問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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更新が遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。
今後は早めに更新できるよう頑張りますので、どうか温かい目で見守ってください。


問題児たちが異世界から 来るそうですよ? ③
そうだ、南へ行こう


 

 

 

 

 

 龍。ドラゴン。

 彼の存在は、幻想種の中の最強種である。あらゆる生命の頂点に君臨しながら、その生命樹を持たないという矛盾を持つ例外中の例外種。

 無から生まれ、その後は単為生殖、或いは単為発生することで純血を受け継がせてきた彼らだが、体の大きさは他の単為生殖する生物より巨大である。世界を背負っていた、という伝承があるほどなのだから、文字通り比べ物にならないだろう。

 純血の吸血鬼が莫大な力を持つ理由に、龍から生まれた種だから、というものがある。絶大な力を保持する龍から生まれたのだから、強靭なのは当たり前と言って良いのかもしれない。

 ワイバーン? あれはTSUBAMEより弱いって知り合いのNOUMINが言っていたので例外です。いやもしかしたらTSUBAMEが龍種を超える存在であったのかもしれないが、それは今回関係の無いことだ。次元を超える鳥類などいなかった、いいね?

 

 

 

 さて、なぜ俺が突然龍の話などをし始めたのかというと、それにはれっきとした理由がある。それは──

 

「...いやぁ...デカいなぁ」

「ヤハハハ! ヤベェな、全体がまるで見えねぇ!」

「...もしかしてお前、ちょっと怒ってる?」

「お? よく分かったな。まあ、楽しみにしてた“収穫祭”を邪魔されたんだ。今はお呼びじゃねぇんだよ」

「ふぅん?」

 

 とまあ、目の前...正確には俺らの頭上高くに、その最強種様が悠々と浮かんでおられるからである。

 いやもう本当、どうしてこうなった。

 

 

 * * * *

 

 

 

 話は数日前まで遡り、俺が箱庭に戻ってきてから二日が経った日の昼下がり。

 ジャンヌが羞恥心から引き篭もるという問題こそあるものの、特にやる事のなかった俺は、食堂でアイスクリームを頬張っていた。

 

「あー...なんか面白いこと起きないかなー...」

 

 スプーンを咥えピコピコと上下に動かしながら、俺は今の心情を吐露する。

 正直、暇で暇で仕方がない。いっそのこと異世界に一人で乗り込むか、と考えてしまうほどには。

 だが、その計画は実行されることはなかった。実行しようと考えた直後、携帯に着信が入ったからだ。

 

「んぁ.....。爺さんか」

 

 届いたのは一通のメール。

 差出人は『クソジジィ』と表記されている。

 

 爺さんは今、本拠(ここ)にはいない。俺が箱庭に戻ってくる前日に、一人でどこかに行ってしまったのだとエミヤから聞いた。

 

 そんな爺さんが、俺にメールを寄越してきた。

 

 この状況で送られてくる爺さんからのメールが、面倒事に繋がるのは絶対的に明らかだ。が、現状を考えると面倒事でも無いよりマシだ。

 という訳で、俺はメールを開いて内容を確認する。

 

 

 

『件名:南へ来ちゃいなよYOU!

 

 本文:拝啓、坂元・K・凌太くんへ。

 やっほー! 最近どぅ? げんきぃ? 相変わらずワシを倒すとか銀河が消滅するより有り得ない夢を見続けてんのぉ!? プークスクス!』

 

 くっそ、マジでウザいなこのジジイ。

 だがまあ、今の俺はイベントに飢えている。この程度なら我慢してやろうじゃねぇか。

 

『そんな坂元・クソザコナメクジ・凌太くんに──』

バルス(滅べ)

 

 破滅の言葉を魔力を込めて発してから、俺はメールを閉じ、削除し、ついでに携帯の電源も落とした。

 野郎、なんで名前の間にKってアルファベットを入れてんのかと思えば...。

 

 と、そこで何故か携帯に電源が入り、そしてメールを受信する。

 俺は何もしていないのに...。こんなことができるのは爺さんしかいないだろうし、逆に別の奴が出来たらそれはそれで怖い。...あ、束なら出来るのかな?

 

 仕方なく、俺はメールボックスを開いて今届いたメールを確認する。

 やはりというかなんというか、メールの差出人は爺さんだった。

 

 

『きっとさっきのメールは途中で読むのを止めただろうから、もう一度送るぞ』

 

 それが分かってるなら巫山戯るな、と言いたいところだが、あのジジイに何を言っても意味の無いことだと思っているので直接は言わない。なので俺は許そう。だが神殺しの槍(こいつ)が許すかな!?

 

 ...続き読むか。

 

『どうせ暇してるであろうお前に朗報だ。今、南側で面白いイベントをやってるから、来たければ来ればいい。ワシは一足先に参加してる。今日までは前夜祭で、明日からは本格的なゲームが開催されるから、来るなら早めにどうぞ』

 

 先程とはうって変わり、おふざけ無しの文面だ。

 こんな文が書けるなら最初から以下脱線が半端ないので略。

 

 しかし、南側か...。爺さんが面白いと言うくらいだし、本当に面白いのかもしれない。そして何より、俺は今絶賛暇の売り出し中。買いたいという声があれば、俺は言い値で売る。要するに、だ。

 

 俺は大きく息を吸い込む。そして、本拠全体に響き渡る声量で、こう叫んだ。

 

「南側行きたい奴、この指とーまれっ!」

 

 要するに、そんな面白そうなイベントに参加しない手はないってことですよ。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 とまあそういう訳で、爺さんからメールを貰った翌日。

 俺を含めた南側で開催されているイベント“収穫祭”に参加する面子は、本拠の大広間に集まっていた。

 

 集まったのは俺、ヴェーザー、ラッテン、ラッテンに連行されてきたペストの四人。

 

「俺含めて四人か...。まあ十分だろ」

 

 正直言うと、ネロや束辺りは来ると思っていた。ネロは祭り好き、束は未知好きなので、未知の土地で開かれる祭り、という単語に食いつくと思っていたのだ。

 だがまあ、ネロは頭痛がすると言って寝込んでいるし、束に至っては本拠にいない。クロエを連れてどこかへ行っているらしい。なので、まあ仕方の無いことだろう。元魔王とその一味が集まっているだけで戦力的には十分と言って過言じゃないだろうし。

 

「“収穫祭”か...。昔ちょっとだけ覗いたことはあるが、参加するのは初めてだな。ラッテンは?」

「同じく。だからちょっとだけ楽しみなのよねぇ。だってほら、“アンダーウッド”って魔王にやられる前は綺麗だったし、今はもう復興してるんでしょ?」

「らしいな」

 

 どこかワクワクしたように話すヴェーザーとラッテン。彼らは大分昔からこの箱庭に存在していたらしいし、そりゃ俺より詳しいよなぁ。てか今気になる発言があったんだけど。

 

「魔王にやられた?」

「ん? ああ、マスターは最近外界から来たから知らねぇのか。何年くらい前だったかな? 南側は一度、魔王によって半壊させられてるんだ。今回の“収穫祭”は、完全復興を記念するイベントでもあるんだろうな」

「へぇ?」

 

 南側がやられた、ということは、階層支配者も負けたのだろうか? 白夜叉と同じ地位に就く者がやられたとなると、相手の魔王は俺より強いのだろう。まあ、別に今はどうでもいい事なんだけど。

 

「んで? そろそろ出発したいんだけど、ペストは結局着いてくんの?」

 

 ラッテンに引きずられて来たペストに、俺は最後の確認を取る。

 自分の意思でここまで来たのではないようなので、一応本人の意思を確認しておかないと。

 

「...行くわよ。せっかくだし、南の美味しいモノでも食べるわ」

「なぁんでも好きなだけ奢りますよー、ペストちゃんっ。...マスターが」

「俺かよ」

 

 まあ別に構わないけどさ...。

 

 因みにだが、“ファミリア”はお小遣い制が存在している。

 全ての管理はオカンが請け負っており、月に一度、箱庭の通貨でお小遣いが配られるのだ。

 それで足りない分は自分で稼ぐか、或いは家事の手伝いをしてお駄賃を貰う形を取っている。

 

 俺は専ら自分で稼ぐ派だが、ラッテンはお駄賃を貰う派である。

 故にというか、なんというか。必然的に俺の方が金を持っているのだ。だってそうだろう。俺は色んな所で拾ってきた鉱石やら道具やらを換金しているのだ。一回で稼げる量が違う。昔ギルガメッシュの仕事を手伝った際に貰った金塊はまだギフトカードに残してあるが、売ったらどれほどの値段になるのやら...。おっと涎が。

 

「よしっ。じゃあ、この四人でいっちょ暴れてやりますか!」

『おー!!』

 

 そう意気込み、俺たちは境界門を目指して“ファミリア”本拠をあとにした。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「ねぇ、ヴェーザー」

「...なんだ、マスター」

 

 意気揚々と境界門を潜った俺たちは、地球一周分では及ばない程の距離を一瞬で移動し、現在南側へとやってきていた。

 そんな俺たちを待っていたのは、想像を遥かに絶する光景。

 

「南ってさ、確か清涼感溢れる水の都市、って聞いてたんだけど?」

「...ああ。うん、そのはずだ。ほら見ろマスター、水なんざそこら中に流れてるし、中心には立派な大樹があるじゃねぇか」

「さてここでぇ? マスターに問題でーすっ。あの大樹はぁ、一体何メートルくらいあるでしょうか?」

「え.....五百くらい?」

「ピンポンピンポーン! 大正解(だいせいかーい)! さすがの観察眼ですねぇ、マスター?」

「え? あ、うん。ありがとう.....?」

「何の話してんのよアンタら...」

 

 俺たちの目の前には、確かに想像を絶する光景が広がっていた。

 話に聞いていた、“アンダーウッド”と呼ばれる大樹は壮観だ。あんな巨大な樹木は見たことが無いし、箱庭でも有数の神木だという。

 そしてその大樹を中心とした大瀑布は、スケールこそ世界の果てに劣るものの、その存在感と見た者に与える感動は負けていない。

 

 だが、しかし。しかし...その...。ちょっと想像してたのと違うっていうか...?

 

「...“収穫祭”ってなんだっけ?」

「やめろマスター、今全員が必死こいて現実逃避してるんだから」

 

 荘厳な大樹に、圧巻の大瀑布。そして──なんかうじゃうじゃいる巨人、幻獣、魔獣。

 

 曇天の空に垣間見えるのは、もはや巨大という言葉を当てはめて良いのかすら分からない程の体躯を誇る龍。

 

 この際、俺の心情を正直に口にしようではないか。

 

「やっべぇ何これ超面白そう!!!」

「何を言っているのかしらマイマスターは!?」

 

 明らかな戦場を前にしてテンションの上がってしまうのは、やはりカンピオーネとしての特性だろうか。異常事態だと分かってはいるが、それでもワクワクしてしまう。高揚感、と言うべき感情が溢れ出て止まらないのだ。

 

 特にあの龍はいい。グレードレッド対策で練り上げた対龍術式が日の目を見る時が来たのかもしれない。

 いや、まだアレが敵で、しかも倒していいのかは知らないけど。

 

 とにかくだ。こんな面白イベントに誘ってくれた爺さんに心の中でほんの少し、ちょっとだけ感謝の言葉を述べつつ、俺は元気に駆け出した。

 

「あっ、おい待てマスター!」

「まあマスターなら仕方ないわよね。なんだかんだ言って、まだ二十年も生きてない子供なんだから。さ、私たちも行きましょう?」

「チッ...しゃあねぇなあ!」

「.....絶対に龍とだけは事を構えたくないんだけど?」

「それは同意ですけれど...全部、マスターの気分次第ですよねぇ...」

 

 などと話しながらも、三人とも俺に続いて戦場へと駆け出す。

 俺がそれに満足し、よっしゃやるぞぅ、と意気込んで魔獣の一匹を蹴り飛ばした時。

 遠くにいた巨人の群れの先頭、その一人が、“アンダーウッド”に向かって軽々と宙を舞った。

 

「「「「──────は?」」」」

 

 そんな馬鹿げた光景に、俺たち四人は揃って絶句する。

 だってそうだろう。今、あの大樹に突き刺さった巨人は、自分の力で跳躍したのではない。何者かに投げ飛ばされたのだ。

 

 咄嗟に、俺は気配探知の範囲を拡大させる。

 するとどうだろう。巨人を投げ飛ばす人間の気配が、それはもうヒシヒシと感知できるではないか。

 

「あー...。うん、まずは“アンダーウッド”に行こう。爺さんの気配も“アンダーウッド”の方にあるし、まずは主催者に挨拶すんのが礼儀だよな。ってか、あの戦場はもうダメだ」

「それはいいんだが...。あれ、誰が戦ってるんだ?」

 

 乾いた笑みを浮かべながら、ヴェーザーがそんな事を聞いてくる。

 恐らく答えは分かっているのだろうが、一応の確認の意味で聞いてきているのだろう。その気持ちは分からないでもない。あんな反則みたいな剛力、誰が信じるかっての。

 

「十六夜」

「あ、やっぱり?」

 

 今度は諦めたかのような表情をするヴェーザー。こいつは確か、北側で十六夜とやり合ったことがあるんだったっけ。

 

「十六夜って確か、“ノーネーム”の子よね? ヴェーザーが負けたっていう」

「マスターといいその十六夜って奴といい、最近の人間ってなんなの? どこで遺伝子に異常が出ちゃったのかしら」

 

 俺の方を見ながら、ペストが呆れたように俺の方を見てくるが、俺と十六夜を同列に扱ってもらうのは困る。

 今の俺の強さは、カンピオーネに成った事によって得た強さだ。神を殺めてその権能を強奪し、身体の構造もパンドラの儀式によってちょっとイジられている。

 俺も元々は一般人よりは少しだけ強かったかもしれないが、それでも人間という種族の常識を逸脱していたわけではない。

 だが、十六夜はどうだろう。超常的な力を持って生まれ、その力は(カンピオーネ)と同等...いや、凌駕する程に絶大。それに、特にこれといった修行も積んでいないと、十六夜本人が言っていた。

 

 改めてここに宣言しよう。

 十六夜という存在そのものがチートの問題児がいる限り、俺はいたって常識人であると。

 

 

 * * * *

 

 

 

 二人目の巨人が突き刺さった大樹、“アンダーウッド”のちょうど真ん中辺り。そこに、何人かの知っている気配を感じた。

 

 今現在、俺たちはその大樹の根本にいるわけで、目測二百五十メートル程の位置へ移動するのに、さすがに跳躍だけではキツいものがある。いや頑張ればきっと行けなくはないけれど。

 

 まあ、今は見栄を張っている場合ではない。こうしている間にも、十六夜は暴れ回っているのだ。

 ただでさえ出遅れた感があるのに、これ以上蚊帳の外にいる訳にはいかない。

 俺はギフトカードからトニトルスを出し、装着する。

 

「ほら、三人とも乗れ。飛ぶ」

 

 そう言えば、三人とも素直に従った。

 ラッテンが右肩、ヴェーザーが左肩、ペストはラッテンの膝の上。うん、これは完璧だ。ラッテンがペストをぬいぐるみのように抱き締めており、ペストが若干苦しそうにしているが、それほど問題はない。

 

 三人を乗せ、俺は“アンダーウッド”の中腹を目指して飛翔した。

 途中、大樹から生えているかのような格好で突き刺さっている巨人を避けつつ、無事に中腹まで辿り着く。

 そこには、まるで社長室かのような空間が広がっており、中には複数名の人影が確認できる。その中には、俺が知っている者もいた。

 

「よぉ爺さん。早速来たぜ」

「おう、小僧。早かったな」

 

 まずは一番手前にいた爺さんに声をかけつつ、三人が肩から降りるのを待ってトニトルスを解除する。

 

「黒ウサギにジン坊ちゃんか。久しぶりだな」

「...あっ。えっと...い、YES! お久しぶりなのですよ、凌太サン!」

「おっ、お久しぶり...です?」

 

 俺が突然現れた事に驚いたのか、若干反応が遅れていたが、しっかり挨拶は返してくれた二人。その二人に返事代わりの軽い笑みを向けたあと、残る一人に向き直る。

 二本の角を側頭部から生やした、健康的な褐色の肌をした女性。どこか、北側で見たことがある気がしないでもない容姿だ。

 

「そっちは...初めまして、だよな? 北側で会ってなけりゃだけど」

「ああ、初めましてになるな。“ファミリア”のリーダー、坂元凌太殿」

「へぇ? なんだ、俺のこと知ってんのか」

「もちろんだ。私が招いたゲストなのだからな」

 

 ほう。.....俺、招かれた覚えがないんですが。

 チラリと爺さんを見てみれば、舌を出しながら自身の額を軽く握った拳でコツンッと叩いていた。何あれキモい。じゃなくて。どうやら爺さんは招待状を貰っていた事を俺たちに黙っていたらしい。何故隠してたのか全く意味が分からないが、きっとそういう意味の込められた『テヘペロ』なのだろう。キモい。

 

 気を取り直して、俺は女性の方を見る。

 やや露出の多い衣装を身に纏っているが、そんなもんはもう見慣れた。今更動揺なぞしない。

 

「名乗りが遅れたな。私はサラ。サラ=ドルトレイクだ。コミュニティ“一本角”の頭領(リーダー)、そして“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟の代表を務めている者だ」

 

 そう言って、女性──サラは、朗らかに笑いながら俺に手を差し出してきた。恐らく、握手でも求められているのだろう。箱庭にも握手の概念ってあるんだ、と軽く考えた後、俺はサラの手を握る。

 

 ...というか、巨人が自分のコミュニティの本拠にぶっ刺さってるのに、何を朗らかに笑ってるんだろうこの人? 俺はそう訝しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




目標 : 8月末までに問題児編を終わらせ、9月には新章に突入させる。

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