中学一年生の頃に俺は出会った
この出会いはまさに運命だった。
『Maxコーヒー』通称『マッカン』
散歩で喉が渇き自販機に寄ったのが最初の出会いだった。俺はこの黄色のフォルムに目を奪われた。気付いたらボタンを押していた。しかも当り。そしてプルタブを開けていた。まずは匂う……甘い匂いがする。そしてそれを口に含む。
これまでにない甘さだった。この甘さは人生で苦かった分を包み込むような甘さだった。
『人生苦いから珈琲くらいは甘くてもいい』
やばい、これはコーヒーのキャッチコピー賞取れるレベルの名言だ。
それから来る日も来る日も俺はこの自販機にマッカンを求めて散歩に行っている。
その際に妹の小町から
「お兄ちゃんが……外に」
いや、小町ちゃん俺は引きこもりではないからね?え?違うよね?
今はそんなことはどうでもいい。
問題が今起きている。
それはマッカン機……いや自販機の目の前に同い年ぐらいの金髪の女の子が立っているのだが、オロオロしている。
もしかしてお金を持っていないのか?
親の人は?ダメだ見つからない……
仕方ないか
「な、なあもしかしてお金もってないんでしゅか?」
噛んでしまった。くそ、ここでボッチスキル『カミカミ君』発動してしまったか。
てか、外人だから日本語とか分かるのか?
「……すいません。お金持ってないです」
日本語が通じた。しかも日本語が喋れる。
改めてよく見ると……凄く美人だな。
「ならこれ当たったので一本あげます」
そうやって美人さんにMaxコーヒーを渡す。
このあいだ小町にもやったが評判は良くなかった。でも、仕方ないMaxコーヒーを買ってしまったから……
そして、美人さんはMaxコーヒーを口に含む
眼を見開きこちらを見てくる。
なんて綺麗な碧眼なんだろうか……
「おいしい!」
「同士!」
気付けば俺と美人さんは握手していた。
「私の名前はホワイト・アルナリス。ホワイトで良いわ」
「俺の名前は比企谷八幡」
「ハチマンね」
流石は外人。すぐに名前を呼んでくるあたり凄いとしか言いようがない。
「ねえ、ハチマンまたここに来る?」
「ああ、午後8時にいつもここに来ている」
「なら明日も来るから一緒にMaxコーヒー飲もうね」
「……善処する」
こうやってマッカン仲間が出来たのだ。
それから毎日午後8時にこの自販機に来ては一緒にマッカンを飲みながら話していた。
ホワイトは昔日本に住んでいたらしくそのために日本語が話せるが口調がおかしくなったりすること。お兄ちゃんがいること。お父さんが日本人。母がロシア人のハーフ。好きな食べ物などなどたくさん話した。もちろん俺の事も話した。そして夜だけでなく土曜・日曜も遊ぶようになった。
しかし、そんな事は長くは続かない。
とある事件で俺は人間を信じられなくなった。つまりホワイトの事も……
だから今日でサヨナラしなければならない。
そして、いつもの場所に足を向ける
「ねえ、最近ここにこないけどどうしたの?」
「ホワイトには関係ない」
「そうかもね……ならさそんな顔は止めてくれないかな?」
「え?」
「泣いている」
いつのまにか泣いていたらしい。手で眼を擦るが涙は付いていない
「泣いてなんかないじゃないか」
「いーや、泣いてる」
「だから……」
言い返そうとしたときにホワイトが俺を抱きしめる。すごくいい匂いがした。
「大丈夫。泣いてもいいんだよ。私がいる」
「嘘だ……」
「嘘じゃない。私がいる」
「そうやって優しくして裏切るんだろ」
「裏切らない」
「なんでそう言いきれるんだよ」
「強いていうなら私がハチマンの友達だからだよ」
「そんなのは欺瞞だ。嘘だ」
「ならこれから本物にしたらいい」
「できるわけが……」
「今のままでは出来ないね。だってお互いのこと知らないから。だからこれから始めたらいい」
「なにを?」
「ハチマンと私の本物の物語を」
『本物』という言葉が胸の中に響く。
もしかしたらホワイトとはそういう本物になれるのかもしれない。でも怖い。また裏切られそうで……でもホワイトは言っているお互いの事を知らないからと。
「俺さ……クラスメートに告白したんだ」
「うん」
「それでフラれて……」
「うん」
「次の日にクラス中にそれが広まって……虐められて……」
「うん」
「それから人を信じるのが怖くなったんだ。ホワイト……お前の事も」
「そっか……でも君は凄いよ」
「なにが?」
「だって信じるのが怖くて仕方がないのにこうやって私を信じて話してくれる。君は勇気のある人だよ。そして人を信じる事のできる純粋で優しい人」
その言葉を境に俺の目から涙が溢れてくる。
ああ、俺はこんな言葉が欲しかったのか
「ねえ、今更だけど私のお願い聞いてくれる?」
「……」
「ハチマン……私の友達になってくれない?」
彼女が手を差し伸べてくれる。彼女が励ましてくれる。なにより彼女はちゃんと俺を見てくれる。なら答えは出ている
「……こんな俺でもいいなら」
「いーや、ハチマンじゃないとダメなんだ」
そうやって彼女は俺を優しく抱きしめる。
こんな時間が続いてくれたらなと俺は思っていた。
これがマッカンによる出会い
後にこの二人はどうなるのか
マッカンのみぞ知るラブコメなのか