GATE モリアーティ教授(犬) 彼の地にて 頑張って戦えり   作:BroBro

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なんとか年内に間に合った。来年も忙しくなりそうなんですが、頑張って更新を続けていきたいと思います。
短い間でしたが、今年もありがとうございました。良いお年を!


2人の天才

 

 

老人の家は村の家と同じく木製でこじんまりしていた。薪割りをしていたのか、玄関の脇側に縦に割れた木が散乱している。ベーカー街の家々より何倍も小さい家だが、とても生活感が出ていた。

 

 

『さあ、こっちじゃ』

 

 

手招きする老人の後ろから続くモリアーティ教授。ガラガラと玄関の扉を開けて老人が家の中に入るので、教授も開けっ放しにされた玄関の扉から家の中に入った。一応玄関の扉を閉める。その工程の中でマントが扉に挟まると言う小さなアクシデントが発生したが、冷静に少し扉を開けて対処した。

 

 

『おーい、連れてきたぞ〜!』

 

 

家の中に入ったのを確認した老人が家の中で大きく叫ぶ。そうすると、廊下の奥からトタトタと足音が聞こえた。

 

そして廊下の先から少女が現れた。

 

 

『噂の獣人?』

 

『そうじゃ。連れてくる口実としてこの家に一晩泊める事になったが、いいかの?』

 

『大丈夫。むしろ、一晩では足りないかもしれない』

 

 

なんの話をしているのだろうと教授は訝しげに少女と老人を見る。銀色でショートカットの髪の少女は無口なのか、老人と少しだけ言葉を交わしてから教授の方をみた。

 

 

『言葉は分かる?』

 

「・・・言葉?」

 

『そう、言葉』

 

「少しだけなら分かるが・・・」

 

 

言葉と言う単語のみを理解し、少女が何を言おうとしているのかを瞬時に理解した教授は、親指と人差し指の間をすぼめて「少しだけ」とジェスチャーする。

 

それの真意を読み取り、自分達の常識的な言葉が理解出来ない事が分かった少女は、一先ず自分の名を名乗った。

 

 

『私はレレイ・ラ・レレーナ』

 

 

言葉が分からないのなら余計な言葉は必要ないと思い、レレイは端的に名前だけを伝えた。それと同時に、自分の右手を胸に当てる。

 

どうやら自己紹介時の行動はこの世界でも同じらしく、教授は少女の動きを見て自分の名を示した事を理解し、教授も名を名乗る。

 

 

「私はモリアーティ。モリアーティ教授だ」

 

『モリアーティ・キョウジュ?』

 

 

教授はいらなかったかと即座に感じたモリアーティ・キョウジュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後話に流されるがままに飯を食べ、薪で沸かした湯で体を流した。時刻は夜の9時過ぎである。パジャマが無いため教授はマントだけを外した服装で一夜を過ごすことにした。少し寝にくい服装だが、毎日過酷な生活を送ってきたおかげでさほど気にならなかった。

 

風呂上がり、リビングと思われる部屋の中央に設置された机、それのお供に置かれている三つの椅子の一つに腰掛け、深く溜め息を吐いた。

 

 

(久々にまともな夕食を食った・・・)

 

 

毎日川魚、もしくは雑草を食べていた教授は、この家で出てきたパンの様な物とシチューと思われる食べ物を綺麗に平らげていた。別世界の食べ物で少し戸惑ったが食べてみるととても美味しく、シチューに至っては皿から汁気が無くなるまで綺麗に食べた。

 

風呂も同様である。元の世界だったらとても沸かしたとは思えない様な温度のお湯で体を流していた。しかも体を流すこと自体珍しい事で、シャワー室を使わない日が大概である。しかしここでは気持ちのいい温度のお湯が入った湯船から桶ですくい、体にかけると言う粗末ながら幸せな時間を過ごせた。

 

正直、この世界の方が有意義に過ごせている気がする。

 

心の中で部下2人に謝りながら、教授は机の上に出されたお茶を飲んだ。温かくも味わい深い液体が喉を通り、体に染み渡るのを感じる。ついついぼけ〜っと心地よさそうな顔をしてしまった。

 

そんな時に、レレイが教授の机を挟んで前の椅子に腰掛けた。手には分厚い本が抱えられており、それを大きな音を上げながら机の上に置く。

 

 

『では、早々に始めたい』

 

 

そう言ってレレイは教授の目を真っ向から覗く。仕方ないと教授はお茶を机の端に置いて、レレイに向き合った。

 

 

『あなたの言葉、国、技術。それぞれを教えてもらう』

 

 

レレイはそう言って大きな本を広げた。

 

実は教授がこの家に泊まるにはある条件があった。それはレレイに自分の言葉やら何やらを教えてやる事である。

 

このレレイと言う少女、実は教授がプテラノドンに乗って村にやってきた事を知っていた。その技術が気になり、教授に接触したのだ。そして、どうせなら他国の言葉も覚えてしまおうと考えているのである。それと平行して、教授もここの言葉を覚えられると言う利点もあった。

 

断る理由もなく、教授は嬉嬉としてその申し出を受け入れた。教授としてはいち早くこの世界の言葉を覚えたい訳だし、この世界についても色々と調べたい事がある。巨大なドラゴン然り、世界情勢然り、今日食べた夕食の作り方然り。

 

 

『と言う訳で、まずは私たちの言葉を知って欲しい』

 

 

そう前置きを入れ、レレイと教授による言語講座が開始された。

 

 

 

ここからはダイジェストで2人の成長をご覧頂こう。

 

 

 

二三 〇〇時。レレイはクイーン・イングリッシュを、教授は特地の言葉の共通語を会話出来るまでに取得。

 

 

〇一 四三時。しっかりとした接続詞や専門的(主に魔法分野)な言葉を完全取得。

 

 

〇三 五四時。各々の言語に慣れるため、使用言語を入れ替えて会話を続行。

 

 

〇六 〇一時。各々の詳細について語り合う。

 

 

 

 

〇六 一〇時。

 

 

『なるほど、帝都と言う所には様々な場所から奪った物が多くあると・・・』

 

「本当に行くのなら、地下から攻める方がいい。帝都は空中の戦力はあるけれど、地下にまで目を向けてはいないはず。それに地に穴を開ける道具ならこの世界にもある」

 

『地下か・・・昔作った穴掘り機でも造ってみるかな』

 

「教授の称号を持つその技術力、私にも見せて欲しい」

 

『ふ、帝都の宝を盗んだ後にな』

 

「相当な自信。楽しみにしている」

 

『任せろ、犯罪界のナポレオンの名は伊達ではないわ!』

 

「その自称はどうかと思う」

 

 

ふははははは!と大声で笑うモリアーティ教授。彼は終始得地の言葉で喋り続け、無表情ながらもどこか楽しそうに話すレレイはイギリスの言葉を流暢に使っている。

 

つい数時間前まで2人は大きく広げた本の絵を指さして、単語などを記憶していた2人の姿は無く、紅茶の様な紅いお茶を飲みながら2人は話し合っている。教授もレレイも、既に言葉をマスターしたようだ。

 

簾の様な物の隙間から差し込んでくる朝の光に2人は全く気付かない。有意義な会話を楽しんでいる2人の体感時間は、まだ2時間ほどしか経っていない。鳥の囀りさえも聞こえないほど、会話に熱中している様だ。

 

 

「ではこれからはその配下を探し、帝都侵入の準備をする。と言うこと?」

 

『まあ、そうだな。悔しいがワシひとりでは限界がある。トッドとスマイリーがいなければ出来ない仕事だ。・・・はぁ、つくづくワシも落ちぶれた物だよ・・・』

 

「集団の行動を得意とすることは恥じることではない。自身を持つといい」

 

『そうかなぁ・・・』

 

 

今後の方針について話すモリアーティ教授を、興味深そうにレレイは見つめ、適切にアドバイスを入れる。そんなことを繰り返している内に、ガチャッとリビングの扉が開いた。

 

 

『ふあぁ・・・徹夜ご苦労さん』

 

 

扉の向こうから出てきたのはカトー老師であった。大きく欠伸をして、眠気眼を擦りながら2人に話しかける。この時、初めて2人は今の時間に気がついた。

 

 

『あら、もう朝だったのか。それじゃあワシは行くとしよう』

 

 

そう言って教授は椅子から立ち上がる。9時間近くも座って、しかも徹夜で話し続けたにも関わらずにその動きは軽快であった。計画の準備の時には大体不眠不休だったため、教授は徹夜に慣れている。なにせ、時間に追われる泥棒には休む暇は少ない。ただ座って話しているだけならば、教授にとっては苦にもなりはしないのだ。

 

 

「もう行くの?」

 

『噂の異世界の軍勢も気になる。トッドとスマイリーが来ている可能性がある以上、ワシには時間が無い。レレイは例の奴のこと、しっかりと伝えておけよ』

 

「分かってる」

 

 

カトー老師に得地語でお礼の言葉を述べた教授は、いつものマントとシルクハットを身に付けて足早に家を去った。カトー老師はその様子を怪しげに見て、静かに椅子から立ち上がったレレイに聞いた。

 

 

『どうしたんじゃあれ?』

 

『またいずれお礼に来ると言っていた。それよりも、今は大事な事がある』

 

『大事なこと?』

 

 

机に立てかけてあった杖を力強く掴んだレレイは、しっかりとカトー老師の目を見て言い放った。

 

 

『炎龍が近くにいる。逃げる準備をしなければならない』

 

 

その言葉を聞いたカトー老師は、暫く口を開けたまま立っていた。







(前書きの挨拶後書きに書けば良かった・・・)

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