GATE モリアーティ教授(犬) 彼の地にて 頑張って戦えり   作:BroBro

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教授は第三偵察隊が行動を開始する前日にやって来たと言う設定です。書いてたら矛盾が生じる場面が有りましたのでこう言う設定にしました。見切り発車はなかなか大変です。


教授の受難

蓄音機の一部をもぎ取って作った拡声器によって放たれたモリアーティ教授の叫び。慌てて拡声器の電源を落としたが既に遅い。やってしまったと声も上げずに顔を右手で覆う教授は、中指と人指し指の間から静かに炎龍を見た。

 

指の間という狭い視界から見えた光景は、大きく羽を広げて迫ってくる炎龍の姿だった。

 

 

「ぐぅ〜!何でこうなるんだよ!」

 

 

誰に聞かせる訳でもなく叫んだ教授は、その場でグルグルと回る。逃げる事は決まっているが、何処に逃げるかを決めてなかったからだ。逃げる方向によっては炎龍の巣に向かって逃げてしまうかも知れないし、ベーカー街の位置も分からない。北へ行こうか南に行こうかとぐるぐると回る。その間にも炎龍は迫ってきていた。

 

2、3回転した後、教授は何かを決意した様に大きく深呼吸をし、キッと真下から向かってくる炎龍を睨んだ。

 

 

「こうなりゃ知能犯は止めた!」

 

 

モノクル(片眼鏡)を輝かせ、教授は操縦桿を力強く下に下げた。それと共に、狂ったように空中でダンスをしていたプテラノドンは生気を取り戻し、大きな口を向けてくる炎龍へと降下した。

 

帽子が飛ばされない様に支えながら、猛スピードでプテラノドンは炎龍へと向かう。その炎龍の口には炎が宿っていた。いつ吐き出されてもおかしくない火炎。あれを受ければ、紙製のプテラノドンは教授と共に燃え尽き、地上へと落下するだろう。他人が見ればこれ程の自殺行為は無い。

 

獲物を射程距離に捉えたのか、炎龍は一際大きく口を開いた。口の中の炎がオレンジ色に染まっているのが遠くにいても確認できる。炎龍は炎を吐き出し、プテラノドンを焦がそうと力を入れた。

 

しかし、射程距離に入っているのは、炎龍とて同じ事である。

 

 

「発射!」

 

 

ドゴンッ!と大きな音を立てて、ネットガンの蓋が爆発し、内部から束ねられた網が現れた。空中で拘束を解いた網の先には鉄の重りが付いており、重力と火薬による爆発によって網は真っ直ぐ炎龍へと向かう。不意打ちの如きタイミングによるネットガン射出と重力を味方につけた網の猛スピードによって炎龍は躱すことが出来ず、巨大な右羽の付け根にネットガンが直撃した。

 

 

「ゴアガァァァァァァァ!!」

 

 

炎を吐いた炎龍は右の羽が動かなくなった事によって浮力を失い、回転しながら地面へと落下して行く。吐き出された炎は的外れな方向へと向かい、プテラノドンに当たる事は無かった。

 

教授は炎龍の撃墜を確認すると、急降下爆撃機の様に急上昇して高い上空へと戻る。そして土煙を上げながら倒れている炎龍を見て、拡声器のスイッチを入れた。

 

 

「さらばだドラゴン!ふははははははは!!」

『フハハハハハハハ!!』

 

 

笑い声だけを周囲に撒き散らした教授は、木々の向こうへと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一発のネットガンを犠牲にして炎龍を撃墜した事によって、暫くは安全を確保したと教授は安堵した。けたたましいエンジン音とプロペラが風を切る音は、まだ自分がこの世に居ることを示している。あんなにも五月蝿かった音が、こうも恋しくなるものなのかと自分で不思議に思ったが、偶には良いかと適当に考えを区切った。

 

一先ず安全な場所に行きたいので、上空から街か何か無いものかと地上を見る。しかし何処までも草原か森が広がるばかりで、待ちどころか人工物すら見当たらなかった。

 

 

(こうも何もないものなのか?ロンドンならもっと街があるはずなのだが・・・)

 

 

余りにも街も家も無い為、教授はこの場所の事について考えた。先ほどのドラゴンは機械にしては余りにも動きが生物的だったし、逃げ惑う村人達も教授とは顔が違った。教授は世界各国の知識をそれなりに身につけているが、あんな生き物は見たことが無い。全てが本当に生物だとすれば、教授がいた世界とは別の世界だと言う可能性が出てくる。

 

ポケットを探り、金色の装飾が入った時計を見る。時刻は8時過ぎである。もし誰かが教授を誘拐したのならば、教授が寝た時間が2時近くである為約6時間で教授を起こさず、律儀に椅子ごと見知らぬ所まで誰かが運んできた事になる。いくら何でも、そんな芸当を出来る者は居ないだろう。

 

プテラノドンとスチームカーの位置、教授が座っていた椅子、それら全てが地下基地の配置と同じであった。まるで、地下基地の一角がそのままあの草原に現れたかのようだったのだ。

 

 

「もし本当に地下基地ごとあの場に現れたのなら、わしはどうやって帰ればいいんだ・・・」

 

 

教授は世界の全てを知っている訳ではない。天才を自称してはいるが、知らない事も多々ある。有り得ない話だが、異世界が存在する可能性も否定は出来ないのだ。異世界に来てしまったという状況も考えて、今のこの状況を打破する方法を考えねばならない。

 

帰りたい気持ちを抑えきれないが、兎に角今は情報収集をする事が大事だ。一応、断片的だが大体の国の言語は聴けば分かる。例えば日本語ならば「あなた モリアーティ?」などの単純な単語だけ理解している。残念ながら四字熟語や難しい外国語は分からない。

 

 

「まあ、簡単に分かればいいか」

 

 

一先ず、分かる言葉だけ聞き取れれば良いかと適当に考え、集落探しを再開した。

 

 

 

その後約30分間飛び続けたが、集落のしの字も見つからなかった。しかし舗装されていないが道は見つけたので、その道を沿って飛んでいる。重量が軽く、燃費がいいプテラノドンは長時間飛行が可能であったので、彼はそこまで燃料を気にせず集落を探していた。実際、ガソリンの容量を示すモーターは満たんの印からまるで動いていない。ここまで燃費がよく、よく動くプロペラ飛行機は珍しいだろう。このプテラノドンはモリアーティ教授の技量の高さを物語っている。

 

操縦桿を片手で操り、片手でポケットに入っていた菓子を食べながら丘を超えると、明らかに自然で発生したものではない煙が上がっていた。

 

 

「ッ! 見つけた!」

 

 

ギラっと目を輝かせて教授は叫んだ。速力を上げて煙へと向かう。そこにはなかなかの大きさの村があった。一角が森に覆われている為、もしかしたら見た目より大きいのかもしれない。煙の正体は木か何かを外で燃やして生み出された煙の様で、一先ずは安全と思われた。

 

もしもの時を考えてプテラノドンを村の少し手前で止め、木と気の間に隠すように置いておく。そして、そのまま歩いて村へと向かった。

 

村は現代風とは言い難い木造建築が多く、地震か台風が来たら直ぐに崩壊してしまいそうな建物が多かった。それらの窓から教授を見てくる人々。因みに窓には硝子は無く、木の蓋がしてあるだけである。

 

しかし、彼はそんな細かい事を気にしてはいなかった。教授は窓から出ている人の顔を見て、大きな疑問符を浮かべた。

 

 

(皆顔が変だ・・・)

 

 

教授の様に顔が長く耳が大きい訳でもなく、猿の様な顔をしていた。勿論普通の人間なのだが、教授にとっては見たことのない生物である。教授がいた世界の"人"と言えば教授と似たような顔をした者の事を指す。しかしこの世界の人間は教授の様な二足歩行の獣人は見慣れているのでさほど驚かない。ただ人の住む村に来ることは余り無いと言うだけなので、少し珍しい程度にしか思っていないのだろう。

 

対して教授は目を点にして周りを観察する。終いには立ち止まって「どうなってるんだ・・・」と呟く始末。道行く人が教授を不思議な目で見る。

 

その内に、白髭を貯えた老人がやって来て教授に話しかけた。

 

 

「旅の方かな?こんな何も無い村に何しに来なさった?」

 

 

老人からしたら普通に話しかけただけだ。しかし、モリアーティ教授からは全く意味のわからない言語で聞こえた。日本語でも、アメリカ語でも無い。「□△%―∀▼☆?」と言う様な訳の分からない様に聞こえている。

 

更に疑問符を大きくし、ズレたモノクルを直す事すらも忘れるモリアーティ教授。それを見て老人も不思議に思い、更にこの世界の言葉を放つ。周りの人間も少しづつ集まってきて、ちょっとした人盛りになっていた。

 

周りから投げかけられる様々な質問に対して、教授は涙目になった。

 

 

「誰か助けくれぇ・・・トッドぉ、スマイリィ・・・」

 

 

その救援要請は少数の人間の耳に届いたが、誰も言葉の意味を分かる人間はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、何処とも名の付いていない道で1人の男がトボトボと歩いていた。

 

薄青い帽子に同じ色の作業着を着たその男の顔はどう見たって犬である。150cm位の小さな体は広大な道を歩き続けた。

 

彼の名前はトッド。ベッドで寝てたらよく分からない所で寝てて、宛もなく歩き続けた人物である。もう5時間も歩き続けているドットは大きく溜め息を吐き、近くにある岩に座った。

 

 

「腹減ったなぁ〜・・・」

 

 

小さく呟き、更に深い溜め息を吐く。もう何回同じ動作を繰り返しただろうか。何度も同じ事をしても状況は変わらず、しかし同じ事をやらずにはいられなかった。胸に溜まった憂鬱感を溜め息と共に吐き出すが、またすぐに体の中から憂鬱感が湧き上がってくる。永遠に続くような動作に思えた。

 

 

「・・・動くか」

 

 

観念して動き出すトッド。相棒のスマイリーも居なければ上司であるモリアーティもいない今、彼に宛は何も無い。

 

既に身体が弱り、足の筋肉が悲鳴をあげている。それでも歩き続けなければ生きられる気がしないし、何も進展しない。仕方なく、何処まで続くか分からない道をひたすらに歩き続けた。

 

 

「うッ・・・!」

 

 

足が上がらなくなったのが原因で、小石に躓いて転んでしまった。精神的に弱っている彼は立ち上がる気力が出なく、そのまま地に伏した。

 

 

(このまま寝ちゃおうかなぁ)

 

 

なんて考えもしたが、いつ車か馬車が来るかも分からないのでこんな道のど真ん中で寝られない。しかし、少し位ならいいかなと妥協して、トッドは浅い眠りに入った。

 

 

「あらぁ、あれは一体どう言う状況なのかしらねぇ」

 

 

そんな彼を、道の向こうからやって来た黒色ゴスロリの少女が面白そうに見ていた。


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