きながらも、荷車に荷物を詰め込んでいく。

 

村人達が荷造りをする理由、それは炎龍が近くのエルフの村を襲ったという報を聞いたからである。エルフ村とこの村との距離は、近くと言ってもそれなりに離れている。それでも炎龍は数十キロを瞬時に移動し、獲物を探している。そそくさと早めに退散するに越したことは無い。

 

慌ただしい村の中、一足先に荷造りを終えたレレイとカトーが高機動型から出てきた人間達を見ていた。

 

標準的な迷彩服を着たその人達は、村長と数分間ほど話し、村人達の作業を手伝っている。交通網の整理をしたり、或いは村人の荷物を荷車に入れるのを手伝ったり。

 

それを荷車の上から見物していたレレイが思ったことが一つだけあった。

 

 

「不思議な人達」

 

 

利益を求める訳でもなく、ただふらっと急に現れた者達が村人達を手伝っている姿を見て、レレイはそう呟いた。

 

話している言葉も違う。教授の言葉であるクイーンイングリッシュでも無いようだ。服装も見たこと無い。と言う事は教授と別の世界から来た者らか。どちらにしても、見返りを要求しない者達に少し興味を持った。

 

興味を持った瞬間、行動を起こすのがレレイと言う少女である。

 

カトーに荷車を託し、そそくさと自衛隊の方へと向かう。言葉が通じる自信は無いが、取り敢えずやってみよう。教授に頼まれた一件もある。

 

一先ず、長と思われる男に接触してみる。

 

 

「ん?」

 

 

つんつんと服をつついた。予想通り、男は反応してレレイの方へと顔を向ける。男の顔は村の男と変わった部分はあまり無く、普通の人種である事がわかる。何処か違う所は……と、レレイは無表情で男の顔を見続けた。それによって、数秒間沈黙が訪れる。

 

 

「え〜と……」

 

 

マジマジと見つめられて堪りかねた男が先に口を開く。迷彩模様のヘルメットを少し上にあげて、後頭部をポリポリと掻く。どうしたらいいのか分からない様だ。

 

そこで、あらかた観察し終えたレレイが、言葉を発した。

 

 

『トッドとスマイリーと言う獣人を探している』

 

 

教授から頼まれた伝言を先に伝えた。避難中に誰か見つけたら聞いて欲しいと言われていたが、外部からの人物だから聞いて損は無いだろうとの判断だ。

 

 

「隊長、いまこの娘……」

 

「ああ、使ったね。英語っぽいの。しかも随分と流暢に……倉田、特地に英語があるって話あったっけ?」

 

「聞いた事ありませんね。捕虜にした人物からは特地語しか発しなかったらしいですし。しかも何処かで聞いた事あるような単語が出てましたし」

 

「なんて言ってたか分かる?」

 

「えぇと、多分ですけど、誰か探している様です」

 

 

男達が使っている言葉は日本語である。今の所レレイはクイーンイングリッシュと特地語しか分からない。だから男達が話している内容も分からないが、良好な反応である事は分かった。

 

だから、もう一回言ってみた。

 

 

『トッドとスマイリーをモリアーティ教授が探している』

 

 

今度はモリアーティと言う名を出して。教授の名はあまり出すなと言われたが、レレイの判断は大当たりを引いた。

 

 

「おい今間違いなくモリアーティって……」

 

「言いましたよね今、何で小説の人物をこの娘が……そう言えばシャーロックホームズの舞台ってロンドン、言葉はクイーンイングリッシュで、この娘が喋っている言葉と同じ……」

 

「もし本当に"あの"モリアーティなら、さっき保護したあの獣人の発言も合点がいく。もしかしたらこの特地、俺達が思っている以上にややこしいかもしれん……」

 

 

2人の男達がおどおどしながら話し合う。その反応を見て、レレイは当たりを引いたと確信した。

 

 

『詳しい話を聞かせて欲しい』

 

 

そう片言で言った倉田の顔は、真剣そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンドン、ベーカー街のとある家。

 

ハドソン宅と表札があるその家は文字通りハドソン夫人と言う人物が所有しているのだが、そこには2人の男達がいる。

 

玄関から直ぐに見える階段を上がり、少し続く廊下の一番奥の扉。そこを開けると、毎回煙たい臭いが鼻を刺激して来る。

 

勿論、火事が起きているとかそういう訳ではなく、とある人物が暇そうに椅子の背もたれにもたれ掛かり、探偵帽を目元まで深く被り、これまた退屈そうにパイプをふかしているからである。

 

窓際の席にももう1人同居人がいるのだが、その人物はこの臭いに既に馴れている。よく分からない香水を研究している時の臭いに比べればずっとマシだからかもしれないが。

 

その人物も、暇そうに新聞紙を広げて並べられている文字を読み進めていた。そして一つ欠伸をしたかと思うと、もう1人の人物に話しかけた。

 

 

「なあ、ホームズ。今週はモリアーティが動かないね」

 

「いい事じゃないですか。奴が動かないと言う事は、それだけ平和と言う事ですよ、ワトソン君」

 

 

"ホームズ"と呼ばれたその人物は、姿勢を崩さずに返事をした。

 

 

「妙じゃないかい?アイツが一週間経っても一向に何もしてこないなんて、何か悪巧みでもしてるのかも」

 

「………」

 

 

どこか面白そうに笑を作りながら、ワトソンは言った。

 

それに対し、ホームズは数秒間考える様に腕を組み、静かに帽子を右手の人差し指で上げ、右目だけが見える状態にし、ワトソンを見た。

 

 

「調べて見ますか?」

 

「調べて見ようじゃないか」

 

 

2人が一斉に立ち上がる。ホームズは帽子を被り直し、ワトソンは腰のホルスターにしっかり手入れされたリボルバーを入れた。

 

クッと、二人同時に服の皺を伸ばす。

 

 

「まずはレストレード警部の元へと行ってみましょうか」

 

 

茶色のコートをハンガーから取り、ホームズはその部屋を出る。ワトソンもその後に続いた。

 

 

 

 

モリアーティ教授の最大の敵、"名探偵ホームズ"が動き出した。

 

 










文字数少なくてすみません

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